
前回は、自治体DX推進における全職員参加による人材育成の重要性について記載しました。今回は、自治体DX推進を成功させるために重要なデジタル人材育成の要点を紹介します。多忙を極める自治体職員が、効率的かつ効果的にDXを推進するために理解しておくべきポイントを解説します。
■このシリーズの記事
1. 自治体DXは誰が担当するの
2. 人材育成で伝えるべきことは? ←今回はココ
3. DX人材育成の課題とは?
4. やらされ感から自分ゴトへ
5. 地域DXはどうやって進めるの?
※掲載情報は公開日時点のものです
[PR]株式会社ディジタルグロースアカデミア
解説するのはこの方
高橋 範光 (たかはし のりみつ) さん
デジタル人材育成専門家
株式会社ディジタルグロースアカデミア代表取締役会長。株式会社チェンジホールディングス執行役員。2005年に株式会社チェンジ(現チェンジホールディングス)に参画し、人材育成事業を管掌。2013年よりデジタル人材育成事業を開始し、2021年にKDDIとチェンジホールディングスの合弁会社である株式会社ディジタルグロースアカデミアを立ち上げ、現職に至る。
『道具としてのビッグデータ』(日本実業出版)、『最短突破 データサイエンティスト検定(リテラシーレベル)公式リファレンスブック』(共著、技術評論社)。オープンガバメント・コンソーシアム理事。情報処理推進機構(IPA)専門委員。経済産業省 デジタルスキル標準検討会 DXリテラシー標準WG主査。
令和7年度末までに20業務の移行を義務付け。
1. 自治体情報システムの標準化・共通化には取り組み期日がある
自治体DXの中でも自治体情報システムの標準化・共通化の取り組みは、法律に基づき期限が明確に定められています。具体的には、令和7年度末までに、標準化対象事務とされる20業務(例:住民基本台帳、児童手当、国民健康保険など)について標準準拠システムを利用した業務に移行することが義務付けられています。
この期限は「単なる目標」ではなく、全自治体が連携して進めるための基盤づくりに必要不可欠なものです。というのも、この標準化を実現できることで、自治体間での業務連携を可能にする基盤ができるだけでなく、今後さらに20業務以外の業務分野における標準化を検討できるようになり、さらなる効率化を進めることができるためです。一方で、個別の自治体の事情だけを理由に標準化の取り組みが遅れると、全体計画にも影響を及ぼしかねません。そこで、自治体ごとに進捗状況を正確に把握し、計画的に移行することが求められています。
自治体DXとは、単に自治体ごとの効率化プロジェクトということではなく、自治体全体の最適化を目指す取り組みです。次世代の自治体運営の基盤づくりであるということを意識し、足並みをそろえ遅れないように取り組んでいきましょう。
成功例を取り入れてコスト・時間を削減する。
2. 行政DXの取り組みは先行自治体の優良事例を真似る
自治体DXの中でも、庁内事務や住民サービスなどの行政DXの取り組みにおいて、多忙を極める自治体職員一人ひとりがゼロから企画を立案するのは現実的ではありません。そこで、すでにある先行自治体の優良事例を活用することがポイントになります。例えば、総務省が毎年発表している自治体DX取り組み事例集には、先行して取り組む自治体の優良事例とともに、具体的なスケジュール、予算、ベンダーなどの情報も詳しく記載されています。これを活用しない手はありません。先行自治体の事例を参考にするメリットは以下の通りです。
• 効率的な導入:他自治体と同様のシステムを採用することで、検討にかかるコストや時間を大幅に削減可能である
• 成功の見える化:既存事例から、創出効果を具体的に把握できる
• 標準化の加速:共通基盤を活用することで、横並びで標準化できる
同じ課題を抱える自治体同士であるからこそ、他の成功事例を素直に取り入れることこそが、業務変革において一番の近道であるということです。特に、リソースが限られ、検討が遅れている中小の自治体ほど、このアプローチが有効であると考えてよいでしょう。
現行業務にシステムをあわせるやり方は疑問。
3. 行政DXではシステムの改修より業務変革を第一に考える
自治体DXを進める中で各自治体が直面する課題が、「現行業務と標準システムのズレ」です。この課題に対して、従来は現行の各自治体が行っている業務を正しいものとし、システムを業務にあわせて改修するケースが多く見られます。しかし、自治体DX推進の本質や前述した標準化・共通化の視点を考えると、それは必ずしも正しいアプローチとはいえません。
自治体DXの先行事例で導入されている標準システムは、システムだけでなく業務もセットで最適化されていると考えてよいでしょう。そこで、あえて最適なものを変化させる必要はなく、可能な限り標準システムにあった標準業務をベースに、現行業務から移行させることが大事です。どうしても現行業務を残す必要がある場合でも、システム改修に頼るのではなく、以下のような代替手段を検討することが重要です。
• 継続的な業務改善の実施:導入時は間に合わなくても、継続的な業務見直しを実施することで、対応する
• 自動化ツールの活用:どうしても必要な追加業務がある場合は、RPA(Robotic Process Automation)やノーコード・ローコードツールなどで補う
自治体DXのゴールは、単なるシステム導入ではなく、効率化と住民サービスの向上です。そのためには、業務フローを自治体個別で検討するのではなく、自治体全体最適の観点で見直す覚悟が必要といえます。
3つのポイントを組織全体に伝える。
今回は、自治体DXにおけるデジタル人材育成で伝えるべき内容として、以下の3つのポイントを整理しました。
1. 自治体情報システムの標準化・共通化には取り組み期日がある
2. 行政DXの取り組みは先行自治体の優良事例を真似る
3. 行政DXではシステムの改修より業務変革を第一に考える
これらをしっかりと伝え、自治体DX推進を間違った方向ではなく、自治体職員全員一丸となって適切な方向に進めることで、効率的かつ効果的な自治体DX推進が可能になります。
次回は「DX人材育成の課題とは?」です!