コロナ禍で生活困窮者が全国的に増えている。茨城県の南部に位置する人口約7万6,000人の龍ケ崎市も例外ではない。市民の生活を支えるべく、県内初の「無料職業紹介事業所」をわずか3カ月で立ち上げた、同市生活支援課の寺田さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.17(2021年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
茨城県龍ケ崎市 福祉部 生活支援課
「龍ケ崎市 無料職業紹介事業所」職業紹介責任者
寺田 遼 さん(入庁7年目)
寺田さんは令和3年4月に茨城県で初めて無料職業紹介事業所を開設した。対象は生活困窮者や生活保護を受給している龍ケ崎市民。9月末までに集めた求人票は80件を超え、求職登録者は30代から70代の16人、うち2人はすでに仕事が決まったという。この取り組みによって、寺田さんは「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2021」でジチタイワークス賞を受賞した。
市民の切実な声を知る。
私が地元・龍ケ崎市の職員になったのは、健康福祉分野の仕事に携わりたかったからです。大学院時代、医学系研究科で薬の評価について研究する傍ら、子ども食堂でボランティアをしたことがきっかけ。その場所で様々な事情を抱える人々の存在を知り、民間企業ではなく公務員として、人々の健康や福祉に関わる仕事がしたいと思うようになりました。
入庁から2年は保険年金、次の3年は防災の担当を経て、令和2年4月に今の生活支援課に異動してきました。例年、生活困窮者からの相談は年間30件程度でしたが、令和2年度は約450件に激増。というのも、新型コロナウイルス感染症の影響で、仕事を失い困っているケースが多かったのです。異動当初は事務職という立場でしたが、課には自立相談支援員が1人しかいなかったため、私も急きょ、窓口で相談業務にあたることになりました。
職を求めている人にはハローワークを紹介するものの、すでに人が殺到していて受付すらままならないと、相談者が市役所に戻ってきます。生活を立て直すにはまず職が必要ですが、私にはどうにもできない状況に、もどかしさが募っていました。
学び、実践する姿勢が重要。
窓口には日々、様々な相談が寄せられます。それらの相談にしっかり乗るため、「自立相談支援員」「家計改善支援員」「就労支援員」の資格を取ることにしました。業務と並行し、令和2年9月から半年間で県と国の研修を約50時間受講。その中でたまたま、自治体で職業紹介ができる制度の存在を知り、これだ!と思いました。それが今年の1月初旬のことです。
研修では仕組みや立ち上げ方などは説明されなかったため、全て自分で調べました。報告書をまとめて2月初旬に部長決裁を取った上で、組織規則の素案をつくり、法規担当と交渉。同月末には「職業紹介責任者」の資格を取りに東京へ行き、3月に入ると国への申請のため、茨城県労働局と調整。4月1日付で任命書をもらって、事業所の開設にこぎつけました。
少しずつ認知が広まり、これまでに2人の仕事が決まりました。求人票をいただいたとき、採用が決まったときは喜びもひとしお。目下の課題は、求人票と採用実績を増やすことと、部下の育成です。この1年、ほかの業務もあって目のまわる忙しさですが、これからも市民の声を傾聴し、問題を捉え、解決のための学びと実践を大切にしていきます。