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【座談会】生成AIで自治体業務はどう変わる?岩手県一関市に学ぶ “現場起点”のDX。

情報政策
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【座談会】生成AIで自治体業務はどう変わる?岩手県一関市に学ぶ “現場起点”のDX。

全国の自治体で、住民サービス向上を実現するためのDX推進や、生成AIを活用した業務効率化の取り組みが進んでいる。特に、広域にわたる行政サービスや人手不足といった課題を抱える自治体においては、現場の業務負担を軽減しつつ質の高い対応を実現する手段として、生成AIの活用が注目されている。

本記事では、早期から生成AI活用に取り組んできた岩手県一関市の事例について、同市の担当者、支援にあたった専門家、自治体のネットワークを支えるITのプロによる鼎談を実施。導入の背景や具体的な活用方法、現場業務における効果を整理し、生成AIとDXを支えるネットワークのあり方や、自治体における実践的な活用ポイントを解説する。

※記事の掲載情報は公開日時点のものです。

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広域自治体ならではの課題が、生成AI導入を後押し。

― 一関市は令和5年度から生成AIを積極活用しています。その背景をお聞かせください。

菅原:当市は平成17年に142村が合併、その6年後にも1町を編入し、全国の市町村で12番目という広大な市域を形成しています。市内には、市街地はもちろん山間部にも民家が点在しており、住民も職員も移動に時間がかかって大変です。そのため、業務において効率化は常に意識しています。

そうした状況の中、令和4年度に職員意識調査と業務量調査を実施。そこで浮き彫りになった課題が、文書作成や資料作成に関する業務が多いとか、電話対応が負担になっているということでした。解決策の検討を始めたところ、ちょうど生成AIが社会的に注目されはじめ、私たちも業務での活用に向けて動き始めたのです。

ちなみに、通常のAIについては、以前から活用を進めていました。令和3年度には保育所の入所判定や、AI-OCRRPAなどをオンプレミスで導入。令和4年度にはクラウドでオートコールサービスや自動文字起こしなどの活用も始めています。

こうした流れもあって、生成AIの導入も開始。現在、Copilot(コパイロット)とChatGPTは無料版で全職員が使っています。それに加え、生活保護業務に特化した生成AIや、資料作成用の生成AIを活用中で、市民が活用できるものとしては、チャットボットや窓口案内、電話応対などがあります。

髙橋:私は令和4年度から一関市のCIO補佐官を務めていますが、客観的に見ても、非常に熱心に取り組まれているという印象です。一般職員はもちろん、経営層も生成AIを積極活用しており、こうした姿勢があるからこそ大胆な取り組みもできるのではと感じています。

驚かされたのは、生成AIのチャットボットを導入する際に、採点表を見せてもらったところ、ほかの自治体での実績を評価する項目がなかった、ということです。しかし改めて考えると、新しいことに挑戦する際に前例を重視しすぎるのはナンセンスだといえます。実際、選定されたのは、自治体での実績をもたなかったものの提案内容が非常にユニークな事業者でした。こうした動きを見ていると、一関市はこれから大きく変わっていくのだろうということを予感します。

後藤:私も同じように感じました。そこで菅原さんに質問です。クラウドへ移行する際には、低遅延などネットワークの安定性に加え、セキュリティをどう確保するのかが重要になります。

一関市ではα’モデルを採用していますが、生成AIを活用する上での運用ルールづくりなどはどのように取り組んでいるのでしょうか。

菅原:早い段階でガイドラインを作成しています。当初は生成AIを使ったことがない職員ばかりだったので、便利さを伝えつつ、具体的な活用例も示し、「この場合は使ってOK」、「これは絶対禁止」と明記し、初心者にも分かりやすい内容を心がけて作成しました。

後藤:やはり運用に落とし込んだとき、職員が見てすぐにわかるルールづくりが大切ですよね。「よくわからない……」と受け止められて、自己判断で使われるのはセキュリティの第一歩として絶対に避けなければならない部分で、それを回避するルールづくりをしている点はほかの自治体でも参考になると思います。

現場の負担軽減へ。生活保護の相談業務で活用が進む。

― 生成AIの取り組みの一つ「AI業務支援システム」とはどのようなものですか。

菅原:生活困窮者や生活保護の相談業務で生成AIを活用し、報告書の作成支援や職員へのアドバイスなどを行うシステムです。令和58月に構想を始め、令和611月から3カ月間の実証実験を経て、現在は本運用に至っています。

導入以前、ケースワーカーが訪問面談に行く場合は、紙とペンを持参し、ひたすら話を聞いてメモして、帰庁後はメモを見ながら記憶をたどりつつ面談記録を作成していました。これには時間がかかり、精神的にも消耗します。面談中もメモをとるのに必死で下ばかり向いてしまうことになる。そうした課題を生成AIで解消しました。

職員は、生活保護業務に特化したサービスをいつでも閲覧できるタブレットを携帯します。そのタブレットで面談中の会話が文字起こしされ、必要な項目を埋めることができます。さらに、経験の浅い職員にも「この質問を忘れていませんか」と促すサジェスト機能が付いており、メモに手を取られなくなった分の余裕が生まれ、傾聴できるようになりました。スキルの差も埋められていると感じます。

また、帰庁後の記録作成もボタン1でできるので、業務時間が6割ほど削減できているようです。以前は持参していた地図やボイスレコーダーも不要になり、職員からは「身軽になった」という声も出ています。

当課では、担当課の職員から要望をヒアリングし、環境構築とセキュリティ対策をしました。その中でも、端末から生活保護業務の生成AIにアクセスできるようα’モデルでローカルブレイクアウトした、というのが大きな点でした。担当課の目指す方向性がはっきりしていましたし、髙橋さんの適切なアドバイスもあって、α’モデルの環境がうまく構築できたと思っています。

後藤:やはり生成AIの機能を現場にきちんとフィットさせているからこそ、成果につなげられているのでしょうね。髙橋さんはじめ、庁内の関係者とも対話を重ねた上でシステムやネットワークを設計したという点が、DXにおける“X”の本質だと感じます。

ところで、1つの業務にフォーカスして進めたというのは、何か狙いがあったのでしょうか。

菅原:まずはスモールスタートで、と考えました。面談業務にも色々あるのですが、生活保護が一番苦労している様子でした。なので、まずはそこで業務改善を進め、小さな成功を重ねて、成果が出たらほかの部署でも応用できるのではと考えています。

髙橋:私も生活保護の担当者と何度も話をしましたが、一関市は面積が広いので本当に大変です。ケースワーカーも一度外に出ると数件を訪問するので、移動だけで多くの時間を費やします。それが業務時間を圧迫している現状を何とかしたい、という明確な目標をもち、そこにDXをもち込んだ。とてもいい事例だと感じています。

もちろんツールを入れたらゴールではなく、後藤さんのおっしゃる通りDXの“X”に視点を据え、これからも業務をよりよく変えて、住民も職員も幸福になっていくことが大切だと改めて思います。

利便性とセキュリティを両立する「α’モデル」という選択。

― 生成AIの活用に向けてα’モデルを採用した決め手は?

菅原:一番の理由は費用対効果です。βやβモデルに移行するのは相当な労力とお金をかけなければならないし、職員が慣れるのにも時間がかかります。いきなり環境を大きく変化させるのは難しいですが、業務で何をどう改善したいのかというのはわかっていて、それを最も簡単に実現できるのがα’モデルだった、ということです。

後藤:当社でも多くの自治体から相談を受けていますが、やはりα’モデルに関するものが中心です。総務省のガイドラインに掲載されてから問い合わせも急増しました。クラウドサービスの利活用において、利便性とセキュリティの両立という点に鑑みても、やはりα’モデルという選択肢がスタンダードになりつつあると感じています。

  もちろん、βやβ’モデルを採用する自治体も、しっかりイニシアチブをとって、ゼロトラスト構想も見据えながら進めていくと思いますが、従来型のαモデルで運用している多くの自治体では、α’モデルが現実的なようです。その上で、一関市のように、まずはスモールスタートで成果を積み上げていくというのが着実なアプローチだと考えています。

髙橋:同感です。自治体をとりまく情報セキュリティの環境は大きく変わりつつありますが、一足飛びにゼロトラストやネットワーク統合、パソコン1台化というところにいくのは難しい。ネックになるのは、個人情報の取扱いです。

  βやβ’モデルに移行している自治体は、比較的規模の大きなところが多いのですが、一関市も含め職員数が限られている自治体では個人情報を取り扱う職員が大半を占めています。おそらく8~9割はそういった業務に携わっているでしょう。そうした現場でセキュリティを含めてネットワークを検討した場合、α’モデルを選択するのは自然な流れだといえます。私自身、自治体から相談を受けた場合、職員の多くが個人情報を扱うような職場であればα’モデルを考えてみてはどうかと伝えています。


生成AI 住民の目を見て話す時間を生んだ。

― 「AI業務支援システム」の導入後、住民からの反応はありましたか。

菅原:面談中のメモが不要になったので職員の顔が上がり、「目を見て話してくれるので、きちんと聞いてもらえていると感じる」と好評です。

また、職員がタブレットを置いて「録音します」と言うと、場合によっては不快に思われる可能性もありますが、そこを職員が工夫しAIが記録をつくってくれますよ」と語りかけています。この表現だと、ほとんどの方が快諾してくれるそうです。やはり伝え方は大事だと感じます。

今後はこの仕組みを庁内で横展開し、保健師の相談業務で使うとか、介護の部署で活用するとどう変わるのか、といったことを確かめていきたいと考えています。また、ローカル環境で使えないかということも検討中です。ローカルで利用する生成AIも、最近は非常に高性能なものが出てきている状況ですし、個人情報などを入れて活用できる可能性もあるので、そうしたことができる仕組みを現在考えているところです。

自治体DX成功のカギは、対話とスモールスタート。

― 全国の自治体職員にメッセージをお願いします。

菅原:自治体のシステムも、オンプレではなくサブスクの時代です。初期費用も抑えられますし、一度入れたらバンバン活用しましょう。使い倒してニーズがなくなったらすぐにやめられます。そして、便利な機能は単一業務だけだともったいないので、横展開していくとさらに効率化が進むと思います。

私はDXを担当して6年目。今まで色々な部署をまわってきましたが、DXで業務や働き方が改善すると、職員が便利になったり、市民がラクになったりと、目に見えて効果がわかり、自分も嬉しくなります。ほかの自治体でも、DX部門の人は原課から「これを実現したい」と言われたら喜んでサポートすると思うので、ぜひそんな要望を伝えてみてはどうでしょうか。

後藤:今回の話は、対話とコミュニケーションがキーワードだと感じました。一関市でも、人的リソースなどの制約がある中で、庁内での対話を重ね、合意形成を図ってきたのではないかと想像します。その結果、理想を掲げて自治体DXを実践したとてもいい事例だと思いますし、我々もそうした姿勢を見習いながら、自治体のネットワークをサポートするベンダーとして、現場に寄り添う姿勢を大切にしていきたいと、改めて感じました。

髙橋:菅原さんの言葉の通り、これからはクラウドの時代です。便利なツールをどんどん使っていくべきですが、システムありきではなく、ぜひ情報システム部門の人たちと「本当にこの製品でいいのか」、「ほかにもっといい方法はないのか」と対話を深め、よりよい仕組みを一緒に考えていくと、ますます業務環境は良くなると思います。

そして、後藤さんが最初にお話しの通り、ネットワークとセキュリティが肝要です。今後も国からは様々な通達が降りてきて、出口対策やエンドポイントなど色々なツールを入れなければならなくなります。それが足かせになって本来やりたかったことがやれなくなる、といったことにならないよう、新しいツールが入ることで安心が高まり、より便利になるネットワークを、事業者とも相談しながら構築していただければと思います。


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