全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園2024」が令和6年11月8日、松山市で開かれた。1次審査を通過した7自治体の中から最高賞のグランプリに輝いたのは、京都府福知山市の「廃校Re活用プロジェクト」。関西初という「廃校マッチングバスツアー」など斬新な手法で民間の活力を取り込み、16の廃校のうち10校の活用に導いた公民連携の取り組みが評価された。同市の担当者に成功の秘訣を聞いた。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。
Interviewee
福知山市 財務部 資産活用課
土田 信広 (つちだ のぶひろ) さん
金融機関と協定。民間事業者と廃校をつなぐ。
「行政だけではなく、地域住民の皆様から多大なご協力をいただいて実現できた取り組みなのでグランプリ受賞は大変嬉しく、誇らしいと感じています。さらに住民の皆様に喜んでいただけるような施設活用を目指していきます」。土田さんは受賞の喜びをこう語ってくれた。
受賞対象となった「廃校Re活用プロジェクト」は令和元年度に始動した。
小学校の過小規模校の解消が課題となっていた福知山市では、平成23年6月に「市立学校教育改革推進プログラム」を策定。複式学級の解消や、20人程度の学級を目安とした教育効果確保など、5つの基本方針のもとに地域住民の意見を聞きつつ統廃合を進めた。その結果、平成24年度に27校あった小学校施設のうち、その後の9年という短期間で16校もの廃校が発生した。
学校は地域のシンボルであり、地域活動の中心でもある。しかし大規模施設を維持するのは地域の力だけでは困難で、施設活用には公民連携が不可欠だ。
令和元年度、財務部資産活用課内に公民連携に特化した係を新設。翌年には地元金融機関である株式会社京都銀行、京都北都信用金庫と連携協定を結び、廃校と民間事業者をつなぐ方法として「廃校マッチングバスツアー」の実施を決めたという。
▲令和2年8月に行われた株式会社京都銀行、京都北都信用金庫との連携協定締結式。
「廃校マッチングバスツアー」に全国から延べ160人。
「一気に16校もの廃校が発生したので、1施設ずつ1事業者ずつ話を聞くとなると相当の時間がかかります。時間が経つと施設も劣化してしまいます。そこでバスツアーで複数の民間事業者を集め、1日で複数の施設を見ていただき、アンケート形式でサウンディング※をしました」と土田さんは振り返る。
京阪神地域の事業者に広く参加してもらうため、ツアーはJR京都駅発着とし、連携する金融機関との情報共有で参加を募った。初回のツアーは関西の準キー局全ての夕方のテレビニュースで取り上げられ、全国的に課題となっている「廃校」を切り口とした市のシティプロモーションにも大きく貢献できたとのこと。
ツアーでは、事業が可能な廃校を複数紹介し、市職員と参加者が意見交換。参加者からの具体的な事業提案の契機となり、その後のプロポーザルにつながった。視察後のアンケートでは「具体的な活用アイデアが浮かんだ」との声が多く寄せられたそうだ。
バスツアーは、令和2年度からの3年間で計4回実施。定員を超える応募で急遽バスを増便した回もあり、参加者は計160人を超えた。京阪神のみならず首都圏からも参加するなど、全国的な注目を集めたという。
※サウンディング:事業発案段階や事業化段階において、事業内容や事業スキームなどに関して、 直接の対話により民間事業者の意見や新たな提案の把握などを行うことで、対象事業の検討を進展 させるための情報収集を目的とした手法
▲全国的にも注目を集めた「廃校マッチングバスツアー」。これまでに延べ約160人が参加したという。
行政と民間のスピード感の格差を縮める。
このプロジェクトで最大の課題となったのが、行政と民間とのスピード感の格差だった。
「従来の行政ならば、不動産として完璧な状態になってから活用を始めようというのが模範解答です。それ自体はもちろん正しいことですが、ただ廃校でそれをやると100%になるまでに多くの時間と費用がかかります。そんなにかかるのなら活用をやめますと事業者が逃げてしまうこともあります。関係部署からは様々な“できない理由”を言われますが、こちらでも色々と調べて連携しながら進めました」と土田さん。
その結果、行政での利用も含めて全体の62.5%にあたる10校で活用を実現した。これにより民間への売却、貸し付けによる約1億5000万円の歳入増と、維持管理費がなくなることで年間約1000万円の歳出減を達成。加えて新たな雇用の創出や、売却先からの固定資産税収入など、様々な成果が生まれたという。
このうち旧中六人部小学校には観光型いちご農園が開設され、カフェやクラフトビールの醸造所も併設されて賑わいを創出。旧佐賀小学校では、和洋菓子の店舗兼工場が稼働し、地元の雇用創出にも貢献した。また旧公誠小学校ではキャンプ場が整備され、地域住民だけでなく市外からの訪問者を呼び込むことにもつながったそうだ。
▲いちご農園となった旧中六人部小学校(左)と旧佐賀小学校に開設された和洋菓子の店舗兼工場のオープニング(右)。
地元からは「賑わいづくりだけでなく、移住・定住を促進するために住民が自ら地域の未来を考える『地区計画』の策定につながった」との声も聞かれた。一方の事業者側にとっても「取引先から『学校跡地を活用されてるんですね』と認識され、社会課題に取り組む会社として評価されるなど、目には見えないところでよい影響があったと聞いています」と土田さんは話す。
一連の取り組みは、廃校校舎の2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の一部のパビリオンへの採用にまでつながった。
大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを務める映画作家、河瀨 直美さんが、自ら手掛けるパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし -」のために木造校舎を探していた。その話が京都府を経て福知山市に入り、旧細見小学校中出分校の廃校校舎が使われることが決まった。奈良県十津川村の廃校校舎とともに万博会場で組み立て直され、「対話シアター」となる構想だという。
「300平方メートルぐらいのちっぽけな校舎ですが、万博という世界に向けたイベントで、福知山市廃校Re活用プロジェクトをさらにPRできるのではないか、と思っています」。
▲大阪・関西万博のパビリオンに生まれ変わる旧細見小学校中出分校。記念のセレモニーには河瀨 直美さんも出席した。
事業者を「きちんとグリップ」が重要。
グランプリ受賞の講評では「廃校の活用例は全国に多くあるが、16校のうち10校が活用されたというのが大きなポイント。廃校が元気に残っているということは、資産的な価値だけではなく、地域の人たちの元気にもつながる。多くの地域がこの事例で勇気を得たのではないか」と高く評価された。
今後は、未利用の保育園をはじめ、新たな未利用公有財産も対象に加える計画だという。最低限の施設修繕や活用事業者への備品等の購入に対する補助も検討し、民間事業者の事業意欲を高める新たな施策を打ち出していくという。
最後に土田さんに公民連携のコツを聞いてみた。
「民間事業者が課題を解決しようとしても、行政の縦割りの中でいわゆる“たらい回し”になって、なかなか進んでいかないことが多いようです。廃校Re活用プロジェクトでは、窓口を資産活用課に一本化してとりあえず話を聞き、その後で一緒に担当部局を訪ねて必要な手続きを進めていきました。民間が求めるスピード感に合うように庁内調整をして、一緒にやっていこうと連携することですね」。
事業者を「きちんとグリップ」することがなによりも重要と強調した。
▲福知山城から見下ろす福知山市の市街地。廃校Re活用プロジェクトの成功はシティプロモーションにも大きく貢献したという。