公共FMに向けた取り組みを5つの軸で整理し、「できるところから始めてみる」のマインドで様々なチャレンジを実践。新庁舎の建て替えに伴い、新庁舎のみでの包括管理を開始している。
※下記はジチタイワークス特別号 June 2020(2020年6月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 鳥取県鳥取市
5つの“取り組みの軸”を設定し今すぐやるべきことを整理。
鳥取市では、平成16年の市町村合併で多くの公共施設を受け継いでから、公共施設の更新における課題が顕在化。平成25年から公共FMの本格的な取り組みを始めた。市内の公共施設を分析し、今後発生する更新費用を試算したところ、今後40年にわたって年間平均18億円の不足という結果に。まずは施設の総延床面積を約30%縮減するという方針を決め、以下5つの取り組みを進めていった。
①施設管理にかかる費用を減らす。
②施設の維持・修繕を見直す。
③施設活用で財源を増やす。
④施設の配置や総量を見直す。
⑤意識改革をする。
この中で「まずは即実行できることから」と着手したのは、①の施設管理にかかる業務の効率化による費用削減だった。
清掃、点検の一括委託から新庁舎の包括管理へ。
業務の効率化においては、まず各所管課が個別に発注していた清掃業務と消防点検を、部署をまたいだ一括入札に変更した(下記「課題解決のヒント&アイデア」1)。その成功体験をもとに、次に実施したのが庁舎の包括管理だった。折しも同市では、令和元年に全面開庁する新庁舎の建設を進めており、管理をどうするかという議論が起きていた。具体的な管理業務は、清掃や点検をはじめ、環境衛生管理、エレベーターの保守管理、守衛など多岐にわたる(右図)。同市はこれを好機と捉え、包括管理の導入を決めた。「複数施設での導入も考えました。しかし、職員も議会も地元の事業者も包括管理に慣れていない中での全力疾走は難しいと考え、まずは新庁舎のみの導入にしました」。
対象は絞ったが、もし単一施設での実施に魅力がなければ、受け手も見つからない。こうした疑問は、サウンディング型市場調査を行い、事業者からの前向きな反応を得ることで解消していった。同時に、議会や地元の事業者に対して“官民連携の必要性や、包括管理の効果、地元の事業者の参画配慮”を丁寧に説明し、理解を得ていった。これら要点を押さえた合意形成とスモールスタートにより、包括管理導入の準備は徐々に整っていった。
令和元年、新庁舎の包括管理が始まると、すぐに新しい空気が感じられるようになったという。例えば、以前は蛍光灯1本の不具合でも財産経営課に電話が入り現場に向かうといった作業が発生していたが、そうした手間や、これまで直営で実施していた守衛の人員配置などにかかる工数が格段に減少。本来の運営・企画業務に集中できるようになった。最も変化を感じたのは「管理品質の向上だ」と宮谷さんは語る。「人員が減っている中、設備に精通した民間技術者がついているという安心感が大きい。従来の属人的な体制も刷新できました。メリットは多いと感じています」。
施設もスペースも眠らせずに有効活用し、財源の一つへ。
包括管理とは別に、施設における建築基準法第12条点検も、各所管課が個別に実施していたものを一括発注し、修繕も一括対応することで業務フローの効率化とコストダウンを実現した(下記「課題解決のヒント&アイデア」2)。また、公共FMにおいては、既存施設の有効活用も重要なポイントだ。同市では、民間企業を誘致して廃校に植物工場をつくもとは村役場だった総合支所の空きスペースに賃貸で郵便局を入れるといった取り組みを行い、眠っていた施設や空間を活用して、新たな雇用や財源に変えていった。
さらに、不要な支出を抑えるためには施設の処分も必要になる。市内に休止になった保養施設があったため、民間への売却を行い、これも財源の一つとした(下記「課題解決のヒント&アイデア」3)。
まずはスモールスタートでOK。失敗を恐れずにあらゆるトライを。
これら全ての根底に通ずるものは“意識改革”だ。宮谷さんらは、公共FMの必要性を訴えるために、課長級会議での情報共有や、職員研修の際に住民や地元の事業者も交えた講演会を行うなどして情報発信を続けた。そんな中で大切にしてきたのは、“いきなり各論から入らない”という点だ。まずは相手に、社会の流れや市の財政状況をふまえた選択をしている、という総論を理解してもらう。ここを飛ばして各論に入ると、対話ではなく感情論になってしまうからだ。そこから対話を繰り返して各論に入り、対話が止まったら再び総論に立ち返る(下記「課題解決のヒント&アイデア」4)。
地域の未来のためなら、あらゆる方法を試すという鳥取市の取り組み。宮谷さんは「“やるかやらないか”ではなく“やるしかない”というFM魂が必要だ」と語りつつ、最後はこう締めくくってくれた。「いきなり満点を目指さなくても、50点でいいから何かを始め、上手くいったら70点、80点と改善していくのがおすすめです。“多少失敗しても、とにかくFMを前に進める”くらいの気持ちでいい。今までのやり方では施設の更新問題はクリアできない。自分たちの”まち”のため、何にでも挑戦していきましょう」。
課題解決のヒント&アイデア
1. 清掃・点検の一括委託で歳出削減。効果は内外に広くアピールして次につなげる。
平成26年より、各所管課が個別に発注していた清掃業務と消防点検について、所管課が同意したものから一括入札に変更。一括委託実施後には、事務負担の軽減や、年間330万円の経費削減といった効果がすぐにあらわれた。同時に、業務の基準が統一され全体も見渡せるようになったという。例えば施設のワックスがけ一つとっても、従来はやり方や回数がバラバラだったのが、一括委託によって規格化され、効率的に。こうした結果をもとに、市の意識が変わり始めたことを職員や議会、住民にアピールし、対象を広げていった。
2. 12条点検・修繕の一括化で業務改善。ドローンの活用で不要な修繕コストをカット!
従来は個別に発注していた12条点検とその修繕を一括発注にすることで、各所管課の業務負担が軽減。また、専門的な知識を持った技師が点検から修繕まで一気通貫で対応することで、施設の修繕、契約事務コストの低減を同時に実現した。
また、屋上に上ることができない施設の屋根ふき替え時には、工事発注前にドローン導入を試み、職員が操縦して状態を確認。計算上はふき替えの時期だが、実際はまだ状態が良く、ふき替えは延期していいと判断し、不要な修繕コストを削減できた。このドローンは、後に発生した土砂崩れの現場確認などでも活躍した。
3. 休止中の施設の思い切った処分により維持管理費の削減+売却益+税収増を実現!
維持費で毎年1千万円の赤字を出していた休止中の保養施設。売却に向け不動産鑑定をしたところ資産価値は約4億円と出たが、この金額では買い手がないと考え、収益還元法という民間の方法で再度鑑定した。すると、提示された金額は約5,600万円。大幅な下落に庁内外から不満の声も出たが、「民間に売却するなら民間市場の視点で考える必要がある」という点を説明。理解を得て、最終的に7,500万円での売却が成立した。この売却益だけではなく、今後は施設の維持管理費がなくなり、固定資産税の税収が増え、施設に関連する雇用を守ることにつながった。
4. ポイントは“早めの情報発信”と“傾聴”。細やかで粘り強い意識改革を。
新しい取り組みをする場合、計画を決めてもう変えられないという段階で説明されても、住民や議会、地元の事業者も納得しない。叩き台の段階から情報発信し、意見を求めることが大切。事業者に対しては、サウンディングや勉強会などを実施し、「市はこのような方針で、今後はこう進む予定」と丁寧に説明を繰り返した。
議員とも必要に応じて個別に対話し、「事業者や住民が困らないように」といった意見が出たら真摯に受け止め対応した。住民に対しては、公開講演会や出前授業の実施などをはじめ、地元の高校生が公共FMをマンガ化して発信。自分ごととして捉えられるように働きかけた。
公共FM啓発マンガ「公共施設の今後を話す件」