令和3年2月に就任した新市長の理念である「市民が真ん中」(市民目線で市民が中心)を実現するための取り組みの一環として、令和3年8月に今治市では365日相談可能な「市民が真ん中相談センター」を設置した。
市民の抱える多様な問題をワンストップで解決に導く体制を構築するとともに、市民相談のあり方についての庁内プロジェクトチームを結成し、さらなる機能拡充に取り組んでいるという。同市の取り組みの詳細を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2022」の応募事例から作成しており、本記事の内容は全て「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
背景・目的
背景
~市役所への相談に関する市民アンケート~
・相談をするために複数の部署を訪れる必要があった。
・(部署が違うということで)取り合ってもらえない。
・理解してもらえない。
・職員によって親切さが違う
目的
・相談をワンストップで受け止めて、解決に導く。
・窓口対応の技能向上
→ 365日相談可能な総合相談窓口「市民が真ん中相談センター」を設置
取り組み事例
365日相談可能な窓口「市民が真ん中相談センター」の設置
今治市ホームページ|市民が真ん中相談センターについて
今治市ホームページ|各種相談窓口
オンライン相談予約ページ(※令和4年より開始)|市民が真ん中相談センター相談事前予約ページ
取組期間
令和3年8月30日~(継続中)
取り組みの内容
1)365日相談可能な「市民が真ん中相談センター」の開設
◆ 職員配置
(平日)正規職員2名、市民相談員2名 消費生活相談員2名
(休日)正規職員1名、市民相談員1名
◆ 相談時間(事前予約可)
(平日)8:30~17:15
(休日)9:00~15:00
◆ 相談方法
窓口(全3室)、電話、メール、LINE(消費生活に関する相談)、
Zoomを利用したオンライン相談(令和4年4月から開始)
◆ 相談内容
行政手続き、消費生活トラブル、行政への要望、(市内の事業者の)経営相談、家計相談、心配事相談等多岐にわたり、市の管轄外の相談等についても話を聞き関係団体等と連携し解決を目指す。
2)「市民が真ん中相談センター」プロジェクトチームによる検討
◆ メンバー構成
・複数の課から横断的に選出
・公募された若手職員を中心としたメンバー構成
◆ 検討方法
・全体会を3回開催した後、メンバーを2班に分け、班ごとのテーマについて会議を重ね、現状の問題点の洗い出しおよび改善方法を検討(令和3年度は延べ18回開催:全体会含む)
◆ 提案内容
・おもてなし能力向上を目指すための各種研修やマニュアルの作成を行い、ソフトウェアを強化する。
(令和4年度以降に人事担当課と連携して実施計画等の細部を取り決めていく予定)
・オンライン相談機能やHPのFAQ機能等のハードウェアを強化する。
(令和4年度に情報機器部門と連携しオンライン相談機能を拡充し、社会福祉協議会等の他団体も参加可能な相談体制の構築を計画中)
取組を進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
・ほぼ全ての相談を受ける体制をとっているが、相談の種類が多岐にわたり解決法を模索するのに苦労した。また、回答の出ない相談を長時間にわたって話す市民への対応も難しい。
・職員の中に、担当部署で苦慮する相談について相談センターに対応を回そうとする者がおり、全庁的に「市民が真ん中」の相談対応をするという認識が広まっていない。
・庁外に担当部署がある場合、相談者の相談内容をいったん聞き取ってから伝えるという形になるので相談内容に齟齬が生まれてしまう。庁外施設や関係団体が同時に相談内容を傾聴できる仕組みをつくる必要がある。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
1)ワンストップ窓口
◆担当課に行ってもらうのではなく、担当者が出向く
相談を受けた際に、庁内に解決に結びつく部署がある場合は、その担当者が窓口へ出向くことで相談者の移動負担を軽減するとともに、センターの職員がその場に同席し、相談内容を担当者に説明する等、相談者に寄り添った対応を実施している。
◆相談内容を蓄積し、マニュアルやオンライン相談へ活かす
相談を引き継いだ担当部署職員が、その後の対応記録を相談センターに提出することで相談者の情報や解決方法を共有し、今後の相談対応に活かしている。将来的には、集約させた情報を元にFAQのような形で全ての職員の窓口対応に活かすことも予定している。
◆事前予約で効率的に
令和4年度より、オンラインで相談の事前予約を開始。あらかじめ相談内容を把握し、資料の準備や対応策を検討することで、スムーズに解決へ導く。
2)相談メニューの充実
◆消費生活センターを併設
相談センター内に消費生活センターの機能も併設し、消費生活に関する相談や特殊詐欺案件の情報を庁内各部署や関係団体と共有し解決や注意喚起を行っている。
◆心理カウンセラーを配置
精神不安に関連する相談も多く寄せられるため、心理カウンセラーを雇用し、相談解決に結び付く対応をするとともに、そのノウハウを市職員と共有し相談対応能力の向上に役立てている。
◆経営相談会
市内事業者の相談にも対応できるよう、愛媛県よろず支援拠点と連携し休日の経営相談会を開催している。なお、共催形式で実施しているため、相談員派遣に係る費用は無償としている。
◆家計相談
生活困窮等の予防として家計収支の見直しやライフプランニングを行う家計相談を実施している。
3)市民が相談しやすい仕組みづくり
◆相談方法の多様化
窓口や電話、メール相談以外にLINEを使った消費生活の相談や市役所から遠くにお住まいの方や外出が難しい方のためのオンライン相談を実施している。
◆相談時間の拡充
平日に時間が取れない方のために、休日や年末年始も相談窓口を開設しており、緊急を要する場合は、担当部署の職員に連絡し早急な解決を図っている。また、相談の事前予約も受け付けており、市民の生活スタイルに合わせた柔軟な相談対応を行っている。
4)窓口センターの周知
・365日相談窓口を開設しても、周知されなければ相談につながらないので、広報はもちろん、市ホームページ、SNS、ラジオ等で周知を行った。また、開所式には新聞やテレビ等、メディアの取材の取材を受け、より広く市民に認知されることとなった。
・市民の目にとまりやすいように、庁舎入口のすぐそばに相談室を開設するとともに、相談室入口をパネルで装飾した。
5)そのほか
・社会福祉協議会と共同で相談室を使うことで、相談の種類によるセクション分けの壁が低くなり協力体制を築きやすくなった。
効果・費用
・新しい取組ということでメディアにも取り上げていただき、相談センターの存在や「市民が真ん中」という市の方針を市民の方に周知することができた。
・令和3年度(8/30~3/31)の相談件数は1,282件。前年同時期の相談件数(229件)と比べると約5倍の相談があり、いままで声を上げることができなかった市民の声にも対応できた。
・市民からは「丁寧な対応がありがたかった」「関係課と連携し対応してくれて助かった」「いつでも相談できる場所があるというだけで、安心できる」等のセンターに対する好意的な評価をいただいている。
・取り組みに係る経費は人件費、センター開設に伴う維持修繕費、備品購入費等。
・相談件数および相談対応日の増加に対応するため、相談員を追加雇用した。
今後の予定・構想
さらなる「市民が真ん中」の行政に向けて
◆全職員のおもてなし能力向上
・令和4年度は「おもてなし満足度向上プロジェクトチーム」を結成し、人事担当課と連携し各種研修を実施。
・全庁的に窓口センターに取り組むため、閉庁日の窓口担当を各課の持ち回り制ヘ。
・過去の相談事例を参考にしたマニュアルを作成。
◆市内各所への通信機器の設置
・本庁各課や支所、公民館、社会福祉協議会等の関係団体に通信機器を設置。
・自宅に通信環境がない場合や、本庁までに時間的・金銭的に負担のかかる支所管内に居住する市民にも最寄りの施設でオンライン相談を可能に。
◆プロジェクトチーム提案内容の実現
・プロジェクトチームで検討した内容のうち、現在実施できていないものについて、実現につながるよう計画的に進めていきたい。
他団体へのアドバイス
今治市長の理念である「市民が真ん中」にもとづき当センターは開設された。単純にいつでも相談可能な窓口をつくるだけでなく、市民の役に立つ市役所として、市民の「納得」と「共感」を得るためには、いかに相談者に寄り添った対応ができるかが重要となる。
「市民と共に未来への新しい風」を確かなものとするため、センターだけでなく全庁的な意識改革が必要である。そのためには当市でも今後検討している人材育成の推進のほか、市民対応を重視するような人事評価の見直しなど様々なアプローチを取り、かじを切らなければならない。