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【まちづくり特集】田村教授が語る、地域課題を読み解く分析レポートの真価とは。

10年前の消滅可能性自治体リストの分析手法に、“深刻な人口減少を回避するための対策”についても加味した、今回の分析レポート。これを今後の政策にどのように活かすかが、消滅可能性を低減させるカギといえそうだ。分析結果から地域の課題をどのように読み解き、どのように対処すべきなのか。『地方都市の持続可能性』をはじめ、地方自治に関連する数多くの著書を持つ、長野県立大学教授の田村さんに尋ねた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

解説するのはこの方
長野県立大学グローバルマネジメント学部教授
田村 秀(たむら しげる)さん

プロフィール 1962年、北海道出身。東京大学工学部卒。自治省、香川県企画調整課長、三重県財政課長などを経て、新潟大学法学部教授・学部長を歴任後、現職。専門は行政学、地方自治、公共政策。主な著書に『暴走する地方自治』『地方都市の持続可能性』(ともに、ちくま新書)『データ・リテラシーの鍛え方』(イースト新書)などがある。

 

分析レポートのイメージ図

まちづくりに関わる意識の低さが関心の低さの一因となる。

Q. 今回のレポート公表は、自治体にとってどのような意義があるのでしょうか。

A.
「20歳~39歳の女性の数」で、自治体の持続可能性を判断することが妥当かどうかという議論はあります。

ただ、同じ基準で全自治体を比較している点では、非常に客観性の高いデータなわけですから、各自治体は結果を真摯に受け止めるべきです。

“消滅可能性”という言葉のインパクトが強すぎるという意見もありますが、これくらいインパクトが強くなければ誰も関心をもちません。実際、アンケートによると4割強もの自治体職員が「見ていない、全く知らない」という結果で、本来なら6割くらいが「詳細に見た」にならなければいけないはずです。

 

「令和6年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」の閲覧状況アンケート


“同じ基準で各自治体を比較”ということは、ほかの自治体と比べてどういう状況なのかを理解するきっかけになるので、庁内で情報共有し、きちんと分析することが重要です。


Q. どのような点を分析すべきですか。

A.
客観性の高い外部評価として、まず、自分の自治体の状況を把握すべきです。

周辺自治体や同規模自治体と比較して、地元の強みや弱点を確認することも必要でしょう。さらに、10年前に発表された消滅可能性都市リストと比較して、どの項目がどれだけ深刻になっているか、あるいはどれだけ改善されたかを知ることが大切なのです。

アンケート結果を見ると、「まちづくりに関わることはあまりない・全くない」という職員が4割ほどいましたが、この意識も、レポートの重要性に対する認識の低さにつながっているのではないでしょうか。

確かに、「まちづくり」と聞いて最初に思いつくのは、土木・建築系や道路などを含む都市計画の部署ですが、例えば、福祉や子育て支援、教育関連、ゴミ処理など環境関連も、そのまちの魅力をつくる業務にほかなりません。まちづくりと無縁な自治体職員などいるはずがないのです。プライドとやりがいをもち、自身の業務を見つめ直すことが、分析のポイントといえるかもしれません。

 

まちづくり業務への関連度アンケート

真似するだけではうまくいかない。地域特性を活かすべき。

Q. 具体的なアクションプランを作成するにあたり、留意すべき点は何でしょうか。

A.
そこは慎重に考えるべきポイントで、脱却した自治体の取り組みを真似れば同じ結果が出るわけではありません。

自治体ごとの事情や特性があるわけで、先進的な取り組みばかりを参考にすると、いずれ無理が生じます。むしろ、10年前の状況が似ている自治体を近隣で複数ピックアップし、比較することの方が有効です。

大きな変化があるようなら、どういうふうに数値が変わっているのか、それは、どういう取り組みが効いているのかなどを比較し、実際に取り組み現場を視察するのもよいと思います。自治体全体の状況は企画・総務部門が中心となり、各分野の状況は該当する原課が中心となり、状況を分析すること。まずは、自分の“足もと”を知ることが取り組みの基本なのです。


Q. “持続可能なまちづくり”を進める、具体的な施策や取り組みのヒントはありますか。

A.
私はいつも、「新しいものに飛びつくのはリスクがある」と言っています。特に観光産業はそうです。

保守的な意見かもしれませんが、その地域の特性や歴史というのは大きな財産で、それをベースに磨きをかけ、まちづくりを進めるのが正攻法といえるでしょう。

私が昨年関わった長野県阿智村の場合、「日本一の星空」をキャッチフレーズに広告展開して観光誘致を図ったことで、かなりの成果が出ています。星空自体、新しいものではありませんが、たまたま環境省の調査で評価が高かった年の結果を上手に使ったわけです。

 阿智村の星空 阿智村の星空 画像提供:阿智☆昼神観光局

また、“ご当地もの”を活用するのも有効です。著書『「ご当地もの」と日本人』(祥伝社新書) にも書きましたが、日本人は世界でもまれなほど“ご当地”好きで、実際、ご当地にはよいものがたくさんあります。そこに磨きをかけることが基本じゃないかと思うのです。

ちなみに、これまで地域おこしに関する国の交付金審査に携わってきましたが、提出された内容を見ると、複数自治体が東京の同じコンサルティング会社のアイデアでした。アイデアそのものは面白いのですが、結局お金が落ちるのは東京のみで、地方にはまわってきません。

コンサルの知恵を借りるのが悪いとはいいませんが、近隣エリアを探せば、稼ぎを出せるような連携先がきっとあるはず。地方創生とは、“まち・ひと・仕事”の活性化を一体的に進めることです。まちづくりも大事ですが、そこに仕事がなければダメなわけで、いかに地域内でお金を循環させるかを考えることが、持続可能性につながるのです。

「地域おこし協力隊」が活躍している事例も非常に多く、特に長野県内には南箕輪村のように、移住者が移住者を呼んで人口の7割以上が移住者という地域もあります。同村長をインタビューしたことがありますが、村長自身が地域おこし協力隊員として移住し、そのまま定住して村政のかじ取りをするようになった人物です。


Q. 具体的なアクションプランを作成するにあたり、留意すべき点は何でしょうか。

A.
これは一例ですが、テレビドラマ化もされた「高校生レストラン」という、三重県多気町での取り組みをご存じでしょうか。
地元高校生が運営するレストランが、まちおこしの起爆剤となった事例です。

この取り組みの場合、都市部からUターンで戻ってきた指導者がキーパーソンとなるのですが、地域の良さを再確認する上で、“外部の目”を活用するのは効果的です。地元の人ほど、地元の良さに気づきにくい傾向がありますから、外の世界を知っている人の視点は大事なのです。各地のまちおこしの事例を見ても、Uターン者や移住者が中心となって活躍している事例が数多くあります。

誰が見ても分かるようにデータを“見える化”すべし。

Q. 具体的なアクションプランを作成するにあたり、留意すべき点は何でしょうか。

A.
データを“見える化”して、課題を理解しやすいようにすることです。特に住民の協力を得ようとする場合は、見える化しなければ理解をしてもらえません。

今回のレポートは、地域の課題を知り他自治体と客観的に比較できる“宝の山”。しかし、数字の羅列のまま見せられて、ピンとくる人は少ないでしょう。だからこそ、どういう課題についてどのように見える化するのかが重要なのです。

近年、多くの自治体が「GIS(地理情報システム)」を活用するようになりましたが、未導入自治体でも無料で使えるソフトがあります。

例えば、地理学者の谷 謙二さんが開発した「地理情報分析支援システムMANDARA 10」は、Excelで作成した地域統計データを簡単に地図化することができます。ほかにも、総務省統計局の「地図で見る統計(jSTAT MAP)」や、名古屋大学大学院の「小地域ごとの簡易人口推計ツール」、青山学院大学小地域将来人口推計研究センターの井上 孝教授が開発した「小地域将来人口推計システム」など、地域情報を見える化できるソフトは複数あります。

これらのソフトを活用し、自身のまちが抱える課題を項目ごとに見える化することが、アクションプラン作成の第一歩といえるのではないでしょうか。


以下は、上記ソフトを使って、田村さんが実際に作成・出力したマップの一部。

長野県上田市における2040年推計人口と2020年人口の比較(町丁目別)

長野県上田市における2040年推計人口と2020年人口の比較(町丁目別)
※「全国小地域別将来人口推計システム」(最終閲覧日:2024年6月27日)より田村さん作成

 

10年前と比較した長野県における若年人口女性の増減率

10年前と比較した長野県における若年人口女性の増減率
※令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポートのデータをもとに「MANDARA10」より田村さん作成

 

長野市内の町丁目別75歳人口割合
※「Jstat map」より田村さん作成

Q. 持続可能なまちづくりに向け、国・県とどのように連携を図るべきでしょうか。

A.
県内市町村の分析と情報提供は、本来、県がやるべき仕事だと私は思っています。人口の少ない自治体は職員数も少なく、非常に多忙なのは間違いありません。

そして、住民と向き合い協力を呼びかける、一番手間のかかる仕事をやっているのも市町村職員です。GISソフトを活用して地域の課題を見える化する作業まで、とても手がまわらないという市町村は少なくないかもしれません。

であれば、県がシンクタンクとしての機能を果たし、県が中心になって市町村に対するサポートを行うべきで、それをやらないのであれば、“県”というくくりは必要ないとさえ個人的には考えています。

一方、国は様々な地方補助金を交付していますが、それが地元のために使われていないように感じます。ある交付金事業では、半分以上が東京の会社に落ちていて、地元のために使われていないように感じます。補助金を出してはいるものの申込期間が短いため、地元に落とす仕組みを考える時間が与えられていないのです。

逆にいうと、自治体側は常にプランを準備しておけばいいのです。こういう交付金が創設されたら、こういう事業を申請しよう、それをこの課題の解決につなげよう……というプランですね。

地元の経済効果を高めるには、単年度主義の国の会計システムを見直すべき、各省庁が似たようなメニューを用意することを改善すべきなど、国に対して言いたいことは数多くあります。それでも、現状の中で交付金制度を有効に活用する方法を、自治体側も考えておくべきなのです。

“身の丈に合った施策”は決して消極論ではない。

Q. アンケートの中で、財政のひっ迫状況を考えると身の丈に合った施策しかできないとの回答も複数ありました。そうした自治体職員に、メッセージをお願いします。

A.
身の丈に合った施策でいいんですよ。背伸びして身の丈以上のことに取り組み、失敗に終わった自治体をこれまでに複数見てきました。

先ほども言いましたが、地域の特性を活かし、磨きをかける。地域特性を考慮したまちづくりを進める。それを地道にやり続けることが、自治体の持続可能性を高める上で、実は非常に大事なことだと思います。

アンケートの回答には、“財政がぜい弱な自治体から自然に淘汰される”という意見もありましたが、大都市に人・モノ・金が集中するのは、日本に限らず必然的な流れです。その中で肝心なのは、スピード感をもって取り組むことと、アイデアを出し続けることです。

“出るくいは打たれる”的な風土を排除すれば、取り組みのスピードに自治体の大・小は関係ありません。私が政策アドバイザーを委託されている4自治体のうち、例えば佐賀県の場合、高卒者の県外流出を食い止める策として県立大学の設立を発案。非常にスピーディに話が進んでおり、現在、設立・運営に向けて様々なところと連携を進めています。

このように、動きが早い自治体はほかにも多数ありますが、その原動力となるのは職員、あるいは首長のアイデアです。

ただし、行政が旗振りすれば地域全体が動くわけではなく、特に出生率の問題は個人の自由意志に関わりますから、行政が頑張ってどうこうなるものではありません。
10年前から現在までの人口の推移を踏まえた上で、次の策を考える。その際、今回のレポートが大事な素材になるのです。それこそ使い倒すくらい、レポートのデータを活用していただきたいものです。

持続可能性、サスティナブルなどといいますが、国内の人口が徐々に減っている中で、大半の自治体は自力だけで自立するのは難しいと思います。そこで重要になってくるのが、複数自治体間のコラボレーションやシェアリングではないでしょうか。

そのためにはもちろん、県の支援も重要です。県内でも特に規模の小さい自治体に対しては、県からの職員派遣や職員シェアリングを行うなど、これまでやっていなかったことにトライすべきです。

いずれにせよ、人口は減っても地域の一定の活力を維持するためには、どういう事柄に重点的に取り組むべきなのか。大いに知恵を出し合ってもらいたいと思います。

 

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