ジチタイワークス

宮崎県都城市

採用難を打破するデジタル面接 ~人材確保こそ自治体経営の第一歩~

取組概要

当市の試験は3次試験制であり、1次:筆記試験、2次:面接、3次:最終面接となっている。受験者の裾野を広げることを目的として、平成29年度に筆記試験を民間が広く採用しているSPI試験に変更し、全国の試験会場で受験することを可能とした。しかしながら、受験者が減少傾向にあり、採用活動途中における辞退者も多かったことから、さらなる負担軽減を図るため、令和2年度から2次を中心にデジタル面接を導入。テレビ電話機能でのリアルタイム面接ではなく、事前に質問を撮影して配信し、受験者はスマートフォン等で回答を録画し、送信するシステムを導入している。
正職員採用試験への電子録画形式のデジタル面接導入は、自治体初の取組であり、新型コロナウイルス感染症拡大対策を採る必要があった令和2年度の採用試験に大きく寄与しており、新しい生活様式にも合致する価値観を創造している取組でもある。
また、受験申込、採用後のアフターフォロー、そして就職説明会及びインターンシップまで全てをオンラインで実施できるようにすることで、採用活動の包括的なデジタル化に取り組んでいる。

取組期間

令和元年度~(継続中)

※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2020」の応募事例から作成しており、本記事の内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。

背景・目的

少子化や景気回復に伴い民間における採用活動が活発化し、空前の売り手市場と言われている中、公務員試験においての人材確保が難しくなっている。特に当市は地方に位置しており、大学卒程度対象試験や社会人経験者対象試験でのターゲットは、高校卒業後に進学等で市外・県外に住んでいるケースが多く、採用試験において日程確保や費用の面で受験者の負担が生じ、受験倍率が低下していた。

特にここ数年は、補欠合格者も底を付き、欠員が生じるといったケースも増えており、抜本的な対策が必要な状況にあった。
実際に平成29年度に導入したSPI試験により受験者数は増えたものの、合格者からも面接で2回都城市を訪問することについて、金銭面及び日程面で負担であったとの声が寄せられていた。
現在、公務員を取り巻く環境も大きく変化し、自治体間でも競争が生じている中、企画力や対応力がある優秀な人材を確保することは、自治体経営の一丁目一番地である。受験者の負担軽減を図り、受験者を増やし、辞退者を減らすことで、優秀な人材を確保することを第一の目的としている。

また、当市は地理的に台風の影響を受けやすく、2次試験以降の日程が台風や大雨の時期と重なってしまうことによる日程再調整の手間も生じていたことから、電子録画形式のデジタル面接の導入で行政効率化も図られると考えた。
さらに、自治体職員は定期的な人事異動を避けられず、人事担当者も例外ではない。このことから、採用活動、特に面接における人物判断等のノウハウが属人的なものとなり、人事異動によって失われてしまう傾向があったことから、面接内容を一定期間保存することで、面接ノウハウを学習できる環境を構築したいとも考えた。
その他、受験者へ訴求するためのトップ(市長)メッセージの配信や、対応力がある人材確保のためのシチュエーション面接等、これまでの対面型面接で実現できていなかった多様な面接手法により優秀な人材確保に繋げたいとの想いもあった。また、最終面接において判断に迷った際等で、録画された面接は重要な判断材料の一つになると考えた。

取組の具体的内容

当市では、平成29年度から職員採用試験において、SPI試験を導入したことで、公務員試験対策を不要とし、幅広い分野から公務員にチャレンジしてもらえる土壌を作っている。SPI試験は、多くの民間企業で採用されていることから、民間企業と同じインフラであるテストセンターを活用し、47都道府県の中から好きな日時に好きな場所で受験できるようにしており、受験者の負担減にも繋がっている。
SPI試験の導入により、当市の受験者は増加し、県外の受験者割合も増えたが、少子化や景気回復に伴う民間企業の採用活動の活発化に押され、再び受験者が減少傾向にある。
そのため、当市では、令和2年度から受験申込をオンライン化するとともに、録画形式のデジタル面接を2次試験に導入した。リアルタイムのテレビ電話方式では、試験官と受験者との日程調整の手間は減らないこと、電波や機器の状況により、回線が繋がらなかったり、突然切れたり、十分に受験者の対応を見ることができない遅延が発生したりする等のリスクがあり、この場合には、再度日程調整をする必要がある。一方、録画面接は、事前に当市が質問内容を録画し、受験者が専用のURLから面接画面に飛び、期間内で都合が良い日程で面接を実施するシステムを導入している。受験者が回答した録画のデータはサーバーに保存され、試験官は好きなタイミングで動画を見て、評価することができる。
面接のためにわざわざアプリを入れるのではなく、手軽に面接を受験できるのも本市のデジタル面接の大きな利点である。

近年は、既卒で社会人として働いている受験者も多い中、仕事を休まずに受験ができることについての評価の声が高いほか、往復と宿泊で最大10万円近くかかっていた費用負担がなくなり、受験者の負担軽減が図られている。
また、台風等の災害が面接時期に生じてしまう場合、延期の判断、延期の連絡、日程の再調整と、多大な労力が必要であった。また、事前に安全面を考慮し判断をすることから、結果として受験者の搭乗する飛行機等の欠航に繋がらないケースでも延期となってしまい遠方の受験者がキャンセル料を自己負担せざるを得ない突発的な受験者負担も以前はあったが、本取組によって解消されている。

面接においては、受験者に当市を選んでもらえるよう、市長からの熱いメッセージを冒頭に流し、その後、事務局からアイスブレイクの画面を挟み、デジタル面接に移っていく。
さらに、受験者への面接も動画で行うことにより、対面面接に近い臨場感を実現し、撮り直し回数も制限して実施している。
また、通常の面接で取り組みにくいシチュエーション面接も交えるほか、ランダムで質問が流れる機能を実装し、対応力についての評価が可能となるよう工夫をしている。
録画面接を導入したことにより日程調整がなくなったことから、これまでに比べより多くの受験者を面接することができるようになった。そのため、SPI試験の合格者を大きく増やし、これまで以上に面接による人物重視の選考を行っている。
また、動画であることから、ベテラン担当者が経験の浅い担当者に面接における視点やノウハウを伝えることが容易です。長期的には採用者のその後の仕事ぶりと録画された採用時の面接をもとに、当市で力を発揮できる人材の傾向を分析することも可能であると考えている。
なお、デジタル面接には人間味がないと思われないよう、当市では、録画した内容にも工夫を凝らし、アイスブレイクタイムを設けくすりと笑い緊張をほぐすエッセンスを入れている。

加えて、合格者に対してのケアを行うサポーター制度を創設した。合格者が不安に思うこと等に市役所職員が相談に乗る等のケアをテレビ電話の活用も含めて行うことで、人と人の繋がりを意識してもらい合格後の辞退を防ぐ狙いもある。
デジタル面接の導入を契機として、採用試験の申込もオンライン化している。
さらには、当市での就職を希望する大学生等に対する説明会及びインターンシップのオンライン化も開始した。説明会では、県外の希望者がいることを念頭に置き、都城ならではの施策に重点を置いて説明をしている。インターンシップは、課題解決型としており、テレビ電話を活用し、適宜アドバイス等を行うとともに、職員が直に対応するからこそ聞ける、公務員生活の実情なども話をする。
このように、デジタル面接単体の取組で終わることなく、Society5.0を見据え、採用活動を包括的にデジタル化している。
本取組はアンケートの結果を見ても、非常に好評であり、今後の継続的な実施について、手応えを感じている。

特徴(独自性・新規性・工夫した点)

自治体における正職員採用試験での録画形式でのデジタル面接の導入は全国初の取組だ。今回は、デジタル面接の特性を活かし、通常は実現しにくい面接を試みた。
まず、面接の冒頭で市長のメッセージを伝えている。これまで、通常の面接で組織のトップが想いを伝える機会はなかった。トップ自ら想いを伝えることで、当市へより強い興味を持つ受験者が増えてほしいと考えた取組である。
また、試験や通常の面接ではわかりにくい現場の対応力を見抜くために、シチュエーション面接を採り入れている。クレーム対応等の実際に公務員が向き合わなければならないケースでどのような対応を取るのかを確認することができる。通常の面接では、所要時間や演者が気恥ずかしいといった点から、なかなか実施できない取組だ。なお、数種類の質問を用意し、ランダムに出題している。
デジタル面接の前段である受験申込や就職説明会、インターンシップ、後段のアフターフォロー等も含めて、単発ではなく、包括的にデジタル化を進めているのも当市の特徴である。

取組の効果・費用

書類提出時に把握可能だった前期数値のみで比較している。なお、コロナウイルスの影響による公務員志向が高まっていると言われているが、募集時期的に前期には影響ない。(例年と同じ条件)



上記のように、導入前と比較し、県外居住者の割合が増え、かつ倍率も上昇していることから、受験者の負担軽減により人材確保を図るとの最も大きな目的については、達成に近づいている。
より多くの人材を面接で見たいとの想いから、1次試験の合格者も、令和元年度の152人(募集29人)から、220人(募集23人)と大幅に増やし、人物本位の採用を実現している。
なお、本年度は導入初年度であり、受験者への周知が行き渡っていなかった中での数値でさえ、前期のみで県外の受験者は102人に登り、1人当たり5万円として、計510万円の効果額が生じていることを考えると、デジタル面接に要する年間308万円は、費用対効果に見合っていると言える。生涯人件費を考えると、優秀な人材を確保するために、本来はより多くの費用をかけても良いのではないかとも感じている。
各種マスメディアに取り上げられ、受験者からの問い合わせも急増していることから、後期及び次年度以降はさらなる躍進を遂げるのではないかと期待している。
デジタル面接ならではだが、自己PRのためのフリップを用意し、創意工夫を凝らしたアピールをする受験者がいる等、表現の多様性にも繋がっている点も一つの効果である。
実際に導入し、全ての試験官、そして受験者の日程調整を行っていた工程が一切不要となり、業務の効率化に寄与しているとともに、試験工程のスピードアップも可能となった。他の志望先と迷っている受験者を確保するためには、早いタイミングで合格を通知することも非常に重要であるため、試験工程のスピードアップは嬉しい副産物であった。面接に関する違和感もなく、何度も見直しができる点、しかも10年間もの長期保存ができる点は、これまでになかったデジタル面接ならではの効果だと感じている。

また、奇しくも本年度は、コロナウイルス感染拡大により、採用活動に大きな悪影響が出た年でしたが、当市においてはデジタル面接を活用したことから、滞りなく採用活動を進められている。新しい生活様式に沿った取組ということもあり、同様の課題を抱える地域企業からも問い合わせが入っていることから、地域課題の解決策として地域への波及効果も見られるところである。
なお、デジタル面接自体を、市の先進性及びチャレンジ精神と捉え、本市を選んだ受験者もおり、市をPRするツールとしても役立っている。
なお、コロナによる感染拡大が確認されている地域からの受験については、最終面接についても、ライブ面接に切り替える等、臨機応変に受験者に寄り添った視点で、デジタル面接をフル活用しており、受験者が受験に伴う移動により、コロナ感染に感染するリスクを低減している等、社会的意義も大きな取組となっている。

取組を進めていく中での課題・問題点(苦労した点)

デジタル面接は受験者も慣れないため、いかにスムーズにデジタル面接に入り込む空気を醸成するかが課題と感じていた。そのため、こちらからの問いかけの中、アイスブレイクの時間を入れることで、普段の受験者の姿を見ることができたのではないかと感じている。
採用担当課も、質問動画を作るのは初めての経験で苦労したが、担当を超え、課全体で様々なアイデアを出し合い取り組んだことから、結果として課のベクトルも一つに合わせることができた。

今後の予定・構想

SPI試験結果に加え、デジタル面接の実施により、採用試験に係る客観的なデータが収集できることから、その後の勤務状況等も併せて分析をしていくことで、より良い人材確保に繋げるとともに、当該データを人事配置等の参考にする仕組みを作ることを考えている。適材適所が実現してこそ、組織の力は最大化されると考えているからである。
また、当市は地域企業の人材確保のため、UIJターン、いわゆる都市部からの採用を目指し、地域企業とパートナーシップを締結しているので、当市の取組を実績も交えて紹介することで、横展開を図りたいと考えている。
アフターコロナにおいて、都市部から地方への人の移転が進むと言われている中、その流れを加速、推進する取組であると考えている。
さらに、会計年度任用職員についてもデジタル面接を導入し、職員課一括採用のデメリットである、配属課が人となりを直接見ることができない点の解消に努める。

他団体へのアドバイス

今後、自治体は民間企業との熾烈な人材確保競争に巻き込まれていくものと考える。自治体を発展させていくための人材を確保するためには、受験者が使いやすいシステムを選択することが重要である。使いにくいシステムは自治体の評価に直結してしまいかねないことを意識し、受験者目線を貫くことが重要だ。
通信に関しては、受験者の人生を賭けた面接であることから、途中で録画が途切れないようにする必要がある。特に面接については、締切日近くに集中する傾向がありますので、十分なサーバー容量を確保するべきであるし、セキュリティについても十分に配慮されたシステムを活用するべきだ。
また、このためだけにアプリを入れるのではなく、URLからの誘導で面接が可能となるような、簡便さも本市のデジタル面接が支持されている一つの理由だと考える。
さらに、SPI試験導入やデジタル面接の導入という一つのソリューションのみを目指すのではなく、デジタル面接の川上や川下も含めて、包括的にデジタル化することが肝要だと考える。

問い合わせ先

宮崎県 都城市 総合政策課
電話番号 0986-23-7161

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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