
電源さえあれば場所を選ばず使える移動式エアコン
年々激しさを増す夏の猛暑。学校では教室へ空調設置が進んだが、追い付いていないのが体育館だ。災害時には避難所となる体育館で、どのように対策を進めたらいいのか。千代田町の工夫の中からヒントを探る。
※下記はジチタイワークスVol.39(2025年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
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左:総務課 危機管理室
室長 吉永 泰久(よしなが やすひさ)さん
右:教育委員会事務局
局長 森田 晃央(もりた あきお)さん
台風被害の経験で急加速した、体育館への空調設置の取り組み。
町は利根川沿いに位置し、町内のほぼ全域が浸水想定区域で、常に水害のリスクにさらされている。吉永さんは「令和元年に台風19号が上陸した際には浸水被害が発生し、避難指示を出しました」と振り返る。
しかし当時、体育館には空調が整備されていなかったという。「当町がある東毛(とうもう)地域は、全国でも有数の猛暑地帯です。台風の上陸は10月でしたが、もし夏場であれば過酷な状況だったと思います」。学校の授業でも、夏場は体育館が暑すぎて座学に切り替えなければならない状況があった。「町内3校のPTA会長から“空調を設置してほしい”という要望書が提出されたこともあり、空調導入は急務でした。そこで、予算を抑えつつ速やかに設置を進めたいと考えていました」。
危機管理室と教育委員会で解決策を探る中、森田さんの目に留まったのがジチタイワークスの記事だった。「千葉県いすみ市で移動式エアコンを活用していると知り、とても興味を引かれたのです」。掲載されていたのは、電源工事のみで迅速に導入でき、固定式空調より費用も抑えられる「信越空調」の「ヒエスポ」だ。吉永さんは同市へ問い合わせて導入効果などをヒアリング。その情報をもとに、同町のニーズに合うか検討した。
契約から約2カ月のスピード導入で、夏場でも涼しい環境をつくる。
「機種や台数の見当が付かなかったのですが、体育館で広さなどを確認しながら相談できて安心でした」。令和5年12月、補正予算案が議会を通過し、企業版ふるさと納税の財源も合わせて約950万円で導入が決まった。翌年2月に事業者と契約を締結し、同年4月には中学校の体育館に4台の移動式エアコンを設置した。「必要に応じて複数施設で使えるという点で費用対効果が高く、議会の理解を得やすいと感じました。配管工事が不要で、契約から納品までが約2カ月と迅速でした」。平時には体育館に配置し、夏場でも冷風を浴びる休憩時間を設けながら体育実技の授業ができるように。集会などを行う際にも、生徒が集まっている場所に送風し、熱中症対策として活用されたという。
また、指定避難所が浸水などで使用できないときでも、ほかの避難所へ移動させて使うことが可能になった。吉永さんは「当町が主に想定している水害以外にも、地震などで冬場に避難所を開設することも考えられます。そうした際には、暖房として活用できるので、住民の安心につながります」と話す。ちなみに同町では、電気が途絶した場合に備え、発電機も2台同時に購入。ガソリンだけでなく、LPガスでも発電できるタイプを選び、様々なシーンに適応できるように工夫している。
想定外の避難所開設に備えつつ、フェーズフリーな体制を構築。
同町ではその後、町内にある小・中学校の体育館に固定式の空調を導入した。現在ヒエスポは中学校の武道館に配置され、部活動の場で活躍しつつ、いざというときの備えとなっている。「教育委員会としては、あくまでも“子どもファースト”です。移動式エアコンの導入で熱中症のリスクを抑えることができ、カリキュラムの幅が広がったのが何よりうれしいですね」と森田さん。
また、防災の観点では、複数の避難所をフレキシブルに運用できるようになるのもメリットだという。「全ての避難所に空調を入れるのは難しいし、想定外の場所に避難しなければならない場合もあります。そこで、移動可能な冷暖房と電源があるのは、とても心強いです。避難する場所によって住民の暑さ・寒さ対策に差が出ないようにしたいですね」。
防災と教育、両分野の職員が課題を共有・協力し、移動式エアコンという解決策にたどり着いた同町。コストを抑えつつ、平時・災害時を問わず使えるフェーズフリーの体制を実現したこの成果は、自治体の規模にかかわらず取り組める好事例といえるだろう。