平成26(2014)年、ふるさと納税で10億円以上という日本一の寄付金額を達成。
さらに、「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンクへ出向した経験を持つ元・長崎県平戸市役所職員の黒瀬啓介さん。平成31(2019)年3月には19年勤めた平戸市役所を退職し、現在はフリーランスという新たな立場から行政の仕事に関わっている。
枠にはまらない姿勢を貫く彼の原動力は、一体どこからきているのか。独立を決意したきっかけとは—。
※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.7(2019年9月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
ターニングポイントは広報紙
就職先に市役所を選んだ理由はただ一つ。「公務員は安定しているから」です。当時は「まちのために貢献しよう」なんて考えたことはありませんでした。意識が変わったのは5年目に「広報ひらど」の制作を担当するようになってから。
福岡県赤池町(現・福岡県福智町)の広報紙を手にとった際にそれまでの自治体の広報物に対する概念が大きく変わりました。デザインも企画も真新しくて驚いたのです。当時「広報あかいけ(現・広報ふくち)」をつくっていたのは現・福智町役場の長野士郎さん。この出会いが一つ目のターニングポイントでした。「長野さんのようになりたい」という気持ちはやがて「市民のために仕事をしよう」「まちを盛り上げよう」という使命感へと変わったんです。
制作はほぼ一人でしたが、「とにかく頑張りたい」その一心で、知識ゼロから勉強を重ね、長崎県広報コンクールで5年連続優勝、平成20(2008)年には全国広報コンクール市部の部で第6席を受賞するにいたりました。
合言葉は「ワークワークワーク」
二つ目のターニングポイントは「ふるさと納税」の担当に就任したことですね。当初は数ある業務の一つという認識に過ぎませんでしたが、調べていくうちに可能性を感じ始め、とことん勉強してみたんです。「カタログポイント制」や「お礼の品の配送指定ができる」といった特徴を設けたところ、全国初の寄付金額10億円突破に成功。仕掛けたものがヒットした喜びを感じる一方で、プレッシャーももちろんありました。
そんななか、ふるさと納税の総合サイトを運営する株式会社トラストバンクに出向するチャンスをいただいたんです。それまで自治体しか経験がなかったので、民間で働けるなんてまたとない機会。一刻も早く決裁をもらいたくて上司を飛び越えて市長に直談判して、その場で了承を得たのは今考えるとすごい(笑)。でも、それくらい毎日がむしゃらだったんです。
「ワークライフバランス」が声高に叫ばれる昨今ですが、僕は何かを変えるには「ワークワークワーク」で動くしかないと考えています。ものすごいエネルギーを本気で注いだからこそ、今の僕がいると思うんです。
地方にステイタスを感じてほしい
民間を経験してみて強く感じたのは「全員が同じ目標を持ち、そこに向かって働けるのは面白いな」ということでした。自治体の職員は人事異動があるのが当然ですから、業務内容はその都度変わり「与えられた場所で働くこと」に意識がいきがち。でも、職員である前に自分という人間はどうありたいのか、何をしたいのかを考えることが重要なんだと感じました。
「独立」を選んだのは、決して「役所勤め」が嫌になったわけではなく「別の視点で地方を盛り上げる方法があるはず。そろそろステージを変える時期かな」と思ったから。だから起業を決めたのです。
僕は「地方をステイタスに感じる時代」がつくれると信じています。そして、まちを変えようという熱い思いは日本をも動かすと確信している。だから今日も「ワークワークワーク」で働くんです。
PROFILE
平成12(2000)年平戸市役所に入庁。
独立後、LOCUS BRiDGE代表として講演やふるさと納税の研修など精力的に活動中。
また、株式会社CroMenのエバンジェリスト、株式会社アスラボではプロデューサー、株式会社トラストバンクではシニアアドバイザーとしてパラレルワークを実践中。