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廃校を資産に変える! 住民・事業者とスクラムを組んだ 福知山市の廃校活用最前線。

人口減少や少子化に伴い、全国には廃校が増え続け、その利活用は大きな課題とされている。そうした中、福知山市では自治体と事業者が既成概念にとらわれないアイデアを出し合い、住民も巻き込んで廃校を新しいまちづくりの拠点とする動きが進んでいる。

廃校活用について ~地域財産の活用による賑わいの創出~

10年間で小学校の数が半分近くまで減少した福知山市。しかし今では廃校の多くが異なる施設として生まれ変わり、地域に新しい風を吹かせている。住民の声に耳を傾け、事業者のアイデアを積極的に取り入れた、その手法とは。担当職員に事業の具体的な内容を共有してもらった。

<講師>

土田 信広さん
福知山市 資産活用課

プロフィール

1980年京都府京都市生まれ。大学を卒業後、塾講師や中学校・高校の教員として勤務した後、2013年に福知山市役所入庁。主にまちづくりや移住定住促進、スポーツ振興などの地域振興に関わる業務に従事し、2020年から公民連携事業に担当。モットーは「質よりスピード」。

“ピンチはチャンス”を実践する福知山市の廃校活用事例。

福知山市は京都府の北西部にあり、人口は約7万6,000人。旧福知山市と周辺の1市3町が合併したまちです。全国的に少子化が進行している中、当市でも児童数が減少しており、それに伴って小学校が再編。平成24年度には27校あった小学校が、令和3年度には14校となり、多くの廃校が発生しているという状況です。

当市において、こうした廃校を活用する際には、たとえ市の所有する公有財産であっても、住民の思いを十分に聞いた上で活用手法を検討し、活用事業の実現につなげることを基本にしています。“地域に再びにぎわいを取り戻す廃校活用”が目指すところなのですが、民間事業者による活用事業においても、地域の協力なしに成功することはできません。それを前提に、地域とともに民間事業者のアイデアやノウハウを活かした廃校活用を実現したいと考えています。

実際に活用事業が進んでいる事例をいくつか紹介します。

上記の3番に記載している旧精華小学校、こちらは地元の医療法人によりグラウンドの部分にグループホームを建て、令和2年4月から運営が始まっています。4番の旧三岳小学校は、周辺地域の集会施設や消防団詰所などを集約化・複合化するという活用方法で、行政利用という形になっています。

旧中六人部小学校は、第2部で講演がある「THE 610 BASE(ザ・ムトベース)」として、グラウンドでのイチゴ農園運営を中心に進められています。

8番の旧菟原小学校については、現在優先交渉権者の選定までが終了したところです。京都市の事業者が着物など和装衣装の保管と配送を行うセンターとして活用する予定で、令和5年度に運用開始予定となっています。

ほかにも、当市の和洋菓子店が店舗兼工場の「里山ファクトリー」という施設をオープンした活用例や、グラウンドに人工芝を敷き、サッカーやグラウンドゴルフなどができるようにして、子どもからお年寄りまで活用できる施設にした事例などがあります。

事業にブレを生まないために掲げられた“7つの方針”。

こうした福知山市の廃校活用における基本的な考え方は、廃校を取り壊して更地にし、新たな建物を建設するのではなく、廃校を企業や団体に賃貸・売却するなどして、その企業・団体が建物などを改修して新たな用途に変えて操業してもらう、というものです。それを前提に、以下7つの基本方針を掲げています。

1.地域の意向を重視した活用とします。
2.賃貸・売却とも可とします。(1に反する場合を除く)
3.市と契約締結する事業者は1者とします。
4.廃校全体の活用または管理とします。(一部のみは不可)
5.廃校は現状有姿とします。
6.賃貸の場合は建物および、その下の土地は無償とし、それ以外の土地は有償とします。
7.事業者は期間を設けて公募します。

また、廃校活用の流れは以下の通りです。

図の中に赤で書いている通り、サウンディング型市場調査を実施し、市場性の把握や、参入しやすい公募条件について検討します。このサウンディングの前にも、地域の皆さんに集まってもらい、実施要領にも地域意見を盛り込むという流れで実施します。

その後、サウンディングで確認した内容をもとに、活用事業をやってみたいという事業者がいて、活用事業の実現性が高まった場合、公募要領を作成して、このプロポーザルで活用事業者を募集するという流れです。また、その公募要領を作成する段階でも、プロポーザルを実施する段階でも、住民の意見を聞いたり、地元の代表者にプロポーザルの選定委員として参加してもらったりして、地域の意向を反映できる事業者を選定しています。

その後、契約を結んでから議会の議決が入ってきます。通常の貸付料や売却価格を下まわる貸付の場合、あるいは建物の無償貸付や売却の場合には市議会の議決が必要なので、議決されてから活用が始まります。ここに時間を要するため、少なくとも半年から1年かかるということになります。

自治体にも事業者にもメリット大!廃校バスツアー+サウンディング作戦。

以上が大まかなプロセスですが、最初にお伝えした通り、当市では短い期間で一気に16校の廃校が出たので、1つずつサウンディングをしていったらきりがありません。そこで、早期にそれらの活用事業を実現するため、1日で複数の廃校を複数の事業者に見てもらおうということになり、令和2年度から「廃校マッチングバスツアー」というものを実施しました。

この企画については、公民連携促進に関する連携協定を地元地銀の京都銀行、京都北都信用金庫と結んでいるので、その協定なども活用しています。

取り組みの内容は、京阪神を中心とした事業者に来てもらい、京都駅の八条口からバスを発車。1日で3つほどの廃校を見た後、アンケート形式でサウンディングの回答を募る、というものです。

このツアーを通じて、活用意欲の高い事業者を発掘し、その後追加対応をしながら、廃校活用事業の実現につなげています。令和3年度は、上図の下に書いてある通り、ツアー単発ではなく、その後に金融機関とともに伴走する形で具体的なプランをワークショップなどでブラッシュアップするというプログラムで事業を実施しました。

当ツアーは、全国で大きな課題となっている廃校問題に関する事業として注目されています。特に初年度の令和2年度は、関西初の取り組みとして多くのメディアで紹介されました。廃校を切り口とした本市のシティプロモーションにも大きく貢献することができたと考えています。

福知山市の廃校活用は、“地域の思いを第一に”ということを中心にお伝えしました。廃校活用は私たち行政だけでも、地域や民間事業者だけでも進めにくい取り組みなので、今後も地域とともに、民間事業者のスピード感に合わせられるよう努めつつ、様々な工夫を行いながら事業を進めていきたいと思います。

THE 610 BASEのRe活用の目的、狙い、活用例

新しい取り組みで成果を生むためには、民間のアイデアと情熱も必要だ。福知山市にもそうした頼れる事業者が存在する。同市が廃校活用に取り組み始めたときから事業に関わっている「井上株式会社」の代表が、参入したきっかけや今までのプロセスなどを語ってくれた。

<講師>

井上 大輔さん
井上株式会社 代表取締役

プロフィール

1974年福知山市生まれ。大学を卒業後、イギリス・ロンドンにてホテル&ツーリズムを3年間学んだ後、インドネシア・バリ島でホテル勤務。29歳で井上株式会社代表取締役に就任。借入金20億円、債務超過10億円と衰弱していた組織を、実質無借金、かつ幸せに働く自走組織へとよみがえらせる。2018年京都経営品質賞優秀賞を受賞。大切にしていることは“今を楽しく生きる”。

自社でできる地域おこしを考えたどりついた“イチゴ栽培”。

私からは、福知山市の廃校を民間企業がどういう経緯で活用に至ったのか、またどのように活用しているのかといったリアルな話をしたいと思います。

まず簡単に当社の紹介です。私が代表を務めるのは井上株式会社で、ホールディングスとしてウェルズユナイテッドという会社をもっています。この会社が、旧中六人部小学校を利用し、イチゴ農園を中心とした事業を展開しており、名称は「THE 610 BASE(ムトベース)」です。

社員は110人ほどで、大事にしている経営理念が“私達は、毎日がちゃんと幸せで、成長するいい会社を創ります”というものです。廃校を活用するに至ったのも、この思い……つまり、みんなで毎日をちゃんと楽しく生きようということの延長線上にあったと思います。

廃校活用に至った経緯について、きっかけには“地域課題に向き合った地域事業をやろう”という発想がありました。次の10年を考える上で、今までとは違う地域事業をやってみようと社内で話し合った中、介護事業や教育事業など様々な案が出たのですが、意見が多かったのが“農業”だったのです。詳しく聞くと、身内や親戚などに農業従事者がいて、これからの農業を不安視しているということでした。

当社には、システム系のエンジニアが多くいるので、農業をやるならITを取り入れたハウス栽培がいいということで、さらに話し合いを進めた結果、イチゴをやることに結論しました。

壁があるなら突破口を見つける!“井上流”の問題解決方法。

ひと口にイチゴを栽培するといっても、地下水などの条件があるので、栽培の適地を探したのですが、程よい休耕地がない。福知山で“これは”と思うところはみんな水田になっていて、大規模なイチゴ栽培をできるところがないのです。悩みながら中六人部地域をさまよっていたら、社員が「グラウンドがある!」と。確かに学校はありましたが、廃校になっているのでとりあえず市役所に話を聞きに行きました。

すると、当時の市役所では「廃校の問題は地域に委ねているため、地域を飛ばしての対応はできない」という返答だったのです。そこで、地域の方に会いに行きました。市役所ではこのように言われたがどうですかと聞くと、「確かにそうだが、実は年寄りばかりで対応に困っていた。あなたたちは何をやろうとしているのか?」と前向きに聞いてくださった。

私たちからは、「農業をやろうと思うが土地がないのでグラウンドを使いたい」と申し出ると、自治会の方が乗り気になってくれました。その後、市が動いてくれて、プロポーザルまで進んだ……という経緯で、行き当たりばったりという感はあるのですが、何とか実現しました。

ここで伝えておきたいのは、こうした動きの主体には地域の人たちの思いがあり、民間企業の思いもあるということ。その2つが合わさった上で、行政が一生懸命サポートをしてくれる。それが今の福知山市だと思います。

ちなみに、この廃校活用事業に関して当社は補助金などを一切受けていません。時折、「補助金はいくらもらったのか」などと聞かれることがありますが、こうした事業を補助金ありきで考えることはやめた方がいいでしょう。まずは自分たちの会社のあり方や、地域との共存など、ビジョンが大事だと思います。

豊富なコンテンツにも一貫性あり!地域共存型で挑戦し続ける廃校活用。

次に具体的な活用内容なのですが、私たちはTHE 610 BASEでの廃校活用を「FUNMER」というコンセプトでやっています。これは「FUN」と「FARMER」からの造語です。“FUN=楽しさ”はクリエイティブだと思っているので、楽しい場所をつくりたい。だから廃校も私たちの手でリノベーションしました。また、私たちは基本的に卸しをやりません。大量につくって安い値段で卸すのではなく、自分たちが育てたイチゴを直接エンドユーザーに届けたいからです。

そうした思いのもとで、観光農園を始めたり、地元の大学生と一緒に苗植え体験をしたり、情報学部の学生にICTやDX系の研究場所に使ってもらったり……といった活動もしています。この場所に関わる人が多くいればいるほど面白いのではないかと考え、常にウェルカムの姿勢です。

ほかにも、スクールバスにイチゴを乗せて売りに出たり、「SLIDERS CAFE」というカフェを併設して、その壁には著名なペインターにサインやペイントを入れてもらったりしています。今では遊びに来てくれる人が年間1万人ほど増え、中六人部地域の表情も変わってきました。

今後の展望についても色々ありますが、社内ではTHE 610 BASEに年間延べ2万人ほど来てもらえると、もっと楽しくなるのではないかとか、低農薬スマート農業で栽培したイチゴそのものを消費者へ強烈に印象付けるところまでもっていけたら、といったアイデアが出ているので、それらにもとづいて行動しています。

その一環として“奥京都”ブランドがあります。事業を通してエリアブランディングをする中で、行政単位でエリアを区切っても観光客には全く関係ないので、外の人に向かってしっかりエリアブランディングをしようという考えです。あえて福知山市とはいわず奥京都というブランド名を付けて魅力を発信しています。

また、地元の農家や障害者施設と一緒にクラフトビールの原料になる大麦を育てるという活動も行っています。それをみんなで一緒に収穫して、ビールができて……と、様々な人が関わる場所づくりをしていきたいという構想です。さらに、定期的なイベントを実施して、人が集まる場所づくりにも力を入れています。

こうした活動が、廃校活用のモデルの一つになればうれしいです。トップを走りたいといったことではなく、“地域と向き合いながら何かにチャレンジしていこう”と考えている方のモデルになれれば、ということです。

上記は私たちからのメッセージです。すごく力強く、大きなことを言っているように思われるかもしれませんが、私たちとしては全く力んではおらず、これからもこうした思いをつないでいきたいという意味の言葉です。これまで、行政を含め様々な方が協力してくださったおかげで、今の私たちがあると思っていますし、これからも皆さんとスクラムを組んで、地域を掘り起こしていくことができればと考えています。

 

合同会社まちみらい・寺沢 弘樹さんを迎えたトークセッションは、日本管財(株)が運営する「公共FMサロン」にて。加入ご希望の方は下記問い合わせ先よりご登録ください。Facebookページでも公共施設マネジメントの「今」を発信中です。

参加者募集中|全国各地の職員が集まる「公共FMサロン」

日本管財(株)では、2021年2月より自治体職員限定のオンラインサロン「公共FMサロン」を開設しています。会員数は116自治体、延べ142人(令和4年9月1日時点)。公共FMに関わる人が、自らのまちの活動や問題、熱意などを共有し、実践知を学び合うことで、FMの実践へとつなげていくサロンです。複数のパートナー専門家やサロン会員の他自治体職員と気軽に意見交換ができる場となっています。参加は無料です。皆さまのご参加をお待ちしています!

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TEL:03-5299-0851
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E-mail:eigyo_market@nkanzai.co.jp
担当:営業統轄本部マーケティング推進部 恒川・島田

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