公共施設は老朽化などに伴い、定期的な改修が必要になる。同じように更新するだけでも仕事は成り立つが、石堂さんは施設の課題を捉え、新たな価値を生むための再編を手がけた。市民が喜ぶことを想像し、自身も楽しむことで魅力的な空間がつくられたようだ。
※下記はジチタイワークスVol.25(2023年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
札幌市 農政課 事業推進担当係 係長
石堂 光 さん(入庁13年目)
“楽しむ”発想が連鎖を生み親子で遊べる快適な場所に。
札幌市の農業体験交流施設「さとらんど」のリニューアルを担当した石堂さん。天候に左右されず、親子で楽しめる場所が必要だと考え、キッズコーナーを新設。自身の地元・仙台市で人気の遊び場を参考に、床や家具、おもちゃは木で統一した。利用者の立場で考えられた空間づくりで、SNSなどを通じて話題になり、多くの親子連れに喜ばれる場所になっているという。
来園者増加に向けた挑戦。
造園職として入庁し、市内の公園整備を手がけてきました。令和元年、農政課に異動すると、さとらんどのリフレッシュ事業担当に。当初は老朽化した施設を更新するという方針しかありませんでしたが、せっかくなら“魅力と話題性のある再整備”をしようと考えました。さとらんどの主な利用者は子育て世代です。しかし、天気が悪いと遊ぶ場所がなく、知名度の低さも課題でした。天候に関係なく、親子でゆっくり遊べる場所が求められているのではないか。私も2児の父として日頃から抱いていた思いを活かして、キッズコーナーの新設を企画したのです。
木で統一したこだわりの空間をつくるために、レイアウトの検討からおもちゃなどの選定・発注まで、全て自分で行いました。家具は障害者支援施設に製作を依頼。キッズコーナーの意義やコンセプトに共感してもらい、仲間ができたような感覚でした。“つくった家具が実際に使われているところを見ることができてうれしい”と、本人や家族にも喜ばれました。木製のおもちゃは消毒が難しく、コロナ禍でプラスチック製に入れ替える施設が増えていましたが、光触媒加工という新たな消毒方法を見つけ、管理の負担軽減にも成功しました。
“市民に喜ばれる”仕事を。
昨年10月にオープンすると、予想を超える人気ぶりで、1日に約600人が訪れることも。インスタグラムに写真を投稿してくれる人が多く、それを見た人が来るという連鎖が起きています。地元のメディアでも紹介され、良いものをつくれば自然とまわりが広報してくれることが、うれしい発見でしたね。木材業界からの評判も良く、おもちゃを寄贈してくれる企業も。
今後は、ワークショップなど木育イベントを充実させ、長く親しまれる仕組みをつくっていきたいです。目の前の仕事を淡々とこなすのではなく、市民や関係者の気持ちに思いをめぐらすこと。そして、市民に楽しんでもらうためにも、まずは自分自身が楽しく仕事に取り組むことが大切だと思います。その結果として良いものができるのではないでしょうか。
私の仕事は“施設のリニューアル”ではなく、“市民を喜ばせること”として、取り組んできました。金銭的な利益よりも市民の満足を優先できることが、公務員の仕事の魅力です。何が本質なのかを考え、“もっと良い形があるかも”と、踏み出してみる。そうした職員の熱意が市民に伝わり、市民の感謝が戻ってくるようなシーンが増えるといいなと思います。