
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。今回はその中から、岐阜県美濃加茂市の「LINEで実現するスマホ市役所~身近で便利な子育て支援~」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
美濃加茂市は、令和5年10月よりGovTech Expressを用いて、LINEを活用したスマホ市役所のサービスを開始しました。LINEを活用したスマホ市役所は、オンラインサービスの窓口を美濃加茂市LINE公式アカウントとしたサービスです。令和6年5月現在、イベント予約、破損個所等の情報提供機能及び各種オンライン申請が利用可能です。
今回紹介させていただく取り組みは、そのオンラインサービスの一部として実装している子育て支援センターの機能です。子育て支援センターは、核家族化と近隣関係の希薄化による育児不安を解消する支援を目的に、3つの施設が運営されています。運営上の問題として、3つの施設毎に利用登録が必要となり、子供を抱えながら登録や入室名簿を記入する必要があり、利用者が煩わしさを感じる仕組みとなっていました。また利用者数の増加に伴い、職員の名簿管理など事務負担が増加していました。このような市民の煩わしさや職員の事務負担を解消するため、令和5年11月から子育て支援センターの入退館手続きをLINE上で実現しました。
この取り組みは、子育て支援センターの利用をより便利にし、行政サービスの効率化を実現したものです。
背景・目的
【背景】
人口減少、労働力不足といった行政の課題に対して、デジタルを活用したサービスの向上が課題となっていました。その中でも子育て支援センターは、利用者数が年々右肩上がりに上昇しており、職員の業務が増加していました。さらに利用者は、施設毎に登録が必要となり、お子様を抱えるもしくは連れながら、登録や入室内容の記入が必要でした。
※子育て支援センターの保護者及び子供の利用者:令和3年 5,217人、令和4年 26,325人、令和5年 32,041人
【目的】
申請や手続きのためだけに市役所に来ないといけない、申請様式は紙が多く時間を要するなど、行政のちょっとした煩わしさを解消し行政サービスの向上を目的に、令和5年10月LINEを活用したスマホ市役所を開設しました。スマホ市役所を開設することで、職員の業務負担軽減のため、申請や手続きのオンライン化を検討するきっかけ作りの目的にもしております。
同年11月、登録や入退室の煩わしさが子育て支援センターの本来の目的である育児不安の解消を妨げないために、スマホ市役所で完結する入退室の仕組みを作成しました。この仕組みにより、1度の登録で3施設利用可能になり、片手で楽に入退室手続きが可能になりました。また職員の名簿をシステムへ入力する業務が0になりました。
取り組みの具体的内容
・美濃加茂市LINE公式アカウントのメニュー内に、子育て支援施設メニューを整備しました。
・3施設の登録は1回の手続きで完結でき、入退室の際はQRコードを読み込み、LINE上で入退室の手続きを完了可能なようにしました。
・3施設の入退室履歴をリアルタイムデータとして可視化し、利用者の傾向分析を可能にしました。
・子育てに関するイベント情報や閉館情報などは、HP掲示のPULL型からPush型の通知が可能になりました。
▲子育て支援センターのLINE活用概要
▲入退室時のLINE操作
▲入退室履歴の可視化データ
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
【独自性・新規性】
LINE上での行政サービスは現在多くのものが展開されていますが、施設の入退室をLINE上で実現したものは少なく、Bot Express社のGovTech Expressを利用している240以上の自治体の中では、全国初の事例となります。
【工夫した点】
施設の利用者が手軽に操作でき、かつ登録情報と紐づいて、傾向の分析が容易になるよう、システム検討をしました。また今までの登録や入退室の記入内容の中で、本当に必要かどうかを再確認することで、業務効率をさらに効果が出るように検討しました。
取り組みの効果・費用
【効果】
① 利用者及び職員の時間を合計1,420時間削減
利用者:入退室手続きは約5分から約10秒に削減
年間:R5年度の保護者の利用者数約16,000人のため、16,000×290秒=約1,290時間
職員:紙からExcelへのデータ記入も約30分から0秒に削減
年間:30分×22日×12ヶ月=132時間
② PULL型からPush型の通知によって、イベント参加者が約2倍
利用履歴から子育てイベントをPush通知可能になりました。
昨年度と比較して、子育てイベントへの参加が2倍に増加しました。
センターの閉館連絡もPush通知が出来ているため、緊急時の連絡問題も解消しました。
③ 利用登録情報や入退室履歴のデータを使った子育て支援センターの事業推進が可能
登録者数や入退室履歴がリアルタイムで可視化されたため、曜日や地区ごとの利用者傾向が把握しやすくなり、講座やイベントの改善が出来ました。
例えば、0,1歳が2,3歳に比べて少ないことがわかったので、面談時に子育て支援センターの見学を兼ねた体験講座を開催しました。結果、昨年に比べて、子育て支援センターの利用者数増加につながりました。利用者数のおおい日程にイベントを重ねることで、イベント参加数が増えていた。また水曜日に子育て支援センターの増員をするエビデンスにもなりました。
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
課題として、下記2点ありました。
① 自治体での他事例がないため、仕組みや運用面をどのようなものにするか
② 運用後、担当課中心のシステム運用をしていくために、どうしていけばよいか
担当課及びBot Expressとの協議を重ねて、現状の運用からシステムの仕組みを検討し、出来るだけ、
デモの作成⇒修正を繰り返しました。併せて、入力内容の中で不要となる内容がないかも見直しを行いました。運用開始後は担当課と定期的にコミュニケーションを取りながら、運用することで、操作やトラブル、さらに改修希望などを順次対応しています。
今後の予定・構想
・子育て支援センターでは、現在EBPMを意識して、登録や利用者のデータ分析を行いながら、事業の推進を行っています。今後はLINEのアンケートを通したニーズ調査も絡めて行うことで、さらなる支援センターの利用者拡大を狙います。
また、スマホ市役所として更に子育て支援を広げていきたいと考えており、一時預かり申請や相談など、子育て世代にとって必要な内容の検討を行い、妊娠期から子育て期に関するデジタル手続きサービスをワンパッケージとして、メニュー化する方針です。
・子育てメニュー以外にも講座予約や防災メニューの充実も図る予定です。
防災メニューとしては、今まで市民から電話で受けていた災害時の情報提供をスマホ市役所上で完結します。情報の中に位置情報が含まれているため、そこで集まったデータをマップ上にピン立てをして、「受付」「作業中」「完了」で色分けをし、一覧確認可能です。令和6年5月に職員の防災訓練で実証的に利用しました。
▲集まった災害情報を使った防災訓練での様子
・来年度以降、図書館サービスもスマホ市役所上で便利に利用できるようにしていきます。
図書検索、図書カード及び図書館に行かなくても本が借りれる貸出BOXでの貸出予約まで、スマホ市役所上で利用可能なサービスを想定しています。効果的な自治事例が他にもあるため、担当課と協議の上、展開していく想定です。
他団体へのアドバイス
利用者及び職員の負担軽減が大きく、費用対効果が見込めるサービスになります。さらにハードルの高いアプリ導入とは違い、普及率の高いLINEを使うことで、デジタルの導入ハードルを下げることが出来ます。またBot Expressを利用すると他自治体のサービスがそのまま利用可能なため、短期間で検証も可能です。
実際、子育て支援センターのサービス開始から1年たたない状況ですが、視察に来られた自治体が既にサービス開始されています。
デジタルを使って、何かしないといけないと考えている自治体の方も多いと思います。
まずはこの機会にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
最後に、行革について少しふれたいと思います。本市においても、これまで行政改革市民会議の設置や行政改革大綱の策定などを進めてきました。こうした取り組みは、理念を定めてから実行計画を策定し、行革として、歳出の削減や歳入の増加につながる事業を展開することが主であったと感じています。何かを実現するために何かを削る考え方が基本であり、削る対象は市民サービスに及ぶこともありました。いわばトップダウン型の行革であったと感じております。
一方で、デジタル技術が格段に進歩した今、それを最大限、有効に活用することによって、健全な行政運営と市民サービス向上の双方が両立する時代となってきました。市民の困ったことをデジタルで解決し、行政、市民の両得を目指すボトムアップ型の行革です。本事業は、その一端であると感じており、新しい行革の萌芽と捉えています。本事業をきっかけに、前述のとおり、さまざまな事業が着実に進み始めました。一つひとつは小さな事業かもしれませんが、本市にとっては大きな革命であり、新たな行革(行政革命)が始まったと感じています。
■市LINE公式アカウントのリニューアル
https://www.city.minokamo.lg.jp/soshiki/26/2504.html
■子育て支援センターの入退室に関して
https://www.city.minokamo.lg.jp/soshiki/7/1387.html
■子育て支援センターの入退室に関するプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000096169.html