公開日:
小1の壁対策の自治体事例|朝の居場所づくりから学ぶ実務ポイント

小1の壁対策は、学童の拡充だけで解決できる課題ではない。共働き世帯の増加を背景に、登校前や放課後、長期休業中など、子どもの見守りが必要な時間帯への対応が求められている。なかでも近年議論が広がっているのが、登校前の「朝の空白時間」への対応だ。放課後の整備が進む一方で、朝の時間帯は支援が手薄になりやすい。
本記事では、小1の壁対策の施策タイプや自治体事例を整理し、成功の共通点と取り組む際のポイントを解説する。
※掲載情報は公開日時点のものです。
小1の壁とは

小1の壁とは、子どもが小学校に入学するタイミングで、保育園や幼稚園など就学前施設と比べて預かり時間や支援体制が変化し、保護者の就労継続が難しくなる問題を指す。
就学前施設では夕方まで預けられていた家庭でも、小学校入学後は学童保育(放課後児童クラブ)の閉所時間が早い場合がある。加えて、学校行事や長期休業期間への対応なども重なり、保護者の働き方との調整が必要となる。
その結果、登校前や放課後の「空白時間」への不安が高まり、時短勤務や退職を選択するケースも見られる。こうした状況を背景に、小1の壁対策は自治体にとっても重要な課題となっている。
小1の壁が起きる背景
小1の壁が生じる背景には、就学前施設と小学校における制度設計や生活リズムの違いがある。特に、「預かり時間のギャップ」や「保護者の負担増」が大きな要因となっている。
主な要因は以下のとおりである。
こうした状況は、保護者にとって日々の勤務調整や有給休暇の取得といった具体的な負担としてあらわれる。特に共働き世帯では、朝の見守りや長期休業中の対応が大きな不安要素となりやすい。
自治体で進む主な小1の壁対策
自治体が実施する小1の壁対策は、大きく3つの取り組みタイプ整理できる。限られた人員・財源の中で実行可能な施策を検討する上でも、それぞれの特徴と課題を把握しておくことが重要だ。
登校前の朝の居場所づくり
保護者の出勤から子どもの登校までの「朝の空白時間」を埋める施策である。体育館や図書室、余裕教室などを活用し、登校までの時間帯に見守り体制を整える。
学校敷地内で実施されるケースも多く、既存の学校施設を活用することで新たな施設整備を伴わずに実施できる場合もある。一方で、見守り人員の確保や安全管理体制の整備が前提となる。
放課後・長期休業の受け皿拡充
放課後児童クラブの定員拡大や受け入れ体制の強化を図る施策である。全児童を対象とする「放課後子ども教室」との一体的・連携的な運営を進めることで、待機児童の抑制や放課後の居場所確保につなげる。
あわせて、長期休業期間中の開所時間延長や昼食対応を含めた体制の見直しも重要となる。一方で、支援員や施設スペースの確保といった運営面の課題も伴う。
働き方改革による保護者の就労支援
自治体が地元企業に対し、子育て世帯への理解を深める研修の実施や、テレワーク・時差出勤など柔軟な勤務形態の導入促進を働きかける取り組みである。就労環境を整えることで、子どもの居場所確保と両輪で小1の壁への対応を図る。
一方で、企業側の協力を得るための調整や継続的な関係構築が課題となる。
小1の壁対策が進まない理由と自治体の課題
「こども家庭庁」を中心に放課後児童対策の充実が図られているが、登校前の時間帯への対応は十分とはいえない。
実際、朝に自宅以外で子どもが過ごせる場所があれば「利用したい」と回答した小学1年生の保護者も約3割みられ、一定のニーズがあることがうかがえる。一方で、登校前の朝の居場所を確保する施策を実施、または検討している自治体は3.1%にとどまる。特に都市部で利用を求める声が多く、地域ニーズに応じた対策が求められている。
放課後の受け皿拡充は進んでいるが、登校前の時間帯への支援は依然として限定的である。
では、なぜ朝の居場所対策は広がらないのか。

出典:こども家庭庁 「令和6年度子ども・子育て支援調査研究事業小学校の長期休業中におけるこどもの居場所に関する調査研究報告書」
こども家庭庁の資料によると、平日の朝の居場所確保に関する施策について、「実施していない」「検討中」と回答した自治体が抱える課題は、「人材の確保が難しい」が70.0%と最も多かった。次いで「居場所の確保・調整が難しい」が42.9%、「運営者を見つけるのが難しい」が35.7%となっている。
ここから見えてくるのは、制度の是非というよりも、「担い手」と「場」の設計が大きな論点になっているという現実だ。
朝の居場所づくりに取り組む自治体事例
各地では、小1の壁の中でも特に課題となる「登校前の朝の空白時間」への対策として、居場所づくりを進めている自治体がある。ここでは、その具体的な事例を紹介する。
東京都三鷹市|校庭開放×シルバー人材センター連携で“遊べる朝の居場所”を整備
三鷹市では令和5年度に、シルバー人材センターと連携した登校前の見守りを始めた。市立小学校全15校の校庭などを活用し、午前7時30分から子どもを受け入れている。
見守りは1校当たり2人1組で対応し、5〜6人のチームでローテーションを組む体制だ。シルバー人材には報酬を支払っており、令和7年度の校庭開放事業費は約1,789万円、そのうち約1,776万円が人件費に充てられている。
同市の取り組みは、単なる待機場所ではなく、登校前に体を動かせる場として位置付けている点が印象的だ。保護者の負担軽減だけでなく、子どもの成長環境づくりにもつながる取り組みとなっている。
出典:東洋経済新聞「小学校「朝7時に開門」、小1の壁を解消へ"子どものためなら"と対応せざるをえない学校のしんどさも《高崎市と三鷹市で起きていること》」
東京都調布市|大学生が担う朝の見守り、教員志望の職業体験としても活用
調布市では小1の壁解消に向け、「みまモーニング」事業を行っている。午前7時30分から8時15分まで、各校で登校前の児童を受け入れている。令和8年1月末時点で、試行校は10校に広がった。
見守りは市内の大学生や地域住民が担い、各校3人体制で運営されている。また、市教育委員会では、この活動を教員志望の学生にとっての実践の場としても位置付けているようだ。
保護者の満足度は9割を超えているが、全校へ広げていくための財源確保は今後の課題となっている。
出典:調布市「調布市立小学校児童への早朝見守り事業「みまモーニング」(朝の小1の壁対策)」
出典:TOKYO MX「都心に働きに…多摩地域特有の「朝の小1の壁」 三鷹市と調布市の取り組み」
神奈川県大磯町|学校敷地内に学童施設を設置し、地域有償ボランティアで低コスト運営
大磯町では「朝の子どもの居場所」事業を実施している。令和8年3月現在は2校で展開しており、学校敷地内を活用しながら、地域の有償ボランティアや指導員が見守りを行う体制を整えている。
事業は「朝の子どもの居場所づくりモデル事業」をきっかけに始まった。利用料は無料で、登録保険料として児童1人当たり年間300円を徴収するのみ。小規模ながら、保護者の経済的負担を抑えた運営を続けている点が特徴だ。
大阪府豊中市|三季休業も対応する「朝7時見守り」の全校型モデル
豊中市では、体育館や多目的室を活用し、「午前7時からの小学校見守り事業」を実施している。校門前に警備員1名、見守り場所には見守り員2名を配置するなど、体制を明確にした運営が特徴だ。また、児童の見守りに加え、簡単なけがへの対応も行う。
特徴的なのは、春・夏・冬の三季休業期間中も実施している点だ。休業中は放課後こどもクラブ入会児童を対象とし、午前8時開始のクラブへ引き継ぐ形をとっている。
愛知県大府市|モデル校から全校展開へ、段階導入型の早朝体育館開放
大府市は、令和8年4月から市内全ての小学校で午前7時からの見守りを始める。令和7年9月に2校で始めたモデル事業を検証しながら、段階的に拡大してきた。見守り場所は体育館を活用し、利用料は1学期当たり1,000円としている。
運営はシルバー人材センターに委託し、高齢者が見守りを担う。地域の高齢者が子どもと日常的に関わることで、役割を持って地域に関わり続けられる仕組みにもなっている。
出典:大府市「小学生の早朝の居場所づくり事業を市内全小学校に拡大します」
成功事例から見える共通点
朝の居場所づくりに取り組む自治体の事例を見ていくと、いくつかの共通点が見えてくる。
- 教員に依存せず、大学生やシルバー人材など外部人材を活用している
- 体育館や校庭など既存の学校施設を活用している
- “保育”ではなく“見守り”として制度設計している
- モデル校から始め、段階的に全校展開へ広げている
共通しているのは、いきなり制度を大きく変えるのではなく、既存資源を活かしながら段階的に整備している点だ。
自治体が小1の壁対策を検討する際の6つのポイント
朝の居場所づくりは、学校・地域・人材・財源など複数の要素を整理しながら進める必要がある。実際に取り組みを進めている自治体の事例や課題を踏まえると、検討段階であらかじめ確認しておきたいポイントがいくつか見えてくる。
1. 保護者ニーズを把握する
入学後の就労継続にどのような不安があるのか、何時からの預かりが必要なのかといった点は、地域によって異なる。就学前児童の保護者を対象に実態を把握しておくことで、朝の開始時間や利用見込み人数の見通しが立ち、その後の人員配置や場所選定にもつながる。
2. 教員との合意形成を進める
教員の負担が増えるのではないかという不安は、現場で共有されやすい。実際に教員が関わる場面はあるのか、けがやトラブル時の対応は誰が担うのかといった点を事前に整理し、丁寧に説明することが欠かせない。制度設計そのもの以上に、現場との合意形成が重要になる。
3. 活動場所を確保・調整する
教育活動が優先される中で、体育館や余裕教室、図書館、校庭など、早朝利用が可能なスペースを具体的に洗い出す必要がある。あわせて、登校動線や施錠管理、事故発生時の対応場所など、安全面を踏まえた運用ルールを整理しておくことが求められる。
4. 地域人材を確保する
教員の業務負担なども背景に、朝の見守りを学校だけで担うことには慎重な声もある。警備会社への業務委託やシルバー人材センター、地域住民・団体との連携など、外部人材を活用する体制を整えている自治体も多い。
安定的な人材供給ルートを確保するとともに、報酬設計や参加メリットの提示を工夫することが求められる。
5. 財源を設計する
利用料設定や自治体負担の整理に加え、国の補助制度の活用も検討する必要がある。朝の居場所づくり専用の補助金があるわけではないが、こども家庭庁は、「こどもの居場所づくり支援体制強化事業」などを通じて、自治体やNPOなどによる居場所づくりを支援している。
単年度事業で終わらせないためには、補助制度をどう組み合わせるかを含めた持続可能な予算設計も重要となる。
出典:こもど家庭庁「こどもの居場所づくり支援体制強化事業について」
6. モデル実施から段階的に拡大する
いきなり全校展開するのではなく、協力が得られやすい学校をモデル校として小規模に開始するケースも多い。見守り体制の運用や鍵の管理、けがやトラブル時の対応フローなどを実地で確認し、課題を整理したうえで段階的に対象校を広げていく進め方が見られる。
まとめ
小1の壁対策は、家庭だけで解決できる課題ではなく、自治体による環境整備も重要な要素となっている。学校施設の活用や地域人材との連携など、既存の資源を組み合わせることで、登校前の時間帯を含めた子どもの居場所づくりにつながる。
先行自治体の取り組みも参考にしながら、まずは地域の保護者ニーズや放課後児童クラブの状況を把握し、自地域の実情に合った施策を検討することが求められる。















