ジチタイワークス

【金治 諒子さん】ほんのちょっとの勇気から始まった、私のサードプレイス。

『サード・プレイス』、それは家庭(第1の場)でも職場(第2の場)でもない、リラックスできる心地の良い場所。

今回の企画では、公務員の肩書を出しながらサードプレイスで活動している人にフォーカス。活動を始めたきっかけや、活動しているからこそ得られたこと、今後の展望など。公務員にとってのサード・プレイスがより身近になるきっかけを語っていただく。

公務員ライター・姫路市職員
金治 諒子(かなじ りょうこ)さん

プロフィール
育児休業中にブログを書き始めたことをきっかけに、ライター活動をしている姫路市職員。二児の母。境界線の曖昧さを大切に、公務員コミュニティや地域コミュニティに所属しながら多様な主体によるまちづくりを目指している。モットーは、行雲流水。

【執筆実績】
・実務教育出版・公務員試験受験ジャーナル「リレーエッセイ 公務員として働く魅力とは」
・NPO法人二枚目の名刺・Webマガジン「公務員×2枚目の名刺プロジェクト」
・地方自治体を応援するメディア(HOLG)ほか

 

「自分らしくありたい」という不足感

「自分が自分である時間」。それが私にとってのサードプレイスです。自分の興味関心に正直にいられる時間であり、癒やしの時間であり、自己研磨の時間でもあります。

足を踏み入れたきっかけは、強い不足感でした。育児休業を取得し、2歳の長女と生後6カ月の次女を自宅で育児していた6年前の私は、自分の存在価値を感じられなくなっていました。今考えると、産後うつやマタニティブルーと呼ばれる症状だったと思います。目の前のわが子の世話と、炊事、洗濯、掃除などの家事に追われ、何をしているか分からないまま1日が終わっていく。母親というかけがえのない役割を担っていることを頭では理解していましたが、心が悲鳴をあげていました。次女が泣いたらおんぶし、長女が甘えてきたら抱っこしながら、夕飯をつくっていました。当時は自分の心にふたをしなければ、乗り越えられませんでした。

唯一の気分転換は、ママ友とのおしゃべりでした。会話が成立しない我が子と四六時中向き合う中で、大人と話せる時間は「1人の人間」に戻れる時間でした。

ほんのちょっとの勇気から始まった一歩目

その頃からブログの開設が流行し、私の周囲でもブログを始める友人が増えてきました。当初は公務員がプライベートで情報発信することにリスクを感じ、興味本位で友人のブログを読むだけでした。

ところがあるとき、さいたま市の島田正樹さんのブログを見つけることになります。実名かつ顔出しで発信されている島田さんの記事を拝読し、地方公務員法に定められている信用失墜行為の禁止、秘密を守る義務、職務に専念する義務、営利企業への従事の制限などのリテラシーに配慮すれば、法令違反とはならないことを知りました。そこで心の声にふたをせず、ブログを書いてみることにしました。

当時の内容は育児日記のようなものでしたが、書くという行為そのものに喜びを感じていました。日々の何気ない出来事を文章にしてアウトプットすることで、自分の思考が整理されました。何より、記事を読んだ友人たちに共感してもらえることで、「母親でも妻でもない自分」の居場所を見つけたようでした。この時期は「他者からの承認」という報酬が原動力となっていました。

周囲の共感から大きな拡がりへ

その後ブログを継続するうちに、NPO法人二枚目の名刺のオウンドメディアで「公務員×2枚目の名刺プロジェクト」の一員としてインタビュー記事を執筆する機会に恵まれました。本業以外のサードプレイスをもって活躍されている公務員にインタビューし、その考え方や取り組みのきっかけなどについて記事にすることで、公務員の副業に対するハードルを下げることをねらいとしたものでした。

私は福岡市の今村寛さんと尼崎市の江上昇さんにインタビューさせていただきましたが、生の肉声で語られる人生のストーリーは大変興味深く、2時間で語られた内容を8000字に推敲(すいこう)する作業でさえ、苦ではなかったことを覚えています。子どもが幼かったため昼間に時間を割くことが難しく、寝かしつけまでの育児家事を終えた後、独りでパソコンとにらめっこしていました。この時期は、「没頭するクリエイティブな時間」が、私にとっての報酬でした。

こうして完成した記事が公開されると、それなりの反響がありました。同業の方から褒め言葉をいただいたり、新たな執筆依頼をいただいたりしました。頼まれ事には「はい」か「イエス」と答えると決めていたので、お声がけいただいた機会はすべて引き受けました。公務員向けの雑誌やWEBメディアへの執筆を通して、“公務員ライター”と名乗るようになったのはこの時期です。

またコロナ禍以前だった3年前は、対面での公務員対象イベントに積極的に参加していました。特によんなな会(47都道府県の地方公務員と国家公務員がつながる会)への参加をきっかけに、公務員同士の人脈が広がりました。ブログを読んでくださった方とSNSでつながる機会が増え、「公務員ネットワークの拡がり」が当時の私にとって最大の報酬でした。

サードプレイスから見えた仕事への喜び

現在は保健所総務課に所属し、本務の他に新型コロナウイルスワクチン接種業務のお手伝いをしています。
他市町の情報収集や広報文案の検討など、サードプレイス活動で培ったネットワークと文章作成スキルが年月を経て熟成し、所属組織の業務に活かされています。

育児家事で強い不足感を感じていた6年前は、こうして業務に活かせるタイミングが来るとは想像していませんでしたが、あのときブログを書き始めることがなければ、ライター活動をしていませんでしたし、公務員ネットワークの拡がりにもつながりませんでした。活動を快く思わない方の声を受け、辞めようと思ったことも何度かありますが、こうして振り返ってみると、人生無駄なことは何1つないと実感しています。現在は、これまでの無形報酬を役立てる機会に恵まれたことに喜びを感じながら、業務に取り組んでいます。

偶発的な出来事によってつながった活動は、計画的にはいかない人事異動という仕組みと交わることで、いつか必ず所属組織の業務につながるものと思っています。今後も業務の内外で身につけたスキルを、所属組織のために活用していきたいです。

10年後がどのように変化しているか、予測できない時代となりました。またほかの誰かにとっての「正解」は、自分自身にとっての「正解」ではなくなりました。現代人が1日で得る情報量は、平安時代の一生分にあたるそうです。変化がはやく情報過多の時代だからこそ、自分の外側の何かにとらわれるのでなく、内側の本能的な感覚を信頼してみませんか。ほんのちょっと心が動いたそのときに、小さなことから始めてみてください。迷ったときは、やってみる。一緒に始めましょう。

 

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