ジチタイワークス

【荒井 怜央さん】サードプレイスでみつけた新たな彩り。

『サード・プレイス』、それは家庭(第1の場)でも職場(第2の場)でもない、リラックスできる心地の良い場所。

今回の企画では、公務員の肩書を出しながらサードプレイスで活動している人にフォーカス。活動を始めたきっかけや、活動しているからこそ得られたこと、今後の展望など。公務員にとってのサード・プレイスがより身近になるきっかけを語っていただく。

各地の自治体職員有志によるコンサートの会 副代表・上尾市職員
荒井 怜央(あらい れお)さん

プロフィール
5歳よりピアノを始める。大学卒業後、地元の上尾市役所で働きながら、市のイベントなどで演奏活動をしている上尾市職員。行政職員として従事の傍らピアノ奏者として「各地の自治体職員有志によるコンサートの会」発足時より所属し、地震や豪雨などの被災地でコンサートを開催している。好きな言葉は「怠惰を求めて勤勉に行き着く」。

【活動実績】
・平成29年12月  宮城県仙台市、宮城県気仙沼市、岩手県陸前高田市
・平成30年8月    福岡県朝倉市、熊本県益城町
・令和元年6月    広島県広島市、広島県呉市、岡山県倉敷市
・令和元年9月    新潟県糸魚川市、他多数

 

きっかけは1通の手紙から

自分の「好きなこと」で人々を笑顔にできたら……。それをかなえることができた場所が、このコンサートの会、私の「サードプレイス」です。今までのピアノ人生で最も充実しているといっても、大げさではありません。

きっかけは1通の手紙。全く縁もゆかりもない福岡市の職員から、音楽を愛好している自治体職員宛てに、被災地などでのコンサートを開催する有志を募るものでした。以前より市のイベントでピアノを演奏していた私ですが、それでも学生時代に比べたら演奏の機会はずっと少なくなりました。

日々の仕事に疲弊し、いつの間にか義務的にピアノに向かっている自分に嫌気が差したこともありました。そんな灰色の世界に垂らされたくもの糸。活動の幅を大きく広げることで、再び色彩豊かな世界で輝けることを期待し、すぐに参加する返事を送りました。 予期せぬ出会いをつくってくれた手紙の差出人は、当会の代表である元福岡市職員の井料田充(いりょうだ みつる)さん、その人だったのです。

いざ、初めてのコンサート開催へ

初陣は平成29年10月、宮城県庁での杜の都信用金庫「県民ロビーコンサート」の出演でした。

舞台に立ったことのある人なら共感いただけると思いますが、ほんの数時間しか合わせ練習をしていない状態でお客さまの前に出るのは大変勇気が要るものです。しかも、ざっと300人と非常に多くの方にご来場いただいております。今まで色々なコンサートを経験してきましたが、ピアノソロであれば何かトラブルが起こっても自分が悔いるだけですが、合奏となると話は変わってきます。合奏経験がほとんどない私にとって、これ以上なく緊張していたのを覚えています。

結果的には大きなミスもなく、万雷の拍手を頂くことができました。無事に終えることができたという安堵感とともに、震災で悲しくつらい経験をした方々が自分たちの演奏で笑顔になってくれたという経験は、これまでどのコンサートでも味わうことはできませんでした。この瞬間を契機に、今後の私の人生は大きく変わりました。

これまでの活動と発見

現在、当会は被災地を中心にコンサートを開催しております。残念ながら、日本では毎年のように各地で災害が起きていますので、今後も被災された方々に寄り添った演奏活動が私たちにできることだと実感しています。

音楽が持つ力は偉大です。しかしながら、これまで「人のために」演奏したことはありませんでした。私は私の音楽を自己研鑽のツールと思っていたからです。人前で演奏するときも、その経験を自らの糧にしたい、様々な作曲家の作品に触れて見識を広めたい、そのような気持ちが少なからずありました。お客さまの感動は副次的なものだと思っていましたが、当会の活動をきっかけに、その姿勢は180度変わりました。聴かせたい人がいる。プロでない限りそのように考えることはないと思っていましたが、今の私は、私たちは、少しでも癒やしや安らぎを感じてほしい、笑顔になってほしいという願いを込めて、ステージに立っています。

また、コンサートの開催に併せ、現地の語り部の方などにお願いして被災地の視察や被災者の方々とのお茶会も行っております。そこでお話しされる体験談は、我々が報道を通して知る以上の、ある種「生々しさ」があり、その被害の大きさや壮絶な経験にあぜんとするばかりでした。そして、その経験を乗り越え力強く生きる被災地の方々の姿に、我々の公務員としての役割を再認識し、職務への姿勢を見直す契機となるのです。

サードプレイスは新たな生きがい

サードプレイスは、家庭や仕事以外の第3の場所を意味します。それは決して「副業」だけではありません。私にとっては当会の活動が、これに当てはまります。「趣味」と言ってしまえばそれまでですが、それを活かして「人のためになる」ことを発見できたのは望外でした。もちろん、家族の了解や仕事の進捗など配慮すべき点はありますが、私はこのサードプレイスを見つけたことで、家庭や仕事にも潤いが出てきたと感じています。

理由は2つ。
第一に、活動を通じて人脈が広がることです。仕事をしていても、これだけ多くの自治体の人と関わることはまずないと思いますので、非常に多くの刺激をもらっています。開催するコンサートの性質上、「楽しみにしている」と表現して良いかはばかられますが、私はそのコンサートごとに違うメンバーに会えるのに(人見知りではありますが)ワクワクしています。

第二に、現地の方々の笑顔や涙に心を打たれる瞬間があるということです。これも仕事ではなかなか得られない経験だと思います。演奏を終えて帰路についたとき、そのときのコンサートの光景が目に浮かんできます。普段の演奏会でも達成感は得られますが、やはり被災された方々の表情というのは、心に深く刻まれるものが感じられます。また、前述の被災地視察を通しても、我々はたくさんのこと学ぶことができ、そしてその方々の生き方にも、心を打たれるものがあると思うのです。

会員同士も現地の方々も、何もなかったら交わることのなかった人生です。ここで結ばれた縁を大切にしていきたいと思います。「案ずるより産むがやすし」の精神で、みなさんも最初の一歩を踏み出してみてください。無駄な経験はありません。きっとあなたの人生にプラスになるでしょう。

そして、音楽を愛好している職員の皆さん。当会の活動に興味を持った方は、ぜひ当会のWEBページをご覧ください。随時会員の募集も行っておりますので、まずはご連絡を!

 


『各地の自治体職員有志によるコンサートの会』とは

当会の前身は福岡市職員音楽会実行委員会で、平成24年から東日本大震災の被災地を訪問してコンサートを開催してきました。この復興応援コンサートを平成29年からも引き続き開催するため、「音楽で癒やしや安らぎを、私たちは皆さまの心の復興を応援します」をコンセプトに、各地の自治体職員のアマチュア音楽愛好家に出演をお誘いし、平成29年4月に当会を結成しました。

現在の会員は北海道から沖縄まで35の県庁・市町村の職員76人です(令和4年1月31日現在)。これまで、東日本大震災の被災地だけでなく、豪雨や大火の被災地に伺い、音楽を楽しんでいただくとともに、私たちのできる音楽に「少しでも何かのお役に立ちたい」「私たちは忘れません」という思いを込め、年数回のコンサートを開催しています。

ホームページ http://concertnokai.rdy.jp/

 

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