
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、愛媛県宇和島市の「宇和島城での特別体験型NFTの販売を通した官民協業事例」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
NFT(非代替性トークン)は暗号資産(仮想通貨)などと同様にブロックチェーン上で発行および取引される技術であり、この技術を活かして宇和島城での特別体験NFTを販売し、購入者(保有者)限定の特別体験特典を提供する新しい取り組み。
宇和島市とKDDI社が連携し、令和5年度から地域共創を目指して官民協働でプロジェクトを推進した。
出典:KDDI株式会社
背景・目的
地域社会の抱える課題に向き合い、地域共創を実現するというテーマのもと、KDDI社からNFTを活用した地域共創の提案があったことから取り組みが始まった。
出典:KDDI株式会社
KDDI社がNFTを活用した地域共創の目指したい姿は、「NFTの購入を契機に、地域への来訪を促し、地域ファンとなるきっかけを提供する」ことであり、本プロジェクトの推進にあたり、KDDI社のマンパワーや、組織的なバックアップ、ノウハウや知見、パートナーの紹介等をいただき、市と連携し、地域共創を目指した。
●課題とテーマ設定
市では豊富な観光資源や食資源を持ちながら、人材・発信力不足によりその魅力を全国に伝えられていないという課題があった。とりわけ、宇和島のシンボルである「宇和島城」の来訪者数増加は様々なチャンネルを用いて仕かけていきたいというスタンスであり、その中で、まだまだ全国的に取り組みの少ない、NFTの販売スキームを活用することで、NFTの購買層へアプローチすることが可能であるといった背景から、NFT購買者をお城への実際の来訪へつなげることをテーマとして設定した。
NFT購入者には宇和島城に関連するリアル来訪特典を付与するが、市での特別な体験を通じた来訪体験の創出により、関係人口化のきっかけともしたい、ねらいをもたせた。
また、体験型NFTには電子チケットとは違ったユーザーメリットも有しているため、最先端技術のノウハウの取得を含め、市の今後の施策への展開可能性の視点からも、実証実験として行うこととした。
出典:KDDI株式会社
●全国的にも珍しい取り組み
お城にまつわるリアル来訪特典付きNFTの販売は全国的に見ても珍しい取り組みといえるだろう。近しいテーマの過去事例が他自治体であり、全国初という表現は控えてるが、お城×体験NFTという点で、しっかり体験プランまで立てた事例は確認できておらず、全国的に見ても大変珍しい取り組みとなっている。
■近しいテーマ事例
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000074.000012092.html
愛知県犬山市と株式会社バケットが地域活性化を目的とした協定を締結。国宝・犬山城を起点に、NFTを活用した「犬山市デジタル城下町プロジェクト」を展開へ。
取り組みの具体的内容
市で取り組んだ概要としては、①マス向け(お城ファン)に刺さりやすいオリジナル企画のNFTを一般販売し、宇和島城関連のリアル来訪特典を付与することで、来訪者の増加を目指すこと。
②NFT界隈で人気のあるNFTアート“MetaSamurai”とコラボした宇和島独自アートを作成、一般販売し、リアル来訪特典を付与するといったマス向け(お城ファン)とNFT界隈への2面アプローチを実施し、宇和島城の認知を高めることを目指した。
●NFTの販売者
大きく分けて2社のNFT企画で販売。
①KDDI社はαUで販売する体験を軸としたNFTを扱い販売。
②1sec社はMetaSamuraiとコラボしたNFTを以下の2パターンで販売。
1.ECサイトにて先行販売 50個
2.Mintサイトにて第2弾販売 147個 ※暗号資産に限る
② MetaSamurai ラインナップ例
出典:株式会社1sec、KDDI株式会社
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
●リアル来訪特典
リアル来訪特典は普段経験できない特別な体験を提供することを目指し、市文化・スポーツ課、宇和島市観光物産協会とも連携し、特典を検討した。特に、職員の負担増を避けるため、既存の取り組みをベースとして選定した点を工夫したポイントとして挙げておきたい。
・特別甲冑を着用してお城まつりに参加
市の一大イベントとして行われる「伊達な宇和島お城まつり」。その中でも、初代藩主伊達秀宗公とその家臣団が、仙台から宇和島に入部した様子を再現する「伊達57騎大武者行列」において、特別甲冑にて参加する権利を特典として設定した。
特別甲冑とは豊臣秀吉モデルの甲冑と伊達政宗モデルの甲冑であり、前者は藩主秀宗が豊臣秀吉の養子となり京都で過ごした縁があり、後者は言わずと知れた実の父である東北の雄であり、それぞれストーリー性も有した特別甲冑であり、宇和島をより訴求することを狙った。
この二つの甲冑は普段は宇和島城に展示するのみで、近年活用されていなかったことから、イベント開催に合わせて特別体験として設定することで、職員の大きな負荷が少ないメリットがあり、所管する市文化・スポーツ課の許可により特別体験の提供が可能となった。既存のイベント側にとっても、特別感を演出することができ、相乗効果も期待できる特典となった。
・夜間開城ガイド付きツアー
宇和島城は通常夜18:00に閉場するため、夜間に入城することはできない。過去お月見会などで限定的に行ったイベントを焼き直し、その特別感と学芸員によるガイドを付加し特典として設定し、所管する市文化・スポーツ課の許可により特別体験の提供が可能となった。
・お城インスタグラマーの現地ツアー参加権
全国的に知名度の高いお城インスタグラマーによる宇和島城現地ツアーを特典として設定した。こちらは、KDDI社のコミュニティーを活かした手配により提供が可能となった。
・その他
その他、大名庭園として名高い天赦園でのお茶会や甲冑着付け体験など、普段は体験できない特典を設定した。
出典:KDDI株式会社
●NFTの価格設定
KDDI社が販売するそれぞれのNFT(A~E)は付与される特典ごとに値段が異なる。特別甲冑体験を含むA1/A2については、100,000円といった具合いだ。
この値段の設定については、含まれる体験の原価を反映させている。つまり、ツアーに必要な経費は全てNFT代金に転嫁する形で値段設定を行った。うまく販売が軌道に乗れば継続性を担保できるが、一方でユーザーに対して、値ごろ感がかけ離れてしまうと、販売時に見向きもされないこととなってしまいかねないため、その点については、事前にアンケートを実施し、価格設定を行った。
◆ポイント
・既存のイベントに特別枠の参加権を付与。
・既存イベント側の特別感向上にも貢献。
・夜間開城やお茶会など既存コンテンツを活用し、新たな労務負荷を抑制。
・ツアーに必要な経費は全てNFT代金に転嫁する形で値段設定を実施。
・アンケートも取りながら適正な価格感を調査。
取り組みの効果・費用
●プロモーションと効果
具体的に行ったプロモーションとしては企画初期から攻城団というお城好きユーザー(コアターゲット)が集う媒体へアプローチし、メルマガやHPでの従来的な手法に加え、YouTubeでのLIVE配信による訴求という新しい試みを行った。
LIVE配信で企画背景や魅力を発信し視聴者の熱量を高め、同時にNFT購入方法も視聴者とコミュニケーションを取りながら解説をすることで購入の心理的ハードルを下げることに一定の成果を得られた。
●取り組みに要した費用
KDDI社は今回のNFTの販売者となり、来訪特典に係る経費を全額負担した。KDDI社は来訪特典を調達する、株式会社うわじま産業振興公社と契約を取り交わし、事業を進めた。
委託料 1,806,556円
なお、KDDI社のNFTの売上額はKDDI社の負担額と相殺し、同公社に入金するスキームとした。
●効果額
令和6年5月末時点における販売数は以下の通り。
◆KDDI販売分=特別体験数
B体験 宇和島城夜間開城:2点
C体験 お城インスタグラマー「KAORI」さんリアルツアー:10点
D体験 お城インスタグラマー「KAORI」さんオンラインツアー:3点
売上合計 329,700円
◆1sec販売分
MetaSamurai 1次2次合わせて55点
売上合計 非開示
特別体験数
B体験 宇和島城夜間開城:1点
E体験 甲冑着付け体験:33点
※1sec社販売に付与するリアル来訪特典についてもKDDI社が負担。
体験付与方法
・MetaSamurai購入者(先行販売):2つセット購入した方から抽選で1名様に付与。
・MetaSamurai購入者(二次販売):予約フォームURLから、特典の体験希望を申請し、希望者の中から、購入数に応じて特典を付与。
◎合計
B体験 宇和島城夜間開城:3点
C体験 お城インスタグラマー「KAORI」さんリアルツアー:10点
D体験 お城インスタグラマー「KAORI」さんオンラインツアー:3点
E体験 甲冑着付け体験:33点
出典:KDDI株式会社
販売数 0点 2点 10点 3点 <55点>
特別体験数 0点 2点 10点 3点 1点 33点
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
●基本的な役割分担
KDDI社:画全般のマネジメント
市・宇和島市産業振興公社:NFTデザインチェック、関連画像の手配・提供、特典の提供にかかる企画、実行、情報発信
●NFTに対する理解
NFT企画を進める上で難しかったのは、新しい取組みにはつきものではあるが、「NFTとは何か」、という点から説明が必要であった点が挙げられるが、この点に関しては、実証実験の段階であり、市にまとまった経費の支出が必要なかったことから、宇和島城への来訪増加の取組みの手段として「NFT」という技術を扱うということで理解が得られた。
なお、いずれにしても、この「NFTを市場で販売する」といった仕組みの部分は民間企業の知見、ノウハウに頼らざるを得ないため、そこは民間との分業という整理とし、市としては、来訪特典に要する事務や経費の支出という役割分担を明確にすることで、克服することができた。
●協業するための環境整備
民間事業者と協業する上で、さらに遠隔地でのプロジェクトを円滑に進めるには共通のツールの使用が求められた。まずタスク管理として「バックログ」というツールの使用提案があり、ファイルの共有や事業進捗状況の管理をインターネット上で行うツールの使用により、関係者間での情報共有の下地が整った。
<バックログ>
次に、オンライン会議を行う環境はすでに有していたものの、リモート会議は遠隔地での会議が可能となる点において、優れているが、メンバーが一堂に会する日を頻繁に設定することは難しい。リモート会議をしようにも、実際には会議室を押さえないとできないのが、市の現状である。
また、メールでは同報利用は可能であるが、基本的には1対1のやり取りとなってしまう。そのような中、LGWAN・インターネット双方からやり取りが可能なビジネスチャットツールを使用することで、日々の打ち合わせや連絡事項をスムーズに進める基盤を整えることができた。
<ロゴチャット>
なお、職場のパソコンがノートパソコンとなり、R5年度から完全無線化されていることも、大きな要因であった。資料を紙に打ち出し、大量の資料を会議室に持込み、また資料を印刷しファイリングするといった手間が無くなった点は、事務効率化に大きく寄与している。
●特典の体験方法
NFT購入後、購入者から特典の体験申し込みを受け付けるための、予約フォームの作成が必要であり、それも購入種別ごとの予約フォームの作成であったり、申し込み状況の管理などに手間とマンパワーを要した。
また、実体験時において、雨天の場合は体験が中止となるものもあるため、購入者に対する注意喚起をあらかじめ行うなどの配慮を要した。
今後の予定・構想
今回市における成果の検証等が終わっていない段階であるため、今後の展開や、将来的な構想への言及は難しいところであるが、愛媛県内には宇和島城の他、現存天守松山城、復元天守今治城、大洲城の4城が存在しており、このNFT企画の来訪特典を工夫することで、4城周遊といった県内横展開や、全国の現存12天守や100名城など、お城をフックとした全国横展開も可能性としては考えられるところ。まずは先行者として、十分な成果検証を行い、今後に向けKDDI社とも十分な意見交換を行っていきたい。
他団体へのアドバイス
●特別体験NFTについて
NFTの仕組みを取り入れたねらいとしては、購入を契機に、地域への来訪を促し、地域のファンとなるきっかけを提供したいと考えたためである。コピーが可能なデジタルな世界において、NFTを利用することで唯一無二である事を証明できるようになった。デジタルアートをはじめ、ゲーム、音楽、スポーツ、今回のようなコト体験など、様々な分野で使われ始めており、他団体においても、このような取組みが、新しい地域共生のチャンスを生み出す可能性をもっていることについて、認識いただければ幸いである。
●官民協業について
現在の地方行政は、慢性的な人材不足に悩まされ、通常業務をこなすことで精いっぱいで、新しい企画やアイデアが出にくい環境に悩まされている方もいらっしゃるのではないか。
かくいう、当市においても、同様の課題を抱えているところ。しかしながら、今回のように、民間の知恵やノウハウをお借りし、同じ課題に同じ目線で向き合って行くスタイルをとることができれば、より幅広く有機的な仕事ができるのではないかと思料する。
以前参加した研修では、「その市の担当の限界=その市の限界」といった警告が打ち鳴らされていた。民間との協業は行政サービスを維持する上でも、発展させる上でも重要な視点であると考えている。それぞれの団体で抱える課題は違うと思うが、今回宇和島においても様々な課題を抱える中、宇和島城への来訪増加という一つの切り口をテーマに定めたにすぎない。大切なことは課題に対して、横のつながり、組織を超えたつながりで向き合って行けるかではないだろうか。
【宇和島市:宇和島市の関係人口創出を目指すNFT企画第1弾を開始】
https://www.city.uwajima.ehime.jp/soshiki/22/oshironft.html