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【相談室】人口減少時代、自治体の『収入』は減るばかりです…

「何でこうなってるの?」「もっとこうならいいのに」毎日仕事をする中で、頭をよぎる疑問や悩み…そんな「モヤモヤ」を、一歩先ゆく公務員の皆さんに解決して頂く企画。

第15回は、人口減少時代の自治体財政のポイントについて、福岡市役所の今村寛さんに寄稿いただいた。

【今月のモヤモヤ】

「人口減少時代、自治体の『収入』は減るばかり…」

地方自治体の人口は減り、当然税収も減り、財政は厳しくなる一方。こんな時代の自治体財政のポイントを教えてください。

人口減少は「既に起こった未来」

我が国は2008年をピークに総人口が減少しており、直近の国政調査でも大都市圏を含む都府県以外の全ての道府県で人口が減少しています。人口減少による社会の担い手不足は深刻さを増しており、並行して進む高齢化と相まって増え続ける社会保障費を負担できる納税者人口の減少は自治体財政の将来に暗い影を落としています。

しかしながら、人口減少は我が国の合計特殊出生率が2.0を割り込んだ1974年以降、毎年新生児が減少していく段階において「既に起こっていたこと」で、子供を産むことができる女性の数が減り今後も人口が減り続けることはもう40年以上前からわかっていたことです。

人口減少と少子高齢化がもたらす税収減と社会保障費の増加による収支不均衡は自治体の政策選択の幅を狭めます。少子化対策や移住促進などの人口減少対策は社会の激変を緩和する効果はあるかもしれませんが、国全体では稼働年齢層の納税者を増やし、社会の担い手を安定的に確保することができないことは「既に起こった未来」。財政的な制約の中で「あれかこれか」を選択せざるを得ない未来がやってくることはわかっていたはずなのです。

将来に負担を残さない

「既に起こった未来」として人口減少による将来の収支不均衡が見通せている現状で私たちがすべきことは、まず「将来に負担を残さない」ことです。人口減少がすでに始まり現在の財政運営が厳しい局面ではありますが、私たちは負担の先送りや過去の貯金の食いつぶしなど将来の市民に負担を押し付けるような財政運営を可能な限り避ける必要があります。以前も書きましたが、地方自治法は「会計年度独立の原則」を定め、原則としてある年度に必要な支出の財源は、同じ年度内の収入で賄うことになっています。将来の市民が納める税収の範囲で将来の市民のサービスが賄われるためには、現在の我々が将来の税収の使途をあらかじめ縛り、将来の市民の持つ予算編成権を侵害することは許されません。「既に起こった未来」を見据えれば、現在の財政運営が苦しいからと言って現在の自分たちへの行政サービスのために将来の市民が収める税金を先食いすることは断じて許されないのです。

また、将来に負担を残さないためには、給付やサービスを行うにあたっては持続可能性を十分考慮した適正な受益者負担を求めることや、将来の人口に対して過剰な社会基盤投資について抑制していくことも必要になります。

負担なければ給付なし

しかし人口減少による収支不均衡は現実のものとしてすぐそこまで迫っています。私たちは収入が減るなかで必要な行政サービスの維持に係る財源をどう確保すればいいのでしょうか。

現下の財政状況と「既に起こった未来」を踏まえれば、まずは早急に限られた財源を何に優先的に充てていくかを全庁挙げて議論し、議会や市民とも認識を共有したうえで真に必要な施策事業を取捨選択することになります。しかし、本当に実現したいことは何なのか、そのために欠くべからざるもの、我慢して捨てることができるものについて議論する中で抜けがちな論点が「市民の負担」です。限られた収入の範囲に支出を抑えるための施策事業の選択過程で、これ以上施策事業を見直すことができないときには、収入を増やすために市民の負担を増やす、つまり増税の議論をせざるを得ないのです。

地方自治体は、現行の法制度でも一定の範囲であれば独自で課税し市民の負担を求めることができますが、この伝家の宝刀を抜く自治体はほとんどありません。他の自治体との横並びを常に意識し、国も地方交付税の仕組みで財源を補填し、護送船団で自治体財政を保護しています。しかし、国の台所も火の車。国の財政運営の影響を受け、今後も自治体財政を保護する現在の枠組みが維持される保証はありません。

人口減少の影響を受けて国、地方ともに財政がひっ迫し、国が地方に自律的な財政経営を求めた場合には、市民が享受するサービスの財源を市民の負担で賄える収支構造とするために、さらなる市民負担へと舵を切らなければならない時が必ずやってきます。

苦渋の選択を行うために

限られた財源の中での政策選択にせよ、市民負担を伴う増税にせよ、その実現には納税者であり行政サービスを享受する客体としての市民の理解なくしては実現できません。しかし、地方自治体は今、市民の十分な理解を得るためのコミュニケーションができているでしょうか。納めている税金の使い道もわからない。誰がどうやって政策を決めているのかもわからない。首長や議員を選挙で選んでも自分たちの意見を代弁した議論が行われているかわからない。行政運営に関する基礎的な理解も信頼も乏しい市民に既存の行政サービスの削減や増税による市民負担増を求めたところで納得や共感が得られるはずがありません。

人口減少による財政的な制約の中で市民の理解を得て自治体運営を行うには、市民が社会経済情勢や自治体の財政状況に関して正しく理解し、その中で結論を選び取る議論に当事者として参画し、自分事として結論を出す過程が必要です。人口減少という「既に起こった未来」で目前に迫る苦渋の選択が避けらないという現実を見据えれば、小手先の人口減少対策や目先の財源確保ではなく、自治体と市民、議会、あるいは市民同士で十分に情報共有と意思疎通を図ることができる「対話」の場づくり、苦渋の選択を乗り越えることができる意思疎通の環境整備こそが、最も求められているのではないかと思います。


今村 寛(いまむら ひろし)

福岡市交通局総務部長

2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として「出張財政出前講座with SIMULATIONふくおか2030」を携え全国を飛び回るほか、福岡市役所でのオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。2020年から現職。
著書「自治体の“台所”事情 “財政が厳しい”ってどういうこと?」(ぎょうせい)2018年12月発刊。
「『対話』で変える公務員の仕事(仮)」(公職研)2021年6月発刊予定。


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