市の魅力や市役所の仕事概要、職員として求める人物像などを楽しく紹介する採用PR動画を制作した滋賀県長浜市。
公務員の採用PR動画としては全国初となる“ヘビーメタル”を楽曲に使用し、作詞・作曲、動画撮影・編集全てを「職員の手づくり」で実施したという。YouTubeへの動画公開後、わずか3日間で再生回数は1万回を突破し、全国で注目を浴びた。また、翌年度の職員採用試験(一般事務職)の受験者数は約1.8倍と大きく伸び、V字回復を達成した同市の取り組みの詳細を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2022」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
背景・目的
まちの魅力を発信し、地域の発展に貢献する地方公務員は、就職を控える学生等に根強い人気がある一方で、近年(コロナ禍前)の民間企業の人気の高まりにより、長浜市職員を目指す受験者は年々減少傾向にありました。一般事務職の第一次試験受験者の人数は、平成27年度の実施分から階段を下るように毎年減少し、令和元年度は過去最低となる75人まで減少しました。
このままでは優秀な人材の確保が困難となるため、長浜市の地域の魅力や長浜市職員として働くことのやりがい等を、分かりやすく楽しく伝え、職員採用試験の受験者の大幅アップと優秀な人材を確保することを目的に、採用PR動画の制作に取り組むこととしました。
取り組み事例
「全国初のヘビーメタル採用PR動画で受験者数がV字回復!」
長浜市ホームページ | 職員採用PRミュージックビデオ(We Want Ones-長浜市役所で働こう-)
関連記事 | 公務員のイメージを180度変える“ヘビーメタル採用PR動画”で受験者増!
取り組み期間
令和元年7月~令和元年10月
取り組みの内容
若い世代を中心に人気があり、一般的に広く親しまれている動画コンテンツを活用すれば広くPRできると考え、動画を制作することとしました。しかしながら、動画制作に必要な予算はなく、人事課で動画を制作したこともありませんでした。そこで、若手職員の斬新なアイデアがあれば、予算がゼロでも動画は作れると確信していたため、市役所内の若手職員を対象に、PR動画制作チームの参画を呼びかけることとしました。
集まったメンバーは、動画編集や作曲ができる職員、動画コンテンツを熟知しアイドルの曲の振り付けを完璧に覚え、動画サイトに投稿している職員、フットワークが軽く主体的に行動してくれる職員の3人でした。人事課 担当職員を含め4人の職員でPR動画制作チームを結成し、制作に向けた検討がスタートしました。
制作にあたって「ほかの自治体等ですでに制作されている採用PR動画とは異なるものにする」「“長浜市らしさ”が表現できる動画にする」「動画の時間はカップラーメンが食べられる3分以内」を目標にして、メンバー同士で協議検討を重ねるとともに、動画撮影やPR素材の収集等を行いました。令和元年7月にチームを結成し、5回の協議や撮影等を経て、同年10月上旬に動画が完成しました。
採用PR動画はこちら | 長浜市公式MV 『We Want Ones-長浜市役所で働こう-』(職員採用PRソング)
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
若い職員が集まってアイデアを出していくと、どうしても若手職員だけが出演する動画になってしまい、少し物足りなさを感じていました。制作チームのメンバーから「若手職員だけでなく、年配の先輩にも出演してもらった方が、動画も引き締まるし、“長浜市がつくった動画”らしくなりませんか」と提案がありました。
長浜市の組織内には、「〇〇したい」と上司に提案すれば、取り組みを応援してくれる職場風土があったため、部長・課長クラスの先輩に出演をお願いしたところ、快く引き受けてくれました。出演を引き受けたものの、まさか先輩自身も「ジョジョ立ち」をするとは思っていなかったようですが、ノリノリで写真撮影に応じてくれました(笑)。後輩の熱意を受け止めて、理解や協力が得られたことは本当にうれしかったです。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
完成した動画は、公務員の採用PRとしては全国で初めてとなる、公務員に対する一般的なイメージとは真逆の「ヘビーメタル」を楽曲に使用し、“シャウト”で「ながはま」と叫び、冒頭スタートからのインパクトを与え、長浜市の位置、国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産に登録された長浜曳山まつり、ユネスコ世界の記憶に登録された雨森芳洲をはじめ、多くの観光客が訪れる長浜市内の有名観光スポットを紹介し、地域の魅力をPRしました。
また、動画制作に協力してくれた職員による「ジョジョ立ち」(人気コミック“ジョジョの奇妙な冒険”を参照)を披露したり、長浜市役所が求める人材を「ながはまし」の頭文字から始まるキーワードで紹介したりするなど、話題となりそうな要素を詰められるだけ盛りだくさんに詰めました。さらに曲の間奏では、長浜市内にある多くの美しい風景(インスタ映えスポット)の静止画15枚分をリズムに合わせてテンポよく紹介し、長浜市の魅力と、職員として働くことの魅力を同時に表現した動画となりました。
効果・費用
動画制作の費用は0円です(作詞・作曲、動画撮影・編集全て職員の手づくり)。
動画公開後、NHKのWEBニュースや、日本テレビ「ZIP!」、関西テレビ「報道ランナー」で紹介されるとともに、「月刊広報会議2月号」、ご当地雑誌「これでいいのか滋賀」に掲載され、広く注目をいただきました。また、Twitterでは「長浜市引っ越そうかな」「長浜市の職員募集の動画なのに、なぜか長浜観光に行きたくなるね(笑)」などといったコメントも寄せられ、大きな反響をいただくことができました。
また、東京、新潟、宮崎、鹿児島など遠方からの出身者など、全国各地から長浜市の採用試験を受験する学生が増えたことや、受験者から提出されたエントリーシートには「長浜市には何事にも挑戦できる土壌があると感じた」「他市とは違う職員採用PR動画に魅力を感じた」「変化に対する積極的な長浜市職員の姿勢に魅力を感じた」など、長浜市職員として働くことを強く熱望する受験者が集まり、翌年度の長浜市職員採用試験(一般事務職)の受験者は約1.8倍に増加(75人→132人)し、V字回復を達成することができました。
今後の予定・構想
動画コンテンツをはじめとするデジタル技術の活用によって、これまでアプローチが難しかった遠方の学生にもPRすることが可能となったため、これからも新しい動画の制作に取り組みながら、長浜市の魅力や長浜市職員として働くことの楽しさ等をお伝えしていきたいと考えています。
他団体へのアドバイス
デジタル技術の活用は、今後ますます必要になると思います。文章だけでなく、映像の方がイメージしやすく興味も持ちやすいですし、今は本当に気軽に動画が作れます。数人でも職員が集まればアイデアはどんどん出てきます。ぜひ”わがまちオリジナル“の動画を制作して、イノベーションを生み出しましょう!