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水道管の老朽化問題の原因とは?自治体が取り組むべき対策ポイントを解説

水道管の老朽化問題は全国の自治体が直面する深刻な社会問題のひとつ。水道管の法定耐用年数は40年で、その多くが高度経済成長期に整備されたため更新時期を迎えている最中だ。しかし水道管の更新は十分に進んでおらず、老朽化が今後さらに加速する見込みとなっている。本記事では、水道管の老朽化の現状や問題点を整理。その上で、自治体が取り組むべき対策のポイントを解説する。全国で進む水道管の老朽化問題を理解し、今後の実務に役立てていただきたい。

【目次】
 • 全国で進む水道管の老朽化の現状とは?

 • 水道管の老朽化問題が深刻化している原因と背景
 • 水道管の老朽化で起こりうるリスクとは
 • 水道管の老朽化問題を解決するために自治体が取り組むべき対策
 • 自治体による水道管老朽化対応の先進事例
 • 水道管の老朽化問題は分野をまたぐ総合対策が解決のカギ

※掲載情報は公開日時点のものです。

全国で進む水道管の老朽化の現状とは?

2025年6月現在、全国の水道管のうち約2割、17.6万kmが法定耐用年数の40年を超え、老朽化が深刻な社会問題となっている。多くは昭和30〜40年代の高度経済成長期に整備されたものである。しかし、更新率は年間わずか約0.65%と低く、このままのペースでは全ての管路を交換するのに130年以上かかるとされている。

更新にかかる莫大なコストが自治体の財政負担となり、対策の遅れや問題の先送りが続いているのが現状だ。このまま対策が遅れれば、水道インフラの老朽化が進み、生活や災害対応に重大な影響が及ぶ恐れがある。

老朽化が深刻な自治体(一例)

・宮崎県えびの市 約72.3%
・和歌山県高野町 約70.4%
・富山県南砺市 約68.7%
・大阪府大阪市 約51.8%
・神奈川県真鶴町 約50.7%


令和3年度における全国の水道管老朽化率が高い自治体の一例を、NHKが集計した「全国 水道危機マップ」にもとづいて挙げてみた。水道事業は市町村単位で運営され、多くが小規模な経営基盤だ。そのため、都道府県平均を上回る老朽化率の自治体も多く、50%や60%を超えるケースも珍しくない

ただし、都心部や都市近郊でも決して油断できない問題である。これらの数値は、水道インフラの老朽化が全国的に深刻な局面を迎えていることを如実に物語っている。

出典:NHK 「全国 水道危機マップ」

水道管の老朽化問題が深刻化している原因と背景

水道管の老朽化問題は、単に管路の劣化だけにとどまらない。耐震化の遅れや人口減少による収入減、水道事業に携わる職員の高齢化・人材不足、そして経営難に伴う財政的制約など、複数の課題が複雑に絡み合い、その解決を一層難しくしている。

以下では、これらの主要な要因を具体的に見ていく。

1. 老朽化の進行と耐震化の遅れ

出典:厚生労働省「水道事業における耐震化の状況(令和4年度)」

総務省の調査によると、水道施設の耐震化が遅れていると回答した自治体は57%にのぼる(※)。主な原因として挙げられたのが、財源や人員の不足、工事費の高騰である。また、令和6年3月時点で、水道施設の耐震適合率は全国平均42.3%。災害時の長期断水リスクが懸念されている。

実際、令和6年1月に発生したの能登半島地震では、耐震化率が全国平均を下回る石川県奥能登地域で水道管の破損が相次ぎ、長期にわたる断水が発生。復旧の遅れにつながる一因となった。

出典:総務省「上下水道の経営基盤強化に関する研究会(令和6年10月15日)」

2. 人口減少と使用量減による収入減

人口減少や節水意識の定着により、水道の使用量は減少傾向にある。これに伴い料金収入も落ち込み、水道事業の経営に大きな打撃を与えている。水道事業は、地方公営企業法にもとづき「独立採算制」で運営されており、収入が減っても必要な設備投資や維持管理にかかる費用は変わらない。

そのため、老朽化対策や更新投資は後回しにされやすく、インフラ維持が困難となる悪循環に陥っている。このような構造的課題は、特に小規模自治体で顕著であり、今後さらに深刻化する恐れがある。

3. 水道事業職員の高齢化と人材不足


出典:厚生労働省「水道の現状と水道法の見直しについて」

水道管老朽化問題が深刻化している原因のひとつに、技術職員の高齢化と若手人材の確保難がある。高齢化と人材不足により水道に関わる熟練技術の継承が十分に進まず、結果として、老朽水道管への対応や漏水などのトラブル対応に遅れが生じているのが現状だ。

特に地方の小規模自治体では、事務系と技術系職員を合わせても2〜3人、中には担当者が1人というケースもある。このため、日常の運用管理だけでなく、老朽水道管の点検や更新も十分に行えていないのは無理もない。

4. 水道事業の経営難と財政的制約

収入減に加え、老朽化した設備の更新や耐震化に伴う大規模な投資負担が水道事業の財政を圧迫している。多くの自治体が採用する「独立採算制」は料金収入に依存しているため、収入減は経営悪化を直撃する仕組みである。

持続可能な事業運営と安定した水の供給を両立するためには、運営効率の向上や資金調達方法の見直しが不可欠だ。

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水道管の老朽化で起こりうるリスクとは

水道管老朽化による主な影響・リスク
・水漏れや断水
・水圧の低下
・水質悪化による健康被害
・地震や洪水など災害時の被害拡大
・濁水(赤水)の発生


水道管の老朽化は、濁水や断水、健康被害、災害時の被害拡大など、様々なリスクをもたらす。特に古い金属管ではサビや腐食による水質悪化が起こりやすく、耐震化が進んでいない地域では災害時の被害が深刻化する恐れもある。

こうしたリスクはすでに現実のものとなっており、全国各地で老朽化が原因とみられる事故やトラブルが発生している。国土交通省によると、水道施設の老朽化による漏水や破損事故の発生件数は年間2万件を超えるそうだ。実際に起きた事故の事例を見てみよう。

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全国で発生した事故事例

■2025年1月28日 埼玉県八潮市:道路陥没事故

埼玉県八潮市では令和7年1月28日に、下水道管の破損が原因とみられる道路陥没事故が発生した。走行中のトラックが陥没でできた穴に転落し、運転手の男性1人が死亡する重大な事故となった。

また、埼玉県が12市町村の約120万人に下水道(洗濯や入浴)の使用自粛を要請。地域住民の生活への影響も広がった。道路や下水道管の本格復旧を目指し工事が進んでいるが、対策工事には5~7年かかる見通しとなっている。

■2025年4月30日京都市下京区:国道1号線冠水事故

京都市下京区では令和7年4月30日に水道管の破裂による事故が発生した。京都市の中心部となる国道1号線交差点では道路が冠水し、自動車の浸水や周辺約6500世帯の断水被害があった。

破損した水道管は設置から約65年が経過しており、撤去予定だったという。京都市上下水道局では給水車を出し周辺住民に水を供給するなど対応に追われ、復旧作業が完了するまで国道1号線では交通規制も行われる事態となった。

■2025年5月30日長崎市大浦東町:100年物の水道管破損事故

長崎市大浦東町では令和7年5月30日に老朽化した水道管が破損。道路に約1メートルの亀裂が入り道路が陥没した。破損した水道管は約100年前に設置された鋳鉄製の水道管で、年度内に取替工事を完了する予定だった。

水道管の老朽化問題を解決するために自治体が取り組むべき対策

水道管の老朽化という構造的課題に対し、自治体は限られた財源・人材の中で、戦略的かつ実行可能な対策を講じていく必要がある。ここでは、自治体が中長期的な視点で取り組むべき戦略レベルの方策と、現場での実践に直結する実務・実行フェーズの対策に分けて具体的に紹介する。

1. アセットマネジメントの導入と更新計画の最適化|戦略レベル

アセットマネジメントの構成要素
1. 施設データの整備(台帳整備)
2. 日々の運転管理・点検を通じた保有資産の健全度などの把握
3. 中長期の更新需要・財政収支の見直しの把握
4. 施設整備計画・財政計画などの作成


全ての水道管を一斉に更新することは、財政や人員の制約から非現実的である。そのため、劣化状況やリスク、更新コストを可視化し、優先順位をつけて段階的に対応することが重要だ。この計画的な更新を可能にするのがアセットマネジメントである。

アセットマネジメントは、水道施設のライフサイクル全体を効率的かつ効果的に管理し、更新計画の最適化やムダな投資の抑制に役立つ。国も導入を推進しており、「手引き」の作成や「簡易支援ツール」の公表、全国での講習会を実施している。

出典:厚生労働省「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」

2. 広域化・共同化による事業体制の再構築|戦略レベル

広域化・共同化の主なメリット
・スケールメリットによる経費削減
・技術職員の確保や体制の人材強化
・更新計画や工事の効率化
・災害対応力の向上


水道事業の広域化・共同化は、これからの経営を支える有効な選択肢である。人口減少で収益が減り維持費が増す中、政府も広域化の推進に本腰を入れている。複数の自治体が連携し、区域を越えて協力し合うことで、業務の効率化やコストの抑制、人材の確保など、様々なメリットが生まれる。

令和6年4月には、厚生労働省が所管していた水道の整備・管理行政が、国土交通省と環境省に移管された。水道整備・管理行政の機能強化と上下水道一体化によって、効率的な推進が期待されている。

出典:国土交通省 水道広域化推進プラン

3. 国の補助制度や交付金の積極的な活用|戦略レベル

主な補助金・交付金の例
・水道施設整備費補助金
・防災・安全交付金
・社会資本整備総合交付金
・生活環境創生交付金


老朽化対策には多額の費用がかかるため、財政に余裕のない自治体にとっては大きな壁となる。そのため国の補助制度や交付金をいかに活用するかが、実行可能な対策のポイントとなる。

また、国土交通省が令和6年8月1日に開催する「下水道スタートアップチャレンジ」などの支援事業を活用するのも有効である。異業種連携や新技術導入による事業革新を進めることで、水道事業の経営基盤強化と持続可能な運営が期待できる。

出典:国土交通省「令和7年度上下水道関係予算の概要」
※補助金や交付金の申請には対象事業や体制などの要件があるため、事前確認が必要

4. 技術職員の確保と人材育成の強化|実務・実行フェーズ

水道管の更新・維持管理を着実に進めるには、技術職員の安定的な確保と育成が不可欠だ。多くの自治体ではベテラン職員の退職が進み、技術継承の断絶が課題となっている。そのため、退職者の再雇用や業務委託の活用に加え、OJTを通じた現場ノウハウの伝承が重要である。

あわせて、民間企業や外部団体と連携し、最新技術や知見を取り入れる体制を構築することも有効な手段といえる。

5. 管路の延命措置の積極的活用|実務・実行フェーズ

老朽化した水道管の対策には、更新だけでなく延命措置も重要である。ライニング工法(管内塗装)やパイプ・イン・パイプ工法(既設管内に新管を挿入)など、掘削せずに補修・再生できる更生工法を活用することで、交通や生活インフラへの影響を抑えつつ、更新コストの低減が図れる。

例えば、佐賀市水道局では平成20年度から3か年計画で多布施川沿線の幹線配水管を対象に、ホース・ライニング工法とパイプ・イン・パイプ工法を組み合わせた更新工事を実施腐食の進んだ管路に対し、効率的な更新を実現している。

出典:佐賀市上下水道局

6. 料金制度の見直しと持続可能な財源の確保|実務・実行フェーズ

水道管の老朽化対策を長期的に進めるには、安定した財源の確保が不可欠だ。そのためには、段階的な水道料金の見直しや、利用実態に応じた料金体系の導入といった施策が求められる。

また、住民の理解を得るには、「なぜ費用がかかるのか」「どんなリスクがあるのか」といった点を丁寧に説明し、広報や説明会などを通じて、将来の水道インフラの見通しを“見える化”することが重要だ。

自治体による水道管老朽化対応の先進事例

全国の自治体では、水道管の老朽化という共通課題に対し、独自の工夫や先進的な対応が必要だ。近年では、AIやIoTを活用した維持管理や、官民連携による効率化など、新たな手法の導入が各地で進んでいる。ここからは、そうした自治体による先進的な対応事例を見ていこう。

福島県福島市|宇宙ビッグデータを活用

福島県福島市は、宇宙ビッグデータを活用した水道管の漏水リスク管理システム「天地人コンパス宇宙水道局」を国内で初めて採用した自治体だ(※)。

地球観測衛星が宇宙から地上を観測したデータ(宇宙ビッグデータ)と、水道事業者が持つ水道管路情報などの地上データを組み合わせ、それらをAIで解析することで約100m四方の地区ごとに漏水リスクを評価するシステム。漏水リスクの高い場所を見つけ出し、効率的に水道管の修繕や管理を行っている。

出典:春日部市議会

滋賀県草津市|AI水道管診断ツールの導入と精度向上の推進

滋賀県草津市では、水道管老朽化対策としてAI水道管劣化予測診断ツールを導入。水道管の使用年数や漏水履歴などのデータと、土壌や気候、人口などの環境変数データを組み合わせ、水道管路の破損確率をAIで解析。AIには職員の経験知や暗黙知をデータ化して取り入れ、さらに衛星画像の解析データも反映させて予測精度を上げる工夫を行っている。

出典:豊田市上下水道局「水道管劣化予測診断ツールの導入及び予測精度向上の取組み」

北海道木古内町|⼩規模⽔道事業の広域連携と官⺠連携

北海道木古内町は周辺自治体との広域連携と、民間事業者との官民連携を組み合わせて水道事業に取り組んでいる。木内町の隣にある知内町と協定を結び、同じ民間事業者に業務を委託。小規模な自治体同士が連携することでスケールメリットを生み出し、ヒト(人員)・モノ(施設)・カネ(財政)の不足を補い合う戦略だ。

また、ICTを活用して自治体や民間事業者間で情報やノウハウを広く共有し、水道インフラの安定供給を目指している。同町の取り組みは、「令和2年度 水道イノベーション賞」で特別賞を受賞した。

出典:木古内町建設⽔道課・知内町建設⽔道課「⼩規模⽔道事業の広域連携と官⺠連携」

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水道管の老朽化問題は分野をまたぐ総合対策が解決のカギ

水道管の老朽化問題は、重大事故や災害時の被害拡大にもつながる深刻な問題だ。現実的な解決には、自治体単独ではなく、広域連携や官民協働など、組織や立場を越えた総合的な対応が不可欠だ。それぞれの立場で知恵と工夫を持ち寄り、持続可能な水道インフラの実現に向けて取り組んでいこう。

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