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岩手県北上市

妊娠から乳幼児のいる保護者が“いつでもどこでも”行政サービスとつながれる 「北上市子育てLINE」。【行革甲子園2024】

全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。

今回はその中から、岩手県北上市の「妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE”」を紹介する。

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

取り組み概要

北上市では、令和4年6月より、“妊娠から乳幼児のいる保護者が、いつでもどこでも行政サービスとつながれる仕組みをつくりたい”との想いから、LINEアカウント「北上市子育てLINE」を開設。市民が欲しい情報を、育児などの合間に見られる仕組みを構築し、併せて育児相談などのオンライン予約の入口機能をもたせることで、いつでも面倒なく行政サービスを利用できる仕組みをつくった。

背景・目的

令和4年当時、市では行政サービス改革の一環として、SNSを用いた情報配信策を検討していた。その過程で、コミュニケーションツールとして普及率が高く、情報をプッシュ型で送信できるLINEの活用を検討。LINEを選択した最大の理由は、それまでの市公式ホームページなどによる情報発信に感じていた次のような問題を解決できるツールと考えたからであった。

●問題に感じていた点
・既存ツールである公式ホームページや配布冊子の市民ガイドは、多様な市民に対し一律の案内をしており、市民からの問合せを主に平日の日中に、対面または電話で受けることのみを想定していた。これらが市民にとって不便と認識していた。
 しかしながら、すでにLINEを使った情報発信を行っている自治体を調査したところ、以下の状況であることが分かった。

・内容が広報やホームページの置き換えになってしまっており、LINEのメリットを活用しきれていない。
・ユーザー自身に事前のセグメント登録を求める機能もあるが、年齢・性別等に合わせて機械的に配信情報が取捨選択されるだけであり、必ずしも利便性が高いとはいえない。
・メッセージ中の文章表現や色使いなどのデザインが作成もとの担当課によってバラバラであり、情報に一貫性がない。

また検討の過程で、検討メンバーから「妊娠から乳幼児のいる保護者は忙しく、市役所に出向いたり・電話したりする時間がない」との意見が出された。このため、これら市民に対象セグメントを限定し、彼・彼女らが忙しい時間の合間に、欲しい情報を受け取れ、行政サービスにアクセスできる仕組みをLINEでつくることとした。

※ セグメント:マーケティングなどの分野で消費者側の年齢・性別・職業などによって行われる区分

取り組みの具体的内容

1. LINEによる保護者目線の情報配信

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“妊娠から乳幼児のいる保護者にターゲットを限定したLINEアカウント「北上市子育てLINE」を開設。乳幼児健診や離乳食教室の案内等、妊娠から乳幼児のいる保護者向けの情報配信をスタートした。

情報配信を担当課任せにすることによる配信品質の粗悪化を防ぐため、事前に当該アカウントで配信するメッセージの内容・デザインなどを検討・チェックする専門チーム「LINEデザイン会議」を立ち上げる。メンバーは複数の課・係の職員・保健師から構成されており、ターゲットに響くメッセージになるまで複数の目線でブラッシュアップする体制を整えた。

●LINEデザイン会議
・ 課・係の垣根を超えた職員・保健師で構成。配信するメッセージの内容やデザイン、スケジュールなどについて検討・チェックを行う。
・ 月2回の定例会議では配信したメッセージの開封率やクリック率(画像1参照)を共有。ユーザー意見は常時共有し、次月の配信に反映。
・ 会議で各担当の配信スケジュールを統合(画像2参照)。情報のバランスと、読まれる・ブロックされない配信頻度を維持することで、アカウントの品質を維持。

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“   ▲ 画像1                                      画像2

以下は、実際の会議での配信修正例。

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“
画像3 左が最初のデザイン。市民目線で心地よく申し込みたくなるように、右のように修正。対象月齢を明示し、「お困りのことはありませんか」⇒「サポートします!」と寄り添ったメッセージに修正。

2. 子育て関係サービスのオンライン化

子どもの歯磨きや離乳食に関する教室をはじめ、各種相談などへの予約申し込みを既存のオンラインツール(Logoフォーム)を用いてオンライン化。これまでは、市役所の営業時間中に電話でしなければならなかった申し込みが、LINE上に入口のボタンを設けることで、フォームからいつでも簡単にできるようになった(画像4参照)。

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“
画像4 例えば、子どもに市外で予防接種を受けさせたい場合、LINE上の常設ボタンから3タップで申請フォームにアクセスできる。

2. 子育て関係サービスのオンライン化

上記1・2に共通して最適なUI/UXの検証を行っている。民間ビジネスで一般的となっている、行動のしやすさを考えたユーザーインターフェイス(UI)や、ユーザーエクスペリエンス(UX)を市民向けに取り入れ、配信情報や前述のフォームにつながるボタンデザインなどのUI、タップ後のUXを会議で常に検証している。

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

1. 対象セグメントの限定

自治体が運用するLINEの多くは広報やホームページのように対象セグメントが限定されておらず、“広く網羅的な”情報発信が行われている。このため、多くのユーザーにとってほかセグメント向けの自分に関係ない情報が頻繁に配信されるアカウントになってしまっている。

また、ユーザーのセグメントが広範であることから、本来セグメント別に反応傾向が分かれる配信情報へのタップ数等のレスポンスを次の配信に活かせないデメリットがある。これらの問題を避けるために、当市では予め対象となるセグメントを妊娠から乳幼児のいる保護者に限定した。

2. 会議体によるアカウント運用と明確な配信ルール

配信の品質・頻度を維持する目的から、情報配信を担当課任せにするのではなく、「ターゲットへ補足して伝えるべき情報は何か?また、逆に省略すべき情報はないか?」「どのように伝えれば関心を持ってもらえるか?」などを専門のチームで検討するスキームでアカウントを運用している。

また、「離乳食教室は毎月の開催前に、月2回の告知を行う(予約状況が満員に近い場合は1回のみ)」「告知記事・カードは、対象者、日程を簡潔に提示する」といったUI/UXを考慮した内部ルールにもとづき配信している。

3. 最適なUI/UXの検証

●その1:見て2秒で分かる配信
情報は文章を発信する「文章型」ではなく、デザイン上の自由度の高い「カード型」で配信。キーとなるメッセージを強調するデザインとタップ先で確認できる詳細情報の削ぎ落しにより、見て2秒でおおよその内容が把握できる配信を実現している。

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“
 

●その2:動画でのサービス案内
テキスト・画像よりも動画を用いた方が伝わりやすい情報は、既存の市SNSチャンネル(YouTube・Instagram)を活用してこれを発信した。

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“ 乳幼児の身長・体重測定・育児相談等ができる「ほっこ相談室」の利用案内動画(右)と、当該動画に誘導するLINEカード(左)。
利用方法のほか利用の様子を動画で示すことによって、利用への心理的なハードルを下げた。動画はYouTube・Instagramアカウントで配信(右画像はYouTube)。

4. 変化に柔軟に対応できる、持続可能なアーキテクチャ

子育て関係サービスのオンライン化に際してはフォームをLINE社の提供するものと別のサービスで構築した。これにより将来的な業者によるサービスの囲い込み(ベンダーロックイン)のリスクを避け、LINE以外のメディアが主流化した際にも柔軟に移行できる仕組みを整えた。

取り組みの効果・費用

この取り組みはLINEの無料版サービスの範囲内で全て実施しており、費用ゼロで達成。

令和4年7月のアカウント開設から約2年間でフォロワー数は2,914人にまで増(グラフ①参照)。ブロック率は14%(410人)にとどまる。(令和6年4月30日現在)

LINEデザイン会議での取り組みを通じ、相手の関心を喚起し行動を促す伝え方と、そのことを考えるクセが職員に身についた。

また、発信へのタップ数など、ターゲットの反応をチーム全体で定期的に確認することを通して、エビデンスに基づいてサービスが構築・展開されるようになった。
 

妊娠から乳幼児のいる保護者に寄り添う “北上市子育てLINE“

取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)

対象セグメントの限定の必要性について庁内・議会の理解を得るのに苦労した。情報は“広く・網羅的に”発信すべきという旧来的な考え方が多数派であり、こうした考えの何が誤っているのか、それを避けることで何を得られるのかを説明した。

今後の予定・構想

本LINEアカウントのフォロワーである「妊娠から乳幼児のいる保護者」は常に入れ替わっていることから、過去に配信した情報を遡って定期的に配信する必要がある。このことを考慮に入れ、
・ルーティンとして配信する情報を予め年間スケジュールに盛り込み
・随時発生するニーズやイベントごとに関する情報を都度配信していくこととしたい

また、UIのブラッシュアップの内、メッセージ文章の修正作業は、メッセージを障がいのある方にも分かりやすい日本語、外国語訳しやすい日本語に近づける作業であることから、将来的なアクセシビリティの向上につなげていきたい。

他団体へのアドバイス

LINEは無料で運用できるほか、ほかのメディアにはない即時性や注意を喚起する力のある費用対効果の高い活用を強く勧められる広報ツールです。これまで述べてきたとおり、LINEはセグメントを限定することで本来のメディアとしての効果を発揮します。“広く・網羅的に”ではなく“狭く効果的に”情報を配信することで、他自治体でも当市同様の効果をあげることができるはずです。

一見、セグメントを限定することは、デジタルディバイドを抱える層を疎外しているように見えるかもしれません。しかし、効果的なデジタルサービスの実施により、従前のアナログ業務が減り、デジタルディバイドのある高齢層へのサービスにリソースを割くことができ、結果的に全世代に恩恵をもたらすことができます。

 

【北上市公式ホームページ:こんにちは!「子育て世代向け」北上市公式LINEです!】
https://www.city.kitakami.iwate.jp/life/soshikikarasagasu/toshipromotionka/toshibrandsenryakukakari/5/kitakamiiline/23186.html

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