
認知症ケアを視覚的に体験するツール
認知症になっても安心して暮らせる地域づくりには、認知症への正しい理解の浸透が欠かせない。遠野市では、当事者と介護者、双方の視点を疑似体験できるVRツールを活用。住民に向けた認知症ケアの啓発に幅広く取り組んでいるという。
※下記はジチタイワークスINFO.(2025年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]大塚製薬株式会社
遠野市
健康福祉部
健康長寿課 保健師
川原 恭一(かわはら きょういち)さん
従来の講話スタイルによる学習会では、認知症を理解する上で限界があった。
同市では、認知症サポーター養成講座を中心に、正しい理解の普及に努めてきた。しかし地域には、“認知症になったら終わり”“家族の中にいたら外には出せない”といった声が根強く残っていたという。国が掲げる“新しい認知症観”は、周囲の支援や理解があれば、当事者も地域で自分らしく暮らせるという考えに立っている。しかし、「そういった理念が住民に浸透しているとは言い難く、認知機能が低下すると家に引きこもる人が多いのが現状です」と川原さん。また、市の在宅介護実態調査では、認知症を抱える人への食事介助やトイレ誘導など、日常的な対応に介護者が苦労している実情が明らかになった。「養成講座の受講者は順調に増えていますが、講話スタイルによる学習会だけでは、認知症の理解や向き合い方、適切なケアの習得には限界があると感じていました」。
そうした中で出合ったのが、「大塚製薬」の「認知症ケア支援VR」だったという。これは、当事者と介護者双方の視点を体験できる啓発ツールだ。VRでは、物を盗まれたと訴えたり、外出を強く拒否したりといった、認知症のよくある場面が再現される。介護者である家族の言動に対して、当事者がどのような気持ちになるのか。それを知ることで、正しい理解へ近づけるという。
双方の視点から感情を疑似体験し、適切な向き合い方を学んでいく。
導入したツールを体験した川原さんは、不思議な感覚だったと振り返る。「VRでは、介護者の言動に対する、当事者の“心の声”を聞くことができます。そうすると、今までは周囲が戸惑っていた行動も、“確かにこんな言い方をされたらそうなるだろうな”とすんなり理解できる。さらに動画では、そのとき介護者がどう感じていたか、どういう対応をすればよかったかまで解説してくれます。双方の視点を体感できるというのが、まさに体験型学習のメリットですね」。
このVRは、認知行動学や介護の研究者など、専門家の監修のもとにつくられている。動画の中では、医師が当事者・介護者の行動や気持ちを解説してくれるため、学習会に専門家を招いたり、職員が講話をしたりする負担をなくせるのもポイントだ。「ボタンを押したら再生できるなど、操作も簡単です。また、通常はゴーグルを装着して体験しますが、プロジェクターに映すことで、大人数での学習会にも活用できる。場所や人数に縛られないため運用の幅は広がりそうです」。
認知症の人もそうでない人も、ともに活動できる地域をつくる。
令和7年4月には、過去に養成講座を受講した地域団体を対象に、ステップアップ講座としてVR体験を実施。参加者の反応は上々だったという。従来の講座でも、講師の川原さんが当事者の気持ちを代弁し、適切なケアを伝えてきた。しかし、「話を聞くのとVRで体験するのとでは、理解の深さが違います。これまでは“分かっているけど実行できない”という感想が多かったのですが、VRを体験した後は“こういう気持ちになるのなら、声かけの仕方を穏やかにする必要がありますね”と言われるようになりました」。介護者視点から当事者視点へ、意識が転換する様子が見られたそうだ。また、評判を聞いた他団体から、開催要望が相次いでいるという。
65歳以上の5人に1人が認知症になるとされ、誰もが支える側・支えられる側になり得る時代。同市では、地域団体に加え、企業や学校など幅広い層に養成講座の受講を働きかけている。「正しい理解があれば、みんなで見守り、支えていくことができます。認知症になったからといって家に閉じこもらず、安心して地域の集まりなどに参加してもらいたい。“認知症になっても心配しないで”と言える地域が理想です」。相手の視点を体感できるVRツールは、そんな理想の未来を築く一助となるのではないだろうか。
CHECK!
適切な接し方を学ぶコンテンツ
認知症の人と接する上で戸惑いやすい場面を再現し、対応を学べる内容を多数用意。今後も動画は追加予定で、研修の目的に応じて選択できる。
初期費用がかからない短期利用プラン
認知症啓発イベントや専門職の研修などに活用でき、1カ月の短期プランも用意。導入のトライアルとして試してみては。