ジチタイワークス

鳥取県智頭町

【行革甲子園2024】みんながみんなを支える持続可能な交通体系の構築「智頭の新しい交通の形 ~共助交通導入に向けて~」

全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。今回はその中から、鳥取県智頭町の「みんながみんなを支える持続可能な交通体系の構築『智頭の新しい交通の形 ~共助交通導入に向けて~』」を紹介する。

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

取り組み概要

公共交通の現状把握や交通課題などを洗い出し、智頭町ならではの交通体系を構築するべく智頭町地域公共交通計画を策定したことを皮切りに、計画の基本理念である「すべての人に寄り添える持続可能な交通体系の構築」に向けて動き出す。

従来の行政・交通事業者による交通体系の維持が困難になる中で、自分たちの地域は自分たちで守るといった住民自治意識のもと、地域の交通維持・確保に向け、「行政」「交通事業者」「住民」の三位一体の交通改革として、AIデマンドシステムを活用した「共助交通」の導入に取り組んだ。

背景・目的

<背景>

智頭町は鳥取県南東部に位置する過疎・高齢化が進む典型的な中山間地域であり、町面積の93%が森林に覆われた町である。町内の交通手段として、平成19年から、町民バス「すぎっ子バス」を導入して住民の交通手段の確保に取り組んでいたものの、利用者は高齢者、児童・生徒、一部の観光客に限定されており、時間帯によっては利用者がいないなど非効率な運行を実施していた。

また、本町の地理的特徴として、平地が少なく4つの大きな谷に分かれており、各谷の幹線道路しかバスの運行ができないため、細部への交通が行き届かず、バス停が自宅から離れている交通弱者(高齢者等)にとって公共交通を利用しづらい環境となっていた。

近年は公共交通利用者も減少傾向にある一方、バス運行やタクシー助成に対する公的資金投入額は増加傾向にあるなど、町財政を圧迫する状況が続いることに併せ、交通事業者のドライバーの高齢化や担い手不足など地域交通を取り巻く環境は厳しさを増していた。

<目的>

自家用車に依存した生活スタイルの多様化や人口減少によるバス利用者の減少も懸念されており、町民が安心して利用できる生活交通の確保に向けた見直しが必要となってきた。

高齢化が進む中で、町民の生活を支える基盤として、よりよい公共交通の重要性はますます高まっていく中で、公共交通の確保とともに、町民のニーズに対応した利便性の確保として、地域住民が運営するデマンド輸送を中心とした新たな交通体系の構築の実現を目指す。

①運行ルートや車両の最適化による運行効率化

町内では、人口減少やマイカー依存により、公共交通利用者そのものが減少傾向にあり、持続可能な公共交通サービスの提供や、環境に配慮した社会を実現するためにも、運行ルートの最適化や需要に応じた規模の車両での運行などによる運行効率化が必要。

②持続可能な交通体系の構築

交通事業者の担い手不足が問題となっていることから、交通事業者・行政・住民自治組織などの関係主体連携による人材の確保・発掘や、持続可能な運営体制の構築が必要。

③公共交通を利用しにくい集落の解消

小型の車両で集落の中まで運行すること等により、公共交通を利用しにくい地域をできる限り解消することが必要。

④公的資金投入額の圧縮

現在の運行形態に要する費用を圧縮し、財政負担を軽減する。

取り組みの具体的内容

【取り組み①:運営組織の発足、住民ドライバーの確保】

様々な地域の交通課題を洗い出していく中で、今後町内の交通体系の維持・確保を進めるうえでは、交通事業者・行政だけでの対応は困難な状況であるため、住民の力を借りる共助交通の導入を検討。

令和元年度に策定した智頭町地域公共交通計画の基本理念である「すべての人に寄り添える持続可能な交通体系の構築」を実現するため、共助による交通組織「智頭町共助交通運営協議会」を発足し、自家用有償旅客運送者登録を受け、住民ドライバーを活用した共助交通を確立。

【取り組み②:地域情報×交通を掛け合わせた交通DX】

平成21年度に地域情報化推進事業として町内全戸に整備したIP告知端末のリプレイスを実施するにあたり、汎用性の高いクラウド型のIP告知端末を導入し、専用の配車予約アプリを構築。

当アプリは他ベンダーのAIデマンドシステムと外部連携させる仕組みで、ネット環境のない高齢者世帯でも自宅に居ながら配車予約ができる仕組みとなっている。

【取り組み③:3年間にわたる実証実験の実施】

AIデマンドシステムを活用した新たな交通体系を構築するにあたり、段階的な実証実験を実施し、課題の検証やブラッシュアップを行う。
◆令和2年度:IP告知端末とAIデマンドシステムの外部連携の検証。
◆令和3年度:IP告知端末のリプレイスも踏まえ、モデル地区を選定したうえでの実証実験のほか、共助交通本格導入に向けた利用者へのアンケート調査の実施。
◆令和4年度:智頭町全域及び冬季での実証実験による課題抽出・検証。

【取り組み④:公共交通を利用しにくい集落の解消】

住民ドライバーが所有する自家用車(小型車両)を活用することで、従来の大型バスでは輸送できなかった集落の中までの運行を可能とした。また、乗降ポイントを町内に多数設置することで、既存のバス停から離れた世帯もより利用しやすい環境を構築した。

上記取り組みを経て、令和5年度より本格運行を開始し、町内の重要な交通手段となっている。

〇智頭町AI乗合タクシー「のりりん」(共助交通)の概要

〇AI乗合タクシー「のりりん」システム概要図

特徴

【特徴①:IP告知端末とAIデマンドシステムの外部連携】

高齢化率の高い本町において、インターネット環境のない高齢者世帯も多数あるなか、令和3年度にクラウド型IP告知端末をリプレイスし、専用の配車予約アプリを構築。これによりネット環境のない各世帯からも予約できる仕組みを実装。

【特徴②:AIデマンドシステムの活用】

AIデマンドシステムを活用することで、配車状況の可視化や乗合効率を高めた運行の効率化を実現。これまでの定時亭路線型運行とは異なり、利用者の希望する時間帯での予約が可能となり、待ち時間が少ないのが大きな成果と言える。また、各ドライバーに貸与しているタブレットのGPS情報を通じて、車両の位置情報も特定できるため、迎車忘れ・運行遅延等の防止にもつながっている。

<GPSによる車両の位置情報>                                          <各ドライバーシフトの配車状況>

【特徴③:運行管理のアウトソーシング】

実証実験を通じてドライバーのシフト管理の負担が大きいことに併せ、日々の業務日誌の作成や専門的な知見を有する人材の確保が難しいなどの課題が浮き彫りとなった。
その中で、新たなサービス展開(運行管理業務)に向けフィールドを模索していた業者と、双方の目指すべき方向性が一致し、協力体制を構築。IT技術を活用した遠隔点呼やドライバーのシフト作成等、運行管理業務をアウトソーシングすることで、運営側の事務の負担軽減につながっている。

【特徴④:住民ドライバー・住民所有車両の活用】

狭隘な道路が多い地域において、大型バスによる輸送には限界があった。共助交通の導入は本町に限らず様々な地域で取り組まれているが、フレキシブルな運行可能にするため、住民ドライバーの協力体制を募り、かつ住民車両(小型車両)を活用する試みは全国的にも珍しい事例となっている。

また、住民ドライバーに対する補助制度を充実させ、共助交通に参画しやすい体制を整備している。
(例:ドライバー登録にかかる奨励金、輸送実績(運行距離)に応じた補助制度等)

取り組みの効果・費用

【取り組みの効果:利用状況等】

令和5年度より本格運行を開始した共助交通「のりりん」は、開始当初1,600人/月程度の利用であったものの、5月以降大幅に利用が増加し、現在は平均2,300人/月の安定した利用となっており、利用者からも「待ち時間が少ない」、「行きたいところに直接連れて行ってもらえる」など喜びの声をいただいている。

また、年間の利用人数や運行収入について、従来の町営バス「すぎっ子バス」と比較しても利用人数・運行収入共に大きく上回る結果となっており、順調な滑り出しとなっている。

これまでの説明会開催や、実証実験への参加呼び掛けが功を奏していると思われる。

 ※町営バス「すぎっ子バス」は令和5年度よりスクールバス化、AI乗合タクシーは令和5年度より有償運行開始

【取り組みの効果:事業費】

令和5年度、共助交通「のりりん」本格導入にあたっての事業費:約55,000千円に対し、令和4年度の町営バス「すぎっ子バス」運行経費とタクシー助成事業費合計は約53,000千円となっており、単純比較すれば共助交通事業費の方が高い結果となるが、運行収入を加味すれば共助交通事業費の方が安価となっている。

また、令和5年度については、コールセンター環境整備やUDタクシーの譲受に約12,000千円投じており、イニシャルコストを除くランニングコストは約43,000千円となるため、今後この事業費がベースになることから公的資金投入額の圧縮につながっていくことが予想される。

取り組みを進めていく中での課題・問題点

〇全集落を対象とした事前説明会の開催、実証実験への参画呼び掛け

バスやタクシーに替わる新しい交通の形である「共助交通」の導入は、本町にとって抜本的な交通改革であり、町民にとって既存交通がなくなり、「共助交通」へ移行するという内容は大きな衝撃と不安を与えたと思われる。

その不安を払拭するためにも、本町が抱える公共交通の現状と問題点を町民に広く周知する必要があり、非効率な運行となっている町民バス「すぎっ子バス」の運営・利用状況やタクシー事業者の撤退意向、また財政負担がひっ迫している状況を伝えるなど、なぜ今このタイミングで「共助交通」を導入するのか等、本町を取り巻く厳しい交通事情を知っていただくことがかなり苦労した点である。
(※最終的に町内全集落(88集落)を対象にした説明会を2回開催し、共助交通導入に向けてのコンセンサスを取る。)

また、高齢者等を対象にしたIP告知端末の操作方法(予約方法)説明会や事前の利用登録を促すなど、本格導入へのスムーズな移行を促すため、実証実験への参画を呼び掛け、令和5年度の共助交通本格運行へ結びつけた。

〇IT技術の連携(IP告知端末×AIデマンドシステム)

これまでの定時定路線型運行の町営バスやタクシーは運行便数や車両が少なく、待ち時間が長いなど利用者にとって不便を強いられていた。住民や利用者のニーズを踏まえ、公共交通のサービスを改善・向上を図るため、IP告知端末とAIデマンドシステムの連携による交通DXに取り組むことを検討。

本町の共助交通は町内全戸に貸与しているIP告知端末(行政サービス基盤)を主軸にしており、他ベンダーが提供するAIデマンドシステムと連携できるかが大きなカギであった。

自宅等からIP告知端末を活用して配車予約ができるアプリの構築や、予約内容について個人を識別するための専用管理システム(利用者登録・代理予約機能付与)を構築し、QRコード付き乗車パスポートの発行やAPI連携によるAIデマンドシステムとの紐づけなど、利用者情報を特定できる環境を整備した。
AIデマンドシステムの導入により、AI最適な配車割り当てを行うことで、最小限の車両数で輸送効率の高い配車を実現し、利用者の待ち時間が大幅に削減。

また、町内各所に設定した乗降ポイント間をダイレクトに輸送することが可能となり、バス停から遠い世帯の方の利便性向上につながった。

〇利用手引きの作成

共助交通「のりりん」の利用にあたっての、分かりやすいIP告知端末での予約方法や、Q&A、乗降ポイントを示した利用案内(パンフレット)を作成し、利用しやすい環境整備に努めた。

今後の予定・構想

〇のりりんスマートアプリの構築

現時点では当日予約のみの運用となっているため、今後住民ニーズに対応した予約体制の充実を図らなければならないと感じています。(前日予約等)

また、スマホ普及率も高くなってきていることから、スマホアプリの開発・運用による利用者登録やキャッシュレス決済など、利便性向上に努めなければならない。(観光客などの二次交通対応)

〇データ分析による配車体制の構築、観光客向け「1day Pass」の仕組み導入

1年間の本格運行を経て、蓄積した利用者のログデータの分析が可能となりました。今後は各時間帯や曜日による最適な配車体制の構築や、観光客向けの「1day Pass」の仕組みを検討し、誰もが利用しやすい環境を整えていきたいと考えています。

〇貨客混載事業の導入

消費者のライフスタイルが多様化したことで、配送サービスに期待する価値が上昇する一方で、現在物流事業者が直面するドライバーの高齢化や労働環境の悪化などによる物流人材の不足といった物流2024問題が大きな話題となっています。この問題の解決に向け、「のりりん」の空き時間を利用した貨客混載事業の導入検討を行うなど、人の輸送だけでなく、民間企業と連携した物流のラストワンマイルの実現を調査し、交通と物流の融合によりモノやコト(新たな見守りサービス等)を運ぶことのできる新たな公共として住民サービスの向上を目指します。

他団体へのアドバイス

交通事業者の担い手不足や高齢化、また交通事業者の撤退等、本町のような中山間地域の自治体では同様の悩みを抱えていると思います。地域の交通を確保していくうえで、「交通手段の選択=デマンド交通導入の可否」は大きな検討課題だと思います。

また、システム導入にあたっては、最初から理想の形を追い求めるのではなく、トライ&エラーの繰り返しで地域の実情に応じた交通体系の構築を進めて行くのが良いと思われます。

特に交通弱者と言われる高齢者にとって、より便利で快適な交通手段となるよう配慮が必要と感じています。

運行する側・利用する側にとっても使い勝手のいいものにしていくことが必須条件です。

併せて、高齢者をはじめとしたデジタルデバイドの解消に向け、予約方法・利用方法の説明や利用促進・普及啓発活動を継続して行っていく必要があると感じます。


智頭町ホームページ(智頭町AI乗合タクシー「のりりん」特設ページ)
https://www1.town.chizu.tottori.jp/chizu/kikaku/g163/

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