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能登でも採用。「くまもとモデル」が仮設住宅のあり方を変えた。【防災特集】

能登半島地震の被災地は、今も復興の途上にある。そうした中、石川県は地域の状況に合わせ3タイプの応急仮設住宅を提示した。従来のプレハブとともに木造も用意したことが話題になったが、その原型となったのが、熊本県の災害対応の蓄積から生まれた「くまもとモデル」だ。ここでは、同県の担当者に話を聞き、くまもとモデル誕生の経緯や特徴、関連する取り組みなどを紹介。仮設住宅のあるべき姿を探る。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

熊本モデルの導入経緯を語る熊本県住宅課の田添さんと小佐田さん

 

Interviewee

熊本県 土木部建築住宅局 住宅課
左:課長補佐 田添 祥司(たぞえ しょうじ)さん
右:小佐田 洋一(おさだ よういち)さん

 

木造で長期利用も。避難生活に「あたたかさ」「ゆとり」「ふれあい」 を。

くまもとモデルは、仮設住宅を軽量鉄骨のプレハブではなく、鉄筋コンクリート基礎を採用した木造で整備したものだ。居住空間の快適性を高め、“長期間でも暮らせる家”としても利用が可能である。仮設住宅団地の配置計画も「ゆとり」をもたせ、集会施設を木造の「みんなの家」として整備するなど「ふれあい」を育む工夫を凝らし、地域コミュニティの再生を目指している。

この方式が誕生したきっかけは、「東日本大震災における『くまもとアートポリス』の取り組みでした」と田添さんは振り返る。

「他県にはない熊本独自の建築文化事業『くまもとアートポリス』のコミッショナーである建築家の伊東 豊雄(いとう とよお)さんが支援活動で現地入りし、被災者の暮らしを目の当たりにして『被災者が集える場所をつくり、生活再建の拠点にしたい』と発案したのです」。

この提案から木造の「みんなの家」が誕生。仙台市に第1号が整備された。みんなの家は地域の様々なイベントに活用され、被災者の憩いの場となった。

そんな中、東日本大震災の翌年、平成24年7月の九州北部豪雨により熊本県は大水害に見舞われた。「河川の氾濫や土砂災害が起き、多くの犠牲者が出ると同時に、住宅などにも多大な被害が出ました。このときに、5団地48戸の仮設住宅を初めて木造で建築し、みんなの家も2棟整備。ここでくまもとモデルの原形が完成したといえます」。

そして、平成28年に発生した熊本地震。県内では近年経験したことのない大きな災害で、被害も甚大だったが、同県はこれまでの経験をフル活用。仮設住宅の長期的な利用の可能性を見据えてRC基礎の木造住宅を積極導入しつつ、新しい手法も採用していった。

「4,303戸の仮設住宅のうち、683戸が木造でした。市町村の要望に合わせて配置し、みんなの家も84棟整備しています」。

さらに4年後に発生した令和2年7月豪雨では、仮設住宅808戸のうち740戸が利活用可能な木造住宅で建てられ、居住性もさらに向上した。このときから「くまもとモデル」という言葉が使われるようになった。

熊本モデルが並ぶ熊本県球磨村の木造仮設住宅団地

令和2年7月豪雨の際に建設された熊本県球磨村の木造仮設住宅団地。このときは仮設住宅の9割以上が利活用可能な木造で建てられた。

居住性に配慮、被災者のストレスを軽減する。

この「くまもとモデル」における最大の特徴は、RC基礎の木造という選択で長期的な利活用ができるようになった、という点にある。プレハブは仮設住宅をつくる上で非常に機能的で、多くのメリットがあるが、“暮らし”という視点で見ると必ずしも住みよい環境であるとは限らない。この居住性という点にとりわけ配慮したのだという。

「令和2年の豪雨から4年がたちますが、まだ住まいの再建ができていない住民もいます。長引く仮設住宅での暮らしに耐えうるもので、住民のストレスもできるだけ軽減できるものをと考えると、おのずと“あたたかみ”のある木造という選択になります」。

 こうして建てられた住宅は、一定期間の経過後に被災した市町村に譲渡され、市町村はその各戸を“まちの財産”として使うことができる。ただ、課題が1つあった。基礎に使う“木杭”だ。

「プレハブの仮設住宅は木杭で良かったのですが、長期利用を見据えた木造住宅となると、建築基準法に沿ってRCの基礎を打つ必要があります。平成24年の水害で建てた木造住宅は木杭だったので後で打ちかえたのですが、費用も手間もかかってしまった。熊本地震の際には余震が続いていたことや復興が長期化することを見据え、国と協議した上で、最初からRC基礎で進めました」。

こうして、RC基礎を使えるようになったことで、入居者の安心感とともに、遮音性や居住性もさらに高めることができたという。

瓦屋根を採用したのも被災者への配慮からだ。

「瓦屋根は令和2年7月豪雨の際に採用しました。一般的な金属製のガルバリウムを使った屋根だと、雨音が室内に響き、豪雨災害の被害者は心理的に不安になってしまいます。それを防ぐために内閣府と協議して、瓦屋根の利用を認めてもらいました」。このときにはほかにも、引き戸の玄関扉や、外部にあった洗濯機置き場を室内に取り込むといった改善も行われている。

熊本モデルの木造仮設住宅の内部

木造仮設住宅の内部。県産木材と県産畳表がつくる空間が、避難生活に「ゆとり」と「あたたかさ」を与える。

プレハブと木造を比較すると、木造の方が着工から被災者への提供までの期間が長くなるというイメージがあるが、同県のケースでは、1~2週間ほど工期が長くなる程度だという。「鉄筋コンクリートを使うので、固まるまで次の工程に進めませんが、後々を考えると欠かせない工事です。被災状況などでその時間が犠牲にできない場合は機動性と供給力に優れたプレハブを、という選択になると思います」。

「くまもとアートポリス」の理念が出発点。

このようなメリットを生む「くまもとモデル」。仮設住宅の新しい形として注目を浴びているが、その方式と切り離せない関係にあるのが「みんなの家」「くまもとアートポリス」だ。

みんなの家を発案したのは「くまもとアートポリス」のコミッショナーを務める建築家の伊東さん。アートポリスは1988年から同県が始めた建築文化事業だ。県内各地に完成した109のアートポリスの建造物は、地域社会に溶け込み、本県の建築文化、都市文化の向上や観光資源として地域活性化にも貢献しているという。

小佐田さんは「熊本地震や豪雨災害においては、伊東コミッショナーから助言を受けて、被災された方々が少しでも安らぎを感じる仮設住宅や、コミュニティの場となる『みんなの家』の整備に取り組むことができました」と話す。

当時、熊本県知事だった蒲島 郁夫さんが復旧・復興三原則の中に掲げた「被災された方々の痛みの最小化」という理念にもとづき、伊東さんの助言を受けながら「被災された方々の痛みを最小化し、少しでも豊かに暮らしていただけるよう仮設住宅の配置計画を工夫しました」。

熊本県の仮設住宅の特徴

熊本地震で建てられた熊本モデル仮設住宅の配置図

▲「くまもとアートポリス『みんなの家』2011─2021」パンフレットから

具体的には、建物の間隔を広くとり、6戸ほどの長屋で形成されていた住棟を2~3戸に区切って、人々が回遊する動線「小路」がつくられた。そうした動線上にベンチを配しコミュニケーションを育む。さらにみんなの家を誰もがアプローチしやすい場所に配置するといった変更が加えられ、「ゆとり」と「ふれあい」のある仮設住宅団地になったという。

「くまもとモデル」は、住戸の素材を木やRCに変更するだけではなく、“個”や“コミュニティ”を大切にする環境づくりを含めた取り組みだということができる。

能登半島地震でも進化。仮設住宅の新たな標準へ。

被災者の痛みに寄り添い、様々な試行錯誤を繰り返した末に確立された「くまもとモデル」。熊本地震で建てられたものについては、被災自治体に譲渡された後、約8割が利活用されている。

各市町村からは「木造はとても温かみが感じられ、利用している被災者にも明るい笑顔が戻ってきた」という声が届いているそうだ。また、みんなの家は全棟が利活用されており、公民館や学童保育所などに形を変えたものも少なくない。

熊本モデルの仮設住宅団地でワークショップに参加する子どもたち

球磨村の仮設住宅団地で開かれたワークショップ。「みんなの家」の外壁に使う木板の塗装を地域の子どもたちも体験した。

そして現在、この方式は能登半島地震でも活用されている。

「発災後すぐに、内閣府から職員の派遣要請がありました。仮設住宅の整備体制の構築、くまもとモデルの木造仮設住宅に関する情報提供などの依頼を受け、この事業に詳しい職員を福祉部局と住宅部局からそれぞれ1名、石川県に派遣。その後、国交省からの要請を受け、建築職員4名も派遣しています」と田添さんは説明する。

こうした知見の共有を経て、石川県は木造の「まちづくり型応急仮設住宅」を整備。さらに、戸建て風の様式をもつ「ふるさと回帰型応急仮設住宅」も新たに設けている。これらの取り組みについて田添さんは、「うまく発展している、と感じています」と手応えを語る。

「私たちも経験したことですが、大災害の後は、被災地のコミュニティ維持や、被災者の地域外への流出防止に努めなくてはならない。こうした場面でくまもとモデルが評価されたのは、本県としてもうれしく思います」。

この方式はSDGsの観点からも価値があると強調する。「せっかくつくったのに、壊すのはもったいない。くまもとモデルの住宅やみんなの家は、その後もほとんどが利活用されており、移築も可能です。解体や廃材処分の費用・手間を削減でき、カーボンニュートラルにも貢献できます」。

他自治体や団体からの視察も多いという「くまもとモデル」。災害大国・日本の被災者支援において、プレハブ仮設とともに、 暮らしを支えるための新たなスタンダードになるのかもしれない。

熊本モデルの木造仮設住宅の外観

 

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