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公益通報制度とは?内部通報との違いや通報先を分かりやすく解説

職場で不正行為や法令違反を目撃し、「このまま見過ごしてよいのか」と悩んだ経験はないだろうか。そんなときに役立つのが、自治体職員にも適用される「公益通報制度」である。本記事では、自治体職員向けに「公益通報とは何か」「内部通報との違い」「通報の方法や通報先」「保護されないケース」など、よくある疑問を分かりやすく解説する。不正や法令違反に直面したとき、どう行動すべきか迷った際の指針として、ぜひ本記事を参考にしてほしい。

【目次】
 • 公益通報制度とは?

 • 公益通報の対象者
 • 公益通報の対象となる具体的な行為
 • 公益通報の通報先と公務員の対応窓口
 • 公益通報者保護制度における自治体の役割
 • 公益通報があった場合の自治体の対応フロー
 • 【FAQ】公益通報に関するよくある質問

※掲載情報は公開日時点のものです。

公益通報制度とは?

公益通報制度とは、組織内で不正行為や法令違反があった際に、従業員や職員が、社内または外部の専用窓口に通報する仕組みのことである。この制度は、職場での不正や違法行為を早期に発見し、是正することを目的としている。

ただし、公益通報が認められるのは「不正の目的でない」通報に限られる 。「不正な利益を得ること」や「他人に損害を与えること」を目的とした通報は認められない。また、通報者は職場で不利益を被らないよう「公益通報者保護法」により、一定の条件のもとで法的な保護が与えられている。

公益通報と内部告発の違い

公益通報と内部告発は、一見似た行為に見えても、通報先の違いや法的保護の有無など、制度上の扱いに大きな差がある。公益通報は、職場で知った法令違反について、企業内の窓口や行政機関など適正な通報先に知らせる制度であり、通報者は「公益通報者保護法」にもとづき法的に保護される。

一方、内部告発は、マスコミやSNSなど不特定多数の外部に情報を公開する行為であり、法の保護が及ばないことが多く、リスクを伴う。目的や通報先によって制度の適用が異なるため、制度の理解と判断が重要である。

公益通報者保護法の役割

公益通報者保護法で定められた保護措置
・公益通報を理由とする解雇は無効である
・降格、減給、退職金の不支給などの不利益な取扱いも禁止されている
・公益通報によって事業者が損害を受けた場合でも、通報者に対して損害賠償を請求することはできない


公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由として職員や従業員が不当な扱いを受けることがないように保護することを目的とした法律である。令和4年6月1日の改正により、従業員数301人以上の事業者や行政機関には、内部通報制度の整備が義務づけられている。

このように、公益通報者保護法は、正当な通報が萎縮されることなく行われ、不正の是正が図られるよう、通報者の立場を守る役割を担っている。

出典:消費者庁

■公益通報者保護法で保護されない場合のケース

公益通報者保護法では、「不正な目的での通報」だけでなく、「従業員・職員以外からの通報」や「定められた通報先以外への通報」、さらには「通報内容が不正行為や違法行為に該当しない場合」は保護の対象とならない。ただし、従業員の家族など第三者が本人の承諾を得て通報した場合は、従業員本人が保護される。

公益通報の対象者

公益通報の対象者は、正社員、公務員、派遣社員、アルバイト・パート従業員、業務委託先の従業員などの労働者である。さらに、以下に該当する者も対象となる。

・勤務先を退職して1年以内の退職者
・契約にもとづいて事業を行う取引先の従業員や役員
・取締役・監査役など法人の経営に従事する役員


なお、地方公務員による公益通報は、公益性の高い法令違反行為が対象であるため、守秘義務違反にはあたらない。

公益通報の対象となる具体的な行為

地方自治体における公益通報の対象行為(具体例)
・秘密保持義務違反
・服務規程違反
・横領
・贈収賄
・不正な会計処理
・違法なサービス残業  など


公益通報の対象となるのは、国民の生命・身体・財産の保護、消費者利益の擁護、環境保全、公正な競争の確保などに関わる法律違反行為である。 ただし、公益通報と認められるかどうかは、通報が「不正の目的」によるものでないかどうが判断基準となる。

通報を受けた窓口や調査部門は内容を確認し、「受理して調査する」か「不受理とする」かを判断する。不受理となった場合は、その旨が通報者に通知される。また、不受理であっても、通報内容を情報提供として記録に残す自治体もある。

消費者庁「通報対象とされる法律一覧」はこちら

パワハラやセクハラは原則として公益通報に該当しない

原則として犯罪行為や法令違反ではない「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」は公益通報の対象とはならない。ただし、暴行や脅迫などが伴うハラスメントは犯罪行為、違法行為となるため、公益通報の対象となる。

出典:消費者庁

公益通報の通報先と公務員の対応窓口

公務員が公益通報を行う際は、状況に応じて以下のような通報先が考えられる。

・上司や役員
・組織内部の公益通報窓口(監察担当部署、人事課など)
・組織が委託した通報窓口(法律事務所など)
・行政機関(総務省、厚生労働省、消費者庁など)
・外部の通報先(報道機関、弁護士会など)
・労働組合 


公益通報の通報先に優先順位はなく、法律で認められた通報先であれば自由に選択して通報できる。 ただし、公益通報者保護法では通報先によって保護される要件が異なるため、注意が必要である。

たとえば、組織内部の窓口には、違法行為が起きている、または起きるおそれがあると判断できる事実があれば保護される。一方、報道機関や労働組合など外部への通報は、違法行為の証拠があり、かつ隠蔽のおそれがある場合に限り保護の対象となる。

出典:消費者庁

消費者庁「公益通報の通報先・相談先 行政機関検索」はこちら

公益通報者保護制度における自治体の役割

公益通報者保護制度の運用において、自治体は2種類の公益通報を受け付けている。1つは、自治体が事業者としての立場で、内部職員などから受ける「1号通報」である。この場合、自治体は民間事業者と同様に、通報内容に適切に対応する義務を負い、必要に応じて行政機関としての対応も求められる。

もう1つは、自治体が行政機関としての立場で、外部の労働者などから受ける「2号通報」である。この場合、法令違反の疑いがあるときは、調査を行い、関係法令にもとづいて必要な措置を講じなければならない。

都道府県が通報先となっている対象法律例

公益通報制度の運用にあたっては、通報先となる法律の把握が重要である。まずは、公益通報において、都道府県が通報先となる対象法律の例を確認しておく。

・食品衛生法
・景品表示法
・住宅宿泊事業法
・学校教育法
・児童福祉法
・社会福祉法
・災害対策基本法 など


出典:消費者庁「地方公共団体における公益通報者保護制度の運用について」

市・町村が通報先となっている対象法律例

次に、公益通報において、市町村が通報先となる対象法律の例を確認しておく。

・悪臭防止法
・狂犬病予防法
・医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律
・健康増進法
・学校教育法


都道府県および市町村が通報先となる対象法律の例を把握し、適切な公益通報対応に役立てることが重要である。

出典:消費者庁「地方公共団体における公益通報者保護制度の運用について」

公益通報があった場合の自治体の対応フロー

地方公共団体向けガイドライン(外部通報用)の概要
1.通報対応の仕組みづくり:通報対応窓口の設置と担当者育成など
2. 通報への対応:通報の受付と調査、調査結果にもとづく措置の実施など
3. 通報者の保護:通報者のフォローアップ
4. 制度の運用・支援体制:通報関連資料の管理、協力義務、職員への周知など


公益通報があった場合、自治体には迅速かつ適切に対応する体制が求められる。地方公共団体向けガイドライン(外部通報用)では、自治体が講ずべき対応は大きく4つの柱に整理されており、それぞれの段階で的確な取り組みが必要とされている。

これらの対応は、通報者保護とともに、事業者による法令遵守の促進、行政の監督機能の強化、そして地域社会の健全な発展にもつながる。自治体には、ガイドラインの目的を理解し、自らの実情に応じた仕組みづくりと運用体制の充実が期待されている。

出典:消費者庁「地方公共団体における公益通報者保護制度の運用について」

【FAQ】公益通報に関するよくある質問

Q. 退職者でも公益通報はできる?

A. 退職者の場合、退職後1年以内であれば公益通報は可能。通報後は期間の定めなく公益通報者保護制度の規定により保護される。

Q. パワハラやセクハラが公益通報に当たるのはどのような場合?

A. パワハラやセクハラが暴行・脅迫・強制わいせつなどの犯罪行為に該当する場合は、公益通報の対象となる

Q. 公益通報とみなされる基準は?

A. 公益通報は「不正の目的」ではない必要がある。行為者の信用失墜目的など損害を加える目的のもの、通報が金品を得る目的であるものなどは、公益通報とは認められない。なお、行為者に敵意・反感を持っている人物が通報するだけでは「不正の目的」とまではならない。
 

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