取組概要
・人生における大きなイベントである「死亡」(=おくやみ)に焦点を当て、故人は思い残すことがなく旅立つことができ、遺族は負担なく手続き等を行えるよう、①手続きの簡素化と一元的な相談を担うおくやみ窓口の設置、②おくやみ窓口における資格確認でのRPA活用、③官民連携したおくやみハンドブックの作製、④企業と連携した終活ノートの作製、⑤終活ノート記入に関するサポート体制の構築、といった包括的な取組により、「おくやみ」をフルサポートする体制を整えている。
取組期間
・令和元年度~(継続中)
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2020」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
背景・目的
都城市の人口及び死亡件数推移等
少子高齢化社会の到来により人口減少が進む中、死亡件数は増加している状況である。また、社会構造の変化により、核家族化も進んでいることが伺える。このことから、死亡の手続きにおいては、「2人世帯の場合 ⇒ 残った高齢者が手続者」、「1人世帯の場合 ⇒ 他世帯の親族(子等)が手続者」であることが多く、故人の状況を正確に把握できていない者が手続者となるケースが増えていると考える。
また、他世帯の親族が遠隔地から帰省して手続きをする者には、限られた時間の中で手続きを漏れなく完了する必要があるとも考えた。
さらに、市民等から、市役所の手続きで最も負担があるのは、死亡に関する手続きであると以前から言われており、特に「どの手続きが必要かわからない負担感」、「何枚も申請書に記入する負担感」について、訴えが多かったところだ。
市民にとって負担となる事務の改善を図ることは、行政にとっても内部事務の効率化が期待できると考え、市民サービスの向上及び行政効率化の観点も含め、「おくやみ」に関してフルサポートする体制を作ることとした。
実際に、窓口開設後3ヶ月間の利用状況分析においても、上記を裏付けるような数値が出ている。
おくやみ窓口利用状況(令和元年11月開始~2月まで)
取組の具体的内容
(取組①)マイナンバーカードを活用し手続きの簡素化と一元的な相談を担うおくやみ窓口の設置
大切な方を亡くされたばかりの遺族の精神的・物理的負担を軽減するために、安心して相談等を受けることができる「おくやみ窓口」を設置し、市役所で必要な手続きを特定した上で、必要な申請書に必要事項等を記入した形で印刷するシステムを構築した。システムには、故人や届出人のマイナンバーカードを読み取り、申請書類にマイナンバーカードの情報を転記し、効率化を図る機能を実装している。マイナンバーカードを活用した「おくやみ窓口」の設置は日本初である。
なお、市役所内の手続きのみならず、県や国、そして民間における手続きも含めて、可能な限り相談に乗ることで、遺族の不安感や負担感を解消している。
さらに、おくやみ窓口には、花を飾り、市民課長の着物から作ったテーブルクロスを設置し、落ち着いた雰囲気にする等、おもてなしの心を表した窓口としている。
(取組②)おくやみ窓口における資格確認でのRPA活用
上記システムは、基本的には本人からの聞き取りにより必要手続きを把握するものだが、遺族は正確に故人の情報を把握していないため、RPAを活用して、故人の情報をおくやみ窓口で簡易に確認できる仕組みを構築し、他課に負担をかけず、おくやみ窓口のみで完結する仕組みを構築している。
(取組③)官民連携したおくやみハンドブックの作製
また、おくやみ窓口にいらっしゃる前段として、死亡届を出された際に葬儀社を通じて遺族にお渡ししていた1枚紙の説明資料を、おくやみハンドブックとして全面リニューアル。手続きで必要な書類等がわかるようにしたほか、委任状を入れることにより手戻りがないよう配慮している。さらに、官民の壁を超え、ガス、電気、銀行、携帯会社等の様々な事業者の協力を得て、主要な死亡に関する手続きを網羅した内容となっている。このことにより、民間手続きで必要な証明書等を事前に知ることができるため、市役所に再度証明書を取りにくるといった機会損失が無くなっている。
(取組④)企業と連携した終活ノートの作製
おくやみ窓口運用後に、おくやみ窓口利用者の15%が「自分が死んだ際に家族に迷惑をかけたくない」、「死んだ時のことを家族と話せていない」等の生前の相談であることに着目。また、遺族からも、「親の預貯金口座を知らないため教えてもらえないか」、「葬儀の希望を聞いていなかったため大変だった」といった声を聞いていたことから、人生の終末期に迎える市に備えて自身の希望を書き留めておく終活ノートを、本市と包括連携協定を締結しており、死亡等の手続きに関し高い知見を持つ第一生命保険株式会社との協働により0予算で作製しました。ユニバーサルデザインにも配慮され、高齢者でも読みやすい色合い、フォントにこだわって作られている。なお、この終活ノートについては、第一生命保険株式会社と著作権に係る契約を結べば、他自治体もロゴやメッセージを入れた上で、無償で使って頂ける。
(取組⑤)終活ノート記入に関するサポート体制の構築
終活ノートについては、内容に関するお問い合わせも多いことが予想されたため、第一生命保険株式会社宮崎支社に配置されている、相続をはじめとする死亡に関する手続きのスペシャリストである相続コンサルタントに相談いただける体制を構築した。
また、ノートの考え方や書き方について説明する出前講座も開講する。(コロナの影響で開催延期中)
おくやみ窓口
おくやみハンドブック
終活ノート
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
・当市は、様々な取組を推進した結果、マイナンバーカード普及率市区別日本一となり、令和2年5月時点で、36%以上の市民がカードを取得している。この都城市の強みとも言えるマイナンバーカードを利用したおくやみ窓口は全国初である。なお、おくやみ窓口を、エクセル活用型ではなく、先端技術を活用したシステム活用型としたことで、各課に負担をかけずにおくやみ窓口だけで完結できるようになっている。
また、おくやみ窓口を単発の取組にせず、川上や川下の手続きもサポート。官民の垣根を超えた多彩なプレーヤーの協力により、死亡に係る手続き内容を可能な限り網羅し、おくやみ窓口においても、積極的に多様な相談を進んで受ける体制を構築している。
さらに、終活にも注目し、企業との協働を選択したことにより、他自治体に横展開できる成果物(終活ノート)と終活に係るサポート体制を創り上げることができた。
取組の効果・費用
・おくやみ窓口では、滞在時間増に繋がる相談機能を強化しているにも関わらず、設置後の遺族の庁内滞在時間は30%削減されており、市民サービスの高質化と負担軽減を両立して実現することができている。
さらに、これまで必要な手続きの漏れや民間の手続きで必要な証明書が後日判明する等で、市役所に再度来庁していたようなケースの解消による効率化は上記数値に加えていないことから、実質的には相当な時間の効率化に寄与している。
また、おくやみ窓口に係る利用者アンケートによると、99.5%が満足と答えており、行政が提供するサービスにおいては、異例とも言える数値を記録している。
終活ノートについても、市役所に架設する形での配布であるにも関わらず、コロナ渦の中で、1月で人口の1%を超える2,000冊を超える配布が完了し、市で最も人気がある発刊物となっており、新聞等で取り上げられた後には、他自治体の住民からも問い合わせが殺到し、他自治体からも作製したいとの問い合わせが入ってきている。この終活ノートをきっかけとして、葬儀やお墓、財産、さらには飼っているペットのことなど、様々なことを家族と話すことで終活に向けた整理ができ、安心したとの声も頂いているし、実際に終活ノートを記入した後に亡くなった故人の遺族からは、財産等の把握ができることから、死亡手続きがスムーズだったとの評価をいただいている。
併せて、おくやみ窓口の設置で、各窓口における聞き取りや振込口座確認等の重複事務が解消されていることから、行政効率化にも大きく資する取組となっている。
さらに、終活の取組を進めることにより、円滑な相続に寄与することができることから、現在相続人不明等で社会問題となっている空き家問題を解決する端緒となることや、金融機関口座等の適切な把握による休眠口座の減少による経済の活性化等の効果も期待される。
取組を進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
・死亡に関する手続きについては、国・県・市・民と様々なプレーヤーがいる中で、当初は乗り気ではない主体がいたものの、遺族のためとの想いを伝えることで、全員が同じビジョンを共有し、様々な面で協力し合える関係を築くことができた。
今後の予定・構想
・死亡に関する手続きは、官民問わず、多岐に亘っている。それらを正確に把握し、必要な手続きを漏れずに行うためには、終活ノートをさらに発展させ、常に最新の情報を保有する情報銀行のような機能が必要なのではないかと考えている。国においても検討が進む情報銀行について、死亡手続きを担う自治体の立場から参画できないかと考えている。
他団体へのアドバイス
・「自分の仕事ではないと言わない」。都城市職員の心構えを示す都城フィロソフィにある一節であす。死亡に関する手続きは官民の組織を超えて多岐に亘る。縦割りの精神で対応していては、十分な対応を取ることはできない。時には、遺族に代わって、様々な民間の手続きについても電話で確認をして差し上げる等、自分の家族をサポートするような気持ちを持って接することが重要である。
問い合わせ先
宮崎県 都城市 総合政策課
0986-23-7161