
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、滋賀県大津市の「老人福祉センターリニューアル」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
大津市では、老人福祉センターの機能の充実を目的に、「健康寿命のさらなる延伸に向けた高齢者の健康づくりの拠点施設」としてリニューアル。
具体的には、浴場を廃し、フレイル予防に寄与する運動機能向上のためトレーニングルームとシャワー室を設置。健康セルフチェックができるよう体組成計や血管年齢計、骨健康度測定器などの測定機器を設置。トレーニングルームの継続利用を促すポイント制度を導入などである。
リニューアルに際し、施設の愛称を公募・決定。これまでの「老人のレクリエーション施設」というイメージ脱却を目指した。
背景・目的
老人福祉センターは全国各地に整備されているが、近年では利用者の減少や施設の老朽化等に伴い廃止に踏み切る自治体も多く、平成27年度に全国で2,106あった施設が令和4年度には1,896となり210施設が減少している。
施設の存続には逆風が吹いている中、要介護認定者や一人世帯の増加、コロナ禍で社会的なつながりが希薄化するなど高齢者を取り巻く新たな課題に立ち向うべく、大津市は市内に5施設ある老人福祉センターをあえて機能充実してリニューアルするものである。
取り組みの具体的内容
・大津市内に5施設(木戸・北・中・南・東)ある老人福祉センターを「健康寿命のさらなる延伸に向けた高齢者の健康づくりの拠点施設」として毎年度1施設ずつ機能充実を進める。
・更新や修繕に多額に費用を要する浴場機能は廃止して、洗い場スペースをシャワー室に改修する。
・3施設で介護保険制度以前から実施しているデイサービス事業は、民間事業者を牽引する当初の目的が達成されたため、浴場機能の廃止とともに廃止する。
・トレーニングルームは、オープンスペースの床を張り替えた上でトレーニングマシンを設置。高齢者のフレイル予防に寄与する運動機能向上を目的としたマシンを選定している。
※chocoZAP(チョコザップ)に設置されているマシンと同じものを導入している。
・トレーニングルームに隣接して健康セルフチェックコーナーを設置。体組成計2台、血管年齢計2台、骨健康度測定器1台、血圧計2台、握力計2台を備え、利用者が自らの健康状態を確認することができる。
・トレーニングルームの継続利用を促すよう、野菜やdポイントなどに交換できる「OTSU POINT(おおつポイント」制度を導入し、利用回数に応じてポイントが獲得できる仕組みとなっている。
・トレーニングルームの利用はシャワー室利用と共通で1回110円を徴収する。
・老人福祉センターという名前が新規利用者の足を遠ざける一因となっているため、愛称を公募し、全国679件の応募の中から「はぴすこ(ハッピーとすこやかの造語)」に決定。令和6年4月1日からは5施設すべてを「はぴすこ」と呼称している。
※中老人福祉センターは中はぴすこ。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
老人福祉センターは老朽化が進み、全国の自治体にとって負の財産扱いになりつつある中、「健康寿命のさらなる延伸に向けた高齢者の健康づくりの拠点施設」としてあえて機能充実を行い前向きに存続の道を選んだことに独自性がある。コロナ禍で地域のサロンも開催できず高齢者の社会的なつながりが希薄化した今、老人福祉センターのサロン的な役割はフレイル予防にとってより重要と考えられる。
老人福祉センターの特徴である浴場設備については、どの自治体も更新・修繕費用に頭を悩ませている中、同市では浴場設備をシャワー室に改修し、ボイラー設備からガス給湯器での給湯に転換することでランニングコストの削減を実現した。
トレーニングマシンについては、高齢者が長く続けられるよう、負荷の上限が低く、構造や操作性がシンプルなものを選定する中、RIZAP株式会社が全国展開している「chocoZAP(チョコザップ)」のトレーニングマシンに着目。RIZAP社にとって同社が運営するジム以外の施設へのマシン納品は前例がなかったが、老人福祉センターをあえて機能充実させる取り組みに共感していただき、chocoZAPに設置してあるマシンと同機種を全国で初めて導入することができた。
取り組みの効果・費用
老人福祉センターは利用者の固定化や減少化が課題であり、大津市では過去10年間で利用者が5施設合計3分の1以下に減少(平成24年度:154,843人→令和4年度:96,232人)している。
利用者は年々高齢化し減少の一途であるが、リニューアルした中老人福祉センターにおいては、令和6年4月の新規登録者が前年比900%アップ(11人→99人)である上、前期高齢者や女性の利用が増え、施設の雰囲気が活性化した。
中老人福祉センターの機能充実に要した経費 (千円)
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
浴場設備およびデイサービス事業の廃止にあたり、各施設で利用者説明会を実施したが利用者はもちろん反対されるため苦労した。ほかの自治体が浴場設備の老朽化を理由に施設を廃止または統合などをする中、浴場の維持にこだわると老人福祉センター自体の存続に関わるため、機能充実することで施設を守ると粘り強く説明を行った。
市内5施設ある老人福祉センターを毎年度1施設ずつリニューアルするため、利用料などに関して毎年度の条例改正が必要となったが、全体の方針は固まっているため、1回の条例改正で5施設分の条例改正を行える条文や付則を整備した。令和10年4月1日の改正までを担保する極めて稀な条例であるため、庁内及び議会の了解を得るのに苦労した。
今後の予定・構想
令和10年まで毎年4月1日にリニューアルオープンできるよう毎年度施設ごとに設計、工事、備品購入を進めていくとともに、RIZAPトレーナーによるセミナーなどの開催を検討している。
他団体へのアドバイス
中核市の調査を見ると、大半の自治体が老朽化に伴う修繕費に苦慮しており、特に浴場設備が大きなウエイトを占めている。公共施設マネジメントの観点から施設を廃止する自治体もあるが、様々なしがらみで廃止できない自治体は、浴場設備を廃止するだけでもランニングコストが大きく削減できるため、フレイル予防につながる機能充実という旗印をもって浴場をシャワー室に改修し、トレーニングマシンなどを設置する取り組みは意外に安価である上、議会の了承も得やすいので有効と考える。
【大津市公式ホームページ:南はぴすこ(老人福祉センター)リニューアル】
https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/020/1489/g/r_c/63684.html