ジチタイワークス

3分でわかる! 財政講座 第4回 「予算は誰がどうやって決めている?」

これからの自治体を支える「財政のイロハ」を、前・福岡市財政調整課長の今村寛さんがレクチャー。

第1回|「政策のビルド&スクラップ」
第2回|「借金するのは悪いこと?」
第3回|「財政課はなぜ嫌われる?」
第4回|「予算は誰がどうやって決めている?」 ←今回はココ
第5回|「どこまでやれば財政健全化?」
第6回| 「お金がないなら自分で稼ぐ」

※下記はジチタイワークスVol.4(2019年1月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。

1.一事業ずつ財政課が精査する「一件査定」

予算編成の手法は大きく分けて二通りあります。一つは事業ごとに目的・内容・必要経費の積算を示した調書をまとめて受け取り、財政課で一件ずつその中身をチェックしていく「一件査定」です。まず、すべての事業を同一の判断基準で取捨選択。各分野での施策の重点化のバランスを取りながら、全体で収支の均衡を図っていくことができる予算編成の王道です。ただ、すべての事業を一人の財政課長が見て判断するため、多くの時間と労力がかかります。すべてを適切に判断することは、スーパーマンでもなければ無理だというのがその立場に居た私の率直な感想です。

また、資料が膨大になり、現場と財政課とのやり取りも頻繁に行われます。繁忙期には現場も同じくらいの負荷がかかり、全庁的に時間外勤務が増えてしまう弊害もあります。

2.現場に裁量に委ねる「枠配分」

「一件査定」では事業の取捨選択が財政課任せになってしまい、市民に対する説明責任を現場で果たせないおそれもあります。そのため、現場に裁量を持たせ、合わせて説明責任も果たす観点から鑑みて、「枠配分」という手法を導入している自治体もあります。「枠配分」とは、あらかじめ推計した翌年度の財源を、一定のルールで各部局に予算編成前に配分し、各部局がその範囲内で自主的・自律的に部局単位の予算原案を作成する方法です。それを財政課が全体で束ねて調整します。

この場合、現場の裁量が生かされる反面、限られた財源の中で必要な経費を確保するために自らの事業を廃止縮小する判断を現場で行うこともあります。財政課は各部局に配分する財源の事前調整と、現場で作成した原案のチェックに専念し、政策実現の具体的な手段の選択は現場に任せるのが「枠配分予算」という手法です。

3.「一件査定」と「枠配分」どちらがいいの?

多くの自治体では、この二つの方式を併用しているところも多く、併用のルールも様々です。二つの手法では誰がどこで予算の内容を議論して判断しているかが異なります。いずれの方式を採用するにせよ、あるいは併用するにせよ、肝心なのは財政課と各部局の現場がきちんと「対話」することで同じ情報を持ち、同じ価値観、危機感を共有し、共感していることです。一件査定だからと言って財政課に任せきりにするのではなく、枠配分予算だからと言って各部局の現場で好きなようにやるのではなく、財政課と各部局の現場が互いに相手の立場に立って全体最適を考えられる関係性を作ること。

厳しい財政状況に置かれている事実を財政課だけでなくすべての職員が共有し、お互いができることを任せあって事に当たる、そんな信頼関係の構築こそが、難局を乗り切っていく唯一の方法だと思います。

講師PROFILE

福岡市 経済観光文化局 中小企業振興部長 今村寛
前・福岡市財政調整課長。自治体財政についてわかりやすく学べる「出張財政 出前講座」で全国を行脚。開催件数は3年間で50回を超える。

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