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自治体DX推進は、庁内業務の効率化、住民サービスの高度化、さらには地域活性化の切り札として注目を集める取り組みです。しかし、これまでの情報政策と同じように取り組んでしまうと、適切な成果を生み出せずに終わってしまいかねません。そこで、自治体DX推進を成功に導く重要な施策の一つである「人材育成」について解説していきます。
■このシリーズの記事
1. 自治体DXは誰が担当するの ←今回はココ
2. 人材育成で伝えるべきことは?
3. DX人材育成の課題とは?
4. やらされ感から自分ゴトへ
※掲載情報は公開日時点のものです
[PR]株式会社ディジタルグロースアカデミア
解説するのはこの方
高橋 範光 (たかはし のりみつ) さん
デジタル人材育成専門家
株式会社ディジタルグロースアカデミア代表取締役会長。株式会社チェンジホールディングス執行役員。2005年に株式会社チェンジ(現チェンジホールディングス)に参画し、人材育成事業を管掌。2013年よりデジタル人材育成事業を開始し、2021年にKDDIとチェンジホールディングスの合弁会社である株式会社ディジタルグロースアカデミアを立ち上げ、現職に至る。
『道具としてのビッグデータ』(日本実業出版)、『最短突破 データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)公式リファレンスブック』(共著、技術評論社)。オープンガバメント・コンソーシアム理事。情報処理推進機構(IPA)専門委員。経済産業省 デジタルスキル標準検討会 DXリテラシー標準WG主査。
庁内業務と地域社会の両面でデジタル化。
1.自治体DXとは
「自治体DX」は、各自治体が行政運営や地域社会の活性化に向けて取り組むべき重要なテーマとなっています。では、具体的に自治体DXとは何を指し、どのような取り組みが求められるのでしょうか。
自治体DXには主に2つの側面があります。一つ目は、自治体内部の業務や住民サービスを効率化・最適化する「行政DX」です。例えば、窓口での紙によるオンライン申請手続きや、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して職員の業務負担を軽減する取り組みなどが含まれます。これらにより、自治体住民に対して迅速かつ質の高いサービス提供が可能となります。
二つ目は、「地域DX」と呼ばれるもので、自治体だけにとどまらず地域全体のデジタル化によって地域の活性化を目指すものです。これには、地域経済の振興、観光業のデジタルプロモーション、地域住民とのデジタルコミュニケーションの強化などが挙げられます。特に人口減少や高齢化が進む中、地域の魅力を高め、持続可能な発展を実現するためには、地域DXは不可欠といえます。
つまり、自治体DXとは、庁内業務と地域社会の両方にわたる広範囲なデジタル化の取り組みを指し、これにより住民の生活の質を向上させ、持続可能な社会を実現することを目指しています。
職員自身のスキル習得がDX成功のカギ。
2.自治体DXにおける人材育成の重要性
自治体DXを成功に導くカギは「人材育成」にあります。いくら高度な技術やツールを導入しても、それを運用し、目的に応じて活用できる人材がいなければ、実際の自治体業務の変革にはつながりません。では、なぜ自治体職員が人材育成の対象となっているのでしょうか。
a. 業務や制度への影響を把握するため
自治体DXの推進には、現在の業務フローや制度にどのような影響があるか理解することが不可欠です。例えば、住民サービスのオンライン化は一見便利ではあるものの、オンラインが利用できない住民への対応やセキュリティ対策など新しい課題が発生する可能性があります。また、手続きの変更に伴う制度や条例の変更が求められることもあります。このような影響を事前に把握し、適切な対策を講じるためには、外部に任せるのではなく、自治体職員が自ら自治体DXに対応する技術の基礎知識や活用方法を習得する必要があるといえます。
b. 実務における活用が重要であるため
また、自治体DXは職員自ら実践することが求められるものです。職員自らツールが操作できるようになることで、業務効率化や住民サービスの質の向上につなげることができます。例えば、データ分析によって地域課題を可視化する、チャットボットを活用して住民からの問い合わせ対応を効率化する、といった具体的な活用例があります。これらのスキルを習得することが自治体DXの成功のカギとなります。
幹部から一般職員まで「全員参加型」で。
3.自治体DXは誰が担当するか?
では、自治体DXは誰が担当するといいのでしょうか。これまでの自治体内の情報システムに関連する業務であれば、情報政策部などのいわゆる情報システム部門が担当していました。しかし、自治体DXの推進においては、これまでのように特定の部門だけで推進するものではありません。なぜなら、自治体DXは庁内業務全般や住民サービスのあらゆる側面に関わるからです。よって、自治体DXの推進は、幹部層や一般職員も巻き込んで、「全員参加型」で取り組んでいく必要があります。
a. 幹部職層の役割
自治体DX推進において、幹部職層には、迅速かつ的確な意思決定が求められます。自治体DX推進計画を通じて進むべき方向性を示すとともに、組織全体を牽引し自治体職員がDXに取り組みやすい環境を整備する役割を果たします。また、限られた予算やリソースを有効に活用しつつ、決められた期間までに実装する判断力も求められます。
b. DX推進リーダーの役割
自治体DX推進においては、若手を中心としたDX推進リーダーを設置する自治体もあります。DX推進リーダーは、各担当課における業務課題の解決や、新しいツールの導入支援・普及活動などを担当する役割です。例えば、ペーパーレス推進プロジェクトで、所属する各課でのペーパーレス展開支援などの役割を担います。また、課内外の連携や情報交換を通じて、庁内全体でのDX推進を支えるポジションでもあります。
c. 一般職員の役割
一般職員の皆さんも、新しい技術やツールを「使いこなす」ことが求められます。自治体DXは、職員の日常業務や窓口業務などを効率化するためのものですが、それらを実現するには職員の皆様の適応力が不可欠です。例えばペーパーレスプロジェクトの成否は、DX推進リーダーだけで達成するものではありません。一般職員の皆さんが、誰かに任せるのではなく、デジタルツールの基本操作や活用方法を習得し、自分の業務にどう活かすかを考える姿勢が求められます。
全職員が協力してこそ真の効果を発揮。
自治体DXは単なる技術やツールの導入ではなく、庁内全体の業務改革であり、住民生活を支える基盤作りです。そのためには、庁内の全職員が役割を理解し、それぞれが必要なスキルを身に付けることが重要です。また、幹部層、推進リーダー、一般職員がそれぞれの立場から協力し合うことで、初めて自治体DXが真に効果を発揮します。
今後も自治体DXを進めるために、全員参加の精神を持ちながら、地域とともに成長していく自治体を目指していきましょう。
次回は「人材育成で伝えるべきことは?」です!