Special Interview
「地方公務員アワード2023」× ジチタイワークス
株式会社ホルグ主宰「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2023」で表彰され、さらに本誌の特別協賛社賞を獲得した海老澤さんに、その取り組みや思いについて話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.29(2023年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
東京都西東京市
健康福祉部 障害福祉課 課長
海老澤 功さん
えびさわ いさお:明治学院大学卒。大学を卒業後、民間企業に勤務。2000年、田無市役所(現:西東京市役所)に入庁。生活福祉課をはじめ、東京都市町村課への派遣や財政課、企画政策課を経験。その後、保育課に異動して「公設民営保育園の民間移譲」を成し遂げる。幼児教育・保育課を経て、現在は障害福祉課に勤務。
諦めず、怠らず、凡事を徹底することで、
改善のヒントはおのずと見えてくる。
Q.今回の推薦文※で称賛された、海老澤さんの改善マインドとは?
改善というより、面倒なことをしたくないだけです。入庁後すぐデータベースの作成を任されたときも、業務をラクにすることを第一に考えてやっていました。周囲にパソコンを使いこなせる人がいなかったので、自分で考えながら自由にやらせてもらっていましたね。
しかし、財政課に異動して自分の事務がなくなってしまった。所管課の事務をチェックして“1,000万円の予算を100万円まで削減できそう”と気づいても自分でやるわけにはいきません。指摘する私に疑いの目を向ける担当者を必死で説得してまわるうち、自分が寝る間も惜しんで働くより、50人、100人の職員を巻き込む方が効率的だと気づいたのです。今では“誰かのヒントになれば”と、ホルグのオンラインサロンにも改善事例を投稿しています。
※地方公務員アワードに他薦する際、推薦者はその理由を800文字以内にまとめた推薦文を提出する
Q.投稿事例を1つ教えてください。
幼児教育・保育課の時代に、年末保育の申し込みの締め切りを、11月から12月に延ばしたことがあります。利用を希望する保護者はシフト制で働いている人が多く、11月はシフトがまだ決まっていない。担当者に相談したところ、11月中には保育士の勤務表を確定する必要があるとのことでした。それなら、申し込みを2回に分ければいいと考えたのです。
11月に第1次申し込みを行い、希望者全員を受け付けます。応募人数に応じて保育士を確保しますが、1歳児5人につき1人の保育士を配置するため、申し込みが3人だった場合、追加で2人までなら受け入れられる。そこで、12月の第2次では、受け入れ可能な人数だけを先着順で募ることにしたのです。以前は、念のための申し込みがキャンセルになったり、締め切り後に問い合わせがきたりしていましたが、そういったトラブルはほとんどなくなりました。
こうした改善のヒントは、日々の事務にあります。漫然と取り組んでいても何も気づきませんが、“本当にこれでいいのか” “1万円でも予算を削れないか”と考えることが大切です。地味な作業ですし、大きな成果を見込めるものでもありません。しかし、こうした小さな努力が、大きな事業につながっていくのです。
Q.“公設民営保育園の民間移譲”についても教えてください。
公設民営保育園の場合、市が年間に負担する運営費は約2億円です。それを民間移譲したことで、国と都からも交付金が出るようになり、市の負担を1億円ほど削減することができました。さらに、建物を有償譲渡にしたことで、運営法人には国・都の財源を使って市から400万円が毎年、交付されるようになります。
市・運営法人・保護者・市民と、立場が異なる関係者が多く、調整が難航することもしばしば。他市の事例を参考にするなど、様々な方法を検討してきました。大変でしたが、削減できた市の予算は今後、地域の“保育の質”を向上させるために使われます。1園につき毎年1億円の削減効果があるため、長い目で見てもインパクトのある施策だったと思います。
成果の大きさが注目され、今回の推薦文でも多くの人が言及してくれましたが、パーツに分解していくと、保育園の運営費や補助金、建物の売買など、小さな事務の積み重ねであることが分かります。1人のスーパーマンではなく、多くの職員がそれぞれの得手不得手を補い合いながら取り組んだ結果です。
Q.チームを成長させるため、課長として意識していることは?
最初にゴールを示しますが、やり方までは指示しません。部下は課長の言葉に従ってしまいますから。そうではなく、みんなに考えてもらうことが大切です。
例えば、私が最初に「こういうことをしたい」と投げかけると、「現場にはこういう問題があります」という意見が返ってきます。さらに「では、こういうやり方ならどう?」と聞くと、「それなら課長、こういうやり方もあります」と、提案が返ってくる。私はこの“組み立ての過程”を大事にしています。
時間はかかりますが、対話を重ねていくことで、部下は大きく成長してくれます。「気づかなかったことに気づかせてくれた」「一緒に仕事ができてよかった」という言葉をもらうとうれしいですよ。
住民に比べれば、上司を説得するのは簡単です
Q.出世したくない若手職員が増えていると聞きますが……。
私自身は課長職を楽しんでいます。大変なこともありますが、できることが確実に広がりますから。自分の裁量でやったことが、住民の利便性につながったり、職員の事務をラクにできたり……。部下には「課長みたいに楽しそうな課長は見たことがない」と言われます。
例えば異動した際、“1年目で慣れて、2年目で検討して、3年目で改善する”なんて言っていると、業務改善はできません。1年目から動きだすことが大切です。公務員にとって異動はよくあることなので、それを言い訳にするのではなく、やる気に変えてもらいたい。
何かを改善したいと思ったら、上司を説得する必要が出てくるでしょう。そこでつまずく人も多いようですが、住民を説得することに比べたら上司なんて簡単です。毎日、顔を合わせているわけですから。一度説得できなくても、諦めずにチャレンジしつづけてほしい。そうすると自分の考えやスキルがどんどんブラッシュアップされていきます。上司に恵まれないと嘆いても、上司だって異動するわけです。いつか必ずチャンスは来ると信じて、頑張ってほしいですね。
Q.最後に受賞の感想をお願いします。
大きなことをしたとは思っていません。ただ、日々の事務に一生懸命取り組んできたという自負はあります。そういう地味にコツコツ取り組んできた姿勢を評価してもらえたことがうれしいですね。また、公設民営保育園の民間移譲では、複数の他自治体の事例を参考にさせてもらいました。
この事業に携わった当市の職員はもちろん、前例をつくってくれた他自治体の職員も含め、多くの職員を代表して私が受賞させてもらったと思っています。
海老澤流の仕事術
其の壱 徹底した改善マインド
この申請は本当に必要?この書類の記入項目は減らせない?思考停止に陥らず、改善のタネを探す。
其の弐 部下の心をつかむ
時にむちゃぶりすることも。真剣に向き合えば部下は理解してくれる。
其の参 “課長”を楽しむ
大変なのは覚悟の上。課長にしかできないことを素直に楽しむ。