「なぜ今、公共施設マネジメントが必要か?」に続き、東洋大学 客員教授 南 学さんに、包括管理に関する疑問にお答えいただく二部作。今回は後編バージョンをお送りします。
「公共FMや包括管理の疑問にお答えします。【前編】」も合わせてご覧ください。
※下記はジチタイワークス特別号 June 2020(2020年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
05 / Q. どんな自治体が最も取り組むべきでしょうか。
A. 地方自治体の財政難は待ったなし!取り組むべきは、全ての自治体です。
少子高齢化の進行に加えて、昨今のコロナ禍で経済は停滞し、税収増は見込めない状況にあります。IMF(国際通貨基金)は、日本のGDPはマイナス5%程度との予想を発表しました。税収(歳入)不足でも、施設の老朽化は進み、管理コストはますます大きくなっていく。地方交付税や地方債頼みの管理・運営では先行きが見えています。財政に比較的余裕のある普通交付税不交付団体は80自治体前後と全体の約4%なので、ほとんどの自治体で抜本的な改革が必要なのです。
06 / Q. これまで受託していた地元の事業者が反対するのでは?
A. 包括管理を取り入れたことで地元の事業者への総発注額がアップした事例も。
「大手の業者に管理を委託することで、これまで発注していた地元の事業者が選ばれなくなるのでは」「地域内での経済の循環が縮小するのでは」という声はよく聞きますが、そんなことはありません。包括管理とは管理業者が自治体を代行して包括的に業務を遂行するシステムです。実際には、優良な地元の事業者への総発注額がアップした例もあります。
再委託先として保守・修繕作業を担当する地元の事業者から見ても、包括的に施設管理を行う業者(以下、包括管理業者)とのBtoBの複数年の契約となり、従来の入札や契約の手間が削減されるメリットがあります。
07 / Q. 自分以外はやる気がない…。周囲をどう巻き込んだらいい?
A. 組織論の「2:6:2の法則」から、必ず仲間は見つかります。中間層をうまく巻き込むのがカギ。
何か新しいことを始めるにはエネルギーがいるものです。また、前例のないことを推し進める場合、賛同してくれる仲間を見つけるのが難しいこともあります。成功の秘訣は「めげない」こと。2:6:2の法則といわれるように、積極的な「2」を見つけることがカギです。そして、軌道に乗せるには中間層の「6」を巻き込むことです。
08 / Q. やはり“合意形成”が壁。スモールスタートはできる?
A. もちろんできます。庁舎のみ、学校のみなどできることから始めている自治体もあります。
様々な施設の管理に関する契約の合計件数は、年間500以上にのぼる場合もあります。包括管理は複数施設で行うので、その規模が大きいほど効果があがるのは事実です。ただ、自治体によっては、多くの所管課を巻き込んだ合意形成のハードルが高いというケースもあるでしょう。その場合、スモールスタートでも可能ですし、実際に鳥取市では、庁舎のみの包括管理からスタートしています。
また、各自治体で管理している学校施設は、老朽化が進んでいる施設の一つ。安全面の確保からも、常に点検や修繕が必要な施設であり、それだけ契約事務コストがかかるといえます。庁舎のほかに、学校全体での包括管理も始めやすいでしょう。
総括
包括管理の主目的はあくまで、“公共FM実践のための土台作り”です。未来に施設を活かすための情報を一元管理で集める。そのために専門知識のある包括管理業者が横断的に施設全体を見る。それが、住民の“安全を守ること”や、市職員の“事務負担軽減=契約事務コスト削減”、さらには管理情報の一元化で“施設の複合化・多機能化”にもつながるという、様々な面でメリットのある手法です。
老朽化が進む中、公共FMの推進は待ったなし。うまく進めるためには、職員だけではなく地域住民、地元の事業者との合意形成と連携が必須です。また、債務負担行為という予算措置も万全に準備することが重要です。
壁が高いからといって、決してめげないでください。「今取り組むことは必ず、将来の住民のためになる」と展望を持って臨んでください。施設の老朽化対応や最適配置は息の長い取り組み課題です。包括管理の導入は、1~2年でできることではありませんが、成功すればきっと、30年後の私たちの生活が変わります。
取り組みを進めるポイントは……
「今すぐ始める」
「合意を得る」
「財源を確保」
「めげない」
Go Next
どの部署が主導してどの施設に包括管理を導入するのか。次のページからは、実際に包括管理をスタートした兵庫県高砂市、鳥取県鳥取市、兵庫県明石市の事例と、“はじめの一歩=包括管理”の導入フローを紹介。
準備期
開始期