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【セミナーレポート】持続可能な水道経営のヒント—老朽化・人口減少時代にどう備えるか—

老朽化や人口減少など、水道事業を取り巻く課題が深まる中、持続可能な水道経営を実現するには、現場の知恵と新しい技術の両立が欠かせません。
そこで、本セミナーでは、維持管理の工夫やDX推進を通じた「水道経営」のあり方について考えます。
概要
■テーマ:持続可能な水道経営のヒント—老朽化・人口減少時代にどう備えるか—
■実施日:令和8年2月17日(火)
■参加費:無料
■申込者数:158人
人工衛星・AI・ビッグデータで「水道クライシス」に挑む!
最初に話を伺ったのは、豊田市の上下水道局企画課の岡田俊樹氏。「管路更新」「漏水調査」「水道管凍結」「窓口業務」といった、多くの自治体が抱える課題において、豊田市の事例を語っていただきました。

【講師】
岡田 俊樹 氏
豊田市
上下水道局企画課 主幹
平成2年度、事務系職員として豊田市役所採用。その後、固定資産税、水道、窓口、防災、国民健康保険(国保)、庶務の業務を経験。水道関連業務は、通算17年。いずれの所属でも、GIS、各種システム開発、改修に従事。
豊田市が進める“持続可能な水道経営”のためのDX
豊田市は人口41.5万人、7市町村が合併した事業体で、面積は918.32平方キロメートルあります。しかも、19の水道・簡易水道事業を統合して広域化しており、水道管路の総延長は3,701キロ、施設数は432。有収率は89.1%です。中核市平均の約2倍の水道管路を抱えていることを考えると、維持管理の負担はかなり大きいと言えます。

こうした状況の中で、豊田市全体では「デジタル強靱化戦略」を策定し、上下水道局DXを進めています。特徴は、水道局だけが単独で動くのではなく、市全体のDXの流れの中で取り組んでいる点です。実際、上下水道局のDX取り組み数は、令和4年度の4件から令和6年度には49件まで増えています。

主な課題としてあげられるのは「老朽管路更新・耐震化対応にかかる費用の増大」「水道管の老朽化による漏水被害の増加」「水道管凍結による凍結被害の増加」「窓口業務の煩雑化」の4つです。
老朽管路の更新は「どこからやるか」
1つ目の課題は、老朽管路の更新です。豊田市では、法定耐用年数40年を超えた老朽管路が767キロ、全体の21%あります。さらに、耐震化未対応の管路も475キロあり、その割合は67%で、全国平均55%を上まわっています。老朽管路だけでも更新に年平均15億円以上かかる見込みがある一方で、水道事業は平成17年から最大9億円減収しています。必要性は明らかでも、全部を一気に更新するのは現実的ではありません。だからこそ、優先順位づけが必要でした。

そこで私たちは、管路の劣化予測にAIを活用しました。豊田市が持つ配管データや過去の漏水箇所データ、暗黙知データに加えて、業者が保有する約172種類の環境データを組み合わせ、AI劣化予測診断ツールで管路ごとの劣化リスクを可視化しています。対象は、導水管・送水管・口径150ミリ以上の配水管などです。これによって、人の経験や勘だけでは捉えきれない複合的な要素を踏まえて、どの管路から更新すべきかを判断しやすくなりました。

加えて、この仕組みには副次的な効果もありました。同時期に同じ劣化予測診断ツールを導入したガス会社と情報共有がしやすくなり、共同施工を実施した結果、舗装復旧費を660万円削減できました。DXは単に“賢くなる”ためのものではなく、具体的なコスト削減や業務連携につながってこそ意味があると感じています。
老朽化による漏水対策はエリアを絞り込む
2つ目の課題は、漏水被害です。豊田市では、水道管の老朽化による漏水被害が年平均1,000件弱発生しています。ところが従来の調査方法は耳を頼りに漏水音を聞き取る路面音聴調査が中心で、時間も費用もかかっていました。広い市域を考えると、どうしても非効率になりがちです。また、AI劣化予測診断の精度を上げるためにも、特に山間地域の漏水箇所データを補う必要がありました。

そこでまず導入したのが、イスラエル企業による「漏水エリア特定診断」です。人工衛星ALOS-2の画像と、衛星からの電磁波放射・反射特性の解析によって、漏水の可能性があるエリアを抽出するものです。直径200メートルの円を1つの漏水エリアとして特定し、その後に現地調査を行います。計2,210キロを対象に調査した結果、調査対象距離は257キロ、つまり11.6%まで絞り込めました。通常5年かかる調査を7カ月で完了し、漏水発見箇所も従来の69件から259件へと増えました。


一方で、課題も見えました。的中率は全体で27%、都市部では45%だったのに対し、山間部では12%にとどまっていたのです。また、1つのエリアが直径200メートルと広いため、最終確認の路面音調査にはなお時間がかかります。さらに、初回はパイロット価格だったものの、2回目以降は正規料金になるため、費用対効果の見極めも必要でした。つまり、効果は大きかったものの、そのままでは十分ではなかったということです。
そこで次に取り組んだのが、豊田市上下水道局、JAXA認定のベンチャー企業、漏水調査会社の3社で行った実証実験「漏水リスク評価」です。これは、衛星画像に加えて、水道管データ、地表面温度、気象情報、地盤変動など、水道管にストレスを及ぼす要因を組み合わせてAIで解析し、漏水リスクを評価するものです。目標は、漏水エリアの的中精度を約3割から約6割へ上げること、そして漏水エリアの範囲を直径200メートルから100メートル以下へ縮小することでした。

実証結果では、漏水の的中率自体は26%で、漏水エリア特定診断と大きくは変わりませんでした。ただし、調査対象距離は3,675キロのうち125.2キロ、割合にして3.4%まで絞り込めています。的中率だけを見れば大成功とは言えないかもしれませんが、現場が調査すべき範囲を大きく減らせたことは、業務効率の面で大きな成果です。

また、この実証では国の補助金を活用しました。先進的な技術は高額で手が出しにくいと思われがちですが、補助金スキームをうまく活用すれば、実証のハードルを下げることができます。もちろん、申請や調整の手間はありますが、新技術に挑戦する余地をつくる意味では有効な選択肢だと感じています。
凍結被害対策のカギは空き家
3つ目の課題は、水道管凍結による被害です。豊田市では平成30年1月、小原地区で700戸が2日間断水する被害がありました。漏水は14カ所で、止水12カ所、修繕2カ所。その全てが空き家でした。このときは職員16人、8班体制で全域漏水調査を行い、給水車4台も出動しています。つまり、凍結対策を考えるうえで、空き家の把握は極めて重要だったのです。

そこで導入したのが、AI空き家予測。自治体データ、地図データ、電気・ガスデータを組み合わせ、水道使用量2,400万件も活用しながら、住居単位で現在から2050年までの空き家を解析する仕組みです。5年後の空き家予測の的中精度は92%。これにより、凍結破損時の優先調査に活用できるようになりました。

さらに、人工衛星から取得した地表面温度データをもとに「水道管凍結注意マップ」も作成し、注意喚起の効率化にもつなげています。

「書かない・行かない窓口」の実現
4つ目の課題は、窓口業務の煩雑化です。水道事業では、市民対応だけでなく工事申請や埋設確認など事業者とのやりとりも多く発生します。そこで進めているのが、「書かない・行かない窓口」です。例えば、水道配管図をウェブ上で閲覧・ダウンロードできる仕組みを整えたことで、事業者の来庁や紙でのやりとりを大幅に減らすことができました。

また、給排水工事のオンライン申請システムは近隣5市で共同導入し、コスト削減と事務効率化を両立しています。単独で抱え込むのではなく、広域連携とDXを組み合わせることも、持続可能な経営には欠かせない視点です。

持続可能な水道経営に必要なのは、“技術を入れること”ではなく“課題に向き合うこと”
私たちが進めている水道DXは、最新技術を導入すること自体が目的ではありません。広大なエリアに点在するインフラをどう守るか。限られた人員と予算で、どこに手を打つべきか。属人的な判断をどうデータで支えるか。そうした問いに1つずつ答えていくための取り組みです。AIも人工衛星も、現場の悩みを解決するための手段にすぎません。
水道事業を取り巻く環境は、これからさらに厳しくなるはずです。そうした中でも持続可能な水道経営を実現するには「全部やる」のではなく「どこからやるか」を見極める視点が欠かせません。私たちの取り組みが、各自治体で次の一手を考えるヒントになればうれしく思います。
水道DXで変えるインフラ保全の未来~管路劣化AI診断と衛星漏水調査、そしてその組合せ~
第2部に登壇したのは、株式会社日立システムズでCYDEEN 水インフラ監視サービスを企画から立ち上げた、上川恭平氏。自社で取り扱っているサービスや活用方法について解説していただきました。

【講師】
上川 恭平 氏
株式会社日立システムズ
公共・社会事業グループ 公共事業拡販推進本部
社会インフラ保守サービス事業推進部 主任技師
CYDEEN 水インフラ監視サービスを企画から立ち上げ、複数の自治体への提案および導入に携わる。また、生活の基盤である上下水道のインフラを中心に、老朽化や人手不足といった課題に対し、IoT、AI、そして衛星など先進的な技術開拓・開発を行い、社会インフラの安全・効率・持続性を高める価値を提供。
限られた人員・予算で進める水道DXの実践
日立システムズは公共・社会インフラをはじめ、金融、産業・流通など幅広い分野にITサービスを提供しています。水道分野では「CYDEEN(サイディーン)」の中で、現場点検や維持管理を支援するさまざまなサービスを展開してきました。今回は、その中でも水道管路の維持管理に関わる「管路劣化AI診断」と「衛星漏水調査」、そして両者を組み合わせた活用方法を紹介します。

いま、水道インフラの現場では、老朽化と人手不足という2つの課題が同時に進んでいます。そうした状況のなかで重要になるのが、限られた人員と予算をどこにあてるかです。全ての管路を同じように調べ、同じように更新していくのは現実的ではありません。だからこそ、まず全体を俯瞰し、リスクの高い箇所を絞り込んだうえで、優先順位をつけて対応していく考え方が必要になると考えています。

水道DXというと個別の技術導入に目が向きがちですが、私どもが重視しているのは、技術をどうつなげて業務全体を変えるかです。例えば、どこで漏水が起こりやすいのか、どの管路の健全度リスクが高いのかを俯瞰的に把握できれば、更新計画や漏水調査の精度は大きく変わります。
そこでご提案しているのが、AIや衛星によるスクリーニングで全体像を把握し、そのうえで現場監視も組み合わせて実態を見ていく流れです。
管路劣化AI診断で見えないリスクを把握
まず1つ目が「管路劣化AI診断」です。これは、水道管路の諸元や過去の漏水履歴、工事履歴、さらに表層地盤などのオープンデータをもとに、AIで管路の健全度リスクを分析するものです。敷設年度、管種・継ぎ手、口径、管路長といったデータをお預かりし、私どもで確認・整理したうえで分析を行います。分析結果はExcelファイルとシェープファイルで納品し、GISへ適用して可視化していただくことも可能です。データ受領から結果提供までは、おおよそ1カ月を見込んでいます。

この仕組みのポイントは、経年だけでは見えないリスクを把握できることです。古い管だから必ず危ない、新しい管だから必ず安全、というわけではありません。実際に兵庫県内の事例でも、敷設年度で見れば古い管でもAI診断ではリスクが低く出る箇所があり、逆に比較的新しい管でもリスクが高く評価される箇所がありました。こうした結果を、既存の更新計画や漏水調査の方針と重ね合わせることで、どこから対策を打つべきかをより具体的に考えやすくなります。

衛星漏水調査で広いエリアを効率よく絞り込む
もう1つが「衛星漏水調査」です。こちらは、一般財団法人リモート・センシング技術センターのサービス「mizuiro」を採用しています。人工衛星「だいち2号(ALOS-2)」の合成開口レーダーによるマイクロ波データを活用し、地表面付近の水分状況を解析することで、漏水の可能性があるエリアを絞り込みます。

利点は、広い範囲を一度に俯瞰できることです。現地での漏水調査は、どうしても人手も時間もかかります。衛星漏水調査によって、まず「どこを重点的に見るべきか」を絞り込めれば、その後の現地調査を効率よく進めやすくなります。
2つを組み合わせて判断の精度を高める
管路劣化AI診断と衛星漏水調査は、組み合わせることでより力を発揮します。管路劣化AI診断は、全ての管路を対象に健全度リスクを並べて評価できます。一方で、衛星漏水調査は、漏水の可能性があるエリアを地点ベースで絞り込みます。つまり、片方は「管路全体のリスクを見る技術」、もう片方は「漏水の疑いがある場所を見る技術」です。この2つを重ねることで、「両方ともリスクが高い」「片方だけ高い」「両方とも低い」といったパターンが見えてきます。

例えば、両方とも高い評価になっている箇所は、管更新や漏水調査の優先度を高く設定しやすくなります。逆に、衛星漏水調査では反応していても、劣化診断ではリスクが低い場合には、地下水など別の要因が影響している可能性も考えられます。こうして結果を照らし合わせることで、分析後の対応をより丁寧に考えていけるのです。
管路劣化AI診断で管路全体のリスクを見える化し、衛星漏水調査で重点的に見るべきエリアを絞り込み、必要に応じて監視も組み合わせる。こうした流れをつくることで、より効果的・効率的な維持管理につなげることができます。持続可能な水道経営を考えるうえで、全てを人の経験だけに頼るのではなく、データをもとに判断していく仕組みづくりはますます重要になります。ぜひ、ご検討ください。
水道スマートメーターの導入事例紹介
第3部に登壇したのは、愛知時計電機株式会社の西川明宏氏。水道使用量データを自動的にクラウドへ送信する次世代検針システム「水道スマートメーター」について、導入事例をもとに解説していただきました。

【講師】
西川 明宏 氏
愛知時計電機株式会社
水機器営業推進部
2013年入社。東京支店、産業システム営業推進部を経て、水機器営業推進部へ配属。推進部においては広告宣伝、販売促進に関わる業務に従事。専門誌への寄稿や展示会(水道展)など。
水道スマートメーターは何を変えるのか
水道スマートメーターは、さまざまなデータを遠隔で自動的に収集できる水道メーターです。電力やガスではすでにスマートメーター化が進んでいますが、水道でも同じように、使用量や異常の兆候をデータで把握する取り組みが始まっています。

基本的な仕組みはシンプルです。水道メーターに無線通信端末を組み合わせ、携帯電話基地局を経由してクラウドへデータを送信します。これによって、事業体側では、事務所にいながら検針値やアラート情報を確認できるようになります。水道メーターそのものは従来型と近い構造でも、通信が加わることで、見える情報の粒度が大きく変わるわけです。これまで2カ月に1回しか分からなかったことが、毎日、時間単位で把握できるようになる。この変化は、想像以上に大きいと考えています。
毎日の使用量データが見えるようになることで、漏水や異常使用に早く気づけるようになります。例えば、これまでは止水を伴う点検や大規模な漏水調査を定期的に行っていたケースでも、日々のデータがあれば、もっと効率よく異常の兆候を捉えられる可能性があります。ちなみに、瀬戸内海の離島では、わずかな件数の検針のために本土からフェリーで渡り、さらに草刈りをしながら現場へ向かう必要があるなど、検針以外の負担が大きいという課題を抱えていました。しかし、水道スマートメーターを導入したことで、漏水の検知も遠隔で行えるようになって満足しているといった声があがっています。
最大の壁は導入コスト
一方で、スマートメーター化には課題もあります。やはり大きいのは導入費用です。従来型の水道メーターに比べると、無線通信端末やクラウド利用、通信費などが加わるため、コストは数倍になります。

そのため、「便利になるのは分かるが高い」と思われやすいのも事実です。自動検針だけで投資効果を考えると、どうしても回収年数の話にとどまりがち。だからこそ私どもは、導入効果を検針業務の効率化だけで測るのではなく、漏水対策、防災、住民サービスといった幅広い価値まで含めて考えていただきたいと思っています。

長崎市の事例紹介
例えば、海と山に囲まれた斜面の多い地形が特徴の長崎は、貯水設備が少なく、有収率向上が課題でした。また、配水エリアごとに年1回、深夜時間帯の大規模な漏水調査を行っており、その調査には時間も工数もかかっていました。
そこで、配水エリアを4つのブロックに分け、日々の流量を監視する取り組みを進めました。夜間に本来安定しているはずの流量が増えているエリアを見つけたうえで、区分バルブの操作によって水系を組み替え、どの範囲に漏水の疑いがあるのかを順に絞り込んでいったのです。

この取り組みによって、年1回の大規模調査だけに頼らず、日常的な流量監視の中で漏水の疑いを把握できるようになりました。結果として、3カ月間で12カ所の漏水箇所発見につながり、123立方メートルの漏水削減にも結び付きました。災害時の優先修繕箇所把握にも応用できるのではないか、という期待の声もありました。

見守りサービスとしても活用
スマートメーターの活用は、漏水対策や検針効率化にとどまりません。もう1つの事例としてご紹介したいのが、見守りサービスです。これは、24時間連続で水の使用がないことを検知すると、クラウドを通じて登録先へメール通知を送る仕組みです。通知先はご家族だけでなく、民生委員、福祉課担当、支援センター、ケアマネジャーなど複数設定できます。

水は誰もが日常的に使うものだからこそ、その変化から異変の兆候を捉えられる可能性があります。住民サービスの向上という意味でも、スマートメーターには大きな可能性があると考えています。
ただ、いきなり全戸へ導入するのは、やはりハードルが高いのも事実です。そこで私どもは、実証実験やスモールスタートをオススメしています。難検針地区、離島、山間部、豪雪地帯など、まず効果が見えやすい地域から導入し、手応えを見ながら徐々に広げていく。こうした進め方が現実的だと考えています。

「課題解決」と「付加価値」の両面で考える
水道スマートメーターは「課題解決」と「付加価値」の両面から考えてください。課題解決という面では、人材不足への対応、誤検針の防止、漏水の早期発見、有収率向上などがあります。付加価値という面では、管路補修の優先順位付け、災害時の復旧判断、漏水調査の省力化、高齢者の見守りなど、活用の幅を広げていくことができます。
従来型に比べると、確かに製品単価は高くなります。ただ、検針の省力化だけでなく、漏水対策、防災、福祉、住民サービス向上まで含めて考えると、その見え方は変わってくるはずです。
DXで「ワクワクする未来」に変えたい!~佐賀市上下水道局の挑戦~
第4部に登壇したのは、佐賀市上下水道局の姉川和彦氏。交付金を活用した水道DXへの挑戦として、具体的な取り組みや展望を語っていただきました。

【講師】
姉川 和彦 氏
佐賀市上下水道局 水道工務課 主査
平成14年、旧町役場に入庁。その後、市町村合併により佐賀市の職員となり、平成22年に水道局へ配属。業務課4年、総務課5年の勤務経験を経て、現在は水道工務課にて8年目を迎える。水道管路の更新計画、水道DX事業の導入に従事。
佐賀市が挑む「次世代型管路劣化予測診断」
佐賀市の導水管、送水管、配水管を合わせた管路総延長は1,102キロあります。そのうち、避難所や拠点病院につながる重要管路は120.3キロ、基幹管路は18キロです。基幹管路の耐震適合率は令和6年度で47.2%と、全国平均をやや上まわってはいるものの、まだ半分にも届いていません。耐震化は引き続き進めていく必要があると考えています。

一方で、令和元年度から令和6年度までの漏水件数は毎年200件台で推移し、漏水量もおおむね120万~140万立方メートル規模です。令和6年度も221件、126万1777立方メートル、漏水率は5.8%でした。配水管の更新工事を積極的に進めてきたことで、10年前の約800件という水準からは大きく減っていますが、一定数の漏水がなお発生している状況です。東京ドームの容積がおよそ124万立方メートルですから、1年間でほぼ東京ドーム1杯分の水をムダにしている計算になります。

こうした状況を踏まえてスタートしたのが「次世代型管路劣化予測診断業務」。これは、衛星データとAI技術を用いて管路劣化診断を行うクラウド型のマッピングサービスです。私どもは、株式会社天地人の「宇宙水道局」を導入しました。

複数の人工衛星が取得する環境データ、オープンデータ、そして電子化された給水台帳や配水管図のデータを組み合わせて解析し、漏水リスクの高いエリアをピンポイントで特定していきます。人流や気温、地表面温度、地殻変動など、管路に与えるさまざまなストレス情報をAIに読み込ませてリスク評価を行う点が特徴です。
劣化診断を活用すれば、漏水リスクの高い箇所が可視化されます。つまり、現在の更新基準に、このリスク情報を重ね合わせることで、より優先順位の高い管路を検討できるようになるのです。単に古いものから更新するのではなく、「いま本当に危ないところ」を見極めたい。そこに、この診断を導入する大きな意味があると考えています。

さらに佐賀市では、古くなった管を更新していくために独自に「老朽管70年プラン」を策定しています。例えば、これまで主流として使われてきたK形継ぎ手のダクタイル鋳鉄管は、従来60年で更新していたものを、70年以内に更新していく指標へと見直しています。

この仕組みに劣化診断を加えることで、さらなる耐用年数の延長、つまり管路延命化につながるのではないかと期待しています。更新すべきところはきちんと更新しつつ、まだ使える管は活かしていく。その判断の精度を上げることが、事業費の抑制にもつながると考えています。
漏水調査も「絞る」
もう1つの取り組みが、漏水調査です。佐賀市ではこれまで、管路更新を優先してきたこともあり、本格的な漏水調査は行ってきませんでした。ただ、近年は各地で大規模漏水事故や道路陥没が起きており、私どもとしても漏水調査の必要性を強く感じるようになりました。
ところが、すでに漏水調査を実施している事業体から話を伺うと「費用対効果に疑念がある」「このまま続けることに不安がある」といった声も少なくありません。そこで、これも管路劣化診断の導入で解消できるのではないかと考えました。
劣化診断によると、佐賀市は5段階評価のうち最も悪い「リスクE」が合計168.6キロありました。内訳は配水管が110.9キロ、給水管が57.7キロです。まずはこのエリアを対象に、令和8年度から現地漏水調査を実施する予定です。効率よく、効果的に調査を進め、東京ドーム1杯分に相当する漏水を少しずつ減らしていきたいと考えています。

補助制度の活用でDX導入を後押し
この事業には、国の補助制度も活用しました。私どもが申請したのは、内閣府の「新しい地方経済・生活環境創生交付金」のデジタル実装タイプ1です。佐賀市では、市長部局も含めて一体的にDX事業を推進しており、担当部署の協力もあって比較的スムーズに導入を進めることができました。

漏水発見は、職員のパトロールだけで完結するものではありません。実際、佐賀市でも漏水の多くは市民からの通報で把握しています。だからこそ、診断結果をホームページなどで公表し、管路の現状を市民にも知っていただくことが大切だと考えています。漏水対策は行政だけの取り組みではなく、街ぐるみで進めていくものにしたい。そのためにも、DXによって得られた情報を、市民との共有にも活かしていきたいと思っています。
水道DXワークショップを開催
また、佐賀市が独自の取り組みとして行った「水道DXワークショップ」も紹介します。目的は、個人の暗黙知を全員の資産へ転換すること、そしてより良いリスク評価につなげるために、その情報を可視化することでした。ゴールは、給水区域内で気になるエリアを可視化し、その理由を明確にし、他の職員の考えを知ることです。通常業務で積み重ねてきた技術や勘、経験知を呼び起こし、「組織知」として活用していく。その意味で、単なる意見交換の場ではなく、技術継承の取り組みでもありました。
ワークショップには、過去に管路維持を担当してきたベテラン職員と、現在の担当者に参加してもらいました。中には約40年の職員人生の大半を水道管路にささげてきた職員もおり、場は大いに盛り上がりました。DXの導入というと新しい技術ばかりに目が向きがちですが、実際には、これまで先輩職員が積み上げてきた知識と経験があってこそ成り立つものだと、あらためて実感しました。

最後に、私が強くお伝えしたいのは、技術継承の大切さです。ベテラン職員の皆さんには、これまでの経験に裏打ちされた確かな技術力を、ぜひ後輩たちへ引き継いでいただきたいと思っています。中堅職員は、そのバトンをしっかり受け取り、最前線で責任を持って業務にあたる覚悟が求められます。私もその世代の1人として、当事者意識を持って取り組んでいきたいと考えています。そして、若手職員は、これから50年先、100年先の事業を支える希望です。先輩たちの背中を見ながら、意欲的に挑戦を続けてほしいと思っています。

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