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【行革甲子園2020】創意あふれる先進事例に驚き!プレゼン大会の様子をレポート(前編)

地方自治体にとって、永遠のテーマである「行政改革」。アイディアやノウハウを共有・活用することでさらなる行革の推進を図ることを目的に、愛媛県が主催しているイベントが「行革甲子園」だ。5回目の開催となった今回は「行革甲子園2020~集え全国のイノベーション!!行革オールスター in 愛媛~」と題し、全国30都道府県・60市区町村から73の事例が寄せられた。選りすぐられた8自治体のプレゼンテーションが行われた大会の模様をレポートする。

甲子園球場を思わせるサイレンの音が会場の松山市民会館中ホールに鳴り響き、行革甲子園の「試合開始」を告げた。会場には愛媛県内の各自治体の首長が集まる。司会を務めるのは南海放送の藤田勇次郎アナウンサー。開会に先立ち、鼓楽奏団庵灯鼓(あんびこ)による勇壮な松山水軍太鼓「出陣之曲」が演奏され、雰囲気を盛り上げた。

開会の挨拶に立った愛媛県の中村時広知事は、松山市長時代に事務事業評価システムを導入して行政から無駄を省く取り組みを行ったエピソードを紹介した上で、「行革を『事業を切る、やめる』という後ろ向きな業務ではなく、工夫を生みだす明るく前向きな作業として捉えるきっかけにしたい。皆さんの自治体で取り入れられる事例が必ずあるはず」と行革甲子園の企画主旨を述べた。

つづいて、前回優勝の松山市から優勝旗ならぬ「表彰旗」が返還され、いよいよ行革甲子園の本番がスタートとなる。

行革甲子園の審査ポイントは、「創…創意工夫あふれる取組」「効…費用対効果の高い取組」「種…他にアイデアの種を提供する取組」の「創・効・種」という3つの評価軸と、プレゼンテーションの内容を合わせた4つ。また今回は、会場のイベント参加者、YouTubeで中継を見た視聴者からの参加者オンライン投票も行われた。

各自治体のプレゼンテーション前には、これも甲子園のテレビ中継を思わせる地元の紹介もはさまれ、雰囲気は大いに盛り上がった。

【愛知・犬山市】シェアリングエコノミーで駐車場不足を解決

トップバッターを務めるのは、愛知県犬山市。犬山のシンボルである国宝・犬山城天守は、日本でもっとも古い現存天守のひとつで、例年多くの観光客が足を運ぶ観光スポットだ。天守を訪れる観光客の数は、毎年右肩上がりに増加している。

その結果として発生した駐車場不足と、観光客の一極集中を解決すべく犬山市役所が取り組んだプロジェクトが、「~シェアエコで三方良し~シェアリングエコノミーを活用した行政課題解決“観光駐車場不足解消大作戦”」だ。

犬山市を訪れる観光客は、春と秋に集中。この時期は駐車場が逼迫し、入庫待ちによる渋滞が発生していた。一方で繁忙期以外の駐車場需要はそれほど高くなく、市費を投じて駐車場を整備しても費用対効果には疑問符がつく。

そこで犬山市は、シェアリングエコノミーのスキームを導入することで問題解決を目指した。駐車場シェアアプリ「軒先パーキング」を導入し、個人宅などの空きスペースを観光駐車場として活用することで、課題の解決を図ったのである。この取り組みによって14カ所・40台分の駐車場を確保し、利用した車の台数は累計580台(令和元年度実績)。プレゼンテーションを担当した犬山市の職員は、「新たな市費を投じることなく行政課題を解決する、賢い都市経営の実現につながる」と取り組みの効果を説明した。

会場の大洲市・二宮隆久市長からは、「大洲城や臥龍山荘などの観光資源がある大洲市としても、地域にある資源を有効活用する取り組みとして参考にしたい」と声が上がった。

【埼玉・所沢市】どこにでもあるマンホール蓋を収入源&観光資源に

二番手は今年市制施行70周年を迎えた埼玉県所沢市。東京都心にも近く、大都市とベッドタウンの二つの顔を持つ人口34万の街だ。
「街中に宝の山があふれている!」とポジティブなプレゼンテーションで紹介されたのは、上下水道局が市内全域に持つマンホールの蓋を有料の広告として活用するというアイディアだ。マンホール蓋の有料広告化は全国に例がないということで、超えるべきハードルは数多くあったという。

そもそも論として、下水道事業が附帯事業の運営により利益を得ることが可能かどうかというところから検討はスタートした。日本下水道協会の顧問弁護士に、法令上・経理上の判断を仰いだという。

次に、関係機関との調整が必要となる。埼玉県の屋外広告物条例、所沢市ひと・まち・みどりの景観条例、所沢市道路占用料徴収条例など、それぞれ抵触する条例などを所管する機関とのすり合わせが発生。

これらをクリアしても、さらに広告料をいくらにするかという問題がある。広告代理店に問い合わせても、これも前例がないため基準がないという。結局、市が独自に金額を設定することになった。広告料金は、年間9万円。初期費用として4万円が必要となる。上下水道局側は道路占用料として2200円を負担している。

一年間の実証実験を経て事業として立ち上げたものの、広告を出したいというクライアントが続かない。このため、職員自らが商品を紹介する「足で稼ぐ営業」に乗り出す気持ちを込めた営業が功を奏し、その後2018年には人気韓流ドラマ『マンホール~不思議な国のピル~』とのコラボレーションに成功し、日本全国から約700人のファンが集まるなど注目を集めることとなった。これを機に、広告として価値を確立した本事業に申込が増加した。

現在マンホール蓋広告は大阪府枚方市、愛知県豊川市、神奈川県小田原市でもスタートしているが、本家本元・所沢はさらに進化を続けている。所沢市とKADOKAWAの共同プロジェクト「クール ジャパン フォレスト構想」の中核施設「ところざわサクラタウン」と紐づけて、日本初のイルミネーションマンホール蓋広告を実現した。

契約実績は令和2年度(11月分まで)で21社33カ所、売上は277万円を見込んでいる。新たな収益源を確保することで経営基盤を強化し、さらに下水道事業のイメージアップにも貢献することができたのだ。

【兵庫・明石市】施設包括管理で維持コストの削減と施設の安全・安心の向上

明石市は、日本標準時の基準となる東経135度の子午線が通ることでも知られる街。近年人口増が続き、30万人の大台に迫っている。

明石市の取り組みは、市立・市営施設の維持管理を包括的に依頼する、「施設包括管理」。対象となる施設は、小中学校、幼稚園・保育所・こども園、コミュニティセンターなど132カ所に及ぶ。従来は、各施設を所管する担当課が、各施設で必要となる業務ごとに業者を選定し、委託していた。明石市の「施設包括管理」は、市に「施設包括管理担当」の技術職員を置き、建物管理の専門事業者を「包括管理事業者」として複数の施設・業務の維持管理をまとめて委託する。

対象となる業務は施設の点検・清掃・機械警備に加え、日常修繕を含んでいる。全ての日常修繕(概ね130万円未満のもの)を含む包括管理は、明石市が全国で初めてだ。

この制度を導入したきっかけは、やはりコスト削減。今後40年間で明石市が管理する施設の延べ床面積は30%減少すると予測されているが、施設の統廃合には地元住民などステークホルダーの合意も必要で時間はかかる。また、今ある施設を適切に管理運用していくことで、施設の長寿命化も図る必要がある。業務は増加する一方で、技術職の職員は減少していくため、少数の技術職員の能力を幅広く活用するために、施設管理のノウハウを豊富に持つ専門事業者との連携を選択したのである。

この結果、施設管理に関わる職員数を減らすことで年間4800万円のコスト削減に成功。また、日常修繕を委託業務に含めたことで、よりスピーディに修繕を行うことも可能になった。これにより、利用者からの施設の満足度も向上し、施設の安全・安心を高める効果も大きかったという。

 

【愛媛・西条市】西条市版SIBで地域に新しい挑戦を生む

四番のバッターボックスに立ったのは、地元・愛媛県西条市。新幹線の生みの親・十河信二ゆかりの地として知られる、人口10万人の街だ。

西条市の財政を平成19年度と同29年度で比較すると、歳入総額こそ増えているものの、自主財源の比率は62.9%から45%に減少。市税収入は172億円から158億円と、「市の裁量で使えるお金」の減少が続いている。歳出は388億円から476億円に増加し、さらに社会保障費など義務的経費の割合が増えるなど、財政状況は厳しい状態が続いている。

この状況へのひとつのアプローチとして、西条市が進めているのが「市民による市民のための、挑戦を応援しあえる仕組み」としての「西条市版ローカルファンド構想」だ。市民や民間企業からの寄付や出資を「西条ふるさと基金(仮称)」として集約し、西条市の将来を開く活動のために投資・助成・融資を行うというもの。今回のプレゼンテーションでは、その一環として実証実験中の西条市版ソーシャルインパクトボンド(SIB)を紹介する。

従来型の補助金事業の場合、事業者と行政だけで完結してしまうため、補助金を使ってどのような事業が行われているかを知る機会がない。一方、西条市版SIBの場合は、出資者(=市民)に見える形で事業が行われ、さらに成果を達成することで「分配金」が出資者に支払われるため、市民もプロジェクトに参加しているという実感を持つことができる。

実例としては、イノシシ・シカによる害獣被害という社会課題を、獣肉を使ったジビエを特産品として開発するという形で解決するスタートアップ事業を実施。

実際に西条市版SIBに出資した市民からは「自分が生まれ育った地域に何かしら恩返しをしたいと思っていた。でもどうしたらいいのかわからなかったが、SIBがその背中を押してくれた」という感想の声があったという。

また、今年度からは事業対象を特産品の開発からSDGs達成に資するチャレンジへと拡大し、より幅広い支援の形を実現した。

会場の宇和島市・岡原文彰市長からは、「地域の課題に市民に興味を持ってもらう形で参画してもらうという試みは、たいへん参考になった」と感想が寄せられた。

(後編はコチラ

■愛媛県 行革甲子園2020 HP
https://www.pref.ehime.jp/h10800/shichoshinko/renkei/gyoukakukoushien.html

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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