防災DXとは、デジタル技術を活用して災害対応の効率化と高度化を図る取り組みのことをいう。日本は世界有数の災害大国であり、地震や台風、豪雨などの自然災害が多発している。
加えて、少子高齢化に伴う自治体の人手不足も深刻化し、従来の防災体制では対応が難しくなってきている。こうした背景から、デジタル技術を駆使した防災DXへの期待が高まっている。
防災DXのメリットは、緊急情報の迅速な伝達や被害状況の的確な把握など多岐にわたる。
本記事では防災DXのメリットや自治体の取り組み事例などを紹介。先進自治体の事例を参考にして、地域の防災力を高めていくことに役立ててほしい。
【目次】
• 防災DXとは?
• 防災DXが注目される背景
• 防災DX導入のメリット
• 国を挙げた防災DXの取り組み
• 防災DXの具体例
• 自治体の防災DXの取り組みを紹介
• これからの防災を考えるとDXは避けられないプロセス
※掲載情報は公開日時点のものです。
防災DXとは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、ビジネスシーンでデジタル技術を活用して競争力を高める取り組みとして注目を集めており、防災においても大きな期待が寄せられている。
また、防災DXとは、防災対策にデジタル技術を取り入れることで、災害対応の効率化と効果的な災害対策を実現する取り組みを指す。なぜ今、防災DXが注目されているのか詳しく見ていこう。
防災DXが注目される背景
【背景その1】日本は災害大国
日本は自然災害が多い国である。平成23年に発生した東日本大震災、令和6年に発生した能登半島地震など、多くの自然災害に見舞われている。
日本列島はフィリピン海プレート、太平洋プレート、北アメリカプレート、ユーラシアプレートの4つのプレートによって形成されており、プレート運動による影響で地震活動や火山活動が活発である。
南海トラフ地震や首都直下型地震などの発生も予想されており、日本に住む限り自然災害を避けることはできない。
【背景その2】自治体職員の人員不足
少子化の影響により、地域の防災を担う自治体では人手不足や財政不足が深刻化している。自然災害が増加する中で、従来の防災体制では対応が追いつかない状況にある。このため、効率的な防災対策が求められている。
世界有数の災害大国であることに加え、少子高齢化による人手不足。こうした背景から、デジタル技術を駆使した防災DXへの期待が高まっている。
防災DX導入のメリット
防災DXの導入には多くのメリットがある。代表的なメリットを紹介しよう。
【メリットその1】緊急情報の伝達により、被害を最小限に防げる
デジタル技術を活用することで、緊急情報を迅速に伝達できる。正確な情報を早く住民に届けることができれば、住民は、すばやく避難行動を取ることができ、被害を最小限に抑えることが可能となるだろう。
【メリットその2】被害状況の情報収集・伝達がスムーズになる
ドローンやAIによる分析などの技術により、被災地の状況をリアルタイムで情報収集することができる。災害対策本部からの指令を迅速に行うことができ、初動対応が適切なものとなる。
【メリットその3】罹災証明書発行など、住民サービスが均一化できる
災害発生後には自治体職員も被災し、窓口業務に遅延が出る。罹災証明書の発行手続きや問い合わせ対応などをデジタル化すれば、住民へのサービス提供が効率化される。災害時の手続きがスムーズになり、被災者の負担が軽減されるだろう。
国を挙げた防災DXの取り組み
政府は、防災分野におけるDXを加速するため、様々な施策を打ち出している。ここでは、国が進める防災DXの主な取り組みを詳しく見ていこう。
令和4年「防災DX官民共創協議会」が発足
令和4年には「防災DX官民共創協議会」が発足した。この協議会は令和6年7月26日時点で、地方公共団体(104団体)と民間事業者(361団体)から構成されている。※1
協議会の主なミッションは、防災DXに関する課題の特定、防災データの連携基盤の策定、防災DXアプリの市場形成である。官民が一体となって防災DXのあり方を追求することで、災害対応力の強化を目指している。
※1 出典 防災DX官民共創協議会ホームページ
令和6年「デジタル社会の実現に向けた重点計画」
令和6年にデジタル庁が策定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」※2 では、防災分野が重点的な取り組みの一つとして指定されている。
具体的には、災害対応機関で共有する防災デジタルプラットフォームを2025年(令和7年)までに構築することとしており、デジタル技術を用いた情報収集や伝達、各省庁との連携の充実などが含まれている。
「防災DXサービスマップ」の作成
防災DX官民共創協議会は、防災サービスの周知を目的に「防災DXサービスマップ」を作成した。※3
このマップは、災害対応を「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧・復興」の4つのフェーズに分類し、それぞれの局面で有用とされるサービスを掲載している。
平時には、防災教育や訓練、避難確保計画の策定支援などを重視し、切迫時には、防災情報の配信、ARを用いた危険区域の可視化、土砂災害危険度の予測などを行う。
応急対応では、被害状況の把握、避難所の運営、備蓄の在庫管理などが必要だ。そして復旧・復興のフェーズでは、罹災証明書発行手続きや被災者の生活支援が重要な課題となる。
このように、防災DXサービスマップは、各フェーズで必要なサービスを体系的に示すことで、自治体が効果的な防災対策を講じるためのガイドラインとなっている。
※3出典 デジタル庁「防災DXサービスマップ」
防災DXの具体例
防災DXを進めるにあたって、自治体の指針となるのが「防災DXサービスマップ」だ。以下では、「防災DXサービスマップ」の中から自治体の取り組み事例を詳しく紹介していこう。
災害時の避難を促進するために
住民向けの防災アプリ
自治体や防災機関が提供する住民向けの防災アプリは、スマホのプッシュ通知で災害情報を迅速に届けることができる。高知県の防災アプリは、大雨で河川が避難判断水位に到達したときや、避難所開設情報など、様々な防災情報を視覚的に分かりやすく提供している。
子どもは「ジュニアモード」、シニアは「シニアモード」に画面を切り替えることができ、年代に合わせたユーザーインターフェースの使いやすさも魅力的だ。
SNSを活用した被害状況把握
発災時にはSNSでの情報が頼りになる一方で、デマも拡散されやすい。そこで、各種SNSやニュースアプリなどの情報をAIで解析し、信ぴょう性を確認しながらリアルタイムで情報を収集できるサービスが開発されている。
導入する自治体が増えている「FASTALERT(ファストアラート)」は、河川・道路ライブカメラや気象データ等を重ね合わせてマップを表示させることができ、必要な情報だけが漏れなく把握できるようになっている。紙ベースでの情報共有にも対応しており、自治体業務の実情に合わせた連係機能も好評だという。
被災状況を確認するために
ドローンによる被災状況の確認
ドローンは、被災地の状況を迅速に把握するための有力なツールとして導入が進んでいる。地上からでは確認しにくい被災状況も、上空からであれば詳細に把握できる。
地震や洪水などの災害発生時に、被災地域の建物の損壊状況や孤立した被災者の位置を特定することで、初動対応の迅速化が期待されている。
避難生活を支援するために
AIチャットボット
AIチャットボットは、自治体や公的機関への問い合わせに対して自動で回答を提供し、必要な情報を迅速に提供できる。災害時には自治体窓口に問い合わせが集中し、避難者が知りたい情報を提供できない可能性があるため、AIチャットボットの導入で必要な人に必要な情報を届けることが可能になる。
また、AIチャットボットは多言語対応も可能であり、外国人避難者への情報提供にも役立つだろう。
マイナンバーカードを活用した避難所受付、避難所管理
マイナンバーカードを活用することで、避難所での混乱を防ぎ、スムーズな運営を実現できる。避難者はマイナンバーカードを使って迅速に受付を済ませることができ、避難所の管理者は避難者の情報を一元管理することが可能だ。
また、避難者の健康状態や必要な支援を迅速に把握するためにも、マイナンバーカードの活用は有効である。
災害対策本部を運営するために
オンラインツールによる災害情報の共有
災害対策本部の運営においては、災害情報の共有が重要になる。クラウドシステムやZoomなどのオンラインツールを活用することで、複数拠点での情報をスムーズに収集し、災害本部の意思決定を支援するものだ。各地の状況をリアルタイムで把握し、災害対応の質を向上させることができる。
自治体の防災DXの取り組みを紹介
【宮城県仙台市】VR(バーチャルリアリティー)による災害体験
仙台市の「せんだい災害VR」は、VR技術を活用して住民に災害体験を提供している。大規模災害を仮想現実として再現し、参加者がリアルな災害状況を体験することが可能だ。
VR体験後に行う防災についての説明では、マイ・タイムラインの作成の勧めなど、日頃の備えや避難時の心構えなどを学ぶことができるため、学校や職場などの防災学習に活用されている。
画像提供:宮城県仙台市
【岐阜県大垣市】備蓄物資の在庫管理をDX!
岐阜県大垣市ではこれまで、防災の備蓄物資をExcelで管理していた。しかし品目の表記方法が統一されておらず、物資の在庫や消費期限等を正確に把握することが困難であったという。
そこで民間企業の「防災備蓄情報の見える化」提案を採用し、令和4年3月に実証実験を行い、改善を重ねながら正式に導入した。
備蓄品の在庫や種類を一元的に可視化できるこのシステムは、備品がどの程度必要になるかシミュレーションすることができ、消費期限の管理も可能だ。
発災時にはどの倉庫から物資を運搬するべきか分かるようになっており、大垣市の防災DXの活用は、今後、他自治体にも広がることが期待される。
【岩手県】避難状況をLINEで把握、ドローンで避難誘導
令和6年に発生した能登半島地震では、デジタル庁は避難者情報の確保のために「Suica」を配布した。本来、マイナンバーカードで活用すべきところだったが、カードリーダーの配布が間に合わなかった。
そのため岩手県では、マイナンバーカードだけでなくLINEを活用した避難所運営の実証実験を実施した。
能登半島地震ではドローンによる被災者捜索や孤立集落への医薬品輸送なども行われた。県は、岩手県立大と連携し、ドローンを活用した避難誘導を行う災害DXの実証実験を行っている。
ドローンが上空から避難者に避難を呼びかけ、スピーカーを通じて避難者を安全なルートに導く実験だ。自治体職員や消防職員向けの講習会を開き、操縦士を養成していく予定だという。
これからの防災を考えるとDXは避けられないプロセス
防災対策を考える上で、DXは避けて通れないプロセスだ。先進的な自治体の事例から分かるように、防災DXは地域の安全と持続可能性を高めるためのカギとなる。
全ての防災業務をDXにする必要はないが、職員の負担を減らし、より効率的・効果的な対応を可能にするためには、利用できる便利なツールを積極的に活用していくとよいだろう。
デジタル技術を効果的に活用し、官民が一体となって防災体制の強化を図ることが、これからの自治体に求められている。