ジチタイワークス

自治体のテレワーク導入や働き方改革はどうすればうまくいく?

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府は民間企業や地方自治体にテレワーク導入の支援を実施。東京都が行った令和2年4月時点の調査によれば、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は6割を上まわり、民間企業では導入が進んだ印象があるが、自治体はまだまだ追いついていないというのが現状だ。

※下記はジチタイワークスVol.11(2020年9月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

本誌編集室でも会員(自治体職員)の皆さん182名にアンケートを実施。下図の結果からも、テレワーク導入率(約4割)やオンライン会議の実施率(2割以下)の低さが分かる。寄せられたコメントでは、取り組み自体に理解はあるものの、環境の不備や在宅でできる業務範囲の狭さなど、障壁を語るものが多かった。新しい生活様式が求められる中、自治体がテレワーク導入などの働き方改革を実現するには何が必要なのか。

ジチタイワークス個人会員へのアンケート結果


●実施期間/令和2年4月22日~5月24日
●回答人数/182名

本誌では、お二人の有識者にインタビューを行い、それぞれの経験や立場から改善のヒントをお聞きした。

Interview01:椎葉 怜子(しいば れいこ)さん

株式会社ルシーダ代表取締役社長
(一社)日本テレワーク協会客員研究員
国家資格キャリアコンサルタント

 

テレワークは日本人の働き方を変える処方箋になると感じていた。

私が女性のキャリア支援活動をする中で、平成24年に出会ったのが「テレワーク」という働き方です。当時はテレワークという言葉すら認知されていませんでしたが、いずれ働き方を変える処方箋になると感じていました。また、テレワークに対して懐疑的な経営者も多かったのですが、平成27年に安倍政権が「働き方改革」を打ち出し、その手段の一つとしてテレワークが明言されると、社会の潮目は変わりました。

総務省の「テレワーク先駆者百選」や、私が客員研究員を務める日本テレワーク協会の「テレワーク推進賞」などでも優れた企業や団体が表彰され、認知が高まっていったのです。自治体の受賞数は多くありませんが、平成28年に受賞した東京都豊島区(P8参照)や佐賀県、教職員による取り組みで昨年受賞した愛媛県西条市などは、とても印象に残っています。

特に東京都では、2020オリンピック開催時の交通混雑解消などを目的に、テレワーク推進が強化されていました。ですが、オリンピックが無事開催されたとしても、コロナ禍の今ほどにはテレワークが定着しなかったかもしれません。テレワークをめぐる状況は、想像以上にコロナで変わったといえると思います。

 

できないという思い込みを捨て最初の一歩を踏み出すこと。

これまでテレワーク推進の阻害要因は“紙と判子と対面”の3つだといわれてきました。それが“紙をなくしてデジタル化”という動きだけでなく、コロナをきっかけに“押印しなくても契約の効力に影響は生じない”という見解を国がまとめるまでに進化しました。また、対面が常識とされていたビジネス慣習も、今ではむしろ「なるべく会わない」という風潮に。

働き方の構造が劇的に変わり始めたと感じています。にも関わらず、自治体では導入を諦めるケースが多い。「行政にはできない」という思い込みが強いのかもしれませんね。まずは職員の皆さんが意識を改革し、最初の一歩を踏み出すことが大切だと思います。

また、自治体における導入の障壁として“対面を基本とする窓口業務”や“個人情報を扱う業務”が挙げられますが、それに該当しない部署もありますよね。業務を洗い出し、どの部署、どの業務なら在宅でできるのか、毎日が無理でも週に何回ならできるのか……など、できることから進めるとよいでしょう。民間でも最初からうまくいった企業はありません。トライ&エラーを繰り返しつつ、焦らず取り組んでほしいですね。

 


▶椎葉さんから学ぶ3つのポイント!!

01.まずは管理職が率先してテレワークに取り組むこと。

「テレワーク推進を阻む傾向にあるのは、デジタルに苦手意識を持つ管理職層」と椎葉さん。上司が前向きでなければ部下は声を上げにくく、上司が出社していると部下がテレワークしにくいケースも。成功している企業は、管理職のテレワークを義務化していることが多い。

02.“一気に全て”は難易度が高い。まずは部署単位のトライアルから。

全体でスタートするのは難しくても、導入の可能性が高い部署や協力的な職員を見つけることはできる。まずは可能な部署で1カ月などの期間を区切り、テレワークをトライアル。その中で課題を見つけて改善方法を検討し、徐々に取り組む範囲を広げていくとよい。

03.定期的にアンケートを実施。結果を分析し共感を広げていく。

テレワークを実施した後は、数カ月に1回程度の頻度でアンケートを実施する。取り組んでみて良かった点や難しかった点など結果を分析し、今後の提案などのフリーコメントを含めて報告。職員の声を管理職層が知ることで、トップの意識を変える材料にもなる。


work history / 椎葉 怜子さん

2007(平成19)
「女性の“働く”を応援する」株式会社ルシーダを起業。女性向けのキャリアデザイン研修や目標設定セミナー、男性マネージャー向けのセミナーを全国で開催

2012(平成24)
情報システム学会で「ICT(情報通信技術)活用による女性の働き方研究会」を発足

2014(平成26)
政策提言「テレワークの段階的な導入で、女性の活用を!」を発表。日本テレワーク協会客員研究員に就任

2015(平成27)
テレワーク関連省庁のテレワーク普及推進事業に携わる。テレワーク先進企業の経営者・人事責任者を対象とする研究会の部会長として研究活動を行う

2017(平成29)
東京都のテレワーク普及推進事業に携わる

2020(令和2)
研究成果レポート「経営・人事戦略の視点から考えるテレワーク時代のマネジメント改革」を発表

 

 

Interview02:黒瀬 啓介(くろせ けいすけ)さん

LOCUS BRiDGE代表
株式会社トラストバンク新規事業本部パブリテック事業部カスタマーサクセス担当

 

固定観念が覆された!コロナ前後の違いは大きい。

私は元公務員なのですが、機会を得て民間企業へ出向したとき、働き方の違いに呆然としました。出向先ではノートPCを片手に出先で仕事ができたし、紙もほとんど使わない。衝撃を受けて市役所に戻ると、職員たちの疲弊した姿が。抜本的な業務改革をしないまま人員を減らしたため、仕事量が増えていたのです。「このままではいけない!」と、自分なりに行動を起こしたものの、大きな変化には至りませんでした。それからしばらくして独立しましたが、地方を活性化したいという思いは今も同じ。そのためには行政がデジタル化され、働き方を変える必要があると考え続けてきました。

独立後に携わっている仕事の一つに、LGWAN上で安全に利用できる自治体専用チャットの導入促進があります。導入先でご好評を得ている、テレワークにも役立つツールなのですが、コロナ発生後に、その導入率が急増したのです(8月時点で479自治体)。感染症はもちろん脅威です。だけど働き方改革においては、驚異的なターニングポイントになりました。それまでは庁内で働くのが当然だったのに、コロナによってできない状況に直面し、固定概念が覆されたんですからね。

 

今、どう動くかで差が生まれる。コミュニティも上手に活用して。

コロナ禍においても“変われる自治体”と“変われない自治体”はあるでしょうね。例えば、感染拡大予防でイベントを中止することになった後、オンラインイベントに挑戦するのか、何もせず諦めるのか。ここで道が分かれる。テレワークも同じです。「行政には難しい」と決めつけたら、そこで終わり。やる気のある職員が1名でもいたら、「取り組みたい」と声を上げ、共感してくれる人に「どうすればいい?」と相談すればいい。もちろん、“三層の構え”によるセキュリティ対策や財源不足、テレワークの経験不足といった障壁はあると思いますが、可能なことからスモールスタートする発想を持つことが大切です。

私は仕事を通じて、またプライベートで全国の自治体職員とつながりを持たせてもらっていますが、SNSなどを活用した公務員たちのコミュニティでは、行政課題に関する活発な情報交換が行われています。一人で悩むより、そのような場を活用し、みんなで考える方が効率もいい。

企業の場合、他社の人に相談するわけにはいきませんよね。でも自治体なら地域が違っても課題を共有し、答えを模索できる。それが自治体の素晴らしいところだと思います。

 


▶黒瀬さんから学ぶ3つのポイント!!

01.行政こそ「多様性を認めることができる組織」になるべき。

「多様性の重要性を説きながら、多様性を最も許容しにくい組織が自治体かもしれない」と黒瀬さん。テレワークも働き方の選択肢の一つに過ぎない。職員一人ひとりに合った“多様な働き方”を認めるために、実現する方法を探ることが重要だ。

02.一時的に「乗り切る」だけか、「変える契機」と捉えるか。

コロナによる現状をどう捉えるかで、Withコロナの自治体のあり方や職員の働き方に差が生まれる。単に「乗り切ろう」ではなく、「これを機に変えよう」と考えられるかどうか。必要な情報を集め、それをもとにアクションを起こす力が試されている。

03.積極的な“発信”から“共感”へ。情報は自分から取りに行く。

情報は自ら発信する人のところにしか集まらない。自分がやりたいことを発信して初めて周囲に共感が生まれ、必要な情報を提供してくれる人があらわれるという意味だ。公務員が集うSNSやセミナーなどを通じ、積極的に発信、相談する姿勢を持ちたい。


work history / 黒瀬 啓介さん

2000(平成12)
長崎県 平戸市役所に入庁。市教委生涯学習課を経て、広報ひらどを5年間担当。在籍中に長崎県広報コンクール5年連続最優秀賞受賞

2008(平成20)
全国広報コンクール市部の部で6席を受賞。その後、税務課住民税係や企画課協働まちづくり班を歴任

2012(平成24)
移住定住推進業務とともにふるさと納税を担当

2014(平成26)
全国初の「ふるさと納税」寄附金額10億円突破と寄附金額日本一を達成

2016(平成28)
株式会社トラストバンクに1年9カ月出向

2018(平成30)
平戸市財務部 企画財政課で主査を務める

2019(令和元)
平戸市役所を退職しフリーランスとして独立。東京を拠点に活動中

 

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