ジチタイワークス

大規模災害時に必要なのは、被災自治体を支える全国の応援職員の力だ。【防災特集】

多くの自治体職員も被災した能登半島地震。
今回のような大規模災害の場合、他自治体からの迅速で効果的な支援が求められる。
そこで、様々な災害対応の経験をもち、今回も現地で活動した2人に、応援派遣に関する制度や現状について話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

応急対策職員派遣制度被災した石川県内14市町/富山県内3市/新潟県内1市に対し、63都道府県市から“対口支援”方式により応援職員が派遣された。特に被害の大きい6市町には、災害マネジメントを支援する“総括支援”チームも派遣。災害対応の知見を有し、総務省に登録する職員が対応した。

被災6市町への応援団体

 

INTERVIEW

大月 浩靖さん三重県いなべ市
総務部 防災課 課長補佐
大月 浩靖さん
● OTSUKI HIROYASU

総務省災害マネジメント総括支援員、内閣府チーム防災ジャパンお世話係。東日本大震災、熊本地震など様々な被災地支援に従事。講演・研修なども積極的に行っている。

 

佐伯 欽三さん山口県岩国市
周東総合支所 玖珂支所 地域振興班長
佐伯 欽三さん
● SAEKI KINZO

内閣府防災スペシャリスト養成研修、日本DMATロジスティック隊員養成研修を修了。日本防災士会 山口県支部事務局長。被災地支援や災害対応の経験を多数積んでいる。

 

応援職員の派遣について仕組みを教えてください。

大月 熊本地震を経て、平成30年に「応急対策職員派遣制度」が創設されました。

大規模災害が発生すると、役所や職員も被災して、一時的に現場が混乱します。そこで、災害対応の経験をもつ人材を含め、他自治体からの職員を迅速に派遣できる、統一された仕組みをつくる必要性があったのです。

“総括支援”と“対口(たいこう)支援”があり、私は三重県が担当する輪島市に、総括支援チームの“災害マネジメント総括支援員”として入りました。役割は、首長の災害マネジメントのサポートです。

佐伯 私は、大月さんと同じ輪島市へ対口支援チームとして派遣され、被害認定調査の業務を担当しました。

対口支援は、原則として都道府県(域内の市区町村含む)または指定都市を被災自治体に1対1で割り当てて、一体的にサポートするものです。今回は被害が大きすぎて1対1では足りず、複数自治体からの派遣となりました。これだけ多くの対口支援が入ったのは、制度創設以来、初めてのことでした。

輪島市災害対策本部の様子。自衛隊や省庁からも多くの支援が入った。

輪島市災害対策本部の様子。自衛隊や省庁からも多くの支援が入った。

大規模災害の対応で特に重要なことは何でしょう。

大月 災害対応にはノウハウが必要です。個々の業務はもちろんですが、特に大規模災害の場合は、それらを俯瞰して適切な指示をする、災害マネジメントが非常に重要です。

首長や災害対策本部には様々な情報が集まりますが、あくまでも一部であり、真偽も定かではありません。そこで、断片的な情報をつなぎ合わせて全体像を見積もり、助言や調整、関係機関との連携など、参謀役を担うのが総括支援チームです。ただ、被災自治体は自分たちでなんとかしようと考えてしまうため、早期の要請が出づらい。タイミングが遅いと復旧にも影響を及ぼします。

今回は総務省が迅速に判断し、1月2日には総括支援チームの派遣が決定、翌3日には現地へ向けて出発できました。こういった制度があることを知り、いち早く要請するという選択肢をもってほしいと思います。

 

今すぐできる備えとして何から取り組めば?

佐伯 自治体の“地域防災計画”には、各部署に関連する一通りの災害対応業務が書いてあります。それをよく読み、自分の部署で具体的な行動にまで落とし込んでみてほしいと思います。防災担当課の仕事だと思って、読んだことがない人も多いのではないでしょうか。


大月 私も研修で講師を務める際に、よく伝えています。

部課長クラスは当然ですが、新規採用の1年目にこそ読んでほしい。自分の業務と防災をつなげて考える習慣を身に付けてほしいですね。


佐伯 そして、本気でシミュレーションをしてみると、また別の問題に気づくはずです。

例えばトイレについて。仮設トイレや携帯トイレの数は計算できるかもしれませんが、実際の災害時には、その回収や処理方法も問題となります。仮設トイレのタンクの容量が何リットルで、バキュームカーの何トンクラスが何台必要で、どんなルートでどう回収するのか。そこまで考えないと、本当に業務がまわる体制にはならないので、一連の流れで具体的に考えておく必要があります。

 

職員の防災意識向上には組織の変化も必要ですね。

大月 全庁的に、被災地へ職員を送り出す仕組みが重要だと考えています。

防災担当課ではなくても、被災地支援や研修などに職員が行きたいと申し出た場合に、積極的に送り出す。“全庁の業務に防災がある”、と捉えることが大事です。

いなべ市では、今回の被災地支援を経験していない職員から、現地での活動内容を聴きたいという話があり、庁内での勉強会を開催しました。組織として、部署横断的に学ぶ機会の提供が必要であり、それが個々の意識変化につながると思います。


佐伯 職員が防災スキルを高めようとしているのに認めないということは、自分たちのまちで災害が発生したときに、頼りになる人材を失っているのと同じです。

知識や経験がないと、いざというときにいい活動はできません。防災人材育成の機会として積極的に派遣し、その知見を組織内で共有すべきですね。

 

防災に長年関わってきた経験からぜひアドバイスを。

佐伯 災害対応は多くの課にまたがることばかり。自分の担当領域を把握するのは大切ですが、“これは自分の仕事ではない”ということはあり得ません。

前後の業務も想定して、隙間なくつなぐ意識が必要です。これは災害対応に限らず、通常業務でも同じこと。常にこうした動き方をしておけば、災害対応でも力を発揮できるのではないでしょうか。


大月 様々な研修に加え、被災地での活動経験が大切です。初めは不安でも経験を重ねて、総務省の災害マネジメント支援員、さらには総括支援員を目指してほしいですね。

南海トラフ地震が懸念される中、それらの知識や経験が被災地支援の第一歩となります。また、自分が被災者になる可能性も忘れてはいけません。

職員として住民を守るために外へ出られるよう、家族での話し合いと準備も大切だと思います。

 

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