ジチタイワークス

【前編】公共FMや包括管理の疑問にお答えします。

「なぜ今、公共施設マネジメントが必要か?」に引き続き、東洋大学 客員教授 南 学さんに、包括管理に関する疑問にお答えいただく二部作。

今回は前編をお送りします。

※下記はジチタイワークス特別号 June 2020(2020年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

01 / Q. 今でも、個別に施設管理をしています。包括管理にすぐに取り組む必要とは?

A. 前例踏襲ではなく、本当の意味での安全確保はできていますか?怠れば刑事事件の被告人となるリスクがあります。

公共FMで最も大切なのは、住民の命を守る、安全性の確保です。安全確保が不十分であったがために、万が一、管理する公共施設で事件・事故が起きた場合、自治体が金銭的な賠償責任を負うだけでなく、公務員個人が刑事事件の被告人として処罰されるリスクがあります。

下記の例からも分かるように、施設管理に携わる職員には一定の知識と対応(仕様書や実施状況チェック)が求められますが、技術系職員が少なく、異動もある自治体組織においては現実的に難しいことも事実でしょう。だからこそ専門知識を持った民間と二人三脚で進める包括管理が安全確保においても非常に有効な手段なのです。

 

<埼玉県ふじみ野市大井プール事故>

平成18年7月、ふじみ野市大井プールで小学2年生の児童が吸水口に吸い込まれ死亡。最高裁はプール施設を所管する課の担当職員に対して業務上過失致死傷罪(禁固刑)を確定。「被告人は体育課管理係長として、必要な措置を講じる立場にあった。しかしプール事務を担当した経験や十分な知識がないまま、前例踏襲の名のもとに漫然と業務に当たっていた。従って、その刑事責任が追及されるのは当然」(判決文主旨)としている。

<大阪府北部地震によるブロック塀倒壊事故>

昭和53年6月の宮城県沖地震で、ブロック塀倒壊などにより18名が死亡した。その教訓が活かされ、平成23年の東日本大震災ではブロック塀倒壊による死者はない。しかし、平成30年6月の大阪府の地震では、学校のブロック塀倒壊により児童が亡くなった。前例があり、建築基準法違反だったにもかかわらず、市の担当者の当事者意識の欠如で起きた事故だといえる。

02 / Q. 包括管理がなぜ“はじめの一歩”なんですか?

A. まずは安全を確保し安心できるサービスを提供。さらに横断的に蓄積されたデータによってその先の公共FMを円滑に進められる手段だからです。

複数施設の包括管理により各所管課の施設管理に関する事務負担を軽減できるだけでなく、専門知識のある民間事業者が各施設を横断的に管理・運営することで、施設の状態や活用状況などの詳細な情報が一定の基準で蓄積されます。それらがベースとなり初めて公共FMにもとづく修繕・改築や最適配置の優先順位を決めることが可能に。施設を未来に活かすための方法なのです。

はじめの一歩を踏み出すために参考となるのが、兵庫県高砂市の取り組みです。同市では市の主要施設について、データをもとにした「保全計画」を民間専門業者への委託で策定しました。その後の、庁舎の包括管理、複合化・多機能化にもつながる非常に有効な取り組みです。

 

《→兵庫県高砂市の事例》
《→包括管理の導入フロー》

 

03 / Q. 包括管理でコストは下がる?費用対効果はどう判断する?

A. 見るべきは“包括管理による表面的なコスト増”ではありません。自治体全体の契約事務コストを含んだ“トータルコスト”です。

施設管理を管理業者に包括委託した場合、マネジメント費が追加される分、表面的には予算が増えることがあります。一見すると余計にコストがかかっているように思われますが、このコストだけを見るのは間違いです。個別の点検・修繕委託の入札、検査や支払い事務などが不要になるため、契約事務コスト(人件費)が下がり、トータルコストの削減につながります。実際に兵庫県明石市では数名の人員削減に成功し、他のやるべき業務へ貴重な人材を投入できています。

 

《→兵庫県明石市の事例》

 

<包括管理のメリット>

契約事務コストの軽減だけでなく、公共施設に携わる四者全てにメリットがある。

・公共FM担当課
 建物点検報告書や修繕履歴などのデータをもとに施設を適切に管理・運営できる。

・各施設の所管課
 管理や契約に関わる事務などの効率化により、業務負担が軽減できる。

・各施設管理者と利用住民
 点検仕様や管理品質の向上で、施設の安全・安心を担保し、長寿命化にもつながる。

・地元の事業者
 地元の事業者への発注が増加する場合もあり、地元の経済活性化につながる。

<東京都東村山市の事例>

東村山市では、複数施設の包括管理委託のメリットとコストを正確に把握するため、契約事務コストを試算。まずは1件当たりの契約事務にかかる時間を計算。1分当たりの人件費から、1契約当たり平均約13万円、市全体で約7,200万円/年という契約事務コストを試算した。包括管理導入に伴う委託費の大部分は、包括管理による契約事務コストの削減分でまかなえることを首長や議会に説明し、その導入に至った。

 

04 / Q. うまくいかなかった事例もあるのでは?

A. もちろん導入に至らなかったこともあります。原因は合意形成手続きの不備、コスト認識不足、そして準備不足です。

包括管理導入の一歩手前まできて、実施できなかった自治体ももちろんあります。原因としては、合意形成を得られていなかったこと、担当職員の認識不足や知識不足、そして、予算での債務負担行為の議決をとっておくといった準備ができていなかったことが挙げられます。一度頓挫すると立て直しは難しいもの。きちんと手順を踏む必要があります。

 

《→鳥取県鳥取市の事例》
《→兵庫県明石市の事例》

 

<M市の事例>

M市では、約半年にわたり、包括管理委託を提案した企業とともに、対象施設の選定や業務内容の精査を実施したが導入には至らなかった。理由は、管理・保守の見積もりが、市の予想をはるかに上回ったから。前述のとおり、契約事務コストや業務フローの改善、安全の確保を考えると包括管理は効果が高いのだが、表面上の予算増を危惧しての断念となった。コスト感覚、コスト意識の違いが招いた結果だ。企業側はそれまでの打ち合わせ費用や事業所の設立費用を負担している。市の公共FM実践が遠のいただけでなく、パートナーとなる企業からの信用も失ってしまった事例だ。

<O市の事例>

O市では、議会での債務負担行為の議決を得ていない段階で、公共施設包括管理業務の委託業者を公募で決定していた。5年間で16億円にものぼる、規模の大きなマネジメント業務だった。公募で選ばれなかった地元の事業者から、「進め方に不備があるのではないか」との意見があがり、ついには議会まで巻き込んだ騒動に。債務負担行為の議決をあらかじめ得る手順を踏んでいれば、問題なく進められていたかもしれない事例である。

→公共FMや包括管理の疑問にお答えします。 【後編】に続く

 

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