
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、福島県南会津町の「水道施設の木質化でSDGsに貢献」する事例を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
本事例は、水道施設更新整備に身近で潤沢な資源木材を経営資源に転換し、経営持続・森林再生・脱炭素化に貢献する取り組み。当該施設の更新事業自体は、平成28年度から実施していたが、木質化の取り組みとしては、令和3年度から実施しており継続中。
背景
長期人口減少社会で増加回復が厳しく料金収入も減少し、ほとんどの中小水道事業体では脆弱な財政状況下にある。水道事業は高度経済成長期に急速な普及を遂げ、築50年以上の施設が多く更新需要は増加している。
このため、様々な経営課題を高度な手法を持って解決する職員マネジメント力向上、同時に社会インフラ構築に欠かせない建設事業従事者減少への対策が求められる背景があった。
目的
人的および財政的な制約がある中、持続可能な経営基盤構築には、新たな手法の実効性を判断し導入を図らなければならない。今回の取り組みは水道事業に直接恩恵を与る恵まれた森林資源に着目し、ローテクによる慢性的な人員不足に対応した新たな建築構法を当町林業関係者が開発、それを経営資源として活用させた。
財政負担と人的資源の軽減を目的とし、同時に森林再生、脱炭素化に水道事業が貢献する波及効果を期待している。
取り組みの具体的内容
●水道事業の課題
●創意工夫による取り組み
取り組み効果
ヒト:ローテク技能による“慢性的人手不足”を解消
モノ:“素材自由度”を生かしてライフサイクルコストを軽減
カネ:“身近で潤沢な資源”で財政支出を抑制
●SDGsへの貢献
経営持続(目標3:すべての人に健康と福祉を)
→公衆衛生の向上を使命とする水道事業に新たなイノベーションで経営持続に貢献
森林再生(目標15:陸の豊かさを守ろう
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう)
→水道事業への環境負荷(高濁度水、渇水、富栄養化)の軽減に
つながる森林再生に貢献
脱炭素化(目標17:パートナーシップで目標を達成しよう)
→“水道事業の省エネ化”“森林サイクルの好循環”を結び、水道と林業のパートナーシップ構築に貢献
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
●独自性
飲料水を製造する水道施設建屋内は、多くの電気・機械類による浄水処理工程を経てアルカリ性薬品(次亜塩素酸ナトリウム)を注入し水道水となる。これまでのコンクリート構造物は高温多湿期の結露と施設特有の環境下で、酸性物質が生成され化学的腐食が進み当町の場合は冬季間の凍害も加わる。
今回採用した「木のかたまりパネル(ネイル・ラミネイティド・ティンバー、以下:NLT)」は、木造住宅で柱にする一般流通材(以下:角材)を使用し、角材を木ねじのみで接合する。木材は、湿度の高い時期に湿気を吸収、乾燥する時期に湿気を放出する調湿を行う独自性を備えた弱酸性素材である。木目現(あらわ)しで構造材・内外装材・断熱材を兼ね、劣化要因の化学的腐食と凍害に耐食性を発揮し、水道施設と調和する特徴をもっている。
●新規性
NLTは、木造建築で一般的に用いられる木造軸組構法と比較して材料及び技能の数を減らすことで、本体組立の工期短縮を図ることができるため、建築物構法に新規性を示すとともに脱炭素化に貢献している。
●工夫点
木目現(あらわ)しの室内に断熱性セラミック塗装を施した。ポンプ機器稼働時の騒音を懸念し新たに消音壁等の繁雑な工程を加えるのではなく、塗布するだけの単純工程で懸念払拭を図った。この塗布による副次的効果として、さらなる防露と不燃性が加わり建物の耐久性向上につなげた。最終的に角材とセラミックの組み合わせにより自然由来の素材で施設整備を完結することができた。
取り組みの効果・費用
●取り組みの効果
財政支出の平準化:施設建屋2棟を4年間(1年目:送水ポンプ棟基礎、2年目:同躯体、3年目:電気薬品棟基礎、4年目:同躯体)に分け完成させ、当町水道事業の年間投資限度額と照合し、他事業に影響をおよぼさない範囲での実施により財政支出の平準化を図ることができた。
耐食性:水道施設環境に調和した耐食性を発揮できた(「6 特徴」のとおり)。
施工管理:工場でのプレハブ化で、気象条件の影響なく品質管理ができる。年間を通じて気象条件等の影響無く組立加工が可能で、工程管理も現場作業期間が短縮でき人員不足解消につなげた。
加工自由度:4年間の分割発注で、ポンプ建屋壁面への配管貫通工事があった。従来型コンクリート造は貫通部に補強配筋し同時に鞘管を設けるなどが一般的であり、工程が増加していたが、今回はポンプ据付時に壁面削孔し配管するほか、壁面への電気配線等においても構造体への影響を気にせず、ビス止めし施工するなど素材の加工自由度を実感できた。
健全な水循環:木材利用で間伐等森林整備が促進し、森林機能の健全化から浄水機能の環境負荷軽減効果を期待する。森林伐採から植樹そして伐採を繰り返す森林サイクルの好循環は高濁度水、渇水、富栄養化への具体策として示せる。
脱炭素化:樹木は大気中の二酸化炭素(以下CO2)を吸収して成長するため貯蔵・固定され、カーボンニュートラルの実現に重要な役割を担っている。平成29年度森林白書では住宅一戸当りの木造はコンクリート造に比べ、炭素固定量約3.8倍、製造時CO2排出量約4分の1と示され脱炭素化への効果が高い。工夫点は一般的木造住宅よりも材木搬出量が多くCO2排出量が大きくなるNLTだが、その分木材使用量も多く炭素固定量増大(約11倍)につなげている。
●費用
設計段階で建屋規模6.4m×3.7mの建造費用をコンクリート造とNLTで比較した場合、前者は43万円/m2で後者は24万円/m2との結果が示された。当該施設規模で約45%の経済的削減効果を得ることができた。
昨今、物価高騰が取りざたされている中で、国産材はウッドショック時に高騰した価格からピークアウトしている。さらに国は「花紛症対策」として、発生源であるスギ人工林の伐採と花粉飛散の少ない品種への植え替えを集中して今後進めるとしている。この国策と同調することで、伐採後の国産材有効活用に寄与でき、更新需要の増加傾向が続く中長期的対策として、国産材の積極的活用は更新費用の財政支出抑制につながると期待できる。
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
●課題
水道事業の脱炭素化には、近年、大中規模事業体を中心に施設内余剰地への太陽光及び自然流下と管内密閉空間を有効利用した小水力発電設備など、再生可能エネルギー対策の積極的導入が図られている。全事業体の約7割を占める中小規模事業体では、技術力及び財政力を要因にこれらの対策事例は少ない。
今回の取り組みは給水人口約1.3万人の小規模事業体からの技術発信であり、前述した脱炭素化策と同様に、取組内容を広げ事業体規模に関係なく導入されることが課題である。
●問題点
木材利用促進法「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(平成22年法律第36号)」が制定され、「脱炭素社会の実現に資する等のために建築物等における木材の利用の促進に関する法律(令和3年法律第77号)」に改正された。しかし、地方公営企業法施行規則別表第2号の耐用年数は15年と記載されている。このことで「木造は短命」とコンクリート及び鉄骨造との構造別性能比較において低評価扱いされることが問題点である。
今後の予定・構想
今回の取り組みは、令和5年度日本水道協会主催水道全国会議等で高い評価をいただいている。この評価が一過性とならないために、水道施設へ創意工夫を図りながら無理なく木材利用を進めていく予定である。
同町ではほかに、企業資産の大半を占める管路施設に「木質減圧弁室での地上化」や、給水人口約70人程度の浄水施設薬品室内部を「木質リノベーション」などの導入実績がある。これらは維持管理性の向上や施設延命化などの効果、軽量資材(コンクリートの約1/5)の特性に期待し導入した。
今後も水道事業へ木材活用を行った事業体として、浄水場等の比較的大きな建築物にだけでなく、経営資源としてライフサイクルコストの軽減を目的にして様々な導入実績を増やしていく見込み。この具体的な実績を全国の水道事業体が、施設更新等の検討材料に「木材」を挙げ比較項目として扱っていただくことを構想にしている。
他団体へのアドバイス
水道事業体規模に関係無く水源林の機能向上が求められる健全な水循環への対応は、全事業体共通課題であり今回の取組は、水源林の間伐材等を有効利用する単純で分かり易く展開性が高い。森林資源が少ない流域下流の事業体でも上流域木材の地産地消、仮に別流域の木材消費でも、健全な森林サイクルに寄与できるため、多くの事業体へ汎用性が高い取り組みである。
今回紹介したNLTは「動く工場」も大きな特徴である。角材を製造する製材所や工務店等の協力を得ることができれば製造機が移動し「現地工場」として稼働できる。間伐材の運搬距離を短縮させNLTを製造できる。経済的な製造工程の構築が脱炭素化に繋がる技術であり、水道事業による森林再生への具体的対策を示すとともに、水道と林業が強いパートナーシップを構築し持続可能な社会に貢献できることを強くアドバイスしていきたい。
【南会津町:水道事業が「脱炭素チャレンジカップ2024」で受賞しました】
https://www.town.minamiaizu.lg.jp/official/kurashi_tetsuzuki/jogesuido/oshirase/3056.html
【南会津町:令和5年度水道イノベーション賞【特別賞】を受賞しました】
https://www.town.minamiaizu.lg.jp/official/kurashi_tetsuzuki/jogesuido/oshirase/2965.html