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【行革甲子園2020】創意あふれる先進事例に驚き!行革甲子園2020(後編)

地方自治体にとって、永遠のテーマである「行政改革」。アイディアやノウハウを共有・活用することでさらなる行革の推進を図ることを目的に、愛媛県が主催しているイベントが「行革甲子園」だ。

5回目の開催となった今回は「行革甲子園2020~集え全国のイノベーション!!行革オールスター in 愛媛~」と題し、全国30都道府県・60市区町村から73の事例が寄せられた。

選りすぐられた8自治体のプレゼンテーションが行われた大会の模様をレポートする。

※この記事は前後編の「後編」です。前編はこちら


【山形・長井市】先人が残した学びやを新しい「学びと交流の拠点」に

続いては、山形県長井市が登場。県南部に位置する人口約2万7000人の町だ。同市市街地に建つ「長井市旧長井小学校第一校舎」は、昭和8(1933)年に建築された木造2階建ての校舎。建築当時、このような大規模な木造校舎は全国的にも珍しく、平成21(2009)年には国の登録有形文化財に登録された。

旧校舎は建築以来80年以上にわたって長井市の子どもたちを見守り続けてきたが、平成27(2015)年に耐震性の不足を理由に使用禁止となった。市としては学校としての使用継続を検討したが、予算を獲得できず断念。学校以外の形で残すことができないかという取り組みが模索された。従来から長井市は中心市街地の活性化に取り組んでいたが、市民の交流や学びの場となる施設が不足していた。そこで、旧校舎の活用が検討されることになったのだ。

建物全体をジャッキアップして免震装置を取り付けるなどの耐震工事を行う一方で、外観や内装は可能な限りこれまで使われていた木材を生かしてリノベーション。活用方法のアイディアは有識者へのヒアリングや市民シンポジウムなどで募るサウンディング型市場調査を実施した。また、必要な費用は交付金や地方債、クラウドファンディングなどをフル活用して調達するなど、さまざまな工夫を行った。

また指定管理制度を導入することで民間事業者が持つノウハウを活用し、キャリア教育・企業体験ワークショップ・大人の学びなおし・中高生のフリースペースとしての学習の場など、分野にとらわれない多彩な事業を展開することが可能になった。

平成31(2019)年にリノベーションを完了してオープンした旧長井小学校第一校舎は、中心市街地の活性化に貢献。前年比で歩行者通行量は256人/日から439人/日、まちなか観光客数は1,111千人から1,525千人にそれぞれ増加。施設利用者数は72,744人を数えた。

会場の八幡浜市・大城一郎市長からは、「当市でも閉校していく小学校があるが、民間の力を活用して生かす方法を考えたい」という感想の声が上がった。

【東京・品川区】図書館+病院・老健施設意外なコラボを民活で実現

続いては、東京都品川区。人口、予算規模、知名度共に出場中トップクラスの大規模自治体が挑んだ課題は、「図書館と医療・介護施設の複合施設の建設・運営」だ。

JR山手線・大崎駅近くに位置する、旧御殿山小学校の敷地で平成30(2018)年に開設されたのが、「品川リハビリテーションパーク」と「品川区立大崎図書館」の複合施設だ。老朽化した大崎図書館の移転に合わせ、当時区内で不足していた介護老人保健施設等を誘致する形で成立した。施設の総面積は約3500坪、地下1階・地上8階建て。地下は駐車場・駐輪場、1階と3~8階が品川リハビリテーションパーク、2階に品川区立大崎図書館が入っている。品川リハビリテーションパークには品川リハビリテーション病院、訪問看護ステーション・ソピア御殿山、介護老人保健施設ソピア御殿山で構成されているほか、救急救護所と福祉避難所を設置することで大規模な災害時には救急患者や介護難民の受け入れ先としても機能する。

病院から在宅医療までのシームレスなサービス提供が可能な医療・介護の拠点施設であることはもちろん、地域に密着した図書館としての機能を満たしている。図書館とリハビリテーションパークの連携の面では、セミナーやイベントの開催などを行っている。

本事業の受託者はプロポーザル方式で公募を行った。区有地を民間に貸し付けし、施設などの整備を民間が実施することで数十億円の経費削減と定期借地権(50年)による地代収入で年間数千万円の新規財源の確保を同時に達成した。

【福岡・苅田町】上下水道の管路をデジタル化職員の力で実現

福岡県苅田町は、県東部に位置する人口約3万8000人の町。美しい棚田の風景は、農林水産省の農村景観百選にも選ばれている。苅田町の取り組みは、地図情報システム(GIS)のマップデータを用いて町内の水道管路をデジタル化したというもの。なによりも驚くべきことは、この「水道管路のデータ化」が外部への業務委託などではなく職員自らの力で行われたということだ。

もちろん当初は業務委託も検討されたが、見積が高額になってしまったために断念。流れを大きく変えたのが、同町も参加しているKRIPP(北九州地区電子自治体推進協議会)が共同利用という形でGISの導入を決めたことだ。

平成26(2014)年9月からスタートしたこの取り組みは、配水管242㎞、水道メータ14219件などをデータ化して庁内データベースに取り込んだ。また並行して、全庁的に統合型GISを活用して業務の効率化を実現している。具体的には、自席にいながらGISポータルサイトを介して各課と情報共有することが可能になった。またスマホアプリを開発したことで、漏水対応への迅速な対応や災害発生時の被災状況報告をリアルタイムで行えるようになり、夜間や休日などでもいつでもどこでも活用できることになった。

行政サービスを提供する地方自治体としては、地図情報は基本中の基本であり、欠かすことができないもの。統合型GISは幅広い用途に活用でき、従来個別に運用していたシステムからの移行も可能で、業務見直しには最適なシステムといえる。

「難しいことであれば外部委託という発想になるかもしれないが、職員でもできるんだぞということをアピールしたい。これまで積み重ねてきたノウハウを、職員の力でGIS管路マップに叩き込む決意で取り組んだ」という苅田町職員の言葉に、会場の自治体首長からは感嘆の声が上がった。

なお、苅田町のプレゼン中に会場のモニターが映らなくなるというトラブルが発生したが、ハプニングに負けず発表を終えた苅田町職員には温かい拍手が送られた。

【愛媛・久万高原町】林業者を労災から守れLPWAで山の救急をサポート

最後に登場したのは、愛媛県久万高原町。愛媛県中央部、高知県と境を接する人口約8000人の山間の町だ。
四国山地に位置する久万高原町の主要産業のひとつが林業。林業は、人里離れた山中で高所作業を含む業務にあたるため、労災発生率が突出して高いという特徴がある。さらに、山中では携帯電話が繋がらない場所が多い、事故が発生した場所を特定しづらいなど、救急搬送まで時間がかかることも珍しくない。

それを解決しようと久万高原町が取り組んだのが、全国でも初となる町内全域自営LPWA通信網の整備だ。LPWAは、Low Power Wide Areaの略。低出力ながら長距離の通信を可能にする技術だ。音声通話やウェブページの閲覧などはできないが、文字ベースのコミュニケーションや位置情報のやり取りは可能。IoTやM2M(Machine To Machine)に適した通信手段のひとつといわれている。

久万高原町のLPWA通信網で使用する端末(LPWA子機)はBluetoothに対応しており、スマートフォンとペアリングすることが可能。専用アプリを使えば最大30字までのチャットコミュニケーションも可能になっている。またLPWA通信網はクラウドに接続しており、インターネットを介したコミュニケーションもできる。約3分ごとに自動で取得した位置情報の履歴を記録しているため、労災事故が発生した場合も救急隊がスムーズに現場に向かうことができる。林業での労災事故が起きる山間部では、事故現場の位置情報も大事だが、「どのルートを通って」その場所についたかという情報が非常に重要になる。天候や倒木などさまざまな要因があるため、要救助者が通ったとおりのルートで現場に向かわなければ現場にたどり着くのは困難だ。

実際にLPWA機器を使った訓練を経て、消防側からも「このシステムは使えるのではないか」という意見が上がってきたという。現在久万高原町では、このLPWA子機を用いた救助要請を119番通報と同様に扱う本格運用を目指して、関係者相互で訓練を行っている。

いよいよ審査結果発表!グランプリの栄冠は福岡県苅田町に

さて、これで出場したすべての自治体のプレゼンが終了。グランプリを決めるための審査となった。
発表に先立ち、参加者オンライン投票の結果が発表された。もっとも票を集めたのは埼玉県所沢市。マンホールに広告を設置するというコペルニクス的発想の転換が高く評価された。

グランプリの発表前に、小西砂千夫審査員長から、「いずれも甲乙つけがたく審査が難航したため、急きょ賞を設けた」というアナウンスと共に審査員長特別賞が発表された。特別賞を受賞したのは、埼玉県所沢市と愛媛県久万高原町の2自治体。

そしていよいよ、グランプリの発表。グランプリの栄冠を勝ち得たのは、福岡県苅田町の「地理情報システム(GIS )導入による業務効率化に関する苅田町の取組について~職員自ら構築した水道管路マップを始めとした業務効率化の取り組み~」となった。地方自治体職員であれば、誰もが「あると便利、でも作るのは大変」と考えるシステムを職員自らの力で実現した苅田町の取り組みには、審査員からも感嘆の声が上がった。

小西砂千夫審査員長が「苅田町の資料のなかに、ノウハウを職員の力でGIS管路マップに叩き込むと書いてあった。あれが行革甲子園の心だと思う。愛媛県の行革でこの大会がなくならないように、万難を排して第6回を開催してほしい」と講評を述べ、大会の幕を閉じた。

コロナ禍というこれまでにない状況のなかで行われた行革甲子園2020。オンライン観戦や参加者オンライン投票など、2020年らしい新しい形での開催となったが、応募した各自治体職員が取り組む姿勢と熱意は例年以上のものがあったのではないだろうか。次回開催でも、各自治体のさらなるチャレンジに期待したい。

受賞3自治体へのインタビュー

埼玉県所沢市
【行革甲子園 受賞事例】職員全員で営業活動を実施。所沢市上下水道局が取り組む自主財源確保事業のノウハウとは?
https://jichitai.works/article/details/470

愛媛県久万高原町
【行革甲子園 受賞事例】全国初の「町内全域自営LPWA通信網」で、林業従事者の安全性・生産性を向上
https://jichitai.works/article/details/459

福岡県苅田町(近日公開!)

■愛媛県 行革甲子園2020 HP
https://www.pref.ehime.jp/h10800/shichoshinko/renkei/gyoukakukoushien.html
 

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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