ジチタイワークス

兵庫県高砂市

危機感の中でも「庁内の合意」と「住民理解」は丁寧に! 地域共通の目的意識を持った包括管理を目指す。

公共FMの実践に当たり、まずは「市の考え」を整理し、庁内・住民への理解を進めていった事例。包括管理は段階的に進めていく予定で、令和元年10月より第一弾として、新分庁舎での実践が始まっている。

※下記はジチタイワークス特別号 June 2020(2020年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 兵庫県高砂市

総合管理計画から弾き出された15億円という数字の重み。

高砂市では、平成28年度に「高砂市公共施設等総合管理計画(以下、管理計画)」を策定。試算上発生する年間約15億円の赤字対策として、公共施設の総延床面積を15%縮減するという目標を設定した。当時のことを石本さんはこう振り返る。「庁内からは、『年間15億円は難しい』という危機感に満ちた声から、『あくまでも試算だ』という見方まで、様々な反応がありました。ただ、何かしなければいけないということは確実でした」。

管理計画で明らかになった内容に冷静に対応するには、個々の施設の分析と今後に向けた計画が必要だ。この計画の作成を外部に委託する、という選択肢もあった。しかし高砂市は、机上の計画ではなく、住民ありきの持続可能な施設運営を実現するために、自分たちでプランを作成することに決めた。

まずは市内の122施設について現状を洗い出した。その上で、各施設の今後の方向性を“維持、縮小、廃止”などに分類し、保全計画の対象を53施設にまで絞り込んだ。それらを庁内の合意形成の後に“市の考え”としてまとめ、住民の理解を得るために動き始めたのだ。

丁寧な説明と情報公開で意識の共有を図る。

一口に住民の理解を得るといっても、施設にはそれぞれ設置目的があり、過去の経緯など個別の事情がある。総合的な全体での説明会に加え、地区別意見交換会の実施や、市のホームぺージ・広報紙で情報発信するなどして理解を促した。庁内での調整や対話も含めたこれらの活動の中で必要なものは、“丁寧な説明と、公開する姿勢”だ。後で「知らなかった」という不満が出ないよう、オープンガバナンスの姿勢を持ち、進捗も逐次報告する。議論の中で認識のズレが生じたら、真摯に対応する。庁内から地域へと意識の共有を広げていくためには、そうしたプロセスを地道に積み重ねるしかないと、石本さんは強調する。

事業者提案の内容をもとに包括管理の実施に乗り出す。

次のステップは、53施設に対する保全計画の策定だ。こうした施設の維持・保全に関する具体的な計画をつくるのは、専門事業者の力を借りた方が近道になる。そこで同市は、保全計画の策定を外部委託することに決め、公募型プロポーザルを実施した。このプロポーザルには、保全計画自体の質や実効性向上を図り、公共施設の効果的な維持管理につなげることを狙いとした事業者提案募集が盛り込まれた。すると、実務的に保全計画策定後も動くことができる事業者からの応募があった。応募6社中、4社が包括管理を軸にした提案であり、審査の結果、委託先はその4社中の1社に決定。包括管理を選んだ理由について石本さんは、「従来、施設の維持・管理は個別の所管課で進み、横断的に見る組織がありませんでした。でも、包括管理なら、それが可能になります。マネジメント経費の問題、仕様のばらつきなども解決できるはずだと期待しました」と振り返る。また、提案内容が、まずは新分庁舎、次に新本庁舎+他施設の包括管理と、市の実状に合わせた段階的な導入になっていたこと。加えて、まちのことを親身になって考えてくれる姿勢が感じられたのも選定の決め手になったと語る。

新庁舎の完成とともに新しい体制づくりを目指す。

高砂市の保全計画は令和元年度に策定され、同時に包括管理の導入に向けた動きが始まった。公募を経て、同年10月から現本庁舎と新分庁舎の包括管理がスタート。この公募時にも、次のステップに向けた事業者提案募集を盛り込んでおり、包括管理が途切れることなくリレーされていく仕掛けになっていた。

現在は、現本庁舎の清掃業務、消防点検、警備など個別に発注していた一連の維持管理業務に新分庁舎を加えた約20契約を一本化し、同時に次のステップに向けた共同研究も並行して行っている。同市では令和3年10月に新本庁舎が完成予定となっており、次の段階の包括管理もこのタイミングで開始できるよう公募を実施する。

手探りの中、紆余曲折を経て進んだこれらの取り組みだが、徐々に各所管課から「包括管理にこの業務も入れてもらえないか」といった声が寄せられるようになったという。「実現が厳しいと感じられることも、諦めずに考え続けることが大切です。しかるべきタイミングで突破口が開けることもあります」と語る石本さん。新本庁舎が完成した際の包括管理の更新時には、市内に16ある小・中学校などにも対象施設を広げていく予定だ。


高砂市 企画総務部 経営企画室
係長 兼 公共施設等総合管理計画担当
石本 玲子さん

▼高砂市の公共FM実践の流れ

H29.1
管理計画を策定する

国の要請に沿って管理計画を策定。公共施設の総延床面積を20年間で15%縮減するという目標が決まる。

H30.3
市の考え方をまとめる

管理計画をより具体的にするために、市内公共施設に優先順位を決め、そのうち53施設を保全計画の対象としてピックアップする。

H30.8
保全計画策定業務を委託

53施設の保全計画は外部に委託して策定。事業者決定の公募には、公共施設の維持管理費軽減方策についての事業者提案募集も盛り込んだ。

H30.11
市の考え方を広める

強引な進め方ではなく、「庁内の合意形成」と「住民の理解」をもとに実現するという方向性を決定し、地区別意見交換会などを実施。

R1.10
トライアルとして新分庁舎の包括管理を開始

包括管理の採用を決定し、スモールスタートとして新分庁舎の包括管理を委託。次のステップに向けたデータ蓄積も行う。

R3.10
新本庁舎+αの包括管理へ

新分庁舎で得たノウハウを新本庁舎の包括管理に活かしつつ、より多くの施設を包括管理下に置くことで全体最適化を図る。

 

課題解決のヒント&アイデア

1.地域と自治体が抱える実状を見つめる。

“年間15億円の赤字”、“総延床面積を15%縮減”といった課題の解決を、外部のシステム化された方法に頼るのではなく、地域の実状に即した方法で解決していくために、まずは自分たちで優先順位を決定。個々の施設に対する考え方をまとめ、将来も保全・運用していくべきものを絞り込む。それをもとに庁内で合意形成し、住民・利用者の意見にも耳を傾けながら、個別施設計画の最終案に落とし込んでいった。

グラフィックレコーディングとは?

発信者の内容をリアルタイムで可視化するファシリテーションの手法の一つ。

▼高砂市の場合

①住民説明会の内容を可視化


「見る」ことで「気付き」やすく!

②①を踏まえ、その場で出た意見を可視化


他地区の意見を「見る」ことで異なる意見を引き出す!

③①↔②の繰り返しで様々な意見を蓄積・可視化


記録に残ることが明白なので、理不尽な意見の抑止にも!

2.覚悟を持って決断し、丁寧に進める。

管理計画をつくっても、そこで立ち止まっては意味がない。担当部署が「計画を必ず実現する」というマインドを持ち、実現に向けてのハードルがあれば、力ずくではなく“対話と合意”で丁寧にクリアしていく。また、住民の理解を得る際に、庁内の意見が統一されていないと説明が散漫になってしまうので、まずは庁内の合意形成を行うことから始める。

管理計画に説得力を持たせるためには、さらに具体的な保全計画をつくり、数字などを可視化する。これらの情報や進捗状況は可能な限りオープンにして、民間事業者や住民などの関係者には積極的に共有する。その結果として全員に当事者意識が生まれれば、事業全体がスムーズに進む。

3.事業者提案を活用し、民間の知恵を取り込む。

地域課題の解決は、自治体だけの力では難しい。民間事業者から広く知見を求め、大胆かつ効果が見込める提案をできるだけ多く吟味して決める。その手法の一つとして事業者提案募集は積極的に活用するべきであろう。その際、公募は広く行うが、その提案に地元への還元という視点が盛り込まれているかという点も重要な判断軸の一つだ。

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