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【相談室】どうすれば組織横断的な取り組みや官民連携事業を上手に進められますか?

気づけば中堅と呼ばれる立場になり、業務範囲も仕事量も増え、さらには結婚・出産・子育てとライフスタイルも変わったことで、ますます忙しく過ごす日々。仕事と生活とのバランスを考えると、今後のキャリアについて悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。

今回は、調整役になったものの、組織横断的な取り組みや官民連携事業の上手な進め方が分かりません……といったお悩みに、山形市 健康医療部 健康推進課課長の後藤 好邦さんに回答いただいた。

【連載】
case1:出世しても増えるのは仕事と責任ばかりでこの先が不安です。

case2:係長として期待される役割を果たすために何ができるでしょうか。
case3:忙しく時間がない中、課外活動に取り組むべき理由が分かりません。
case4:年上の部下や、やる気のない部下に対してどう接すればいいか分かりません。

case5:どうすれば組織横断的な取り組みや官民連携事業を上手に進められますか? ←今回はココ
case6:厳しい指摘ばかりの上司との付き合い方について教えてください。

お悩みcase5

年を追うごとに、他部署や民間企業と連携して事業に取り組むことが増え、その中で、係長として調整役を期待されています。しかし、相手先との調整がうまくいかず、部下からは「連携先は何もしないのに、なぜ自分たちばかりが仕事に取り組まなければならないのか」と不満を言われています。どうすれば組織横断的な取り組みや官民連携事業を上手に進められますか。

いま職員に求められる連携事業を進める調整力。

様々なセクターと連携しながら仕事を進めていくことが年々増えている……そう感じているのは、きっと私だけではないはずです。しかも、役所内の他部署や民間企業に加え、地元の大学や、時に高校生など、そのスタイルは実に多様になっています。

また、デジタル田園都市国家構想交付金など国の交付金も、官民連携や広域連携が採択される上で重要な加点要素となっています。こうしたことを考えると、連携事業を進めるための調整力が、これからの自治体職員にとって非常に大事なスキルといえるかもしれません。

それでは、どうすれば他のセクターや他部署等と上手に連携することができるのでしょうか。私なりの実践ポイントをお伝えします。ただ、その前に“なぜ連携が必要なのか”その理由をお話させてください。

多様化するニーズと多様化する手段のマッチング。

日本の人口は平成20年をピークに減少局面に入りました。また、急激に少子高齢化が進展するとともに、人々の価値観も大きく変わり、画一的な社会から多様な社会へと変化しています。こうした成長社会から成熟社会への転換は、まちづくりや地域づくりにも大きな影響を与えています。

例えば、公共交通です。ひと昔前までは、まちの中心部に百貨店や病院が集積していたため、郊外部から中心部まで運行する定時定路線型のバスを運行していればサービスは充足していました。
しかし、自動車の販売台数の増加や運転免許の取得率の向上により車社会が進展し、これに伴い駐車場を併設する郊外型の大型店舗や総合病院が増加したことで、従前のサービスでは住民ニーズを満たすことができなくなっています。

そのため、地域ごとに異なる住民ニーズや地域性などを把握し、それぞれの地域の実情に合わせた個別最適なサービスが求められています。こうした状況は、教育や福祉など、ほかの政策分野にも当てはまることです。

一方で、民間企業の有するコンテンツも多様化しています。前述した公共交通でいえば、従来の路線バスやデマンド型タクシーだけでなく、特定の地域内で予約に応じた効率的な乗り合い運行を可能とするAIタクシーなども開発されています。

また、ライドシェアなど制度の見直しも議論されており、今後、規制緩和が進めばさらに新たなコンテンツが創出されていくはずです。

こうした状況から、今後、政策を考えるうえでの重要なポイントは、多様化するニーズと多様化する手段のマッチングだと感じています。

言い換えれば、政策の肝は、住民ニーズや社会課題に関する情報を有する行政と、多様なコンテンツを有する企業や大学、各種団体等との効果的な関係性の構築ともいえるでしょう。こうしたことが行政と様々なセクターとが連携する必要性が高まっている要因なのです。

まずは相手にメリットが生まれる仕組みづくりから。

ここからがいよいよ本題です。それでは、どうすれば連携を上手に進めていけるのでしょうか。私が考える一番大事なポイントはメリットの伝達です。つまり、連携する相手に、どれだけしっかりと連携するメリットを伝えられるか、が重要ということです。

そのために、まずは相手にメリットが生まれる仕組みを考える必要があります。なお、メリットを考える相手とは、直接の連携先もあれば、間接的な連携先もあります。その全てのメリットを考えることが大事です。

また、その仕組みを考える際には、自己の利益よりも相手への貢献を優先して考えることが大切です。自分より相手のほうが得をすると思うと、連携することに相手が疑問を感じることが懸念されます。

これまでお話したことをよりリアルに感じていただくため、2つのエピソードを紹介し、私自身の経験談を踏まえながら説明します。

第一に庁内連携に関する事例です。私が行革部門にいた際、情報部門と連携しオープンデータの取り組みを進めました。

当時の行革プランには2年後にオープンデータを公表するとの目標が掲げられましたが、翌年に予定されているホームページの更新と合わせて公表を行ったほうが事業担当課にとって効率的だったため、私は前倒しで実施したいと考えていました。

しかし、情報部門は前倒しに不安を感じていたため、すぐに首を縦に振ることはありません。そこで、私は情報部門と行革部門の役割分担を明確にし、情報部門によりメリットを感じる提案を行いました。
 


具体的には、オープンデータを公表するにあたっての基準づくりや公表に向けての関係部課長会議などを行革部門が、データの加工(CSV化)と公表後の管理を情報部門が担当することとし、相手が面倒だと感じていた事業着手時の業務を行革部門が担当することにしました。

これにより、情報部門では自分たちが担当すると思っていた一部の業務を行革部門が担当することになるというメリットを感じ、前倒しでの実施に賛成してくれたのです。

こうした仕組みづくりを行うことによって、情報部門は目標達成と業務軽減、各担当課は事務の効率化、市民はオープンデータの活用、そして、行革部門は行革プランの目標達成という形で、それぞれがメリットを享受することにつながったのです。

相手より自分が汗をかく覚悟があるか。

次に、公共交通の担当だったときに、山形大学と連携した事例を紹介します。以前、山形大学の周辺を、市が運営するコミュニティバスと同大学が運営するシャトルバスの2つの路線がありました。

同じエリアを同じようなバスが走っている。こうした非効率な状況を解消するために、2つの路線のすみわけを行うことによって、利用者の利便性を維持しつつ、バスを運行する2者にとってもメリットのある仕組みづくりができると考えました。そこで大学側には、次のような提案を行ったのです。
 

ー 大学側に提案したこと ー

●朝と夕方の便は双方ともに利用者が多いため、大学のシャトルバスが運行しなくなるとコミュニティバスに乗れない市民などが発生する可能性がある。

●しかし、10時~15時くらいまでは双方ともに落ち着いた乗車人数であるため、どちらかが運行しなくても利用者にとって支障はない。

→こうした状況を踏まえ、10時から15時までの時間帯におけるシャトルバスの運行を廃止してほしい。


この提案によって、大学にとっては経費減、市にとっては利用者(収入)増、そして、利用者にとっての利便性は維持できるという仕組みづくりを行うことができました。

このように連携するにあたっては、相手にどうメリットを感じてもらうかが重要になってきます。そして、そのメリットの対象は関係する全ての方におよびます。

また、その仕組みづくりや提案後の取り組みに関して、相手より自分が汗をかく覚悟が必要です。こうした意識で物事を積極的に進めてくことで、様々な連携事業が進んでいきます。

また余談ですが、連携を進めるにあたっては、連携する目的に加えて、コンプライアンスや費用対効果を意識することが継続性という観点で大事です。これらのことを意識して、様々な連携を進めていきながら地域を元気にしていきましょう。
 

後藤 好邦(ごとう よしくに)さん

山形市 健康医療部 健康推進課課長。1994年入庁。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課を経て現職。総合計画の進行管理や次期総合計画の策定、仙台市との連携などを担当。自治体職員が横のつながりをもつ機会を生み出すため、2009年6 月に岩手県北上市の職員らとともに「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足し、会員を900名になるまで拡大させるなど、人・組織・地域・色々なものをつなぎ、東北、そして日本を元気にするための活動を実践している。

著書:

 

 

 

 「自治体職員をどう生きるか 30代からの未来のつくり方」(学陽書房)

 


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