
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、愛媛県上島町の「離島に住む人たちの買い物を支援」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
離島自治体である上島町の中でも、中心部弓削島から、さらに快速船で1時間かかる瀬戸内海ど真ん中の離島「魚島(うおしま)」。
島内には飲食店や小売店が1店舗ずつと少なく、日常の買い物にも不便をきたしている現状を改善するために、町内外の移動販売業者に協力要請を行い、廃棄物収集車運搬船に運賃無料にて乗船してもらうことで、業者への負担軽減を図り、住民の島内での買い物を可能とし、生活の質(QOL)向上につなげた。
背景・目的
現存している1カ所の商店は、日常生活を営む上で必要な商品の取り扱いが少なく、生鮮食品(肉、魚、野菜等)を入手するには定期船を利用し、半日程度かかる。住民も高齢となり、体力的に移動や荷物の運搬などの負担が非常に大きいため、早急に買い物支援に取り組み生活の質の改善に取り組む必要があった。
取り組みの具体的内容
これまでも地元漁協の協力を得て業者の移住定住を前提とする店舗誘致を進めてきたが、店舗の廃業リスクなども考慮し、今回、新たに移動販売業者が町内に訪れる形態での買い物支援をすることにした。
魚島には移動販売車や多くの荷物を運搬可能な定期航路が存在していないため、代替手段としてまちが廃棄物収集車などを運ぶために傭船している運搬船に、業者の移動販売車等を運賃無料で乗船させて、業者が訪問できる環境を整えた。
さらに、町外業者には町内まで移動販売車を往復させるための交通費等を補助し、業者が長期的に事業に対する採算が取れるよう後方支援をした。また、会場の提供や運営を後方支援することで業者が事業を長期継続できる環境を整えた。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
移住定住を前提とした業者や店舗の誘致を行った事例は多くあると思われるが、採算性などの問題がついてまわり過疎地であればあるほどハードルが高くなるのが現実である。
本事例は、移動販売業者の訪問を前提とし、かつ、当地までの移動を支援する形態をとった点が新しく、様々な過疎地で応用可能で工夫により発展する余地のある取り組みと考える。
取り組みの効果・費用
取り組みによって、それまで徒歩で乗船し片道1時間かけて町中心部で買い物をするのが基本であった島民の様々な買い物が、島内の会場に出向くだけで可能となった。さらに、島内の店舗では入手困難であったお惣菜・焼きたてパンなども来訪する業者によっては購入可能となり、島外の住民との生活の質の格差が縮まった。
島民の買い物支援をする場合、快速船による買い物に付き添う形態が予想されるなど、行政にとっても大幅に負担のある事務であったが、業者に対する様々な後方支援事務に取り組むだけでよくなり、業務量が大幅に改善。島民にとって新たな外出の場となり、閉じこもり防止にもなっている。また、高齢者の状態確認もでき早期の異常発見の場ともなっている。
業者にとっても小規模とはいえ新たな市場やニーズを発掘できるメリットがあり、関係者全員がメリットを享受可能である。
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
主眼が島民の生活の質(QOL)の改善にあり特定の業者へ利益を誘導する意図はなかったが、結果として参画の有無により各企業の事業に影響を与える可能性が否定できず、どのような支援形態をとるか慎重に検討する必要があった。
経済的支援を町内中心部に来るまでの高速料金、と、中心部から定期航路のない現地までに絞り、サービスの対価等の事業内容への支援を排除することで、参画の有無により業者間に不当な格差を生まないように最大限の配慮を行った。
今後の予定・構想
参画を希望する町内外の業者を今後も募ることで業者のバリエーションを増やし、お惣菜や焼きたてパン以外の島内で入手困難で支援が必要な物資に関しても供給できるように努力し、さらなる生活の質(QOL)の改善につなげたい。
また、町中心部がさらに衰退し現在の魚島の状況に近づいたときには、直ちに町内全域に同事例を広げられるように更に調査研究を深め将来に備えたい。
他団体へのアドバイス
買い物支援に関しては、行政としてはつい移住定住を前提としがちであるが、公平性と採算性さえ配慮すれば本事例のような支援もあり得るのではないか。