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自治体に求められる災害対策とは?その必要性と課題、実際の自治体の取り組みについて知ろう

地震や台風、そして水害など、日本では毎年のように自然災害が発生している。また、「令和5年版防災白書」によると、近年は平均気温の上昇などの気候変動の影響もあり、関東大震災が発生した100年前と比較しても自然災害の頻発化、被害の甚大化の傾向があるという。

そこで重要となるのが災害対策だが、大きな被害を防ぐためには、普段からの備えが大事。国だけではなく自治体でも力を入れて取り組むべき課題だ。

自治体の災害対策について改めてその必要性や課題について解説し、実際に対策を行う自治体の事例も紹介するのでぜひ参考にしてほしい。

【目次】
 • 自治体による災害対策はなぜ必要?

 • 自治体による災害対策の課題とは
 • 自治体の災害対策の事例を紹介
 • 必要な災害対策を把握し、積極的に実施しよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

自治体による災害対策はなぜ必要?

自治体による災害対策はなぜ必要?

まずは、自治体の災害対策の必要性を考えてみよう。

1.住民の生活や命を守るため

自治体で災害対策が必要な最大の理由は住民の生活や命を守るためである。「災害対策基本法」(※1)にも、都道府県や市町村の責務として「基本理念にのっとり、当該都道府県(市町村)の地域ならびに当該都道府県の住民の生命、身体および財産を災害から保護する」旨が記載されている。

また、地域の防災組織づくりや住民への防災教育も自治体の重要な責務だ。具体的には、市町村の場合、消防機関や水防団の組織整備や充実、地域住民の自発的な防災活動の促進などである。

※1出典 災害対策基本法

2.弱い立場の人を守るため

住民全体の生活や命を守ることは当然だが、弱い立場の人が存在することも忘れてはならない。最近では「避難所の女性リーダー不在」が原因で、女性や多様な人たちが必要な物資が避難所に届かない、不利益を被ってしまう、といった問題が多く報道されている。

「女性リーダーの育成・配置」など、自治体が率先して、女性や多様な人たちを守るために動くことも求められている。

3.自治体内の経済活動を止めないため

災害が大規模になるほど、自治体内の経済活動が滞る可能性が高くなる。建物・設備の破損や物流機能の停止で地元企業の製品製造や販売活動が止まるだけでなく、避難・移住などでの人材流出もあるためだ。このような事態をなるべく避けるためにも、平常時から災害が発生したらどのように動くべきかを自治体と企業が協力して考えておく必要がある。

関連記事|自治体の防災の取り組みで意識したいポイントは?減災との違いも解説

自治体による災害対策の課題とは

自治体の災害対策の必要性は十分に認識されているが、課題も残されている。よく挙げられる課題を紹介する。

自治体による災害対策の課題とは

1.情報収集や発信が難しい

災害時の情報収集・発信に頭を悩ませる自治体も多い。被災した職員や住民の現状を正しく把握する必要があるが、何らかの理由でそれが難しかったり、デジタルツールを活用しての情報収集および発信をしたくても、対応できる職員がいない、個人情報の取り扱いに懸念がある、という自治体もあるだろう。

実際に災害が起こった場合を想定し、災害対策のDX個人情報の取り扱い方法について早めに検討しておく必要がある。

2.情報伝達の方法が定まっていない

自治体によっては職員間、そして住民への情報伝達の方法が定まっていないという課題もある。特に、電話やインターネット環境が遮断された場合にどうやって情報伝達するのかをしっかり決めておく必要がある。

また、コロナ禍を経て、地域のつながりが希薄化したところも多い。数年間防災訓練が途絶えたことで、住民同士の情報伝達が難しくなったケースもある。地域のつながりを復活させる働きかけも必要である。

3.災害時の働き手不足

災害時の働き手不足に悩む自治体もある。職員は通常業務と並行しながら災害対応を行わないといけないため、過重労働に陥る可能性もある。また、地域によっては少子高齢化や過疎化もあり、ボランティアのなり手が少ない場合もある。

働き手不足を解消するためにも、平常時から職員の災害時マニュアルの整備と必要に応じての見直しをしっかり行うようにしたい。そして、自治体が主体となり、平常時からボランティア組織の育成・運用管理をしていくべきだろう。

自治体の災害対策の事例を紹介

積極的に災害対策を行う「茨城県常総市」「滋賀県」の事例を見てみよう。

【茨城県常総市】マイタイムラインの作成や防災学習の実施

マイタイムラインの作成や防災学習の実施

茨城県常総市は平成27年9月の関東・東北地区豪雨による鬼怒川氾濫で甚大な被害を受けた。この被害を繰り返さないよう自治体を挙げて対策を行っている。特徴的なのが、堤防施設整備、庁舎の入口や非常用電源周辺への止水板や防水壁を設置などのハード面整備だけでなく、「施設の能力で防ぎきれない大洪水は発生するもの」という認識で市民も一丸となって災害対策を行っている点だ。具体的に見ていこう。

1.マイタイムラインの作成

モデル地区住民協力のもと、災害発生時に慌てずに行動できるよう、市民一人ひとりが避難方法を時系列で決めておく「マイタイムライン」作成を進めている。現在では、小学校の授業中に児童たちが「マイタイムライン」を作成したり、外国語版やデジタル版の作成勉強会を実施したりと、その動きは多くの市民に広がっている。

2.避難訓練の実施

災害が発生しても直ちに避難できるよう、避難ルートや避難場所での行動を体験できる取り組みも行われている。

3.防災教育の実施

子どものころから防災の正しい知識を身に付けるために、毎年、市内小・中学校では防災学習や訓練が実施されている。

また、楽しみながら防災について学べる「防災スポーツ」イベントも行われており、市民が日頃から災害対策について考えるきっかけづくりもされている。

【滋賀県】デジタルや女性の力を活用!

デジタルや女性の力を活用!

滋賀県では、デジタルの力、女性の力を活用し、防災力向上に取り組んでいる。取り組み内容を見ていこう。

1.Facebookグループ「しが防災ベース」

Facebookのグループ機能を使い、防災関連情報の発信を行っている。さらに、県の防災に関するプラットフォームとして、情報発信だけでなく、防災に関するアイデアの募集、意見交換なども積極的に行われている。

防災関連情報のアーカイブもチェックできるため、グループに参加していれば、誰もが県の防災に関する最新情報や有益な情報を得られるようになっている。

2.女性の参画による防災力向上

防災対策において、男性だけではなく、女性や多様な人たちの視点を活かすことを目的として、令和元年には「滋賀県女性の参画による防災力向上検討懇話会」が設置された。結果、「防災士養成講座」「防災カフェでの防災への女性参画等に関する講座の実施」「避難所運営女性リーダー等養成講習の開催」や「滋賀県防災会議における女性委員の比率向上」など、女性や多様な人が災害対策に関わる機会も増加している。

また、「滋賀県女性の参画による防災力向上検討懇話会」からは、啓発カード「知っといてカード」、ゲーム形式で防災を考えるカード「どっちにするカード」も誕生している。様々な人の立場で防災について学べるこれらのカードは、県のホームページでも公開されており、誰でも閲覧することが可能だ。(※2)

※2参考 滋賀県ホームページ「『しが防災プラスワン~女性の視点と多様性~』を公開中です!」

デジタルや女性の力を活用!

必要な災害対策を把握し、積極的に実施しよう

自治体で災害対策が必要な理由、そしてその課題について解説した。

自治体の場所や規模、発生しやすい災害によって、求められる災害対策は異なってくる。平常時から災害について話し合う機会を増やし、自分たちの自治体で必要な対策は何かを理解することは必要だろう。

また、「災害ボランティア組織の育成」「女性リーダーの育成」「情報収集・伝達方法の決定」など、他自治体の例から直ちに始めたいことをピックアップし、対応できる職員の配置も早めに検討しておきたい。
 

 

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