ジチタイワークス

東京都目黒区

【区長の本音<7>目黒区長・青木 英二さん】就任22年。経験が支える安全安心なまち。

令和7年は、東京23区の区長公選制が復活して半世紀、都区制度改革により「基礎的な地方公共団体」と認められて25年の節目にあたる。日本の首都を支える区長の皆さんの素顔と「本音」をご紹介する連続インタビュー7回目は目黒区長の青木 英二さんが登場。ダンスによるまちおこしや安全安心のまちづくり、いま求められる職員像などについてお話をうかがった。

※インタビュー内容は、取材当時のものです。

目黒区長・青木 英二さん

 

◆プロフィール

青木 英二 (あおき えいじ) さん

昭和30年、東京都目黒区生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。昭和58年から目黒区議会議員(2期)、平成3年から東京都議会議員(2期)。平成16年から目黒区長。現在6期目。趣味はウォーキング、読書。信条は「人事を尽くして天命を待つ」。

 

こんなこと聞きました!

区長になるまで / 重点政策は / ダンスで介護予防 / 退任を公約 / 求める職員像 / 休日の過ごし方

映画に導かれて政治の世界へ。

目黒区長・青木 英二さん― まず青木さんが「区長になったわけ」をお聞かせください。

平成16年3月7日に前任の区長が急逝され、その翌日に契約課長が逮捕されました。新聞やテレビでも大きく取り上げられ、区としては未曾有の大混乱(※)です。

私は当時、都議会議員でしたが、目黒区で生まれ目黒区で育ち、3人の子どももここ目黒の地で育ててきたので、「育ててもらった政治家として恩返しができないだろうか」という思いが大きかったですね。混乱を収拾し、区政をきちんと推進していかなければならない。自分がやるしかないという気持ちでした。

― そもそも政治の世界を目指されたきっかけは。

慶応大学で弁論部というクラブに入りました。実は暇だったのでキャンパスで上映されていた映画を見に行ったら、それが勧誘イベントだったんです。そこで電話番号を書いたら毎日電話がかかってきて、「映画を見させてもらったんだから入らないと悪いな」と思って入ったんです。政治に関心があったわけでは全くありませんでした。

その弁論部が文化祭で、当時衆議院議員だった宇都宮 徳馬先生(※)をお呼びして講演会を開いたことが、政治の世界への入口でした。講演会をきっかけに、部員全員で宇都宮先生の選挙応援をしようということになり、生まれて初めて議員会館に行って政治の現場を知りました。

― その後28歳の時に区議会議員選に出馬されました。

宇都宮先生のお人柄や思想に触れる中で、政治の世界への思いがだんだん強くなっていきました。私の兄が障害者なので、福祉の仕事ができたらいいなという思いもあって区議選に出ました。当時の23区の自民党所属新人議員65人の中で、まだ政治の世界にいるのは私だけになりましたね。

― 目黒区議を2期ご経験の後、東京都議会議員も2期務められました。議員時代で特に印象に残っているできごとは。

長い経験の中で色々な方々と出会い、今日まで来ました。政治の世界では皆それぞれ主義主張があり、同じ政党の中でも考え方が少しずつ違います。ただ、最後は「人と人のつながり」だと強く感じました。それは区政にもしっかり活かしていかなければならないと思っています。

政策面では、ずっと福祉に一生懸命取り組んできました。ただ区の業務は総合行政ですから、一つだけやってあとはどうでもいいというわけにはいきません。バランスを特に大事にしています。

未曾有の大混乱 平成16年3月7日、当時の薬師寺 克一区長が自殺。翌8日に目黒区庁舎清掃業務の入札を巡る収賄容疑で契約課長が逮捕され区政が混乱した。
宇都宮 徳馬先生 昭和から平成の政治家。昭和27年に自由党から衆議院議員に初当選。以降、衆議院議員を10期、参議院議員を2期務めた。防衛・外交政策に詳しく、保守の立場から軍縮に尽力した。

地震災害に危機感。被災地からも学ぶ。

目黒区長・青木 英二さん

― 区長の仕事とは、どのような仕事だとお考えでしょうか。

区長の仕事は大きく2つあると考えています。1つは対外的な役割です。目黒区で言えば28万人の区民の皆さんの福祉の向上、そして安全安心のまちをつくっていくことが、目黒区長である私のもっとも重要な課題だと思っています。

もう1つは対内的な役割です。会計年度任用職員も含めて約3,500人の組織のトップとして、しっかりとリーダーシップを発揮し、福祉の充実や安全安心のまちづくりにベストを尽くすこと。区役所の内側に向けては、それが仕事だと思います。

特別区は東京都と比べると、圧倒的に“現場”です。住民とフェイストゥフェイスで接する度合いが桁違いです。そこに大きなやりがいを感じますね。自分が取り組んだことが形になるとき、例えばダンスの大会が実現したときや、施設が完成するときにやりがいを感じます。

― 区長としてこれまでもっとも印象に残る出来事は何ですか。

やはり新型コロナウイルスの感染拡大ですね。全く経験のない中で、突然学校が一斉閉鎖になり、目黒区でも感染が拡大して、保健所が瀬戸際まで追い詰められました。私どもは事業継続計画(BCP)を持っていたのですが、令和4年2月1日に、インフルエンザ編を初めて発動しました。必要な仕事に優先順位をつけ、一部の仕事を中止して職員を保健所の仕事に従事させるなどして、何とかしのぎました。

目黒区は日本で最初のワクチン接種(※)が行われた場所でもあります。医師会、薬剤師会、そして職員の皆さんの頑張りのおかげで、乗り越えられたと感じています。区長としてつくった事業継続計画が、まさに功を奏したと思っています。

― 特に力を入れてきた施策は。

防災、特に地震対策が重要です。目黒区は津波の心配はほとんどありませんが、地震による大きな被害が想定されています。

東京都の想定によると、都の南部で震度6強の地震が発生した場合、目黒区では半壊・全壊が6,000棟以上、焼失が約4,000棟という非常に大きな数字が出ています。ですから災害対策は極めて重要な課題であり、安全安心なまちづくりが必要です。

浸水対策としては、浸水ハザードマップを区民の皆さんに配布し、スマホでも危険な場所を確認できるようにしています。オンラインでの防災訓練も実施し、自宅からハザードマップを確認するよう促しています。都市型内水氾濫、つまり下水から水が上がってくる浸水にも注意を呼びかけています。

目黒区は宮城県の気仙沼市と角田市、石川県金沢市と友好都市なのですが、東日本大震災と能登半島地震で、いずれも大きな被災地となりました。そこからも様々なことを学ばせていただいています。

日本で最初のワクチン接種 新型コロナウイルスワクチンの国内で初の接種が令和3年2月17日、目黒区の国立病院機構東京医療センターで行われ、ファイザー製のワクチンが医師に接種された。

ダンスでまちおこし。介護予防と健全育成も。

目黒区長・青木 英二さん― 区の将来像として「さくら咲き心地よいまちずっとめぐろ」を掲げられています。どんな願いが込められているのでしょうか。

令和3年策定の区の基本構想に、今後20年間の進む方向性を将来像として掲げたものです。

「さくら」は、目黒の象徴として使っています。かつて区の花は「萩」だったのですが、都市化でほとんど見かけなくなってしまいました。代わりに区内には桜が2,000本ほどあり、花見の時期には目黒川を中心に250万人もの方がお見えになるので、目黒といえば桜というイメージが定着しています。

そして「心地よい」とは、目黒に住んでいる人も、訪れる人も、勉強している人も、誰にとっても心地よいまちであってほしいという願いです。特に区民の方々にとっては「住みやすい」ことが心地よさにつながると思っています。

私は目黒で生まれ育ったので、まちへの愛着はひとしおです。まちは常にブラッシュアップしていく必要があり、放っておけば衰退していくので、常に進化し続けるという意味も込めています。

― 令和7年度は子育て・教育やDX推進を重点政策に据えています。

「区民の暮らしを支え、スマートで強靭なまちをつくる目黒未来予算」というキャッチフレーズのもとで進めています。先ほども申し上げたように、区の行政は総合行政なので、どれか一つに突出して力を入れるということではなく、全体としてブラッシュアップしていくことが大事です。国には外務省や厚生労働省、文科省など別々の省庁がありますが、区役所にはそれらが全てあるようなものですから。

「子育て」では子ども家庭センターを設置し、“子どもよろず相談所”として母子手帳の交付や子育てなど様々な相談に応じています。東京都の児童相談所とも連携し、サテライトオフィスを設けて、学校や家に居場所のない中学生などの相談を受けています将来的には東京都の児童相談所を目黒区に誘致することも決定しており、その準備を進めています。

「DX推進」については、目黒区は遅いと言われることもありますが、必要なところはどんどん進めています。総務省のカウントには利用頻度の低いものも含まれるので見かけ上は遅く見えても、利用頻度が高い行政需要を中心に区役所に来なくてもできるDXを進めています。最大の課題は自治体システムの標準化(※)ですが、これは目黒区だけでなく全国の自治体が抱える問題です。

― 先ほどお話のあったダンスの大会について詳しくお聞かせください。

LDH JAPAN(※)のHIROさんと「ダンスでまちおこしをしたいね」とずっと話してきました。HIROさんは若い頃から中目黒で生活されていて、目黒への愛が非常に強い方なんです。

取り組みの柱は、ダンスによるまちおこし・まちづくりです。令和7年1月に開催した「Meguro Dance Connection(メグロダンスコネクション)」は盛況でした。小学生から40歳以上まで、4つの年齢層で募集しましたが、例えば40歳以上の世代は定員80人のところに100人以上の応募がありました。会場となったパーシモンホールは1,200人収容ですが、1,400人以上の来場応募があり、本当に盛り上がりました。

高齢者向けのダンス教室もLDHさんとのコラボレーションで実施しており、非常に人気です。定員90人のところに約300人の応募がありました。LDHのプロのダンサーが指導してくれる上に、EXILEが踊っているスタジオで自分たちも踊れるという点が魅力的だと好評です。

これらのダンスを通じた取り組みの最終的なゴールは介護予防です。なかなか外に出たがらない高齢者の方々にもダンスに触れる機会を作り、介護予防につなげたいと考えています。もちろん青少年の健全育成という意味合いもあります。

自治体システムの標準化 全国の自治体基幹システムを共通仕様へ移行するデジタル庁主導の取り組み。令和7年度末までにガバメントクラウドを使用した標準システムを導入し、利用できるようにすることが義務化された。
LDH JAPAN ダンス&ボーカルグループ「EXILE」などが所属するエンターテインメント企業。EXILEリーダーのHIROが創業者。本社は東京都目黒区東山。

同日選挙実現へ任期途中の退任を公約。

目黒区長・青木 英二さん

― 前回選挙への出馬にあたり、任期途中の3年目で区長を退任すると表明されました。その理由をお聞かせください。

そこには大きな理由があります。目黒区議会議員選挙と区長選挙は、昭和62年まで同時に行われていました。その当時、区長選の投票率は44.25%で、区議選とほぼ同水準だったんです。しかし平成2年に当時の塚本 俊雄区長が急逝されたことで選挙の時期がずれてしまいました。その後、投票率は一時的に改善したものの、今でも区議選と8ポイントほどの差があります。

選挙は民主主義の原点であり、多くの方が投票所に行って自分の考えを政治に反映させることが大切です。そのためには投票率が上がる選挙の同時実施が非常に重要だと考えています。

令和9年には区議選があります。そして私の任期は令和10年までです。1年早く辞任することで、令和9年に2つの選挙の同時実施が法的に可能になります。

ただ私が3年で辞めても、次の選挙にまた立候補して当選すると、公職選挙法の定めで任期が4年ではなく、残り1年となってしまい、ずれが続いてしまいます。つまり私が令和9年に辞めて立候補しないことが、同日選を実現する絶対条件なんです。

同日選とすることで選挙費用が約1億円削減できますが、金額以上に投票率が上がること、民主主義の土台が守られることが重要です。現状では直近の区長選挙の投票率は36.2%で、3人に1人しか選挙に行っていない。そんな状況は好ましいことではありません。同日選にすれば必ず4割を超えるはずです。

区長を6期務めさせていただき一つの節目を迎えたからこそできた決断です。例えば4期目ではできなかったと思います。

AI普及で「より能力が問われる時代に」。

目黒区長・青木 英二さん― 職員を率いるトップとして心がけていることは何ですか。

やはり信頼関係に尽きると思います。そしてコミュニケーションを大切にしています。区に採用された職員は、入区後1年ほど経った頃、10人ほどのグループに分かれて私と懇談します。公務員としてどういうことをやってみたいか、現状をどう思うかなど、直接聞いています。これを20年間ずっと続けています。目黒区がどうあるべきか、職員の皆さんの声を聞くことができ、区長として得るものは非常に大きいです。

― 公務員のあるべき姿や区職員の理想像は描いていますか。

なかなか難しいですが2つあります。まず、区民の皆さんに身近な職場ですから、区民の信頼を得ることが大事です。そのためには責任感の強い職員が求められます。

もう一つ、公務員は全て計画に則って仕事を進めますが、常に計画通りに世の中が進むわけではありません。ですから柔軟に対処できる能力は非常に大事だと感じています。これは区長も同じですし、民間でも同様だと思います。

そして職員に常に伝えているのは、まず心身ともに健康を維持してほしいということです。いくら立派なことを言っても、次の日休んでしまっては何も始まりませんから。

これからの時代、区の職員はどんどん減っていき、少子化が進む中で、AIなどで補っていくことになるでしょう。RPA(ロボティックプロセスオートメーション)などにより単純作業はどんどん機械化されていきます。

だからこそ“人間じゃないとできないこと”“この職員じゃないとできないこと”をしっかりやっていく必要があります。それは、課題を抽出するアンテナを高くし、抽出するだけではなく課題解決していくことです。さらに、それをフィードバックして地域に戻していく能力は、AIやロボットにはありません。AIやロボットは、職員の能力を早く発揮させるためのツールに過ぎません。単純作業がなくなって、より能力が問われることになるでしょう。

映画とウォーキングでリフレッシュ。

目黒区長・青木 英二さん

― 休日はどのように過ごされていますか。

土日も仕事が多いので、休日は本当に少ないですね。ですが、最大のリフレッシュは映画鑑賞です。家で見るのではなく、大きなスクリーンで見るのが好きですね。最近ではトム・クルーズの「ミッション:インポッシブル」がすごく良かったです。62歳なのに常に走っていて、大型バイクにまたがったり、飛行機にぶら下がったりと、本当にすごいと思います。洋画が好きですが、何でも見ますよ。

ほかには、趣味と呼べるか分かりませんが、毎朝ウォーキングをしています。健康管理のため30分ほど歩き、ラジオ体操も365日欠かさずやっています。コースは決まっていて、近所の神社まで歩くのですが、そこで区民の方と会うと、お叱りを受けます。「税金が高い」とか「下水道が詰まってる」とか、褒められることはありませんね(笑)。

― 座右の銘は何でしょうか。

「人事を尽くして天命を待つ」です。中国の南宋時代の学者である胡寅(こいん)という人の言葉です。

私にとっては、これまでの反省も含めてですが、「人事を尽くしていないのに、天命ばかり待っている」という思いもあるので、「人事をちゃんと尽くそう」という意味を込めた、こうありたいという座右の銘です。

― 最後に、目黒区の魅力と区役所の自慢を教えてください。

目黒区の魅力は、まず非常に犯罪件数が少ないことです。刑法犯認知件数でいうと、最近では東京23区中2番目に少ない、安全安心なまちです。一番多いのが自転車の盗難で、ここを減らせば1位になれると思うので、警察と協力して取り組んでいるところです。

また宅地率が73%で、23区で一番高いんです。非常に住宅地が多く、住みやすいまちだと言えます。そして「住み続けたい」という区民の割合が95.6%と、23区の中でもトップクラスです。

区役所の自慢はなんといっても職員の皆さんです。「人財」と言っています。

令和5年9月から「職員エンゲージメント」というのを始めました。職員の区に対する愛着や貢献度を高めるための取り組みです。職員が生きがいを感じられる、活力があり風通しのよい職場を目指しています。これは、最終的に区民の皆さんが住みやすい目黒区をつくるための手段でもあります。

この区役所の建物も自慢のひとつです。かつての千代田生命の本社ビルで、昭和を代表する建築家で文化勲章受章者である村野 藤吾先生の設計です。前任の区長が平成15年に購入して、私も20年以上使わせていただいていますが、すごく使い勝手がいいですよ。

ジチタイワークス・西田 浩雅◆取材後記
任期途中の退任を首長選で公約に掲げるのはかなりのレアケース。自ら身を退くことで、区長選と区議選の同日選を実現し、投票率向上につなげる選択です。東京23区の現役区長で最多の当選6回を重ね、実績を積み上げてきた自信が英断を促したのでしょうか。ベテラン首長の安定感を痛感した取材でした。(西田 浩雅)

 

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