行政改革、通称「行革」は地方自治体が継続して取り組むべき課題である。
各自治体の行革のアイデアやノウハウの発表の場として愛媛県が主催しているのが「行革甲子園」だ。平成24年にスタートした行革甲子園は、今年で7回目となった。全国35都道府県・78市区町村から寄せられた97事例から、1次審査を通過した7団体が本会場にてプレゼンテーションを行った。
後編では、大会ステージに立った7団体のうち後半の3団体、「愛媛県今治市」「北海道余市町」「愛知県豊根村」のプレゼンテーション、そして、韓国・金提(キムジェ)市の特別講演の模様をレポートする。
※掲載情報は公開日時点のものです。
愛媛県今治市
「移住者のための空き家バンク活用」
愛媛県今治市は県北東部に位置する。瀬戸内の真ん中に飛び出した陸地部、そして100の島々を有する島しょ部で構成される。サイクリストに人気の瀬戸内しまなみ海道や今治タオルなど有名なコンテンツ・特産品を有するまちでもある。
発表を行ったのは、地域振興課 主事・野尻さん、市民が真ん中課 課長補佐・渡邉さんだ。野尻さん自身が埼玉県からの移住者であり、移住者の視点で課題解決に取り組んでいる。
【エントリー事例】
全国初!地方版空き家バンクシステムと全国版空き家バンクシステムとの API 連携による移住の促進
今治市で取り組んでいる課題に、移住定住推進と空き家問題がある。特に空き家については、市の空き家率が県内ワースト2位の23.2%となっており、とても大きな問題となっていた。なお、空き家率の全国平均は13.8%である。この点からも今治市の空き家率が非常に高いことが分かるだろう。
そして、移住促進だが、令和2年度の時点で228件の移住相談件数を受けている。その中でも、多い相談が空き家探しについてだ。市の職員にも移住希望者から質問が多く寄せられていたが、よい空き家が多くあるにも関わらず、空き家バンクに情報が掲載されていないため、職員が上手く相談に乗れないという現状があった。
これらの問題から、今治市では「移住相談≒住まい探し」「空き家が多い≒流通していない」と考え、空き家の流通増加、および移住相談や移住者の増加を目指すこととなった。
課題の洗い出しの中では、まず「空き家バンクの登録手続きに紙が多い」という点が挙げられた。登録手続きのための紙が多く処理しきれない点、さらに審査や受け付けの処理に時間がかかる点が具体的に解決したい点である。空き家情報の更新が遅いことで、移住希望者に必要な情報が入らないところも改善点として挙げられた。そこで、解決の方向性として「紙を印刷しないフローの構築」を目指すこととなった。
次に「連絡手段が電話・メール・ファックスなど種類が多く複雑すぎる」という問題も挙げられた。この課題に対しては、「WEBで気軽に相談できる仕組みの構築」「関係者で情報共有しやすい仕組みの構築」を目指すこととなった。
そして、全国版・今治市版それぞれの空き家バンクで、情報鮮度にばらつきがある点も解決すべき点である。この課題に対しては「2つ同時に物件情報を掲載」「掲載項目をそろえ、情報をむらなく配信する」ことが目標となった。
解決方向性が定まったところで、検討を重ね、解決に最適なシステムが決定し、空き家バンクシステムを作成した。また、作成した空き家バンクシステムと国土交通省選定の全国版空き家バンクシステムをつなぐ「API連携」を実現させた。今治市の担当者が空き家物件システムで物件情報を更新すると、全国の空き家バンクシステムの方も自動更新される。今治市の負担軽減はもちろんのこと、利用者の利便性も大幅に向上させることができた。
※引用:行革甲子園2024特設サイト
新システム運用の結果、令和5年度には移住相談が1,143件となり、令和2年度と比較すると500%も増加した。また、空き家増加率も13.3%に下落した。平成30年度の27.8%から14.5%抑制されたことになる。空き家バンク(今治市版・全国版)の月の閲覧数も174万回に増加した。
さらに、情報管理や空き家バンクの掲載をシステム化したことで、作業時間や工数削減も実現できている。結果として、年間400時間そして年間120万円の削減ができた。
今治市のAPI連携はメディアでも取り上げられ注目を集めた。「将来的には、このAPI連携を全国の自治体へ横展開したい」と野尻さんは語って、発表を締めくくった。
北海道余市町
「産学官連携で行う防災備蓄の推進」
北海道余市町は人口約1万7,000人のまち。北海道の西部、積丹半島の東の付け根に位置している。ニシン・カレイ・エビ・タラ・サケ・ウニなど、海産物に恵まれた土地であり、水産加工品も豊富に生産されている。また、ワイン醸造用ぶどうの生産量も北海道1位でワイン醸造業も盛んなまちである。
今回の発表は総務部総務課 主幹・岡さん、防災係長・山科さんが行った。岡さんは以前自衛官として複数の災害現場に派遣されたことがあり、避難所等の問題点を見てきた経験がある。その経験から今回の取り組みにも力を入れている。
【エントリー事例】
産官学による広域防災連携が取り組むランニングストック方式による防災備蓄の推進
余市町では、想定される災害に対し必要量を設定し、中期的に防災備蓄を進めていたが、品目が多い点や所要量が膨大なこともあり、備蓄率は50%にも満たない状況だった。さらに、備蓄品を保管する場所についても、専用倉庫がなく、廃校になった小学校や公共施設の一角で保管している現状があった。
これらの課題がある中、町長から「倉庫に保管がない状態でも、バーチャル上で備蓄100%を達成できる仕組みはできないものか?」という意見があり、解決に向けての取り組みがスタートした。
まずは、令和4年3月、余市町・積丹町・古平町・仁木町・赤井川村からなる北後志広域5町村で「北後志広域防災連携に係る協定」を締結した。この協定では北後志地域内での災害発生に備えるため、以下について取り決められた。
・災害時の人的・物的支援
・備蓄品の共同購入
・備蓄品の調達促進
・災害時のレンタル資器材の共有
・平時の防災教育・訓練の共同開催
・避難所の共同使用・運用
また、余市町が目指す「バーチャルだけどリアルな備蓄」については、民間事業者(ドラッグストア)と提携し、以下の概念で進められた。
1.自治体は必要備蓄食の所有権を取得
2.取得した所有権を有する備蓄食は民間事業者で保管
3.自治体より保管委託された備蓄食は販売用在庫として運用
4.必要時は、民間事業者へ返還要請
5.返還要請により自治体へ返還
※引用:行革甲子園2024特設サイト
まちは必要な量の備蓄食の所有権を取得するが、実際の備蓄食は民間事業者の倉庫で保管される。そして、倉庫にある備蓄食はそのまま保管されるのではなく、平時は民間事業者の販売用在庫となり、実際に販売もされる。しかし、災害が発生し備蓄食が必要になった時は、まちからの返還要請に基づき民間事業者から返還される。という流れである。
この流れが構築されたことにより、以下の点の解決が期待できる。
・賞味期限内の備蓄食が確保でき、フードロス問題が解決する
・まちで備蓄食の保管場所を準備する必要がない
・棚卸や台帳管理などの管理作業が単純化される
・防災対策費の節約につながる
さらに「北後志広域防災連携に係る協定」で決定した通り、余市町を含む5町村で備蓄食の共同購入を行う。購入費用だけでなく管理手数料も5町村で負担するため、経費削減も実現可能となった。余市町では防災対策費が3分の1削減された。
ただし、提携民間事業者の倉庫から余市町役場までは約80kmの距離があり、災害発生後すぐに備蓄食を調達するのが難しいという問題もある。この点については、民間事業者と協議の上、発生から32時間以内に必着とすることを目標にした。到着までに必要な備蓄食についてはまちで準備する。
最後に岡さんは「まだ始まったばかりの取り組みではあるが、万が一災害が発生しても、不足なく備蓄食を提供する仕組みで避難者のQOL向上を目標としたい。そして、将来的には対象備蓄食(品)の拡充やDXも検討したい」と語った。
愛知県豊根村
「ご当地検定を職員採用に利用」
愛知県豊根村は長野県と静岡県に接する愛知県北東部の村だ。土地の9割以上が森林なのが特徴だ。また、人口が939人と愛知県内で最少人口の自治体でもある。ちなみに豊根村役場の職員数は51人。職員の採用が大きな課題となっている。
発表の場に立ったのは、総務課 主幹・坂本さん、同課主任 山越さんだ。
【エントリー事例】
村職員採用方法を奇抜に見直し~試験に「ご当地検定」導入
豊根村の職員数は51人と少ないが、Iターン比率が非常に高く、現在は61%を占めている。この点から、自分が生まれ育った村に就職する時代は終焉したと考えている。
とはいえ、Iターンで役場に就職した職員からは「公務員になりたかった。大きな市役所は不合格だったけれど、小さな豊根村ならば受かるかと思った」という意見も聞かれた。この意見を聞き、役場側が感じたのが「市役所の業務とは大きく異なるため、ミスマッチが発生するのではないか」という不安だった。
このようなミスマッチに対する不安を解消するため、豊根村では、採用ターゲットを明確にすることを決定し、ご当地検定(豊根村基礎知識検定)を職員採用試験に導入することを検討。村のことを知った上で受験してもらうための取り組みを行うことにした。
市町村職員は地域のプロである。保健師や土木技師に専門試験があるように、行政職員にも地域のプロフェッショナルになってもらうべく専門試験を設けたら、という考えで、ご当地検定を導入することにしたが、どの自治体でも前例がなかった。そこで、国や県、労働局にも相談すると「受験者の平等性が担保できていれば問題なし」との回答だった。
また、受験者の平等性を確保するため、以下についても検討を行った。
・例題の事前送付
・出題範囲の制限
・パンフレット、村勢要覧、県内小中学生向け教材などからの問題出題
検討の結果、「基本情報を広く浅く」出題することとし、観光パンフレットと村勢要覧からの出題が決定した。なお、受験対策用に資料は事前送付を行っている。
ちなみに実際の採用試験では、以下のような問題が出題された。
・次の中から村内に2つある日帰り温泉を選択してください
・豊根村の魅力をSNSでPRすると想定して、140文字以内で示してください
ご当地検定を採用試験に導入することで、志望先への受験者の本気度が向上し、採用直後から村の地理感覚、特徴を理解した上で業務にあたることが可能になる。
そして、入職後の生活についてもイメージしやすいよう、募集案内を作り、詳細に仕事内容な村の暮らしについての紹介を行うことにした。村の業務の広さや深さを具体的に紹介し、やりがいがある仕事であることを紹介。また、コンビニや電車はないが、通販ならば翌日には配送されることなども具体的に記載されている。
募集案内の中で特に強調したかったのが、次のような点だ。
・他団体との差別化
豊根村ならではの暮らしや市役所業務との違いを紹介
・デスクワークイメージの打破
公務員=事務というイメージの打破
・ミスマッチ防止
若手職員の本音を掲載。写真で現場の姿を伝える
完成した募集案内は役場職員募集資料として職員の出身校、地域の高校や大学、専門学校に配布、村のホームページにも掲載している。なお、募集案内は移住定住案内にも利用され、移住定住フェアでも配布されている。
※引用:行革甲子園2024特設サイト
これらの豊根村の取り組みは報道機関の目にも止まり、複数の新聞で報道された。新聞を見た周辺の市区町村からも複数の問い合わせを受けている。
なお、職員募集の成果だが、導入から1年後である令和6年度の応募者は前年の3倍となっている。
ご当地検定も職員募集案内も豊根村職員が作成しているため、事務負担が少なく低予算でできる取り組みだ。坂本さんは「ご当地検定を使っての職員採用試験が全国に広まったら、試験対策本が出版されるという動きも出てくるかも。書店に並べば一般の人も楽しめるはず。ぜひほかの自治体でも検討してほしい」と締めくくった。
特別講演 韓国 金提(キムジュ)市
「ローカルヒップ(Local hip)!金堤に転入届を出しに来ました!」
金提市は全北特別自治西南部にある人口8万1,000人の市である。韓国の農耕文化発祥の地としても知られるまちだ。農業遺産が多く存在する一方、世界最長の堤防を誇る「セマングム干拓地」の開発も進められている。
韓国で唯一地平線が見えるエリアである点や農業遺産を活かしたイベントで交流人口の増加を図っている。
金提市からは企画監査室長・キム・ヨンヒョン氏が登壇した。
【講演内容】
金提市の人口は2021年までに毎年1,000人以上減少する状態だった。その原因は少子高齢化。また、教育や各種インフラ不足、若者の働き口不足も人口流出の原因となっていた。
そこで、金提市では人口流出対策のため、農業中心の経済構造を地域特化産業に拡張し「農業と産業が共存する複合都市」へと変化させるよう舵を切った。その結果、2022年には542人の人口増、2023年には25人の人口減に留めることができ、事実上「人口減少ゼロ」を達成することができた。
金提市が行った対策は以下である。
・結婚・出産・子育て関連
家計の負担軽減と出産奨励のため、保障体系の準備
・青年・住居関連
若者が社会に安心して進出できるようにするための登録金・創業資金のサポート
・多子支援
官民協力のもとで多子家庭支援を行う
具体的には以下の取り組みを行った。
・フラワーライトドリーフェスティバル
金堤市の代表的な春花をテーマにした饗宴が広がり、花と交わる様々な見どころ・食べ物・体験を通して訪問者がカラフルな春の花を満喫して花祭りを楽しめるよう企画された。
・金提市の「夕焼けが美しい地平線」をアピールする若者向けイベント「夕焼けピクニック」を開催
このイベントは、金提市にやってきた人に実際に仮想の転入届を提出してもらうところからスタートする。1日だけではあるが、金提市民になったつもりで過ごしてもらい、まちのよいところを知ってもらうのが目的だ。
さらに、イベント内では、金提に帰ってきた人のトークやアーティストの夕焼け路上ライブ、野外映画上映、金提市の「味とオシャレ」の体験など、都会では体験できない楽しみが味わえる。これらの取り組みは若者に好評を得ている。
・子どものための遊び場を開設
遊び場スタッフを46人養成し、お世話と遊びのプログラムを20種類開発した。この取り組みは、親だけではなく地域が力を合わせて子どもをケアしようという趣旨で行われた。1年間で参加した子どもの数は1万6,980人にも上った。
表彰式、行革甲子園2024のグランプリは京都府福知山市に!
オンライン投票で最多得票を獲得したのは新潟県湯沢町。審査員長特別賞は新潟県湯沢町と北海道余市町。そしてグランプリには京都府福知山市が選ばれた。
審査委員長の椎川 忍氏は「今回も全国から多くの事例が多く寄せられた。ぜひ、よい取り組みを役所内、そしてほかの自治体とも横展開していただきたい」と講評した。
また、グランプリの京都府福知山市については「学校統合で廃校が増えている。廃校活用は全国でも取り組み例があるが、福知山市については活用数の多さや分野が幅広い点を評価した。活用が地域の元気につながっている」と評価している。
今回も行政改革の素晴らしい取り組み事例が多く集まった。ほかの自治体の例も参考にしながら、それぞれの自治体でも行政改革に改めて取り組んではいかがだろうか。