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【相談室】忙しく時間がない中、課外活動に取り組むべき理由が分かりません。

気づけば中堅と呼ばれる立場になり、業務範囲も仕事量も増え、さらには結婚・出産・子育てとライフスタイルも変わったことで、ますます忙しく過ごす日々。仕事と生活とのバランスを考えると、今後のキャリアについて悩みや不安を抱えている方も多いでしょう。

今回は、パラレルキャリアやリスキリングといった、職場外における学びの場の必要性や、その時間をつくる方法について、山形市 健康医療部 健康推進課課長の後藤 好邦さんに回答いただいた。

【連載】
case1:出世しても増えるのは仕事と責任ばかりでこの先が不安です。

case2:係長として期待される役割を果たすために何ができるでしょうか。
case3:忙しく時間がない中、課外活動に取り組むべき理由が分かりません。←今回はココ
case4:年上の部下や、やる気のない部下に対してどう接していいか分かりません。
case5:どうすれば組織横断的な取り組みや官民連携事業を上手に進められますか?
case6:厳しい指摘ばかりの上司との付き合い方について教えてください。

お悩みcase3

パラレルキャリアやリスキリングなど、公務員も仕事だけでなく、課外活動や職場以外の学びの場をもつ必要があるといわれることが増えました。しかし、なぜそうした活動が必要なのか、正直まだ分かりません。課外活動が必要な理由と、日常業務で忙しい中、課外活動に取り組む時間をどのようにつくればいいか教えてください。

多様化するニーズに合わせ職員もマーケティング力を鍛える時代に。

私が仕事以外の活動に取り組むようになってから20年近く経ちました。その活動範囲は年を追うごとに拡大し、それに伴い、こうした活動から得られるメリットも増えています。

それでは、どうして仕事以外の活動や学びの場が必要なのでしょうか。この問いに対する私なりの考えについて、2つの視点からお話します。

はじめに成熟社会という観点からの話です。2000年代を境に、日本社会は「成長社会」から「成熟社会」に移り変わりました。成長社会はジグソーパズル型社会といわれているように、あらかじめ正解が決まっていたため、その正解に迅速、かつ正確にたどりつくための情報処理力が求められました。

こうした社会だったからこそ、自治体も前例主義が良かったわけです。一方、成熟社会はレゴブロック型社会といわれているように、自分たちで正解を考え、その正解を具現化していくために、色々なブロック(人材や地域資源など)を組み合わせていく必要があります。

こうした特性から、これまでの情報処理力ではなく、情報編集力を持った人材が求められます。

また、ジグソーパズルの一つひとつのピースは最初から役割が決まっていますが、レゴブロックの一つひとつのブロックは、つくるものによって役割が変わります。

それを社会に当てはめると、目指すべき未来によって民と官双方ともに求められる役割も変わります。行政がマネジメントやマーケティングを求められるようになり、民間が社会貢献を求められるようになった背景には、こうした時代の大きな変化が影響していると考えられます。

こうした変化に起因するニーズの多様化や、社会課題の複雑化に対して、私たちは役所の中で仕事をしているだけで対応することはできるでしょうか。それは難しいと思います。

ニーズを把握するためには住民と、行政サービスのスタンダードを知るためには他自治体の職員と、そして、社会課題を解決するための手段を創造するためには多様なコンテンツを有する民間分野の方々とつながる必要があるのです。

これからの公務員にとって大切なスキルは、多様化するニーズと多様化する手段のマッチングです。このスキルを身につけるためにも課外活動は非常に重要です。

事業の”ムダ”をなくすには庁外での人材交流がカギ。

次に、自治体を取り巻く環境の変化という観点からのお話です。これから自治体は2つの高齢化の影響によりますます厳しい状況に陥ります。

第一の高齢化は人口です。老年人口の増加により社会保障費が増大する反面、生産年齢人口の減少により税収は減少します。つまり、自治体にとっては収入が減少し、支出が増えるということになります。

第二の高齢化は公共施設やインフラです。高度経済成長期に整備されたものが次々に更新時期を迎えており、建て替えや修繕に要する経費がどんどん増加していくことになります。

これら2つの高齢化によって、自治体の財政状況は、さらに厳しい状況になると想定されます。

一方で、人口減少や地球温暖化の影響等により移住定着やカーボンニュートラルなど、新しく取り組むべき施策や事業も増えています。

こうした状況に対して、以前ならスクラップ&ビルドの考え方によりムダな事業を廃止縮小し、新たな事業に予算を振り向けていました。

しかし、1990年代以降、行財政改革に取り組んできた効果によって、明らかにムダと思える事業も少なくなっています。そのため、これからは必要性の高い新規事業を実施するため、優先順位の低い既存事業を廃止していくビルド&スクラップの時代になっていきます。

また、クラウドファンディングやPFI※など、新たな財源確保策や官民連携手法などを実践していく必要もあります。こうした取り組みを進めるにあたっては、住民に説明責任を果たすための対話力や、新たな手法に関する情報収集力が求められます。

これらの資質は仕事をしているだけでは高まりません。日頃から役所の外に飛び出し、地域住民や民間分野の方々など、行政と異なる価値観をもつ人材と交流し、ともに活動することで高まる資質です。

※公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法

時間を有効に使うワーク・ライフ・コミュニティ・バランス。

これまで2つの観点で公務員が課外活動に取り組む意義や必要性についてお話してきましたが、皆さんの中には「そうはいっても仕事や家庭が忙しくて取り組む時間が取れない」という方も少なくないと思います。そこで、最後に私がどう時間を生みだしてきたかを話します。

皆さんもワーク・ライフ・バランスという言葉を聞いたことがあると思います。仕事と家庭の調和を意味する言葉ですが、私はこれに、仕事以外の課外活動や趣味の活動を含むコミュニティという要素を加え、ワーク・ライフ・コミュニティ・バランスを整えながら日々を過ごしています。

こうした中で大事なことは、ライフとワークの優先順位が高く、コミュニティはこれらの要素を補完するためにあるということを意識することです。

しかしながら、時間は限られています。そのため、コミュニティの時間を確保するためには、ライフやワークの時間を削減することや時間配分を見直す必要があります。

まずはライフの時間ですが、私は自宅での過ごし方を変えることでコミュニティの時間を生み出しました。

以前は夜の時間帯にコミュニティ活動に取り組んでいましたが、子どもができてからは、そうした時間を確保することが難しくなり、またPCに向かっているときでも、子どもに話しかけられると無視するわけにはいきません。

そこで、思い切って夜の作業を止めて、子どもと一緒に早めに寝ることにしました。そして、妻や子どもがまだ寝ている早朝に起きて、コミュニティに関する作業をするようにしたのです。

ちなみに、起床時間は3時から4時の間です。テレビの誘惑もないシーンと静まり返った早朝の時間はとても集中でき、作業効率を格段に高めることができるようになりました。

次にワークの時間ですが、こちらは時間外勤務の時間をいかに減らすかが重要です。つまり、余分に取られていたワークの時間をいかに減少させるか、ということです。

時間勤務を減らす上で私が一番大事だと思うことは、“残業をしない”という意識をもつことです。残業が当たり前になると、その時間を最初から想定して作業工程を考えるようになります。

それが知らず知らずのうちに遅くまで残ってしまう要因となります。そのため、残業を減らす方法を考える前に残業ありきの意識を変えることが必要です。

次に大事なことは、ムダなことをなくすことです。皆さんのまわりには、やらなくてもよいのに、やったほうが無難だから、とりあえずやっている……、そうした仕事はありませんか。

これらの仕事が、時間を要するムダな仕事になっている可能性があります。例えば、決裁や資料の作成、会議の開催などを思い切ってなくすことで時間が生み出されます。

ワークやライフにおける時間の使い方を改善することで、その結果生み出された時間をコミュニティの時間に充てる。これにより、コミュニティの活動が充実する。そして、そのことで最終的にはワークやライフの質も高まっていく。

今の生活スタイルをちょっと変えるだけで、皆さんの日々の生活は大きく変わります。ぜひ、ワーク・ライフ・コミュニティ・バランスに取り組んでみてください。

後藤 好邦(ごとう よしくに)さん

山形市 健康医療部 健康推進課課長。1994年入庁。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課を経て現職。総合計画の進行管理や次期総合計画の策定、仙台市との連携などを担当。自治体職員が横のつながりをもつ機会を生み出すため、2009年6 月に岩手県北上市の職員らとともに「東北まちづくりオフサイトミーティング」を発足し、会員を900名になるまで拡大させるなど、人・組織・地域・色々なものをつなぎ、東北、そして日本を元気にするための活動を実践している。

著書:

 

 

 

 「自治体職員をどう生きるか 30代からの未来のつくり方」(学陽書房)

 


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