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自治体が取り組むべき津波対策は?安全な避難場所や避難経路を決めておこう

大規模な津波が発生すれば、甚大な人的・物的被害に遭うことは避けられない。東日本大震災の教訓を踏まえ、国は自治体に対し、地域に合った実効性のある津波避難計画の策定を求めている。確実な情報伝達体制の構築、適切な避難場所の確保、スムーズな避難誘導など、ハード・ソフト両面からの対策が不可欠だ。

本記事では、自治体の津波対策の必要性を確認するとともに、各自治体の取り組み事例を紹介する。一人ひとりが防災の当事者としての自覚を持ち、安全な地域社会の実現を目指したい。

【目次】
 • なぜ自治体の津波対策が必要なのか

 • 実際に自治体が取り組んでいる津波対策とは?
 • 「いのち」を守るために津波対策を実施し周知しよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

なぜ自治体の津波対策が必要なのか

津波は甚大な被害をもたらす自然災害である。平成23年に発生した東日本大震災では観測史上最大規模の大津波が発生し、被災地域の復旧・復興には長い年月を要した。

平成23年に発生した東日本大震災では観測史上最大規模の大津波が発生

仙台空港の東日本大震災津波浸水深の位置を知らせる表示。

東日本大震災での教訓を踏まえ、国は津波災害から国民の生命を守るため、自治体に対し、地域に合った実効性のある津波避難計画の策定を求めている。

消防庁が平成25年3月にとりまとめた「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書」(※1)では、「市町村における津波避難計画策定指針」として、自治体が津波避難計画を作成する際の具体的な手順や内容が示されている。

※1出典 「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書」

緊急避難場所や避難路の指定、情報収集や伝達などを定めた避難計画の策定、避難訓練の実施など、住民が主体的な避難行動を取れるように対策を盛り込むことが求められている。

自治体はこの指針を参考に津波避難計画を策定し、津波発生時の的確な避難行動を取れるよう万全の態勢を整える必要がある。

住民の生命を守るために、地域の特性を踏まえた津波対策が今、求められている。

実際に自治体が取り組んでいる津波対策とは?

自治体がどのような津波対策に取り組んでいるのか、具体的な事例を見ていこう。

【宮城県石巻市】徹底した避難対策の構築に取り組み、常に改善を図る

【宮城県石巻市】徹底した避難対策の構築に取り組み、常に改善を図る

石巻市は東日本大震災での甚大な被害を踏まえ、平成23年12月に「石巻市震災復興基本計画」を作成した。この計画にもとづき、総合的な津波避難対策を推進してきた。

令和4年5月に宮城県から新たな津波浸水想定区域図が公表され、これまでの東日本大震災の浸水実績を上まわる範囲での浸水が予想されることとなった。そのため同市では津波避難計画の改訂を行い、安全な高台等へ移動できるエリアから半径500mの範囲外を避難困難地域と位置づけた。

この結果、以前の計画に比べて、避難困難地域が拡大することとなったが、想定される津波到達時間を踏まえた避難シミュレーションを実施して見直しを図った。徒歩で避難できない可能性のある地域を特定し、自動車を活用した避難のあり方についても検討を重ねた。

東日本大震災発生時の避難では、自動車での避難で道路が渋滞し、避難が困難となったエリアがあったという。そのため、徒歩避難を原則としながら、自動車での避難についての対策も引き続き検討を続けている。

東日本大震災の経験と教訓を活かしながら、最大クラスのレベル2津波(数百年から千年に1度程度の極めて低頻度で発生する津波)を想定し、徹底した避難対策の構築に努めている。宮城県の「なんとしても人命を守る」という考えのもと、絶えず津波対策の改善を図っているのが特徴である。

【和歌山県海南市】避難路を明確にし、学校での防災教育や全市民対象の避難訓練に注力

避難路を明確にし、学校での防災教育や全市民対象の避難訓練に注力

海南市は、南海トラフ巨大地震発生時には最大で約8mの津波が押し寄せると想定される地域である。このため和歌山県は同市を津波災害警戒区域に指定し、県が作成した「津波浸水想定図(南海トラフ巨大地震、東海・東南海・南海3連動地震)」をもとに、「海南市 津波ハザードマップ」※2や「かいなんMAP」を作成している。

※2出典 「海南市 津波ハザードマップ」

避難場所への確実な避難を可能にするため、避難路を「津波避難路マップ」にて明確にしている。安全レベルや予想される津波到達時間を色分けし、避難場所をアイコンで表示するなど、分かりやすい工夫がなされている。避難場所には「屋上」「4階以上」など具体的な階数が記載されており、避難行動を促す役割を果たしている。

加えて、学校での防災教育、全市民を対象とした避難訓練の実施など、ソフト面での取り組みにも注力している。地域ぐるみでの啓発活動により、住民一人ひとりの防災意識の向上を目指している。

【宮崎県日南市】地形を考慮した工夫や住民と検討する避難経路など

【宮崎県日南市】地形を考慮した工夫や住民と検討する避難経路など

日南市は、南海トラフ巨大地震発生時における津波到達時間が約14分と想定されている地域である。このため、同市では「日南市・津波避難計画」を策定し、対策を進めている。

宮崎県が作成した津波浸水想定区域をもとに、日南市では地形に合わせてバッファーゾーン(余裕幅)を設定している。津波浸水想定区域の外側が「平坦地」か「斜面地」かによって一定のバッファーを設け、地形を考慮した工夫を凝らしている。

 

日南市では、居住地のほぼ全域が津波浸水想定区域内、避難対象地域内となる行政区も多い。そのため市は平成23年度から、行政区の代表者などと話し合いを重ねながら、津波緊急避難場所や津波緊急避難路の整備、津波緊急避難ビルの指定、案内誘導標識の整備などを進めてきた。

さらに平成25年度には、津波避難に関する住民ワークショップを開催。避難困難地域の解消、土砂災害時の代替性の確保などを念頭に、追加することが望ましい津波緊急避難先を住民とともに検討している。

対策の検討過程では、ブロックごとに適切な避難方向を住民と協議するなど、地域住民の意見を丁寧に反映させてきた。避難手段についても、徒歩避難を原則としつつ、自動車を活用した避難ルートも併せて検討するなど、多様な避難パターンに対応できるよう配慮がなされている。

このように日南市の取り組みは、地域の実情を極力反映させながら、住民の理解と協力を得て進められてきた点に大きな特徴がある。確実な避難を可能とすべく、自治体と住民が一体となって活動を展開しているのである。

「いのち」を守るために津波対策を実施し周知しよう

神奈川県大磯町、大磯漁港の津波避難タワー。高さ7.9mの鉄骨造だ。

神奈川県大磯町、大磯漁港の津波避難タワー。高さ7.9mの鉄骨造だ。

東日本大震災以降も、熊本地震、令和6年の能登半島地震など、地震による被害は続いている。津波は発生すれば甚大な被害をもたらす危険な自然災害であり、津波対策の重要性が改めて認識されている。

本記事で紹介した自治体の事例は、ハザードマップを色分けして見やすくしたり、地形に合わせた避難経路を想定したりと、地域住民に分かりやすい対策を行なっている。住民とのワークショップや防災訓練の実施など、参考にしてほしい。

自治体の取り組みだけでは対策は十分ではない。住民一人ひとりが防災意識を高め、自らも備えて行動することが不可欠だ。自助・共助・公助の理念のもと、地域が一体となって津波対策に取り組むことが何より大切である。

津波という脅威に正面から向き合い、日頃からできることを着実に実行していく。そうした地道な努力の積み重ねが、いざという時の「いのち」を守ることにつながる。防災の輪を地域に、そして社会に広げていくことが、今、私たち一人ひとりに求められている。
 

 

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