ジチタイワークス

鹿児島県長島町

公民連携と制度改正による空き家等の活用促進

取組概要

・民間企業とのやりとり、相談窓口、マッチング作業など、事業推進専任職員に地域おこし協力隊を採用。
・県内最大手の不動産事業者「川商ハウス」の支店を誘致し、長島町に初めての不動産事業者が開設。
・既存の空き家バンク、空き家改修費補助制度を改正し、補助額、補助対象を大幅に拡充。
・空き家バンク登録前に民間企業による物件調査を登録手続きに組み込む。
・その結果、年間5件程度だった空き家活用のスピードが4倍以上に増大。

取組期間

平成28年度の11月頃に始まり、平成29年度5月より本格化し、令和2年度も継続中

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2020」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

背景・目的

【背景】

1.慢性的な住宅不足
町内で住居を確保できず隣接自治体に住みながら、町内に通勤する方も多い。町営住宅の募集には定数の10倍程度の応募があり、教員や地域おこし協力隊の住居を確保することも難しい。

2.賃貸アパートが少ない
町内の約4,300世帯の内、賃貸アパートは約100世帯程度しかなく、移住、引越しの際には、新築もしくは空き家活用以外に手段が無い。

3.町内に不動産事業者が無い
町内に不動産事業者が無く、空き家の賃貸契約は個人間での相対契約しか手段が無かった。また、空き家や空室の検索には周囲の人に聞く以外の手段が無かった。

4.空き家率は約16%
平成28年度の調査により町内に約800件(居住世帯数は約4,300戸)の空き家があることが判明し、空き家の利活用および特定空家発生の抑制が急務であることが明確になった。

5.町営住宅の新設はコスト高
町営住宅の新設には1世帯あたり1,000〜2,000万円程度を要するため町の負担が大きい。また、町営住宅は入居者の収入制限などの条件が厳しいため、幅広いニーズに対応することができない。

【目的】

1.空き家の利活用を促進し、人口流出減、流入増を後押しする。
2.特定空家発生の抑制する。
3.町営住宅の新設よりも低いコストで住居を提供する。
4.不動産事業者と協働することで、民間の専門スキルを活用する。

取組の具体的内容

【取組の時系列】

①「不動産なんでも相談会」の開催(2017年8月)

経緯
町内に不動産事業者がこれまで1社も無い長島町では、空き家の賃貸、売買促進を図るために不動産事業者を誘致する必要があった。そこで、県内最大手の「株式会社 川商ハウス」に支店開設を目的とした交渉を開始した。
交渉過程において、そもそも町内にどのような不動産ニーズがあるのかを川商ハウスが把握するために、住民向けの不動産相談会を実施することになった。
また、空き家改修費用を準備する過程で金融機関からのローンを検討するケースも発生するため、町内に支店を持つ鹿児島相互信用金庫にも協力を依頼した。

主催
長島町、川商ハウス、鹿児島相互信用金庫

日時・場所
2017年8月12日(土) 10:00〜16:00 長島町開発総合センターにて

来場実績
10件(15名)の相談が寄せられた

成果
賃貸もしくは売買を希望する空き家オーナー、空き家を探している個人・法人、持家の名義人が分からない方など様々な相談者が訪れ、様々なニーズが一定数あることが分かった。また、不動産に関する相談を役場職員だけで対応することが難しいことも再確認でき、これ以降支店開設への動きが加速した。

★取組のポイント★
公民金の共同主催にしたことで、それ以降の三者連携がスムーズに!


相談会のポスター


長島町、川商ハウス、鹿児島相互信用金庫のスタッフで記念撮影

②「不動産総合応援サイト Nagashima-House」を開設

長島町の公式サイトには空き家バンクに登録された物件を閲覧できる仕組みがなかった。そこで、長島の不動産物件に特化したサイトを川商ハウスの運営で新規に開設した。

★取組のポイント★
・川商ハウスの仲介物件である/なしに関わらず、空き家バンク登録物件を全て掲載する。
・民間事業者によるクイックなお客様対応が可能になる。


Nagashima-Houseのトップページ


ブログで日々の活動状況も発信

③国土交通省のモデル事業に採択(2017年9月)

国交省が募集した「地域における空き家・空き地等の利活用に関するモデル事業」は、宅建事業者と地方自治体が連携して空き家等の利活用を促進するためのものであり、長島町に川商ハウスの支店を開設するに当たって必要な調査・勉強にかかる予算を確保するため、長島町と川商ハウス共同で本事業に応募し、採択された。

▼主な活動内容の抜粋
2017年9月
・IT重説に関する講習会を実施(福岡より講師を招く)
・定借プランナー資格認定講座受講
10月
民泊EXPOプレミアム2017に参加
11月
・空き家管理受託サービスの勉強会(福井県より講師を招く)
・定期借地・借家権勉強会(愛知より講師を招く)
12月
福井県小浜市の平田不動産を訪問し、空き地・空き家活用の先行事例を学ぶ

★取組のポイント★
事業の助走期間に必要な予算を確保できたことで、川商ハウスの全面協力を得られるように!



 オーナー向けセミナーを開催

福井県小浜市で空き地の活用事例を視察

④川商ハウスと長島町で連携協定を締結(2017年9月)

★取組のポイント★
・メディアを通じて町内外に事業の方向性および進捗を発信できた!
・迅速な情報共有体制が構築できた!


これまでの相談会実施、国交省のモデル事業採択を経て、今後さらに連携を深めるため、長島町と川商ハウスの間で「空き家・空き地等の利活用に関する連携協定」を締結。


連携協定締結式の様子

南日本新聞の記事

⑤「川商ハウス長島支店」が開設(2018年12月)

2018年12月7日、長島町にとって初めての不動産事業者となる「川商ハウス長島支店」が開設した。支店用の建物は、空き家になる予定であった物件を改修したものを賃貸で利用。支店開設に際して、本社社員から支店長を専任し、町内居住用に空き家物件を賃貸契約している。また、支店勤務の職員を町内で採用しており、現在は2名体制で週5日営業中である。

長島支店では、他支店同様に川商ハウスが取り使う鹿児島市内の物件の案内を受けられると同時に、長島町内の空き家に関する相談および、町の空き家関連制度についての説明も行っている。店舗には、空き家のオーナー、新築用宅地を探している方、空き家を探している方、住宅メーカーなど様々な相談者が日々相談に訪れており、適宜役場と連携して相談ニーズに応えている。

★取組のポイント★
・長島町初の不動産事業者が誕生!  ・町内での雇用も創出!


開所式のテープカットの様子

⑥空き家関連の新要綱が施行(2018年1月)

長島町では、空き家に関する以下2つの要綱が平成22年度から施行されており、29年度までの7年間で35件の空き家改修実績があった。



そこで、2つの要綱を大幅に改正し、ニーズに応えられる体制を整えた。以下に改正ポイントを整理する。


これらの改正内容を周知するために、全世帯に改正内容を説明するチラシを配布した(4,300世帯)。その結果、例年を超えるペースで相談が寄せられるようになった。また、固定資産税の納税通知書には空き家バンク登録を促すチラシを同封し発送予定。(5,000通)


新要綱に関する西日本新聞の記事

改正案内のチラシ

空き家バンク登録案内チラシ

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

【スピード感を持った事業推進のために】

1.民間企業、金融機関との協働を当初から想定
宅建事業者を制度手続きに組み込むこと、また空き家改修費用をローンで準備するケースがあることは事業の当初から想定していたため、取組の初期段階から各機関には協力を依頼すると同時に、相談会などのライトな施策を協働開催したり、事業進捗を定期的に共有することでチームとしての結束を強めた。

2.専任職員を地域おこし協力隊として採用
他業務との兼務体制、人事異動による止むを得ない配置転換などの制約がある既存の職員では、民間企業とのスピード感を持った事業推進が難しい場面も少なくない。そこで、本事業専任の職員として地域おこし協力隊を2名採用した。協働する民間企業との窓口ならびに、空き家に関する様々な相談もこの2名に集約することで、非常にクイックかつ丁寧な対応が可能となった。
相談者(空き家の持主、移住希望者)が町外にいるケースは多く、そのような場合は相談者の住む場所まで出向いて面談している。また、相談者が土日休日にしか長島町へ来れない場合も多く、その場合も面談、町内案内、空き家見学などに臨機応変に対応している。

【実際のニーズに沿った制度設計】

1.空き家の利用用途を大幅に拡大
空き家を利用したい方のニーズには町内引越し、移住、事業用に転用、不動産投資、別荘など様々種類がある。これらのニーズに応えることは、いずれも「住みよい町づくり」、「町の活性化」に寄与する。しかし、一般的な空き家関連の補助制度は住居利用(特に移住定住の文脈の中での)に限定されているため、これら種々のニーズに応えられていない現状がある。
そこで、利用用途を大幅に広げる改正を実施した。さらに、工場、事務所、店舗などの事業用建物も空き家の定義に含めた。新要綱施行後の実績第一号は、まさに空き工場の店舗転用案件であった。

2.借主、家主いずれも補助対象に
空き家の活用には初期投資(改修費用の負担)が必要である。この費用を負担できる者が現れない限り活用は進まない。長島町の旧要綱は家主が費用負担した場合のみ補助する仕組みであったが、一方借主にしか補助しないという自治体もある。しかし現実には、家主、借主のいずれが負担するケースも存在している。
そこで、機会損失を最小にすべく、新要綱では家主、借主いずれも補助対象とした。新要綱施行後の空き家改修実績の8割の案件で借主が改修費用を負担している。

3.不動産投資対象としての空き家
賃借した(もしくは買い取った)空き家を改修し、入居者を見つけることで、空き家が高利回りの魅力的な投資対象となる場合がある。この時、改修費を負担するのは投資家であり、家主でも入居者でもない。これまでの長島町では、改修費の確保が困難なために利活用が進まない、もしくは一部の金銭的な余裕がある者だけに利用が限定されてしまうケースも少なくなかった。
そこで、新要綱ではサブリース(転貸)であっても入居者が見つかっていれば補助対象として認めている。また、法人も対象に含めることで、事業としての空き家活用を促進させる狙いがある。長島町では新要綱施行後、既に法人によるサブリースの実績が生まれている。

【民間企業を制度利用手続きに組込む】

1.宅建事業者による調査、審査を導入
空き家の取り扱いにおいて、権利関係のトラブルには注意が必要である。未登記物件、抵当権付き物件、名義人の承諾が無いままでの賃貸・売買などは後々トラブルに発展する可能性が非常に高い。このようなトラブルを回避するため、新要綱では空き家バンク登録の審査時に宅建事業者による調査を導入した。具体的には、制度利用申請者と名義人が異なる場合の対応、未登記物件の登記手続きのサポート、差し押さえ物件の売買手続きなどが、新要綱施行後の実際の案件において発生している。

2.賃貸・売買価格の設定
借手・買主を見つけるためには適切な賃貸価格や売買価格の設定が重要である。しかし、それらの価格設定を役場から提案することは出来ない。そこで空き家バンク登録申請後の調査・審査家庭において、民間の宅建事業者による査定、価格提案を実施している。特に売買希望物件では、家主自身が適正価格を判断できず、査定を依頼されるケースがほとんどである。

3.物件情報のコンテンツ化
空き家バンクの登録物件を閲覧、検索が可能な状態にするには、図面作成、写真撮影、設備の確認、価格設定などの専門スキルをが要求される。そこで、新要綱の施行と同時に、長島町と宅建事業者との間でこれらの作業に関する委託契約を締結した。(「空き家バンク登録用物件の調査業務委託契約」を川商ハウスと締結)これにより、行政対応が難しいサービスを実現するだけでなく、役場内での作業も削減でき、相談者対応に十分な時間をさけるようになった。

【制度の認知向上】

良い制度でも認知されなければ活用してもらうことが出来ない。そのため、制度や事業の認知を向上させるための施策を随時実施している。以下は新要綱施行後に実施した施策であり、引続き注力していく。

1.全世帯に制度の変更点を説明するチラシを配布
2.川商ハウス長島支店の開設を全世帯に年賀状としてお知らせ
3.町の広報誌で新制度を紹介
4.町内の大工の集まり工友会の総会にて制度説明
5.若手事業者の集まりにて制度説明
6.固定資産税の納税通知に空き家バンク登録の案内を同封

【移住(求職含む)も空き家の窓口と一本化】

空き家利用の希望者には当然移住希望者も含まれる。この場合、相談者を家と仕事を同時に探す必要がある。そこで、これまでは別々であった空き家と移住の窓口を一本化した。その結果、相談開始から引越し、内定までを一つの窓口で一貫フォローできるため、相談者の満足度が非常に高くなった。

取組の効果・費用

【新要綱による制度利用数の増加】

2018年1月に新要綱が施行されて以降、制度利用の数が急増している。つまり空き家の利活用が促進されている。具体的な件数は以下の通り。

【転出減、転入増の効果】

【費用削減効果】

これらの住居を町営住宅の新設で対応した場合、多額の建築費用が発生する。
また上記の転入増による税収の増加により補助額の多くは町に還元される。

【町内施工業者の受注数、受注額の増加】

新要綱では「空き家改修工事は町内事業者に優先的に発注する旨」を盛り込んだ。また、総工事費の上限を300万円から500万円に増額している。つまり、町内の建設事業者、大工にとっては受注数と受注額が増える結果となっている。

取組を進めていく中での課題・問題点(苦労した点)

【柔軟に対応できる専任担当者の配置】

空き家マッチング、移住支援は数ヶ月わたって相談者をサポートする必要がある。また、サポートする内容も多岐にわたる。マッチングでは物件内見の調整・立ち合いが頻繁に発生する。また移住者に対しては、町内の案内、集落との繋ぎ、求人案内、転校手続き、町の補助制度案内などを、時には遠隔で実施する必要がある。これらの業務は、役場におけるその他の通常業務と兼務する事は非常に難しい。

そこで、専任担当者に地域おこし協力隊で採用した職員を配置した。その結果、上記のような丁寧なサポートが実現でき、実績の増加に大きく寄与している。しかし、これらの業務を円滑に進めるには、高いレベルのコミュニケーション能力、調整力、交渉力などが必要となる。そのため、これらの素養のある人材を慎重に見極めるよう心がけた。

【既存の担当課との調整】

空き家、移住などはこれまでも担当課があったが、本件の取組はそれらの担当課とは異なる課で主導した。それは、上述した専任体制と窓口一本化を実現するためである。具体的には、地域おこし協力隊を総務課付で採用し、協働する民間企業および相談者の窓口を集約した。(平成30年度からは、新設された地方創生課に業務と共に人員も異動)
しかし、この決断は過去の実績やノウハウを持つ旧担当課との連携が難しくなることを意味している。そこで、取組の進捗状況を新旧の担当課間で随時共有、相談できる体制を用意し、円滑な業務移転を実現した。

今後の予定・構想

①金融機関との連携強化
改修費用の調達に金融機関からの借入を必要とするケースもあるため、施策を連携していく金融機関の商品を開発。
1.補助制度利用者専用のローン商品の開発

②基金創設やふるさと納税の活用
空き家改修実績が増える事は補助金の交付という町の負担が増える事でもある。もちろん上述のような町内消費、税収アップの効果はあるものの、同時に予算の確保経路を増やす必要もある。そこで、空き家改修に関する基金の創設、ふるさと納税による納税額の活用など、持続可能な制度運用のための検討を進めている。

③最新技術の活用
移住を伴う空き家活用や、そもそも家主が町外居住者である場合など、当事者が離れた場所で生活しているケースは多い。そこで、遠隔地からの物件確認、賃貸契約の締結などに最新技術を活用する準備を川商ハウスと進めている。現在以下のような施策を準備中であり、年内実現を目指している。
1.IT重説( Webカメラを使った遠隔地での重要事項説明)による賃貸契約締結
2.360°カメラによる物件案内
3.ドローンを使った物件動画の撮影

他団体へのアドバイス

空き家に限らず全ての取組に共通するが、現実のニーズと課題の本質を把握し、それに応えられる取組になっているかを常に意識することが大事だと考えている。空き家について言えば、一般的には移住や人口増加策の文脈とセットで語られることが多いが、現実にはそれ以外の用途で空き家を活用したいニーズも多くある。また、「空き家を減らす」ことを目標にしているケースもよく見聞きするが、空き家活用の本質は、「空き家活用は新築よりもコストパフォーマンスが高い場合がある」ということだと思う。その本質に立てば、移住だけに限定しない、補助対象者を拡充する、という方向性が見出せるはずだ。
長島町の取組が正解だとは言えませんが、我々の取組はそういう視点から発想していることを理解いただければと思う。

その他、具体的な施策や注意点などは上述の内容、特に「特徴」を見ていただけると分かっていただけると思う。我々の取組による知見が皆様の課題解決の一助になれれば幸甚である。

取組について記載したホームページ

「不動産総合応援サイト Nagashima-House」  https://nagashima-house.com/

問い合わせ先

鹿児島県 長島町 地方創生課
電話番号 0996-86-1101

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