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前編|行革甲子園2024、結果発表!地方自治体の甲子園をレポート

行政改革、通称「行革」は地方自治体が継続して取り組むべき課題である。

各自治体の行革のアイデアやノウハウの発表の場として愛媛県が主催しているのが「行革甲子園」だ。平成24年にスタートした行革甲子園は、今年で7回目となった。全国35都道府県・78市区町村から寄せられた97事例から、1次審査を通過した7団体が本会場にてプレゼンテーションを行った。

前編では、大会ステージに立った7団体のうち前半4団体、「新潟県湯沢町」「京都府福知山市」「山形県山形市」「福岡県北九州市」のプレゼンテーションの模様をレポートする。

※掲載情報は公開日時点のものです。

令和6年11月8日、愛媛県・松山市民会館。行革甲子園がスタートした。今大会のサブタイトルは、「地方公務員が放つ!愛顔あふれる未来への一打~」。愛顔=笑顔で行革というボールを打ち、行政改革に果敢に挑む地方公務員の姿を表現したテーマが掲げられた。

韓国・金堤(キムジェ)市 チョン・ソンジュ市長のビデオメッセージの後、登壇した中村 時広 愛媛県知事は、行革甲子園がスタートした経緯、そしてこれまでの歴史にも触れ、「47都道府県433市区町村から寄せられた全500事例は私たち地方自治体にとっては宝箱のような存在」と語った。

中村 時広 愛媛県知事
 
つづいて、前回グランプリ受賞の栃木県茂木町から表彰旗が返還され、いよいよ行革甲子園2024のスタートとなった。

今回の審査員は、一般社団法人地域活性化センター 常任顧問・椎川 忍氏、東洋大学 教授・沼尾 波子氏、愛媛大学 教授・太田 響子氏、有限責任監査法人トーマツ パートナー・小室 将雄氏、日本大学大学院 教授・神井 弘之氏、中村 時広 愛媛県知事が務める。

新潟県湯沢町
「多様な働き方できる地域を目指して」

トップバッターは新潟県湯沢町。新潟県の最南部に位置し、関東地方への玄関口として交通アクセスに恵まれた人口7,888人(2024年10月末時点)の町だ。移住定住にも力を入れており、平成26年には町内の保育園・小学校・中学校をまとめ、保小中一貫の教育環境も整備している。

発表に立ったのは、企画産業観光部 企画観光課係長・笛田(ふえだ)さんだ。
 多様な働き方できる地域を目指して

【エントリー事例】
デジタル技術を活用した労働環境提供・効率化事業

湯沢町では令和4年7月より全国初となる自治体公式の1日単位勤務や短時間勤務が可能な求人を探せるサイト「ゆざわマッチボックス」を開設している。自治体による公式ギグワークサイトは全国初の試みだ。

開設のきっかけは、町内の保育園に子どもを通わせる母親からの「新型コロナウイルスが原因でパートのシフトが減った。不要不急で外に出られない中、どこでパート情報を探せばいいの?」という声だった。

当時、同町としても、町内で就職しても2~3年で離職する人が多い点、そして、若い世代、特に女性の転出超過が著しいことに頭を悩ませており、町内の事業者に働き方改革の推進やインターンシップの受け入れなどを呼びかけていたところだった。

このような経緯もあり、事業者の人材不足解消、就職後のミスマッチによる離職防止、子育てや介護で長時間働けない人の短期間働ける場所探しを目的として、ゆざわマッチボックスの開設に至った。
 デジタル技術を活用した労働環境提供・効率化事業

※引用:行革甲子園2024特設サイト

ゆざわマッチボックスの求人から採用までの流れだが、事業者が1日単位で仕事を掲載、それを見た町内外の求職者が働ける日に応募、その後、選考を行い採用、となっている。事業者はアプリで勤怠管理や給与支払いまでできる。求人掲載費は無料で採用課金制だ。さらに、採用は業務委託ではなく直接雇用が前提となっており、労働者保護を重視している。求職者側からも「自治体公式サイトだから安心して登録・応募ができた」という感想が寄せられている。

なお、事業者とその事業者で一度働いたことがある求職者の直接マッチングも可能で、業務に慣れた人に事業者が直接声をかけることも可能だ。人手不足の際に人を集められるため、人材管理のコスト削減にもつながる。

さらに、ゆざわマッチボックスは短期就業求人マッチングだけでなくほか政策との連携も行っている。例えばサイト内に長期雇用前提のインターンシップ情報も掲載した。また、「移住定住促進」事業の一環として、移住前のお試し就業情報も掲載し、まちの雰囲気を知ってもらうことにも役立てている。

令和6年9月末時点で、ゆざわマッチボックスの登録者数は累計1,367名、湯沢町の人口約8,000名中531名が登録している。そのほかは町外の人たちだ。最も多い年代は50代となっている。そして、掲載事業者数は宿泊業・飲食業中心に累計78社、掲載件数約3万件に対し、採用件数は7,571件、単発雇用から長期雇用につながった人も51名いる。

導入時にコストはかかったが、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金と新潟県からの補助金を活用したため、一般財源なしで導入ができた。導入後は、デジタル田園都市国家構想交付金を活用している。ちなみに、この事業では、年度内の採用数が一定数以上になると、求人を掲載する事業者の利用料で自走できる仕組みとなっているのも特徴だ。

ただし、現時点では、「ギグワークの普及は非正規雇用を助長するのでは?」という意見もある。この意見について同町では、“単に労働者不足解消のためではなく、短期雇用など多様な働き方ができる地域づくりを大切にしたいという考えで取り組んでいる”と回答しているという。

「公式ギグワークサイト」の取り組みは、湯沢町以外に新潟県内の3自治体(佐渡市、長岡市、南魚沼市)にも広がっている。さらに、大阪府泉佐野市、静岡県伊東市、熊本県天草地区など、全国各地にも広がりを見せている。笛田さんは「地域によって繁忙期が異なる場合も多い。公式ギグワークサイトを導入しているほか自治体と連携しながら、働きたい人が必要とされる場所で働ける仕組みができたら嬉しい」と締めくくった。

京都府福知山市
「廃校の活用でまちの認知度・イメージ向上を」

京都府福知山市は、京都府の北西部にある人口74,563人の市だ。郊外には自然豊かな農村部が広がっており、中心部には都市機能や産業が集まっている。また、北近畿の交通の要衝で京都、大阪、神戸などの大都市へのアクセスも容易という地域でもある。

発表に立ったのは、財務部 資産活用課 課長補佐兼係長・土田さんと、同課課長・芦田さんだ。

廃校の活用でまちの認知度・イメージ向上を


【エントリー事例】
福知山市廃校Re活用プロジェクト

福知山市では、平成23年6月から「市立学校教育改革推進プログラム」を進めている。具体的には、複式学級(過少規模校)の解消、20人程度の学級を目安とする、統廃合による適正規模の確保、スクールバスの配置、中学校区単位での統廃合の検討、などだ。この取り組みにより、平成24年時点であった市内の27校が約半分の14校となり、16校の廃校が発生した。

そして現在、廃校になった16校のうち、10校(行政利用2校、民間活用8校)で活用が行われている。ちなみに、この廃校活用により、約1億5,000万円の歳入増、また、維持管理費用がなくなったことで年間約1,000万円の歳出減、そして新たな雇用の創出や売却先での固定資産税収入など、様々な効果が得られるようになった。

具体的には以下のように活用されている。

・旧 中六人部小学校:イチゴ農園への転用
・旧 精華小学校:グループホームとして活用
・旧 佐賀小学校:菓子製造会社の本社機能や販売機能を集約した拠点施設として活用
・旧 川合小学校:グランドをキャンプ場、校舎をサブリース事業として活用
・旧 天津小学校:グランドをサッカー競技場として活用
・旧 菟原小学校:校舎・体育館を配送センターとして活用
など

 福知山市廃校Re活用プロジェクト

※引用:行革甲子園2024特設サイト

また、福知山市の廃校の校舎が2025年大阪・関西万博のパビリオンとして利用されることも決定している。

住民からも、廃校を利用した習い事体験教室や作物栽培を喜ぶ声が聞こえている。さらに、廃校を集客施設とするだけでなく、廃校事業が移住・定住促進のために地域の未来を考える「地区計画」策定につながったとする意見も住民側から出ている。

なお、廃校活用を進める際、どうしても自治体だけでは戦略を立てられない部分もあるため、令和2年8月に地元の銀行、信用金庫と公民連携促進に関する協定を締結した。さらに、協定にもとづく取り組みの一つとして「福知山廃校マッチングバスツアー」を開催。すでに企業が活用中の廃校や受け入れ可能な廃校を見学し、廃校事業進出を検討する企業とのマッチングの機会を設けた。

廃校の発生と活用は全国的な課題となっていることもあり、バスツアーの様子は関西地区を中心に全国のメディアで大きく取り上げられた。廃校活用が市のシティプロモーションにも役立っている。

ちなみに、本プロジェクトの推進でネックになったのは、様々な規制だが、福知山市では、市街化調整区域内にある廃校については、地区計画(都市計画法第12条の4第1項第1号)、第二種特定工作物(都市計画法第4条第11号)という位置づけで民間に活用してもらっている。

あわせて気を付けたいのが、廃校(元学校)は民間活用などの学校以外の用途を考えて作ったものではないという点だ。そのため、用地・建築基準・消防・文化財・排水などの課題もある。例えば、図面がない、指定避難所になっているなどの問題だ。また、上下水道など見た目で分からない部分も多いため、注意して取り扱う必要もある。

最後に、土田さんは「鉄は熱いうちに打て!!!!!」と伝えた。民間と自治体にはどうしてもスピード感に格差がある。活用を検討する事業者を「きちんとグリップ」し、「いつからできるか、逆算で」説明することが重要だと強調している。

山形県山形市
「デジタル技術の活用で救急業務の見直しを」

前回に引き続き、2回連続の事例発表となったのが山形県山形市だ。中核市に指定されている山形県の県庁所在地だが、樹氷で有名な蔵王などの豊かな自然にも恵まれている。また、「中華そば消費額日本一」「日本一の芋煮会」など「食のまち」としても有名だ。

今回は、山形市消防本部 救急救命課 主査・尾形さん、同課主査・庄司さんが発表を行った。

デジタル技術の活用で救急業務の見直しを

【エントリー事例】
救急DXで市民の命を救う

全国的な問題でもあるが、山形市でも救急出動件数が年々増加しており、令和5年の年間出動件数は1万2,747件となっている。この増加に伴い、救急搬送困難事案が3年間で9倍に増加、消防本部・医療機関ともに救急医療への対応が連続化・長時間化していることが課題となっている。

そこで、現状打開のため、これまでの業務の見直しに着手することが決定。現場状況の手書きメモ、電話での病院への説明や受け入れ可否確認、病院内での電話リレーなど、アナログで行われていた救急業務の改善に取り組むこととなった。

まずは、目指す将来像の設計からスタートした。最も重視したのは困っている市民のための「有益性」、次はアナログからの脱却を目指した「デジタル化」、そして最後に、各自がそれぞれで行っていた報告書や活動内容の作成・分析の「一元化」や「業務負担軽減」を目標とすることにした。

この取り組みは山形市単独で行えるものではない。そして、財政面でも決して余裕があるわけではない。これらを解決するために、連携自治体、連携医療機関も巻き込み、山形市が先行でシステムを導入し、トライ&エラーで進めていくことになった。

令和5年度には連携自治体とのワーキンググループ会議を開催、関係医療機関に対しても現状の課題と導入予定システムについての説明、そして、実証実験への参加意向調査を実施した。あわせて、仕様書の検討と作成、予算要求も行われている。令和6年度に入ると、システム業者選定と実証実験(山形市では運用)が開始された。
 

救急DXで市民の命を救う

※引用:行革甲子園2024特設サイト

この取り組みで特筆すべきなのが、山形市単独で行わず、広域連携事業として立案されたことだ。また、山形市では実証実験を経ず、スピーディに運用を開始した点にも注目したい。トライ&エラーが許容される環境があったからこそ実現できたといえる。さらに、情報収集に力を入れたことで、企画構想から1年でのシステム導入が実現した。

尾形さんは、「病院へのアプローチにも苦労した」と語る。しかし、山形県庁との課題共有で柔軟に動くことができ、結果的に病院の理解も得られている。

システム導入後のアンケートでは、病院の78%が救急搬送受入判断における有用性があったと回答し、救急隊の58%がシステムに満足していると回答した。現在、いくつかの自治体からシステムについての問い合わせが来ており、交流の中で情報交換や新たな課題解決に向けて動き出している。

福岡県北九州市
「職員一人ひとりがイノベーター DXで実現する未来の働き方」

九州と本州の結節点に位置する福岡県北九州市。ものづくり産業、「SDGs未来都市」としても発展している。2022年には「日本新三大夜景」で全国一位に輝き、観光や食のまちとしても人気があるまちだ。

北九州市からは、デジタル市役所推進室DX推進課・中田さん、同課課長・須山さんが発表を行った。
 職員一人ひとりがイノベーター DXで実現する未来の働き方


【エントリー事例】
ローコードツールを活用した全庁的なDXの推進

デジタル市役所推進室は令和3年に設立された部署である。設立した年の5月、市内の区役所から「紙やファックスで行う業務に時間を取られ、注力すべき仕事に時間が割けない。デジタルツールで業務改善したい」という相談が寄せられた。

これまで、業務を紙・ファックス・Excelなどで管理していたが、各課に合ったシステムを一から開発すると、時間もコストもかなりかかってしまう。そこで、検討されたのが素早く低コストで開発が可能な「ローコードツール」だった。

各ローコードツールを検討した結果、サイボウズの「kintone」が最も適していたため、導入が決定された。

当初は30人程度の利用からのスタートだったが、北九州市役所が目指すのは「職員一人ひとりがイノベーター」。令和7年度に全職員8,000人の活用と作業時間10万時間削減を目指して取り組みが推進された。

導入にあたり問題になると思われたのが「導入後に使ってもらえない」「推進したいけれど方法が分からない」という点だ。そこで、以下の仮説を立て、問題点を深堀りしてみた。

・職員に知ってもらえるか
・職員が扱えるようになるか
・途中であきらめないか
・職員間で引き継げるか
・成果や効果を可視化できないか

 

これらの問題点に対する取り組みは以下の通りである。

職員に知ってもらうために「Kintone通信(庁内広報)」を作成し、ローコードツールの良さを伝え、内製化事例紹介も行った。また、マニュアルが膨大になると読み込むのが大変になるため、簡単な動画で広報を行った。

あわせて、職員研修も実施。希望者にKintoneの概要を説明し、システム作成まで体験してもらった。そのほか、階層別の研修、DX変革リーダー向けのハンズオン研修も行っている。

途中であきらめないか、という問題については、「相談」「システム作成」「プレ運用」の三段階を経て本運用に進む仕組みを構築した。相談内容も案件ごとに一元管理し、室内で共有できるようにしている。ヘルプデスクの設置やデジコンによる受付済相談の進捗管理も行い、漏れのないサポートも実現した。

これらのサポートの結果、令和5年10月には利用ユーザー数917名、研修の数27回、デジコンでの相談件数1,132回、システム内政166システムとなっている。
 ローコードツールを活用した全庁的なDXの推進

※引用:行革甲子園2024特設サイト

さらに、令和6年9月末現在では、運用システム数は422システム、令和5年度の年間削減作業時間は4万355時間(職員約21人分)、節減されたと試算される効果額は約71億円となった。

今回のローコードツール導入で最も効果的だったのが「仮説を立てたこと」だったと中田さんは語る。「ほか自治体がやっているからやってみよう」と取り組みから手を付けるのではなく、まずは、自分たちの自治体では何が必要なのか、問題を深堀りし、その上で仮説を考えることが重要だと強調した。

以上が、湯沢町、福知山市、山形市、北九州市の発表である。

今治市、余市町、豊根村、そして韓国の金提(キムジェ)市の発表をお届け。
後編続く


後編|行革甲子園2024、結果発表!地方自治体の甲子園をレポート
 

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