健診に関わる部署が役割分担して肥満症の受診機会を提供する。
北海道 旭川市
福祉保険部
国民健康保険課
主任
山川 楓太(やまかわ ふうた)さん
肥満・メタボの増加傾向に対して2課が連携した事業を開始。
旭川市では、「健康日本21」の方針や「データヘルス計画」にもとづき振り返りをする中で、肥満とメタボリックシンドロームの増加が明らかになっていたという。「特に男性のメタボが、他自治体や国の平均と比較しても多い状況で、課題を感じていました」と山川さんは話す。
解決策を模索する中、肥満症対策に取り組むノボ ノルディスク ファーマと令和5年に面談。特定健診を担当する国民健康保険課と、保健指導を担う健康推進課が参加し、現状などの情報交換を行った。翌年には、同社と愛知県春日井市の肥満症対策の取り組みについて説明を受けたという。「既存事業に組み込めるので、新規事業という印象がなくハードルは高くないと感じました。特定健診から医療機関までをつなぐ流れもイメージしやすかったです」。
加えて、同社からの提案が早急に結果を目指すものではなく、まずは“仕組みづくり”を重視しているという点も評価。対象者の生活の質向上と、長期的な医療費抑制を目指して、令和7年4月に連携協定を締結し、事業を開始した。
対面での啓発と受診勧奨で高リスク者を医療につなぐ。
同市では、特定保健指導対象者の中で、BMIが35以上の高度肥満に該当し、肥満症高リスク者と判定された住民に対し、保健指導の際に専門医療機関への受診勧奨を行う。「2課の役割分担については、国民健康保険課が“対象者抽出および医療機関との連携”、健康推進課は“対象者への直接支援”と明確化しました。連携を密にするため、経過を台帳に落とし込み、情報共有しています」。
このフローを反映した特定健診が始まったのは令和7年5月。同市の特定保健指導は、個別面接が基本となっているため、初回の面接において肥満症に関する情報を提供し、受診を希望するか否かを確認した上で医療機関へつないでいる。「全国的にも取り組みが少ない中で、初年度から“肥満症患者を減らす”ことを目標にした提案であったら、庁内の合意形成を図るのは難しかったのではないかと思います。将来的には患者数の減少を目指しつつ、まずは、肥満症高リスク者を早期に適切な医療につなげられる仕組みづくりを進めていきたいです」。


20・30代に早くから働きかけ若年期に生活習慣を整える。
青森県 弘前市
健康こども部 健康増進課
課長補佐 兼 統括保健師
三上 淨子(みかみ じょうこ)さん
データ分析から判明した疾患に関する地域の傾向。
「青森県民の平均寿命は、全国平均よりも短いという統計が出ており、弘前市も下位にランク付けされる状況が続いています」と三上さん。この課題の解決に向けて詳細を調べたところ、ある事実が分かったそうだ。「介護保険において第2号被保険者に該当する40~64歳の認定割合が高く、比較的若い層で脳卒中などの脳血管疾患が多く見られたのです」。
加えて同市では、子どもの肥満も深刻な課題だった。そのため、子どもから若年層を対象に、“血圧・糖尿・肥満”の予防や改善を目指していたが、「保健指導を強化したものの、保健師だけでは解決できないこともあり、より有効な対策がないかと悩んでいました」。
そうした中でノボ ノルディスク ファーマから肥満症対策に関する提案があり、何か力を借りられるかもしれないと判断。医療機関と直接連携する難しさを感じていたこともあり、同社の協力を得て事業構築を進めることになったという。
子育て世代にスポットを当て将来に向けた事業方針を決定。
初めに取り組んだのは庁内での意識統一だった。「仕組みをつくる前に、保健指導をする職員がその必要性を感じることが重要。会議を重ね、どのように向き合うべきかを考えました」。さらに上長や関係者へ説明を行い、事業に対する意識を共有し、方針を決めていったという。
また、医師会への情報提供や、専門医療機関の医師との面談も実施。協議の結果、同市で実施している「20・30代健診」での保健指導で、BMIが30以上でリスクのある人に受診勧奨を行い、医療機関につなぐという流れが決まった。「この世代は生活習慣が確立されていないことが多いはず。若年期に生活習慣を整える意識付けができれば、結果として肥満症リスクや重症化の予防につながると考えています」。同時に、副次的な効果も見込んでいると付け加える。「子育て世代に当たる層なので、保護者の意識を変えることで、子どもたちの肥満防止にもつなげたいというねらいがあります」。
肥満症の改善は、継続的な関わりが大切。三上さんは、幅広い世代に意識が広がることを期待しつつ、自治体・医療機関・事業者の連携で地域の健康寿命を延ばす未来を見据えている。

